抜きゲーみたいな島に派遣された対魔忍はどうすりゃいいですか?   作:不落八十八

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ニューバイブ、射リア・ブル。

 吸血鬼との戦闘を開始した那須は屋敷を離れるように位置取りしながら林の方へと誘導を始めた。縦横無尽に駆け抜ける足場を確保するためだ。それを見抜いてか吸血鬼は不敵に笑みを浮かべ、傲慢にそれに乗る姿勢を見せた。彼の吸血鬼はプライドと自尊心の塊である。それ故に相手の土俵を土足で踏み躙り、無様を晒してやるのが好みであった。

 

 まるで裸体を見た魔羅の如き反り返りを持ってして那須のブレードが振るわれる。鞭を振るうかのような大振りでステッキを振り払い、ほぼ互角の打ち合いを一合二合三合と続けていく。傍から見れば舞踏会のワルツのように二人の打ち合いは激しくも美麗な舞となり、演武が如く接戦が繰り広げられた。

 

「シィッ!」

「なんのッ!」

 

 魅惑の腰振り染みた緩急のある変幻を魅せたブレードが突如としてしなる。それを驚異的な視力を持ってして見抜いた吸血鬼が驚愕に表情を訝し気に染める。弾かれる筈だったブレードの先はステッキの丸みに沿うように曲がった。遠心力に後押されたブレード先は僅かに伸びて吸血鬼の胸元に強襲した。

 

 吸血鬼の顔から余裕が消え、鋭い瞳がブレードを睨み付ける。胸元を掠るようにして避けた吸血鬼へと追撃の一手を放つものの、逃げに徹した後退により触れる事すらできなかった。飛び跳ねるようにして後退した事で宙へ逃げた吸血鬼へとブレードの切っ先を向けた。噴出していたブレードの実体が吸い込まれるように手甲へ戻り、瞬間、対魔粒子が霧吹きのように吹き付けた。

 

 目潰しか、と吸血鬼が訝しみながら腕を振るって風を起こし散らすも、纏わりつくように操られた対魔粒子は拭えない。魔族とて呼吸をする生き物だ。鼻孔を通じて体内に侵入した媚毒が一瞬にして巡る。辛子を齧ったかのような熱さが駆け巡った吸血鬼は漸く自身が術中に嵌った事を理解した。

 

「小癪なっ!」

「卑怯とは言うまいっ!」

 

 霧化して媚毒を抜こうにも距離が近過ぎる故に、心臓を片方のブレードにより突き刺さる方が早いだろう。よって吸血鬼は媚毒によって生じた異常な高揚感と下腹部の勃起によって生じる快楽に苛まれ、動きを鈍らせてでもこの場を離れる事を優先した。だが、正常な判断を失った吸血鬼は忘れていた。自身が何処に居るのかを。身を捩った事で地面へと至る筈だった身体は近くの木の幹に背中からぶつかる事となる。

 

 ――媚毒の術【逢魔小殺界】

 

 もう片方のブレードも消え去り、両手を翳した那須の姿を見て吸血鬼の表情が青褪めた。霧によって逃げるならば、そもそもの話逃げる場所すらも媚毒で満たして圧殺すれば良いと言う、本来ならば密室空間での殺し手の札を切った那須は噴射する対魔粒子の濃さを高めて噴き出した。辺り一面が赤黒く染まり、那須の肉体が媚毒側に寄ったが故にその身体を筋肉質に隆起させ始める。

 

 那須の媚毒の術を分析して解体すると、魔族因子由来の媚毒とそれを制御し抑制する対魔粒子と言う構図となる。であれば、媚毒の性能を高める行為は魔族因子を高める事と同じであり、その分の対魔粒子の比率が下がるのは当然の事だった。魔族因子の高まりにより、オークロードの種族的特徴の一つである肉体の強化が施されると同時に、その思考もまたオーク側に寄る事となる。

 

「死に晒せェ!」

 

 媚毒の濃さが通常以上の異常値を叩き出す。もはや立つ事すらもままならない吸血鬼は生理的本能により荒い息で呼吸をしてしまい、当然媚毒を更に体内にへと送り込んでしまう。口から鼻から皮膚から侵入を果たした媚毒が体内で濃度を高めていき、一瞬にして廃人と化す程の濃さへと変貌していく。

 

 生物的本能の一つ、性欲が暴走を始める。過剰な興奮によって心臓の鼓動が早まり、身体に異常が生じていく。吸血鬼の視界はナイアガラの滝の如く快楽の濁流によって明滅し、白目を剥いて脳内物質が狂っていくのを感じる事しかできなかった。

 

 かつて最強の対魔忍として台頭した井河アサギが妹のさくらと共にカオスアリーナの一件で受けた媚薬は感度三千倍と言う狂った倍率であったが、それは時間を掛けて徐々に慣らした魔科医技術あっての結果だ。目の前の吸血鬼は感度三千倍だなんて目でも無い濃度の媚毒を瞬間的に摂取しているため、一瞬にして身体が壊れていくのは当然の事だった。

 

 早すぎる鼓動によって脳の血管が弾け、連鎖的に体内が壊れていく。吸血鬼にとって幸いだったのはその過程を感じる前に意識と正気を失った事だろう。全身を痙攣させながら悶えるように快楽の濁流をその身に浴びる倒れ伏した吸血鬼の地面は目や鼻から噴き出た血液、異常に勃起したままで狂ったように射精し続ける男性器から飛び出す精液、尋常じゃない速度で全身から溢れ出る汗によって混沌とした水溜まりが出来上がっていた。

 

「はぁ、ふぅ……、はぁぁ……ッ」

 

 魔族因子の活性により、細身であった筈の那須の姿は逞しい筋骨隆々とした細マッチョのそれに変貌しており、深紅の双眸へと移り変わりギラついていた。必死で対魔粒子による抑制を行なうも、煮え滾るマグマの如き性欲がそれを拒む。媚毒の術の乱用の弊害がこれだった。押さえ付けていた魔族因子寄りに身体が変わってしまい、本能たる性欲が女を犯せと咆哮を上げる。辛うじて対魔粒子を存分に蓄えている対魔忍スーツが最後の防波堤となり、サイズの違いから窮屈な拘束具と化し身動きを封じてくれている。

 

 今にも暴れ出したい荒ぶる本能の頭を押さえ付け、理性が身体のコントロール権を死守する。そして、やらねばならない事をするために、実体がブレつつあるブレードを展開して吸血鬼の心臓を貫いた。対魔粒子の名の通り、邪気を払う対魔の力を秘めた粒子によって作られたブレードは吸血鬼の特効である銀に似た性能を発揮し、吸血鬼の息の根を間違いなく止めた。

 

 心臓から燃えた羊皮紙のように崩れていく吸血鬼を一瞥し、那須は付近に漂っていた対魔粒子を回収すると同時に木の根に座り込んだ。対魔粒子による抑え込みは時間が掛かるだろうと理解し、麻沙音たちへの援護に行けない事へ舌打ちをした。懐からぎこちなく取り出したスキットルから煙草を取り出して咥え、火を付けて久方ぶりの煙を肺に入れた。

 

「後は頼んだよ、ゆきかぜ」

 

 同時刻、外から聞こえていた金属の激突音が聞こえなくなったのに気づいたゆきかぜがちらりとそちらを見やる。媚毒の恐ろしさを十分に味わって実感しているが故に、中級魔族相手であれば負ける事は無いと分かっていても心配してしまうのは乙女心から来るものだろう。

 

 逆に負けて捕まってしまったとしても那須の耐性であれば少なくない時間を稼げる事だろう。今は目の前の護衛を達成し、結末を後で知るのが先決だと意識を引き締める。屋敷の裏手側からこっそりと侵入したNLNSのメンバーであったが、それらしい被害者はどれも洗脳されたSHO職員ぐらいで目当ての違法風俗の被害者たちが見つけられなかった。

 

「うーん、多分全部の部屋を見たよね。それっぽいの見たトキあったかな?」

「無かったですねぇ。どれもこれも普通に木造屋敷って感じでしたし」

「ぶっちゃけ、被害者此処に居ないんじゃない?」

「……アサちゃんの意見に賛成なのだわ。もしかすると此処は本拠地であって、実際に運営していた場所は違ったのかもしれないわね」

「ですが、そんな場所あるでしょうか。市内であれば、確実に誰かの目に触れるはず……」

「その場合、SHOやSSが見つけられていないのはおかしい、か」

 

 分かり辛い場所にあり、人の出入りも乏しく、ある程度の大きさのある場所。屋根裏や酒庫まですみずみ探し切った一同が首を傾げる中、もしかしてと淳之介だけがピンとくる場所に引っかかりを覚えていた。山中にあり、商品の特性からしてこの島で買い求める者も少なく、家屋ぐらいの大きさもあった。

 

「……仮初の被膜」

「えっ? それって確か兄が言ってたオナホショップの事だよね」

「ああ……。立地も学園寄りの山中にあって、この島じゃオナホを買う必要性はほぼ無いから住民の出入りも無くて、人を隠せるだけの大きさのある店舗だ」

「あのねぇ……。そんな怪しい場所があるなら先に言っときなさいよね。魔族を討つ必要はあったとしても私たちがこっちに来る必要皆無だったじゃないの……」

「うっ、す、すまん……。正直今の今まで存在を忘れてたからな」

 

 一同に白い目で見られる淳之介が縮こまりつつ、麻沙音のタブレットに開かれた周辺MAPに仮初の被膜の大体の位置に円を描く。麻沙音は何処だっけと揺れる淳之介の手の理由が、方向音痴から来るものだと理解していた。SHOのシステムをハッキングして淫スタの位置情報をすっぱ抜いた経験のある麻沙音は、かつて淳之介がオナホを買いに行った曜日の過去ログを引っこ抜いた。折り返した地点を特定し、MAPにピンを指す。位置関係からしてこの場から学園方面へと山を下っていくルートになりそうだと説明すると全員の顔が引き締まった。

 

「それじゃ、外に出ている奴らにばれないように其処へ向かうわよ。この場にヤクザの姿が少ないのも気にかかるし、もしかしたらもしかするかもしれないわ」

 

 そう促すゆきかぜの背を追うように一同が付いていく。そんな中、お手柄であった筈の淳之介が肩を落としていた。

 

「うぅ……まさかこの俺が違法風俗に資金を提供していただなんて……」

「大丈夫ですよ淳之介君! 足した分を今から引けばプラマイゼロカロリーです!」

「はぁ、そう気を落とさないの淳。そう言う接点があったからこそ存在を気付けたんだから」

「そーだよ淳くん! 敵のアジトを見つけちゃうだなんてかっこいいよ! えらいえらい!」

「感服致しました淳之介様。流石、えぬえるえぬえすのりーだー、でございます」

「この際だからぶっちゃけるけど、妹的にはハーレムルートも良いと思うんだよね……」

 

 兄に恋する四人の励ましの裏でこっそりと呟く麻沙音の言葉には暖かさがあった。幼い頃から頑張り続けてくれた大好きな兄が報われるのであれば、百歩譲って美岬も加えて四人の幸せを願うのも良いかもしれない。と、現実逃避しているが薄々であるが秘密基地での空気がピンクになっている原因が那須の媚毒である可能性に行き着いていた。

 

 何せ、その場に居る自分もまた最近になってムラムラしているのを否定できないからだ。明らかにオナニーの数も日に日に増えているし、その時のおかずが男の娘ものが増えていたり、ふとした時に那須の事を想っている事が増えた。それらの時期が那須と会った後であり、そして似たような性欲増加現象が他のメンバーにも見受けられるのも理由の一つだった。

 

 ゆきかぜの背を追う兄たちの後ろについて行きながら、この戦いの後の事を何となく考える。あくまで那須は任務でこの島に来ているのであって、その諸悪の根源である魔族及びヤクザを駆逐した後は本島に帰らねばならない。その後にまた会えるかも分からない。対魔忍と言う裏の仕事は表沙汰になるべきでは無いし、自分たちのような一般人に知られるべき存在ではない。それ故に今生の別れになる可能性だって有り得てくる。

 

 麻沙音の足が止まった。振り返り、那須が居るであろう屋敷の方を見やる。この戦いの後にどれだけ時間を作れるかも分からない。しかし、そのために此処で踵を返すのは兄たちに悪い。止まっていた足がゆっくりと動いて――。

 

「麻沙音、行って来ても良いわよ」

「へ?」

「アッシュから勝ったって連絡が来たのよ。合流まで時間が掛かるってのもね」

「そ、そうなんですか? 良かった……」

「多分、アッシュは今の姿を見られたくないって思ってるだろうけど、どうせ時間の問題だしね。私は受け入れたから。次は麻沙音の番ね。まぁ、どう転がるにしろ、非戦闘員の麻沙音がこっちに居ても居なくても変わらないし」

「あ、あはは……」

「それに、腹を割って話し合う時間がこれからあるかも分かんないしね。あ、私の事は気にしないで良いわよ。どうにでもするから」

「で、でも……」

「ふっ……、心配するなアサちゃん。もし、那須君が義弟になっても俺は大歓迎だ。今の家も広いしな。うちに来て貰っても良いぜ」

「兄ぃ!」

「アサちゃん!」

 

 サムズアップしながら近づいてきた淳之介と抱き合った麻沙音の姿にゆきかぜがきょとんと目を丸くする。

 

「……仲が良いのね?」

「むべむべ、仲良き事は良きかな、でございます」

「うんうん、美しい兄妹愛だな!」

「でも実際ゆきかぜさん的にはどうなんですか?」

「ああ、私としても麻沙音がアッシュの恋人になるのは嬉しいわよ。正直、私だけじゃ抱き潰されるし、人数は居るだけ良いかなって……」

「そんな生々しい理由で応援してたの……? 随分と爛れた仲なのだわ……」

「そう言えば那須君って三日三晩ゆきかぜちゃんと友達のお姉さんとシてたトキがあったって言ってたっけ……?」

 

 あー……、とNLNSのメンバーがヒナミの言葉に納得の声を漏らした。そして、当事者であるゆきかぜは気まずそうに視線を逸らした。何せ、その一件の実態はゆきかぜと凛子の逆レイプだ。昨今の風潮的に男性である那須へ矛先が向きがちだが、実際のところは零対十でゆきかぜたちのアウトである。故にそれを引き出されると気まずいのはゆきかぜの方なのだった。

 

「えーっと……、ほら、行って来なさい麻沙音。ほら、ほら」

「え、あっ、ちょ、何か隠してません? 分かった、分かったから押さないでゆきかぜさん!?」

 

 ゆきかぜに背中を押される形で送り出された麻沙音は何処か腑に落ちない様子であったが、こうして機会を作ってくれた事に内心感謝していた。歩いてきた道を一人戻る事への罪悪感も薄れ、麻沙音の心情は那須に対する思いが溢れて行った。目指すは屋敷の前の庭園、少しだけ駆け足になった麻沙音は進んで行く。その顔は何処か晴々としていた。

 




此処だけの話、Qruppoさんの前身的なはとのすの作品も面白そうだなぁとポチりました。ボクはともだちって奴です。
ほんと、ぬきたしのライターさんの文才凄いなぁと思う今日この頃です。
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