抜きゲーみたいな島に派遣された対魔忍はどうすりゃいいですか?   作:不落八十八

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ドスケベ・ハメドリの島。

 反交尾勢力と一括りにされている者たちの中で、NLNSというチームは水乃月学園の生徒で構成された特異的な集団であった。カップル同士でのセックスを望む者や隠れレズビアンの背徳行為などが精々な中、性産的行為に対して反逆を行なう集団は彼らのみである。性産的活動に対する逃亡及び回避を主目的とした五人は、つい最近できたチームでありながらある程度通用する連携を取る事ができている。彼らの身の清さがそれを事実であると物語っている。

 

 しかし、それに対し鎮圧もとい膣圧する側であるSHO並びにSSは、軍隊染みた訓練によってそれ相応の戦闘能力を有している武装集団である。暴徒鎮圧用のライオット弾を使っているとは言え、成人男子の拳の一撃に匹敵するそれを連射及び遠距離から放てる銃はそれだけでアドバンテージを有する。故に、真っ向から勝負を挑めば負けるのはNLNS側になる事は言を俟たない。

 

「それに対抗するためのアイテムが、このT-A-Eだ。ギャルビッチな奈々瀬ならエログッズを持っていても怪しまれない。……大変剛腹な事だが、荷物チェックでゲーム機は回収されるがバイブなどは回収されない。つまり、俺たちNLNSはこのエログッズに扮装したT-A-Eを有効活用する事で、攪乱して突破する訳だな」

「へぇ……、卵型オナホのEggに吸着コンドーム……。よく作れましたね」

「ああ、そうだろう。Eggは七種類もバリエーションを増やした力作だ。現に何度も逃走に役に立ってくれている。補給源として各所にガシャポンを設置してあったりするから、後で補給地点を教えておくぞ。補充にはカモフラージュで五百円玉を使用するから数枚用意しておいてくれ」

「はい、ポケットに用意するようにしておきますね」

「そうしておいてくれ」

 

 ドヤ顔で自慢するように語りに語る淳之介の説明を、嫌な顔せずに那須は微笑を浮かべて受けていた。NLNSの男女比はまさかの淳之介の黒一点であり、家族の麻沙音が居るとは言えども肩身が狭かったらしい。普段はそれを露わにしていなかったが、こうして同性の仲間が増えた事で先輩風を吹かせる程に助長しているようであった。または、単純に同世代の男の友人を持てた事に一喜一憂している可能性もあった。

 

 そんなにっこにこな淳之介を呆れた様子で微笑ましいものを見る目で見つめる女性陣。特に、頬に手を当てた奈々瀬は淳之介のお母さんのような笑みを浮かべている。饒舌に喋り語る兄の姿に肩を竦めたのは妹の麻沙音であった。身内の恥を晒しているようで恥ずかしかったようだ。

 

「おぉ喋る喋る。まるでオタク特有の早口マシンガンのようだ。いやほんと凄い浮かれてるな兄……」

「まぁまぁ、アサちゃん。淳も男友達ができて浮かれてるのよ。ほんと、可愛いのだわ……」

「男の子は橘くんだけだったからな。ちょっと肩身狭かったのかな? そうだったら那須くんが仲間に入ってくれて良かったな!」

「やったね橘さん仲間が増えますよ!」

「おい馬鹿止めろ。那須さんは男の娘だぞ、そんな展開になる訳ないでしょうが」

「そうですか? 此処だけの話ですけど、女子にアナル開発された男子が物陰でこっそりハッテンする穴場があったりしましてね……」

「なんでそれを美岬が知ってるのよ……」

「ふひひ、私影が薄いからこっそりそういうのを見ながらオナニーしてたりするんですよ」

「清楚弱気キャラの皮を被った変態痴女じゃねぇか……。こんな危険物を置いといたら危ないかもしれないし除隊も見据えるべきか……?」

「ええっ、そ、それだけは勘弁してくださいよぉ! 何でも、そう、何でも! しますから!!」

「何で何でもを強調して言った? やはり出荷すべきでは?」

「そ、そんなー……」

 

 随分と姦しい会話をしているものだと那須は内心で苦笑する。そして、そんな姦しい集団の一人になった自分の立場を思い出して小さく溜息を吐いた。友人となった麻沙音が属するチームであるとは言え、この島の在り方を考えるに所属するメリットはこの島の調査を行なう上では殆ど無いのが現実である。彼の任務は汚職議員が何を目的にこの島に来たかの調査だ。それならば住民のようにドスケベセックスを演じて懐柔し、情報を集めていく方が遥かに効率的である。

 

 だが、性行為をしたくない理由が那須側にもあったのが加入の理由だった。那須にとって性行為は自身の醜さを思い出させる出来事だ。それは、彼の生い立ち及び出生に関するものであり、それを知る者は五車学園でもアサギと関係者の桐生佐馬斗だけである。故に、彼の背景を知れる者はそう居ないため、こうして学生の身分に居られるのが現実であった。

 

 大久那須は自身を嫌っている。

 誰よりも自身の体を嫌って、「それ」を知られる事を嫌っている。

 

 だからだろうか、似たような経緯を持つ淳之介にとって那須は話しやすい相手になっていた。無意識的な共感を得ていた事もあってか、年下の少年というのも話の背を押したのかもしれない。この二人の過去は似ていた。片や幼年期のトラウマ、片や産まれた事の後悔と、大変重いながらも身体的な事に関する悪夢を経験している。見えない傷の舐め合いのような、そんな精神的な安堵を感じているのであった。

 

「NLNSの目標は無事に帰宅する事が最優先だ。そして、スポンサーからの目標としてとある少女の保護が命じられている」

「スポンサーに少女の保護、ですか。それはまた随分と話が飛躍しましたね……」

「ああ、俺もそう思う。俺たちは学園の地下に秘密基地を持っているんだが、そこを使わせて貰う代わりにその条件を受けている状態だ。名前は琴寄文乃っていう少女なんだが、それ以外の情報が全く無いのが現状だ」

「……あの、橘先輩。これ騙して悪いが、みたいな事になるんじゃ……。明らかに捨て駒にする対応ですよねそれ……」

「……だよなぁ。けど今の俺たちにあの秘密基地は必要だ。ドスケベ条例をぶっ壊すためにもな」

「はい?」

「あの老人は言った、琴寄文乃はドスケベ条例を潰す一手になる存在だ、と」

 

 ドスケベ条例をぶっ壊す、そんな初耳ワードが飛び出して那須は困惑せざるを得なかった。そして、漸くこのチームの結束力が強い理由が知れた気がした。無事に帰宅する事は主目的ではなく前提条件なのだろう。ドスケベ条例というものを何かしらの理由を持って嫌悪しているからこそ、その一手になるかもしれない少女の情報を得たからこそ、こうして抗う気概になっている。

 

 まるでレジスタンスだな、と那須はチームの印象を変えた。

 T-A-Eというアイテムを開発しているのもSHO等に対抗する以外の理由が見えてきた。つまるところ、この橘淳之介という男は自身の手でこの条例を打ち破りたいのだ、と。だから、反抗するためのアイテムとしてT-A-Eを開発した。逃げるためではなく、抗うための武器として、だ。

 

「……成程、それを聞いて大分印象が変わりましたよ、このチームに関して」

「ん、そうか? ああ、まぁ、そうか……。でもまぁ、今はまだ逃走以外の活動しかできてないのが現状だけどな」

「いえいえ、橘先輩がこうして頑張ってるから彼女たちが毒牙に襲われていないんでしょう。こうして結果があるだけで、凄い事をしていますよ先輩は」

「……そう、かな。そうだと良いんだが……」

「はい、先輩は凄いですよ。あの笑顔は貴方の奮闘によって保たれているのですから。誇って良い事でしょう。謙虚は謙遜とは違います、貴方は誇って良いんだ」

「那須君……。そうだな、俺が胸を張らなきゃいけない事だな。……どっちが先輩か分からんなこりゃ」

「あはは、先輩は先輩ですよ。誰が何を言おうとも、誰が何を笑おうとも、貴方は貴方です。世界は上位互換に溢れていますが、だからと言って貴方だからできる事もあるんです。その上位互換が此処に居てそれをしてくれる訳じゃないんですから」

「ありがとう、少し肩の荷が下りた気分だ」

「どういたしまして。後輩ですからね、先輩の鞄を持たなきゃですから」

「はははっ、大丈夫だ。この重みは確かに重いが、持ち甲斐もあるんだ」

「そうでしたか、なら良かったです」

 

 すっげー良い子だ那須君、と淳之介は内心で感動していた。青藍島で見た事の無い人の好さを体現しているようにも思えて、改めてこの島の異常さを感じ取っていた。誰もがドスケベナイズされる人間では無いのだと、見えない力を得たような気分だった。

 

 まだ知り合って間もないものの、常識人にとって過酷なこの島の環境が二人の仲を押す追い風になっているようだった。もっとも、那須は青藍島に来て二日であり、染まるようなエピソードも無いので本島に居た頃のそのままであるだけなのだが。

 

 一時の沈黙の後、何やら那須がそわそわし始めていた。山の中を歩いているという事もあって彼方此方に隠れられる場所があるからだろう。気配を感じ取れる那須だからこそ、今の状況はタイミングが良かったのだった。

 

「どうした那須君、そわそわして」

「え、してました?」

「ああ、そんなにそわそわしないでーってくらいには」

「……その、橘先輩と喋ってて気が抜けてしまったからか、その……」

「……トイレか?」

「いえ、そちらでは、ええと……」

 

 そわそわしながらトイレでは無い、小首を傾げた淳之介だったが、数秒後に理由を察してしまって、あー……、と理解の息が漏れる。そりゃ言い辛い筈である。何せ、ある程度の信頼関係を作れたとはいえ、内容が内容である。指摘してしまったのは淳之介だ、その責任を持つべきかとこっそりと言う。

 

「良いぞ吸っても」

「……え゛」

「あー……、その、アサちゃんとの電話は俺らも聞いててだな」

「そういう事でしたか。まぁ橘さんが言うとは思えませんし、すみません、携帯灰皿はあるので」

「ああ、その、ごゆっくり?」

 

 まるで喫煙所をすれ違った人たちのような遣り取りをして二人は苦笑いした。そうして、那須は腰のベルトに吊るしていたスキットルを取り出す。疑問符を浮かべた淳之介だったが、次の光景を見て納得と驚愕を抱いた。

 

 見た目はチタンスキットルのそれであるが、側面の凹みに爪を引っかけて扉を開くようにすればシガレットケースが内蔵されていた。一本引き抜き口に咥えてから、前面を閉じてからひっくり返した。側面の飾りに扮したロックを外すと蓋底が跳ね上がり、オイルライターのフリントホイールが露わになった。特有の格好良い音がホイールを回った瞬間に聞こえ、気化したオイルに引火して炎が立ち、そしてそれに煙草の先端を向けて火を付ける。

 

 その一連の動作を手慣れた様子でやった那須は、煙草を美味そうに吸っていた。

 男ならば誰もが憧れるオイルライター、それを半面にシガレットケースを内蔵したチタンスキットルに組み込んだ事で浪漫と浪漫の相乗効果を生み出していた。因みにキャップを捻れば量は少ないものの液体を入れる事も可能であり、現に原液濃いめのカルピスが入っていたりする。実に男の浪漫である。

 

 男の憧れ三神器を一つにしたその改造スキットルの完成度に淳之介の男心は燃え盛っていた。オナホ作りが趣味である淳之介は、自身が作ったオナホを芸術品と称している。オナニーに青春をかけた男が手掛けるオナホ、これが芸術でない訳がなかった。だからだろう、別ジャンルとはいえ自身と同じ程のこだわりを持って作られた芸術だと気づいたのだった。

 

「くくっ、分かってしまいますか橘先輩」

「分かるとも。未成年は手を出せないシガレットケースにオイルライターのセット、極め付けはチタン製のスキットルッ……! それらは男の憧れ、浪漫三銃士と言って過言は無い。それを一つに纏めるという秘密基地めいた遊び心……! 良いなぁそれ!」

「そうでしょうそうでしょう! ボク、見た目がこれなものですから、男らしさを追求した結果がこれです! 格好良さの頂点と言って良い機能美と浪漫を兼ね備えたオイルライター、それを使うための煙草の専用のケースを紳士な嗜みと遊びを忘れないスキットルに組み込みました。そしてこれは、オーダーメイドで作られています! 橘先輩になら……、分かりますよね?」

「ああ……! ハンドメイドに並ぶ浪漫溢れるオーダーメイド! 自分だけの専用品……!!」

「こうやってニヒルに使えばっ……!」

「すげぇ、憂いを覚えた訳有り系美少年に見えるっ……!」

「そうです、こうする事で漸くボクは美少女面から解放されるのです。ボクは、男だー!」

「そうだな那須君! 君は男だ、それも男の中の男だっ……!」

 

 お互い食い気味な握手を交わして情熱を感じ合う。目の前の男とならば良き友人になれる、そんな友情の握手であった。年相応にはしゃぐ男性陣を見て女性陣は若干困惑していた。目を逸らしたら何時の間にか仲良くなってやんややんやしていたのである。淳は相変わらずねと奈々瀬はほろりと目尻に涙を浮かばせて喜んでいた。完全に木陰から息子の成長を喜ぶお母さんである。

 

「なんだか青春してるな、あおはるだな! 凄い楽しそうだな!」

「那須さんの意外な一面を見た……。今日が初対面だけど」

「まぁ、あそこまで意気投合できるなら今後もやっていけそうね。……煙草吸ってるのがちょっと気になるけど」

「確かにそうですねぇ。子供が背伸びして吸ってるって感じじゃないですもんね」

「うん、まるでお父さんみたいだな。吸い慣れてる感じがするな。おねーさん的には煙草は煙いから止めて欲しいなぁ」

「知ってますかわたちゃん先輩。煙草って体に悪いから成長の阻害をするそうですよ」

「そうなのか! 悪いって知ってたけどそんなに悪かったのか! そうだったら止めなきゃだな!」

 

 ヒナミの寝ぐせの一部がI字に立ち上がり、吸うのを止めさせようと立ち止まる。静寂が支配する森林で会話していれば数メートル離れていたとしてもある程度は聞こえている。それが対魔忍である那須なら地獄耳と称せる程に普通に聞こえていた。近づいてきたヒナミに那須は生気を失ったような瞳で言った。

 

「体に悪い物は心には良いんですよ、ヒナミ先輩。これ止められたらボク死んじゃいますよ」

「それは大変だな? 死んじゃうのか。だったら止められないな……?」

「けど、煙草が原因で肺がんになるから結局死んじゃいますよ」

「死んじゃうの!? それならやっぱり吸っちゃだめだよ! おねーさんが手伝うから止めよ?」

「知ってますかヒナミ先輩。禁煙って死ぬ程苦しいんですよ。生き地獄ってくらいに」

「苦しいのはやだな、大変だな。でも、ええと、えとね、やっぱり体に悪いんだったら――」

「まぁ、それに……、ふぅー……」

「わわわっ、なにするの!」

「知ってましたかヒナミ先輩。本島だとこうやって煙草の煙を女性の顔へ吹くと、今夜お前を抱く、みたいなニュアンスになるんですよ」

「へぇー、そうなんだ。すっごいロマンチックだねっ。……あれ、今、私誘われて……」

「ヒナミ先輩にはまだ早いですね」

「早くないんですけど! もう適正年齢なんですけど!」

 

 しれっと煙に巻いた那須はくつくつと笑って、ヒナミを置いていくように歩みを進めた。揶揄われたと頬を膨らませてぷんぷんと両手を上げて追いかけた。その頬は真っ赤になっていて若干ながら真に受けたようだったが、続く怒りの割合が高かったようですっかりぷんぷん顔であった。

 

「大人っぽい冗句で煙に巻かれるわたちゃん可愛いのだわぁ……」

「今の凄い大人っぽかったですね。ちょっとドキっとしちゃいましたよ。って麻沙音ちゃん?」

「めっちゃどすけべな那須しゃん……良い……花魁みたいなエロスがある……」

 

 皮肉な笑みを浮かべた姿がまるで小悪魔のようで、大人な台詞も相まって非常に妖艶であった。此処がシックなバーであればそのままお持ち帰りされたいと思う程に大人な遣り取りであったのである。もっとも片方は入店拒否されそうなお子様体型の先輩ではあるが。

 

 男だと主張するもののその風貌はボーイッシュなイケメン美少女である。女性が好きな麻沙音にとって那須の見た目はドストライクであり、そこに大人の色気が混じればもう堪らないものになっている。だが、男である。まるで遊郭の花魁のような妖艶さで笑みを浮かべている。だが、男だ。異性である筈なのに二次元の男の娘めいた風貌のせいでそれを感じさせないが、彼は男なのである。

 

「いやまぁ、これでも一日に吸う本数は三本までと決めてはいるんですよ」

「因みにそれ何本目?」

「七本目です、この島ストレスマッハ過ぎて初日で破りました」

 

 死んだ瞳で呟く那須。此処にはドスケベ条例に反抗する者たちが揃っているため、彼の気持ちを痛い程理解できていた。然もありなんとヒナミでさえ咎める事はしなかった。頷きながら淳之介に肩へ手を置かれた那須は何処となく普段よりも苦い味を噛み締めたのだった。




此処だけの話、4545文字以上になるように心掛けてます。
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