抜きゲーみたいな島に派遣された対魔忍はどうすりゃいいですか?   作:不落八十八

8 / 36
追撃!トリプル・デブリ。

 NLNSに二人のメンバーが加入した日の翌日。

 

「……引っ越そうかな。静かで温泉がある家とか良いな……」

 

 那須は自宅で相変わらずの嬌音問題に苦しめられていた。窓から外を睨むようにして煙草を吸ってある程度ストレスが軽減されたものの、煙る肺のようにその表情は晴れないものであった。二本目の煙草に指が伸びるものの、鋼の精神でそれを抑えてカバーを閉じる。あくまでストレス軽減のために吸うのであって、所構わず手が伸びるようになれば手遅れである。昨日の自分を棚に上げて、それだけはするまいと改造スキットルを腰に戻した。

 

 あの後の事はあっさりとしたものだった。那須の尋問めいた問い掛けで、文乃が一人寂しく無人となった神社にこっそりと潜み住んでいた事が明らかになり、共闘期間と言う名の殆ど形だけのその間だけ橘家に居候する事になったのであった。両親の存在で頷けなかった面々と立地の要因から除外された結果、シェアハウスめいた事をしているという苦しい言い訳で隣家に伝える予定であるが、どうなるかな、と他人事のように那須は考えていた。

 

 喋る事に慣れていないと言う文乃が酸欠でくったりする珍事件はあったものの、メンタル強度的にもだが年若い女の子が一人過ごすと言うのは居た堪れないと言う理由で決めた事である。琴寄文乃という存在を求めるスポンサーが居る以上、彼女が文乃であると伝えればそれで物事が終わってしまう可能性があった。

 

 外部機関に横取りされてたまるものかと口出ししたのが今の結果である。後は文乃さえボロを出さなければ露呈する事は無いだろうと楽観的な考えをしていた。何せ、対魔忍を仲間として抱えようとするお人好しの居るチームだ。どう考えても悪い事になる訳が無かった。

 

「にしても、この依頼を受けたのボクで良かったな本当に……。ゆきかぜだと舌先三寸で言い包められて今頃クラスメイトに輪姦されてそうだし」

 

 誠に遺憾であると五車学園に居た某雷遁娘が吠えたような気がした。

 潜入任務のために先輩と共に奴隷娼婦に扮しようとする同輩の少女。しかも見事に罠に嵌って那須が秘密裏に出動する事になってしまって非常に大変であった。先輩の弟である達郎に懇願される形でお忍びで行ったものだからバックアップを受ける訳にも行かず、発情し切った雌猫状態の二人を表向きは連れ込み宿のセーフハウスへ一旦連れ込んで保護。溜息一つ吐いてから、もう一度潜入して二人の奴隷契約書を破棄し、キメラ微生体を殺すための薬も調達し、ついでに元凶の高級娼館アンダーエデンをきっちり爆破して帰って来てからが苦労の始まりだったのである。

 

 身体を改造されて脳みそまでとろとろに発情し切っていた二人は、ベッドに放り投げられる形でお預けを食らって限界に達していた。そして、一仕事終えて戻って来た那須を不意打ちして縛り上げたのである。相手は対魔忍の同輩と先輩、それも対魔粒子を全開にして身体能力を底上げしたガチの不意打ちであった。加えて二人は防刃防弾で優秀な対魔忍スーツを拘束具として用いたため、千切る事もできずにガッチガチに拘束されてしまったのである。そして、処女を捨てて善がり狂う二人の女を前にして――。

 

「……はぁ。嫌な事思い出した」

 

 那須にとって性行為は「それ」の醜さを思い浮かばせるものであった。隠すべき本性にして半身、それこそが自身を嫌う最大の理由であった。性欲に支配された生殖猿のような知性無き獣の交尾のような性行為を嫌っている。性が関係すると活発化し始める自身の半身、逆鱗にして知られたくないものだった。

 

 その後の事は言うまでも無い。達郎から心配の電話が来るまでの三日間は酷い有様であった。その一件を経てゆきかぜと凛子と一線を越えてしまった関係になったのだが、普段から仲が良かったが故に気恥ずかしい関係になってしまったのだった。しかも、その一件の後に達郎とゆきかぜが別れたと言う噂が那須の耳に入って来て死にたくなる思いであった。だが、那須の心労は続く。追撃と言わんばかりにゆきかぜが友人の達郎が居ない時を狙って会いに来るようになったのである。

 

 何度心の中で達郎に謝らねばならないのか分からない程に心を痛ませていた。だと言うのに、そんな心境知らずに発情した雌猫のように付き纏うゆきかぜの猛攻は凄かった。何せ、押し付けられる形で五車学園では那須の親代わりをしている桐生佐馬斗に、特性の媚薬を注文する程のガチっぷりである。青藍島への任務を受けてなかったらもしかしたらその特性媚薬を使われていた可能性もあった。

 

 既に桐生の手によって改造奴隷娼婦から元の健康体に戻っていると言うのに、だ。この任務を終えて五車学園に戻るのが怖いなと那須は溜息を吐いた。男として求められるのは嬉しいが経緯が経緯である。もう少し青春染みたものであれば良かったのに、と贅沢な愚痴を言わざるを得なかった。

 

「……学園行くか」

 

 寝巻のインナー姿から青藍島の男子制服を着て、朝食ついでに作ったお弁当を麦茶の入った水筒と一緒に鞄に仕舞い込む。火の元を確認して戸締りをしてから、南島らしい湿度と温度の高い潮風を浴びて外に出た。彼方此方からお盛んな声が聞こえて来て、青藍島に居るのだなという実感が強くなる。

 

 SHOが後程路上ハメ撮り動画を買えるようにと設営したスパイカムの監視をすり抜け、男女から来る誘いを適当にあしらって、駅弁体勢で登校する生徒を横目に通学路を越えて、何処からでも聞こえる嬌声を無視しながら水乃月学園へと辿り着く。精神的にきっついので学園の何処かで煙草を吸える場所を探さねばと思いつつ校門を抜けた。

 

 すると、グラウンドの中心で人だかりができていたのが見えた。変な所で盛ってるなと一瞥したものの、対魔忍の優れた瞳は見知った人物が野次馬に混じっていたのに気づいてしまった。目元を右手で抑えるように抱えてから、溜息を一つ吐いてその背に歩み寄っていく。

 

 そうすれば彼らの背よりも高いそれを無視したくとも視界に入り込んでしまう。長い木製の柱二つに金網が貼ってあり、そこへ蜘蛛の巣に捕まったような様子の全裸の女子が手足を拘束されて蟹股に貼り付けにされていた。隣を見やれば今度は土台の方に全裸の男子が両手足を台に括り付ける形で拘束されているのが見えた。暫く目の前のそれの存在に呆れた表情を浮かべていた那須は、その二つの見世物の周りに立っているSSの生徒を見て昨日の会話を思い出した。

 

「これが例のギロチン刑って奴か……。いや、うん。手足拘束して全裸とか確実に案件物では……」

 

 あまり見ていては可哀想だなと意識を手前に戻す。そこには険しい顔をした淳之介とそれを見て悲しそうにする麻沙音と俯いた表情の文乃が立っていた。大方、こう言った物に対して怒りを露わにしているのだろうなと、激情家なリーダーの心労を痛ましく思った那須は朝の挨拶をすべく彼らの後ろに忍び歩く。

 

「そんな顔してたら怪しまれますよ、橘先輩。周りは怒りではなく困惑の顔をしているのですから、そちらに合わせないと」

「余計なお世話だ……! って、那須君か……。悪い。朝から胸糞悪いものを見て荒んじまった」

「いえ、無理も無いとは思います。普通にこれレイプ現場ですからね。まぁ、この島ではそうならないみたいですが」

「はぁぁぁぁ、ふぅぅぅぅ……。ヨシッ、そうだよな、愛の無いセックスなんてレイプと同じだ」

「…………」

 

 今朝方思い出した黒歴史のせいで思いがけぬ流れ弾を受けた那須は何とも言えない表情で死にたくなった。その様子を見て小首を傾げるものの、兄と同じように心を痛めているのだろうと共感して麻沙音は黙ったままだった。文乃は嘘の無い言葉に感心しつつ、苦手とする那須が来た事で少しだけ体を強張らせた。

 

「とまぁ、取り合えず、おはようございます橘先輩。橘さん。吹上さん」

「ああ、そうだな。おはよう那須君」

「お、おはようごじゃいます那須しゃん」

「……おはよう、ございます」

「と言うか、苗字呼びだと呼び辛くないか?」

「あはは……」

 

 淳之介の何気ない疑問に那須は苦笑した。今さっき言った時に呼び辛いなこれと思ってしまった事もあって、心を読まれたかのような言葉だったからだ。そうでもないですよ、と言うべきか、それならお言葉に甘えて、と名前呼びにするべきか。一瞬の逡巡を経て那須は意を決したように口を開いた。

 

「では、改めまして、おはようございます。淳之介先輩、麻沙音さん。ふ、葉琴さん」

「い、意地悪なお方……!」

「ん?」

 

 名前を呼ばれて歓喜乱舞な麻沙音の隣で、可愛らしく睨み付ける文乃の対応に首を傾げた淳之介だったが、つい吹上と呼ぼうとしたのだろうと勝手に納得して首を戻した。朝のストレスを若干発散できてご満悦な那須は顔を真っ赤にして目をぐるぐるさせている麻沙音の様子に小首を傾げたが、名前呼びは少し刺激が強過ぎたかなと内心で苦笑を浮かべた。そして、こんなものを見てても仕方が無いでしょう、と促してグラウンドを去る。

 

 興味無さげに去り行く那須の姿を見ていたのは、淳之介たちだけではなかった。準備をするSS生徒に混ざるように、号令を掛けようとしていた風紀委員長の隣に居た少女だった。面白いものを見た、と言わんばかりに口角を上げて、ふふふっと静かに笑みを浮かべた。背筋に冷たい手を入れられたかのような怖気が走った那須は辺りを見回したが、その冷ややかな視線の正体を見つける事ができなかった。

 

「さて、漸くお披露目だな。歓迎しよう、盛大にな!」

「テンション高いですね淳之介先輩……」

「先輩風を吹かしたい年頃なのよ」

 

 午前中の授業を終えた昼休み、麻沙音に連れてかれた先は学園の地下に存在する秘密基地であった。行き来が裏門近くの竪穴から続く洞穴の先からか、エレベーターのボタンに隠しコマンドめいた操作を行なうかの二種類という事もあってその機密具合はしっかりしたものだった。普段使われないエレベーターは各階層にあるため、利便も良く使いやすい。そのため、性触者に襲われる心配の無いセーフゾーンとしてNLNSのメンバーにとって安心できる空間となっている。これは確かに必須だなぁと那須は内心頷いた。

 

「あ、那須しゃん、喫煙スペース作ってありますのでどうぞどうぞ」

「何時の間に増設したんだアサちゃん」

「いや、地下なのに換気設備が整ってない訳ないじゃんか兄。位置は知ってたから必要な物を揃えただけだよ。と、いう事で那須しゃんどうぞ此方へ、此処の上が換気扇のあるところですのでうぇへへへっ。移動ありがとうございます。此方、ガラスの灰皿です。そして、此方、灰皿置きのアサちゃんです。こうやって私自身が灰皿になる事で煙草の煙をふぅーってして貰って今日アサちゃんはヴァージンロスして奈々瀬しゃんも加わって4P満文書による第三次おマンコインパクトによって神話になるんですうぇへへへ」

「推しへの媚びが強い……」

「あら、淳? 淳ー? 此処に置いてあったお茶っ葉何処に置いたのー?」

「すかさず鈍感主人公するじゃん奈々瀬。ついに4Pに突入しちまった……」

「あれ、那須君顔が真っ赤だな? もしかして風邪ひいちゃった? お薬あるよ。ちゃーんとしっかり飲めるように、専用ゼリーも用意してあるんだぁ。えとね、那須君はいちごとりんご、どっちがいいかな?」

「純粋無垢って時に残酷ですね……。わたちゃん先輩、追い打ちは止めてあげてください。那須君、初心なところがあるみたいですから」

「ミサちゃん先輩も大概では……。ええと、ヒナミ先輩、用意して貰って恐縮なのですが大丈夫です。風邪じゃありませんので。もしもの時は先輩のおすすめでお願いします」

「そっか、ならだいじょーぶだな! ふふんっ、実はね、こっちのいちごは甘みの強いちょっと良い物買ってたりするんだ! ちゃーんと先輩扱いしてくれる那須くんには私のとっておきのいちご味を使わせてあげるからな!」

「……ありがとうございます、ヒナミ先輩」

 

 膝立ちででへでへしながら灰皿を差し出す麻沙音の上目遣いと妄言に、昨日の感触と匂いを思い出してしまった那須は煙草を吸うどころの状態ではなかった。ヒナミの心からの心配と美岬の茶々が入った事で少し煩悩が紛れたものの、血行が良くなった頬の熱さがやけに恥ずかしく感じていた。

 

 そう、那須は対魔忍や人質や一般人が強姦されたり嬲られたり改造されているシーンは見慣れてしまっているものの、日常的な恋愛事に関しては経験値が無いのである。五車学園で雌Y猫による熱烈なアピールはあったものの、理由が理由のため頬を赤らめるよりも胃を痛める割合が強かったのであった。

 

 煙草を吸う気が失せてしまった那須は麻沙音から灰皿を受け取って近くの机に置いた。態々受け皿役をしなくとも手頃な机があるのならそちらに置くのは普通の事だろう。だが、それはそれで良いなと思う思いがけぬ己の一面も垣間見れた。

 

 膝立ちで上目遣いで餌を強請る猫のような麻沙音を見下ろして、金属の鎖が床に落ちた幻聴を聞きつつ、金属の鎖付きの首輪をする人間等身大の猫娘を幻視してしまった。小首を傾げて見上げてくる麻沙猫に心をときめかせた那須はくったりとする猫耳を弄るように頭を優しく撫でた。

 

「あぁあぁぁ……、ごろぉにゃぁん、ごろごろごろごろ……なぁん」

「本物の猫かと思った……」

「うちのアサちゃん、声帯が広いからな。物真似が上手なんだよ。オナニーしてる時に母さんの声でいきなり部屋に入って来た時はすっげぇ驚いたぞ……」

「んふふふ……あの時の兄の飛び上がり方は面白かったよ。実に滑稽だったよ、ごぉろなぁん……」

「親フラ物真似とか随分とえげつない事を」

「いや、それよりもオナニー中に入って来てる所を突っ込むべきじゃないかしら……?」

「そうですか? うちのお母さんも私がアナニーの佳境の時に普通に入って来たりしますよ?」

「……やっぱり青藍島の一般人ってやば、……凄いですね。普通、年頃の子が異性の前で言える単語じゃないですよ」

「確かに、男の子の前で言う台詞じゃないな?」

「むべむべ……、慎みが足りませぬ……」

「えっ、私がおかしいんですかこれ? わたちゃん先輩と葉琴ちゃんも青藍島住人でしょう!? これくらい一般的な会話ですよ!? 親子団欒でも普通に飛び交いますよこれぐらい!」

「……畔、本島の一般常識的にオープンスケベはマイノリティだ。むしろ、本島だとそう言った性的な発言は控える傾向にあるくらいだぞ」

「そうだね。あっちで美岬親方みたいなのが居たら、そっと視線を逸らしてうわなにあいつやべぇ頭おかしいんじゃないの無視しとけ無視、ってされるくらい恥ずかしさと油の塊だね」

「そ、そんな……はっ!? そ、それじゃあ本島から来たお四方から見た私はすっごい恥ずかしい奴って思われてたんですか!?」

 

 美岬のムンクの叫びめいた表情で発した言葉に淳之介と麻沙音、奈々瀬に那須は静かに視線を逸らした。直接言われるよりもきっつい現実がそこにはあった。青藍島女子として産まれてきて経験してきた恥ずかしいとは違う何かに衝撃を受け、穴があったら入りたいと思う程に美岬は静かに膝を折ったのだった。

 

 もっとも、青藍島女子は普通にセックスの内容やオナニーの内容を話題の子種にする事は普遍的であり、それに馴染んで生きている美岬のそれはこの島においてのマジョリティである。しかし、そのマジョリティに反抗するマイノリティの集団がこのNLNSである。性産的活動を身近でありながら離れて暮らしてきたヒナミと文乃から共感を得られないのは当然であり、本島の一般常識に馴染んだ四人からすれば妥当な結果である。

 

「た、橘さん。お願いです、私に本島の、本当の一般常識を教えてくれませんか……」

「めっちゃ切実な声……。ああ、分かった。俺はNLNSのリーダーだ、仲間が困ってるなら助けるのは当然だ! これから本島的一般常識ってものをしっかりと教えてやるからな!」

「橘さん……私、一般会話をしたいです……!」

「諦めたらそこで終了だからな、頑張るぞ畔!」

「はい! 橘さん、いえ、淳之介くん!」

「そう言うとこだぞ?」

 

 しれっと名前呼びに変更してきた美岬に麻沙音の痛烈な皮肉が入るも、意気揚々とした淳之介と美岬には聞こえていないようだった。和気藹々とした二人を優しい表情で微笑む奈々瀬は年頃の子が居るようなお母さん面をしていた。仲が良いなとにこにこ顔のヒナミに同調するように文乃が頷く。見た目年少さん組だからだろうか、馴染むのも早かったらしかった。




此処だけの話、ゆきかぜと凛子とのエピソードに一部修正入れました。(20年12月14日)

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。