ダンジョンに白黒の魔法使いがいるのは間違っているだろうか   作:グリル鍋

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東方とダンまちのクロス作品です!弾幕や魔法に関しては独自設定が含まれているので、ご了承下さい!


第1話「プロローグという名の日常」

 

 

 

 

「止まってください魔理沙さん〜!!」

「いつも言ってますけど勝手に本を持ってかないで下さい〜!!」

 

 後ろから焦燥感に満ちた悲鳴が聞こえてくる。

 パタパタと追ってくるのは妖精メイドだ。申し訳程度の量の弾幕をばら撒きつつ、必死の形相で()()()()()の後をついて行く。

 

 彼女達の先にいるのは、箒に乗って空中を飛び回る一人の魔法使い——霧雨魔理沙だ。

 後方から懸命に呼びかけてくる妖精メイド達の言葉に「へへっ」と悪戯な笑みを浮かべ、そのまま止まることなく縦横無尽に飛び回る。

 

「悪いな、この本は借りてくぜ。死ぬまでな!」

 

 魔理沙の片手には一冊の黒い本。

 日本語ではない言語で書かれたタイトルに、怪しい色合いの表紙。心なしか強い魔力を感じる魔導書だ。

 

 それを後ろの妖精メイド達に見せつけながら、魔理沙はもはや恒例となっているセリフを吐いた。

 

 

 

   ◇◇◇

 

 

 

 忘れ去られた者達が集う幻の土地——幻想郷。

 神や妖怪、妖精や亡霊などの魑魅魍魎が棲みついており、美しい自然の風景に囲まれている。

 

 そんな幻想郷には、血のように赤い深紅の館がある。

 その名を紅魔館——主人であるレミリア・スカーレットを筆頭に、力を持った妖怪が何人も住んでいる洋館だ。唯一の人間は館のメイド長ぐらいであり、里の人々から恐れられている。

 

 なんと言っても恐ろしいと噂されているのは、豊富な種類の魔法を使いこなす七曜の魔女、パチュリー・ノーレッジという少女である。

 

 百年以上の時を生きる魔女である彼女は普段、紅魔館の地下に位置する『大図書館』で本を読み耽る。

 幻想郷最大の知識量を誇るこの大図書館では、見上げるほど大きい本棚がズラリと並んでおり、膨大な量の書物が貯蔵されている。知識書や魔導書は勿論のこと、パチュリー自筆の魔導書や幻想入りした本など、種類は様々だ。

 

 蔵書一つとっても価値があり、どれが欠けてもいけない。大図書館に存在する全ての書物は、パチュリー・ノーレッジの所有する財産としてかけがえのない物である。

 

 

 ——だが、そんな魔女の所有物を平然と外へ持ち出す命知らずな人間が一人いる。

 

「——悪いな、この本は借りてくぜ!」

 

 彼女の名は、霧雨魔理沙。

 黒い三角帽からウェーブがかった金髪が覗かせており、エプロンのような服に身を包んだ″いかにも″魔法使いの格好をしている。その瞳は活気に満ち溢れ、奔放な印象を抱かせる表情だ。

 

 そうして魔理沙は、箒に跨って図書館内を高速で飛び回っていく。この部屋の中は光源が少なく薄暗い。視界の状況はとても良好とは呼べない中、魔理沙はスピードを緩めることなく大胆に本棚の森を抜けていく。

 

「誰よ、魔理沙さんを図書館に通したのは!?」

「通したも何も、勝手に館内に入って来たの!」

「誰か止められるメイドはいなかったの!?」

「魔理沙さんを止めるなんて無理よ!」

 

 妖精メイド達のギャーギャーとした喚き声が辺りに響き渡る。前方の白黒魔法使いに全く追いつけないでいるこの状況に、彼女達は目をグルグルと回しながら甲高い声を上げていた。

 

 魔理沙の稼業——それは泥棒。

 そんな彼女のモットーは「正々堂々と正面から突入し、正々堂々と『借りていく』」ことである。

 

 コソコソと隠れることなく紅魔館に入り、堂々と廊下を突き抜けて図書館へやって来たのだ。途中で何人もの妖精メイドと遭遇するが、誰も魔理沙を止めることができないでいた。

 

「パチュリー様、きっとカンカンだわ!」

「魔理沙さんを図書館から出しちゃダメよ!」

 

 やがて、妖精メイド達は戦闘態勢に入る。

 パチュリー曰く、この大図書館にある本棚や書物には特別な魔法で防護されており、ちょっとやそっとの衝撃では傷付かないようになっている。弾幕程度の威力などものともしない。

 

 そして——弾幕戦が始まる。

 

 逃走劇から切り替わり、多彩な色や形の弾幕が飛び交う戦場へと移り変わった。妖精メイド達はそれぞれ魔法円を展開し、自分達の持つささやなか全力を込めて弾幕を撃ち出し始める。

 

「さぁ、始まったな!」

 

 その光景を見て、ニィッと口角を上げる魔理沙。

 後方から迫って来るいくつもの弾幕に対し、彼女は意識を切り替えた。スピードを落とさずに妖精メイド達から逃げ続けることは変わらないが、それに加えて『迎撃』が始まるのだ。

 

 まずは背後を振り向き、魔法円の展開。術式を組み立て魔力を流し、確かな威力を誇る砲身を作り上げる。そこから放たれるのは剣の刀身を模した縦長の弾幕。

 そしてそれと共に翡翠の球体——特製の『魔道具(マジックアイテム)』から緑色のミサイル弾が撃ち出されていく。

 

 『マジックミサイル』——弾幕戦での立ち回りにおいて、魔理沙の基礎となる弾幕の一つである。

 

 霧雨魔理沙は普通の人間の身でありながら、妖怪も恐れる高威力の魔法を扱うことができる。主に光と熱を持つ魔法を得意とし、その破壊力は幻想郷一番と言っても過言ではないほど。

 「弾幕は火力だぜ」を口癖とする彼女の弾幕の威力は、もはや疑う余地がない。紅魔館の妖精メイド程度なら一発でダウンさせることができる。

 

「悪いな、吹き飛んでくれ」

 

 そう言って魔理沙は後方に弾幕を撃ち始める。

 妖精メイド達が繰り出したささやかな弾幕を蹴散らし、威圧感を放ちながらいくつもの弾幕が飛び交う。

 己の攻撃を一瞬で無効化した魔法使いの弾幕を見て、果敢な妖精メイド達はサァーッと顔を青くさせた。

 

 そして次の瞬間——着弾。

 

「「「「ギャーーーッ!!!」」」」

 

「……蛙みたいな悲鳴だなぁ」

 

 爆風と共に吹き飛んでいく妖精メイド達の姿を見て、魔理沙は苦笑いを浮かべる。メイドとは思えないほど清廉さの無い悲鳴だった。彼女達のメイド長とは随分と異なる。もっとも、咲夜の場合もわざわざ淑やかな悲鳴など上げないのだが。

 

「ま、それはいいとして……この本だ」

 

 そう言って魔理沙は手元に視線を落とす。

 

 ——彼女の手にあるのは一冊の黒い本。

 

 大図書館の本棚から適当に抜き取った、妖しい雰囲気を放つ書物だ。表紙に書かれてある言語は読めないものだが、見た目からしてこの本は魔導書の類であることが窺える。パチュリーの本棚あった本だ——十中八九魔法に関係する本なのだろう。

 

「たまたま目を引かれたのがこの本だったんだが…………禁書か何かか? あいつ(パチュリー)の所には胡散臭い魔導書がたくさんあるからなぁ」

 

 はてさて、と首を傾げる魔理沙。

 今まで自分が見たことのないような種類の書物。どれだけ眉を顰めて喉を唸らせても、どんな内容が書かれてあるのか想像もつかない。

 

「ま、中身を確認するのは後だ。まずは捕まらずに紅魔館を出ないとなっ」

 

 そう言って魔理沙は意識を切り替える。

 腰に下げているポーチに黒色の本——もとい本日の収穫をしまい、視線を前方に向けた。

 

 妖精メイド達を追っ払った今、続けて追っ手が向かってくる気配は感じられない。そもそも追っ手を向かわせたところで敢え無く撃退されるのがオチなので、彼女達に魔理沙を必死に追わせる意味も無いのだが。

 

 とにかく、それならば魔理沙はこのまま大図書館の出入り口を目指すだけだ。ここの空間は地下に位置しており窓からの脱出が不可能なため、出入り口の扉を通過する道しか存在しない。

 

 故に、できる限りスピードを落とさずに出入り口まで疾駆するのがベストであるが——。

 

 

「——ととっ!!」

 

 急ブレーキ。

 その衝撃で箒の後端部が持ち上がる。危うく箒から落ちそうになった魔理沙は、思わず焦燥の表情を浮かべた。

 

「っぶねー…………てか、()()()()()()()()

 

 言いながらタラリと汗を流す魔理沙。

 頬をポリポリと掻きながら、少々やりにくそうな面持ちで視線の先に居る人物を見やる。

 

「パチュリー、頼む。そこを通してくれ」

「——通すわけないでしょう」

 

 出入り口の扉の前に陣取る、一人の少女。

 まるでパジャマのようなローブとナイトキャップに身を包んでおり、毛先を小さなリボンで結んだ、紫色の真っ直ぐな髪が特徴的。片手には一冊の魔導書が。

 

 ——七曜の魔女。

 大図書館の主人であるパチュリー・ノーレッジは、不機嫌そうな表情を隠さずに魔理沙を睨んだ。

 

「アンタはいつもいつも私の本を盗んで行って……! そろそろ私も我慢の限界なのよ!」

「盗んだとは人聞きの悪い、死ぬまで借りてくだけだ。…………このセリフも何回言ったんだっけか」

 

 怒りの感情を露わにして言い放つパチュリーに対して、飄々と言ってのける魔理沙の表情は段々と苦笑いに変化していく。

 

「今日は絶対に逃がさない……痛い目に遭いなさい!」

 

 そう言ってパチュリーは呪文を唱える。

 足下に魔法円が展開され、眩い光を放ち始める。片手に持つ魔導書はひとりでに開き、魔法の力を以てパラパラとページがめくられていく。

 

 ——【日符『ロイヤルフレア』】。

 もう片方の手には、そう書かれた一枚の(スペルカード)が。

 

「へへ、初っ端からやる気満々だな」

 

 その紙が持つ意味をよく知る魔理沙は、パチュリーの煮えたぎる戦意を受けて不敵にニヤリと笑う。

 三角帽のつばの部分を指先で握る彼女の表情には、不安や焦りの感情は見られない。

 静かに闘争心を燃やす魔理沙の前方——パチュリーは、魔理沙の余裕の表情を気に食わなさそうにしながら、着々と魔法の準備を進めていく。

 

 ——紅き輝きを放つ火球が次々と生み出され、それらが魔法円の上に浮かび上がる。一度でも触れれば火傷では済まない灼熱の弾幕が、規則的な列を成して魔理沙の眼前に広がり始めた。

 それは、まるで罪人を囲む業火のように魔理沙の周囲を浮遊する。紅く眩しい光が彼女の横顔を照らし続けている。逃げ場などどこにも無いのだと、愚かな本泥棒に訴えかけているかのようだった。

 

「いくらここの本棚が防火仕様になってるからって、ちょっとばかし張り切りすぎだな……!」

 

 そう言って魔理沙は周りの弾幕をチラリと見渡す。

 高威力かつ高密度の火球が自身の視界を埋め尽くしている。通ろうと思えば通れる隙間はいくつも散見しているが、肌が焼け衣服が燃えるリスクを覚悟してかすめて通る(グレイズする)必要があるだろう。簡単には攻略できない、難度の高い弾幕だ。

 

 故に、この状況で魔理沙がとれる選択肢は——。

 

「——【魔符『スターダストレヴァリエ』】」

 

 片手で一枚のスペルカードを掲げる。

 魔理沙の全身を光の輪が包み込み、そこから星の形を成した巨大な弾幕が全方位に撃ち出され始める。

 カラフルで派手な彩りだが、込められた魔力は人間のレベルを凌駕している。エネルギーがギュッと詰まった巨大星型弾が魔理沙を中心に広がっていった。

 

 そして、()()する。

 

「!?」

 

 対象を焼き尽くさんと襲いかかって来た灼熱の火球と巨大星型弾がぶつかり合い、大きな爆発音と爆風を伴い互いに打ち消された。

 パチュリーは思わず目を見開く。

 全身全霊を込めてこそいないが、決して手を抜いてもいない。仮借のない魔力を以て撃ち出した自身の弾幕が、ただの人間の身である魔理沙によって打ち消された。

 

「なっ——」

「前までの私だと思うなよ! 人間は成長する生き物なんだぜ!」

 

 目を見開き驚愕の表情を浮かべるパチュリーに対して、魔理沙は不敵な笑みを浮かべながら言い放つ。

 続けて、魔理沙はもう一枚のカードを取り出した。

 

「どんどんいくぜ——【魔符『ミルキーウェイ』】」

 

 箒に跨っていた状態から態勢を変え、二本の足で箒の柄の上に立ち上がる。魔法の反動に負けないよう力強く踏ん張れる態勢の方がやりやすい。

 バッと腕を突き出し、前方のパチュリーに向けて大きな魔法円を展開させる。濃密な魔力を流し込み、眩い光を発する六芒星のサークル。そこから繰り出されるのは、天の川を思わせる雲状の光の帯。先程と同じく星型の巨大な弾幕を一直線上に撃ち続けていく。

 

「っ! 【水符『ベリーインレイク』】!!」

 

 激しい勢いで向かってくる星型の弾幕を受けて、たまらずパチュリーもスペルカードを発動する。

 複数の魔法円を作り出し、青色のレーザーに続けて中・大のサイズの光弾を魔理沙の弾幕めがけて撃ち出す。パチュリーの眼前に広がる青の光弾はまるで王を守る城壁のように、そして矛であるレーザーは巨大星型弾を迎え撃たんと伸びていく。

 

 ——やがて、とてつもない爆発音と光が大図書館の中に鳴り響いた。

 

「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッッ!!?」

 

 光、爆風、衝撃波、その他の余剰がパチュリーの体を襲う。ただでさえ病弱な体であり、体力面に関しては人間にも劣るパチュリー・ノーレッジにとって、強力な魔法同士が直撃した際の衝撃は耐え難いものであった。

 

 必死に目をギュッと閉じて光を遮り、爆風の圧に負けないよう眼前で腕を交差させる。気を抜けば体ごと吹き飛ばされかねない衝撃に必死に耐えながら、この爆発音が鳴り止むのをひたすらに待ち続ける。

 

「ケホッ、ケホッ…………」

 

 しばらくして、眼前の状況が落ち着き始めた。

 灰色の煙や塵芥が周囲を漂い、パチュリーは思わず咳き込んでしまう。あまり埃が飛び散る空気を吸わないよう試みるが、持病の喘息により咳は止まらない。

 

 こうしている間にも、パチュリーは油断なく前方を注視し続けている。視界が悪くなっているこの状況下でありながら、次に繰り出されるであろう″本泥棒″の弾幕に対して警戒を張り巡らせていた。

 

 ——やがて、視界が晴れていく。

 

 辺りを包み込んでいた煙が消え、前方の様子が鮮明に見え始めた。きっと今にも、あの白黒の魔法使いはよく分からない魔道具(マジックアイテム)を片手に構えて、ムカつく笑みを浮かべていて——。

 

「っ!?」

 

 そこで、パチュリーは気づいた。

 前方に()()()()姿()()()()()()()()ことに。

 

「なっ!? 一体どこに……!?」

 

 バッと顔を振り向かせ、周囲を見渡す。

 だが、パチュリーの肉眼で見える範囲にはどこにも居ない様子。見通しの悪い大図書館の造りを活かして、どこかの本棚の陰に隠れているのか。

 

 必死に頭をグルグルとさせて周囲を見回し、何とかあの小憎らしい魔理沙を見つけようとするパチュリー。

 そんな中、彼女の背後にある出入り口の扉から——とある人物が声をかけてきた。

 

「——パチュリー様っ! ご無事でしたか!?」

「! こあ……!? こんな時に一体どうしたのっ」

 

 現れたのは、大図書館の司書を務める小悪魔。

 西洋の悪魔を思わせる容姿にスーツ姿と、どこかアンバランスな見た目の小悪魔は、険しい顔で口を開く。

 

「今、魔理沙さんが物凄いスピードで廊下を飛んでいまして……! ()()()()()()()()()()姿を見て、パチュリー様に何かあったのではと……!」

「なっ——」

 

 小悪魔の話を聞いたパチュリーは愕然とした。

 廊下の窓から外に出たということは、文字通り紅魔館から脱出したということ。それには一度大図書館の出入り口を通る必要がある。

 

「(もしかして、今の一瞬で……!?)」

 

 魔理沙とパチュリーの弾幕がぶつかり合った時。

 魔理沙が繰り出した雲状の巨大星型弾とパチュリーが繰り出したレーザー等が互いに直撃し、目を開けていられない光と爆風が発生した時。

 

 パチュリーが目を閉じた隙に魔理沙は、どさくさに紛れてパチュリーの真横をすり抜け——大図書館から立ち去って行ったのだ。

 

 ——逃げられた。

 決着をつけずして、あの白黒の魔法使いはちゃっかりと紅魔館から脱出していた。

 

「…………あああっ!! もうっ!!」

「パ、パチュリー様ぁ!? 落ち着いて下さいっ!?」

 

 まんまとしてやられた事に気づいたパチュリーは、その悔しさや怒りを露わにして地団駄を踏む。それに対して小悪魔は、オドオドとしながら怒れる魔女を懸命に宥めるのだった。

 

 

 

   ◇◇◇

 

 

 

 ——魔理沙がパチュリーを出し抜いて紅魔館を脱出する、ほんの十数秒前。

 

 館の主人であるレミリア・スカーレットは、2階のバルコニーにて優雅な時間を過ごしていた。

 ビストロテーブルの上に置かれた一つのティーカップには、穏やかな湯気が立ち上る紅茶が淹れられている。それをクイッと一口飲み、繊細な甘さを味わう。

 

 その姿は様になっていた。幻想郷古参の妖怪達からは度々お子さま扱いを受けているレミリアだが、端正な顔立ちに上品な所作が組み合わされば、幼く見える容姿にもカリスマ性を感じざるを得ない。吸血鬼という見た目も相まって、穏やかに紅茶を味わう様子はまさに絵画のようだった。

 

「…………で、さっきから聞こえてくる戦闘音のことについてだけど、咲夜?」

「はい、お嬢様」

 

 カリスマ性を感じさせる吸血鬼は、耐えかねたかのように苦笑いを浮かべ隣の人物に話しかける。

 レミリアの側に立つのは、シワの無いメイド服に身を包み、銀髪の髪を靡かせる少女——十六夜咲夜である。

 

「こんな真っ昼間からドンパチやってるのはどこの誰なのかしらね?」

「パチュリー様でしょう。大方また魔理沙が本を盗みに忍び込んで来たのかと」

 

 レミリアの問いに淀みなく答える咲夜。

 魔理沙が大図書館の本を盗みにやって来るのは、紅魔館の住人達にしてみればいつもの事であった。

 

「あら、咲夜は加勢に向かわないの?」

「……前回の盗難被害に遭った際にパチュリー様が、『今度魔理沙が来た時は自分で何とかするから、手を出すな』と仰られていたので」

「おや、そうだったの」

 

 今度魔理沙が来た時には誰の手も借りず、自分自身の力で懲らしめてやる——そう憤るパチュリーの姿が容易に想像でき、レミリアは苦笑いを浮かべる。

 

「なら、今回は本泥棒を撃退できるといいわね」

「そうですね………………あら?」

 

 そこで、咲夜は気づく。

 

 ビュンと勢いよく風を切り——紅魔館の庭園を突っ切って門を飛び越え、空の彼方へ飛んでいく影。

 箒に乗っている黒の三角帽を被った人物の姿を、咲夜は確かにその目で視認した。

 

「(今のは魔理沙…………? ……もしかして、パチュリー様はまた逃げられてしまったのかしら……)」

 

 魔理沙が紅魔館から外に出る姿を見て、咲夜は大体の状況を察する。あの白黒の魔法使いはいつも上手いこと状況をすり抜けていくのだ。またもや我らが図書館の主人は、まんまとしてやられてしまったらしい。

 

 そう考え、咲夜は困ったように眉根を寄せた。

 同じく魔理沙の姿に気づいていたレミリアは、比較的落ち着いた様子でティーカップを口元に運ぶ。

 

「今日も幻想郷はいつも通りね」

「……後でパチュリー様の様子を見に行きます」

 

 冷静にそう呟いたレミリアに対して、咲夜は苦笑いを浮かべて答えたのだった。

 

 

 ——これは、幻想郷の日常の一幕。

 

 




単なる導入のつもりがこんな文字数に……。

※この作品では、東方の原作でいう『サブショット(オプション)』のことを『魔道具(マジックアイテム)』と表現しています。
※魔理沙の魔法の威力は幻想郷ではトップクラス。
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