幻想郷に訪れ、説教をしにくる閻魔。
彼女はふと、道に咲く彼岸花を見つけ、あることを思い出していた。
それは、前回の休暇のこと。
彼女が救えないと悟った少年と出会った時のこと。

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どうも、風見です。
休みと言うことで、一つ書いてみました。



彼岸花

 あたり一面には花が咲き乱れていた。

「こちらへ来るのも久しぶりですね。休暇なんてほとんどありませんからね。」

彼女は普段、裁判官として働いている。

しかも、その裁判所は地獄にあるのだから、休暇など滅多にない。

そんな彼女が休暇の時どう過ごしているのか。

それは、幻想郷のいろんなところへ赴いては説教をすることだ。

ただ、彼女は生きている者のその時までに重ねた罪がどれほど重いものか分かるため、彼女の説教は他のそれとは重みが違うのだ。

つまり、今回も例に漏れず、彼女がここへ来た目的は説教である。

 

「おや、これは……」

彼女は花の咲き乱れる丘から人里へと向かう途中、彼岸花の咲いているところがあるのを見つけた。

「彼岸花ですか……」

彼女は、前回の幻想郷へ来たときのことを思い出していた。

 

 彼女の前回の休暇は、説教をするために幻想郷へ赴いたわけではなかった。

たまには羽を伸ばすのもいいと思い、人里でのんびり過ごそうとしたのである。

途中、仕事をサボって昼寝をしている部下を見つけ、やはり説教をしたが、当時の目的はあくまで羽休めであったため、時間は短く三十分程度のものだった。

そんなことがありつつも、人里へと辿り着き、散策していた時のことだった。

彼女は路地裏で、うずくまっている人影を見つけた。

注意深くみてみると、その人影は、まだ歳は十といかぬような子供だった。

彼女は生あるものの罪の重さを、その時点のものをみることができるのだが、この子供のものは、あと一歩で地獄行きが決まると言えるほどの重いものだった。

その内容はほとんどが盗みだった。

「あの……」

彼女が近寄り、話しかけようとしたその時、子供はそれに気づき、その場から逃げようとした。

が、疲弊していたために、その場で転倒し、そのまま意識を失ってしまった。

彼女はいち早くその子供のもとへ駆け寄って、先ほど説教した部下に手伝ってもらい、この子供をなんとか幻想郷の神社を借りて介抱することにした。

 

 暖かい。

その、もうしばらく感じていない感触が、少年の目を覚まさせた。

気がつくと、少年は布団の中にいて、あたりを見渡すと、そこには緑色の髪の、小柄な女性が座っていた。

「目は覚めたようですね。よかった……」

彼女は胸を撫で下ろすようにそう言った。

「あなたは……?」

少年は彼女に問うた。

「地獄の閻魔です。」

彼女ははっきりとそう言った。

「じゃあ、僕は……死んだの?」

少年は怖がる様子はなく、そう言った。

「いいえ、あなたは生きています。」

彼女、いや閻魔はそう答えた。

そして、今度は閻魔が少年に問うた。

「あなたは生きるためにこれまで盗みを働いてきたのですよね?」

浄玻璃の鏡という、過去の行いを見通すことのできる閻魔には、ほとんど答えの出ている問いかけだった。

「はい。」

そのやりとりは、地獄で行われる裁判と少し似た雰囲気があった。

「そうですよね……」

閻魔はそこで行き詰まってしまった。

浄玻璃の鏡でこの少年の過去を見たところ、この少年は、生きるためにそうせざるを得ないような境遇であったことを、閻魔は知っていたからである。

幼い頃から、親に捨てられ、盗みを働くことで生きていたものに拾われ、そしてその人を慕い、失い、そして今に至るまで。

この少年は、更生しようにもできない、そんな子供だったのだ。

普段は業を少しでも減らすべく助言も授けることができたのだが、当時の幻想郷で、この少年を救うのは、閻魔ではとてもできなかった。

己の非力さを実感し、閻魔は少年を抱きしめ、悔やんだ。

「ごめんなさい……私にはあなたを救うことはできないの……」

少しでも地獄へ行く人を減らしたい。

そう思って今まで説教をしてきた彼女にとって、この現実は耐えがたいものだった。

救いたいのに救えない。

そんな彼女を見て、少年はこう尋ねた。

「ねえ、閻魔様。やっぱり僕は地獄へ行くのですか?」

「ええ……このままだと……」

閻魔はただただ事実を述べることしかできなかった。

「僕が、地獄に行かないようにするには、どうしたらいいですか?」

「徳を積むことです。しかし、あなたが生きるためには、それもきっと難しい。だからごめんなさい。私には何もできない……」

少年は悔やむ閻魔にこう言った。

「閻魔様が悔やむことはありません。僕を救ってくれて、ありがとうございます。」

この時、少年は閻魔が自分をここまで運んでくれたり、看病してくれていたことを知っていた。

気絶した後、幾度か目が覚めることもあったからだ。

意識がだんだんとはっきりしてくるにつれ、それらを推察するに至っていた。

「閻魔様。僕はもう大丈夫です。」

そういうと、少年は閻魔の腕の中からゆっくりと立ち上がり、そばで寝ていた閻魔の部下の死神に、閻魔に聞こえぬよう行き先を伝え、送ってもらった。

閻魔はこの少年の中で何かが変わったことを悟り、涙を吹いて、笑顔で少年を見送った。

「さようなら、またいつか。」

そう見送って、閻魔は布団のそばに添えてあったものに気がついた。

そこには一輪の彼岸花。

閻魔はそれを大切にしまっておくことにし、なんとか立ち直って、また人里へと歩いていった。

 

 そして、今回の休暇で人里へ訪れようとした時のこと。

閻魔はまた彼岸花の咲くところを見つけた。

そこには家があり、そこから出てきたのは紛れもなくあの時の少年だった。

十数年と経ち、完全に姿の変わった彼を見て、閻魔はまた涙を浮かべた。

「立派になりましたね。」

どれほどの苦節を乗り越えてきたのか。

もう、地獄に行くことが考えられないほどに成長したあの少年の姿が、そこにはあった。

 




またいつか、お会いしましょう。
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