【完結】男女比率がおかしい貞操観念逆転アカデミアだけど強く生きよう 作:hige2902
第十五話 買い物に行こう
「じゃあお前から」
カウンターチェアで脚を組んだ死柄木が、ボックス席に座る内の一人を顎で指す。
「わたしは引石健磁、マグネで通ってるわ」
濁った茶髪を肩まで伸ばした大柄な男が答えた。百均にも売ってないであろうサングラスの座りをなおして続ける。
「個性は自身から数メートルの人間に『磁力』を付与し、引き寄せたり反発させたりできる。腕はそれなりに覚えがあるほうよ」
仲介人によれば複数件の殺人や多くの強盗行為を働いており、ある程度の戦闘能力はありそうだった。
「なんでウチに入ろうと思った」
「そうねえ……生きづらい世の中がウザいから、かな。ま、好みの男にイタズラしたいからってのもあるけどねぇ」
「あ、そ」
まあ、士傑の時に雇ったチンピラよりはマシか。と死柄木は頭を掻き「次」とだけ言った。
「はいはーい!」
お団子ヘアーの一目でわかる女子高生が手を挙げる。セーラー服に季節外れのカーディガンを羽織り、耳には
「渡我 被身子、ステさまのファンだから来ました。ヒーローとぼろぼろになるまで戦ったのがステキです。頑張りますのでステさまの血をちうちう吸わせてください! っていうかステさまどこですか?」
きょろきょろとバーを見渡すが、その姿は無い。
「ステって、ステインか。あいつはほとんど顔出さねえ。てかおまえに聞いてねえ。座ってる順番的に次っつったら学ラン着たガキだろ。空気読めねえヤツは帰れ」
「わー待ってください!」
渡我が慌てて取り繕う。
「便利ですよ、わたし。相手の血を飲むと『変身』出来ますし……あと車も運転できます!」
「おまえいくつ」
「十七です」
「じゃあ免許持ってねーだろ。どこで運転覚えたんだよ」
「警察やヒーローから逃げる為に独学で身に着けました。ていうか免許持ってないのは、ここにいる人たちも同じじゃないですか?」
言ってボックス席に座る輩たちを見渡す。誰もが脛に傷を持つ悪党や十八歳未満なので、その手の公共のサービスは受けにくい。誰が好き好んで、警察官がいる免許センターで身分を明かすというのだ。
「そもそも運転できる人の方が少ないのでは? この面子だと」
『ヤモリ』人間のスピナーがうつむく。学ランの少年が気まずそうに首筋を撫でる。紙袋を被った男が支離滅裂を叫ぶ。
全身を黒の拘束着で縛られた男、ムーンフィッシュが身体を小刻みに揺れながら涎を垂らしていた。た、たしかに。
「おれは運転できるし免許も持ってる、ずいぶん更新してないが」
そう名乗り出たのは仮面をつけたマジシャンの風体の男。
しかし渡我は一蹴する。
「わたしはマニュアルもいけますよ」
「それは……そっか、すごいな」
ちょっとしゅんとして身を引いた。
オートマが主流だし料金も安いからオートマ限定を受講するのは一つの選択肢だが、ヴィランをやるならそうも言ってられない。逃走時に奪った車がマニュアルで、クラッチを繋げられずに逮捕などと目も当てられないからだ。
「運転できる人間がいると買い出しとかにも便利ですよ」
んー、と死柄木は頬を掻く。
「じゃ採用」
こうして、イロモノだらけのヴィラン連合に一人の少女が加わることになった。
一通りの面接が済み、黒霧が静かに尋ねる。
「あなたの望み通り、人手は揃いました。次はどうしますか?」
「キャラが集まったら次は装備だろ、そりゃ」
「では裏で流れているアイテムを」
「それもだけど、おれが言ってる装備ってのは脳無の事だ。結局、オールマイトに負けたザコだったろ……ドクター、
部屋の隅にあるパソコンのスピーカーから、興味を引かれた老人の声が響く。
渡我はその内容に耳を澄ませる。
「──いままで脳無に使った素体は、そのへんのチンピラや浮浪者とかの素人だったんだよな?」
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甲矢 有弓は波動 ねじれの親友である。
特に最近は親友で本当に良かったと思っている。何がとは言わないが、昼食がこれほど待ち遠しくなるとは思ってもみなかった。
誤解の無いように付け加えるなら、もちろん昼食なのだから食べるという行為の事だ。曲解の無いよう更に付け加えなければならなくなったが、食べるとはもちろん飲食物の事を指す。健全。
ふと、この都合よすぎる展開は現実なのかと疑わしくなって、甲矢はスマホをスクロールさせた。そこに書いてある事こそが普遍性を持つこの世の理である。
年頃の子ならば、『エッチ やり方』でググる事はそう珍しくない。検索した後で、何やってんだろ、という気持ちになり恥ずかしさを覚えるが、あるかもしれないもしもの時に恥ずかしい思いをするくらいならマシな気がする。
異性とする場合はとにもかくにも、授業中にふとエッチな事を考えて濡れるほど便利でない男性のそれを、まずは勃たせなければならない。
一般的にその役目は男性にはない。ネットでは、緊張も相まって愛撫や前戯がうまくいかず、少し甘酸っぱい初体験になった書き込みがいくつも転がっている。それはそれで二人にとっていい思い出話になるだろう。
そしてその第一関門を突破しても、相手を満足させなければならないという謎の使命感が女性を苦しめる。
しかも満足は明確な物証として出てくるモノで、反証を許さない。言うなれば大将首、あるいは勲章だった。戦いなのか? じぶんとの戦いかもしれない。
こっちが勝手に満足して、相手がまだだとなんかゴメンってなる。ってネットにいっぱい書いてあった。
他にも作法は電子の海に山ほどある。
顔にぶっかけるのはAVだけだから実際にやったらキレられるとか、マンガと違って男は何回も出せないとか、舐めるだけで勃つのはエロマンガだけとか、感じてるのは演技とか、胸は触ってくれるけど柔らかいから触るビーズクッションくらいにしか思われてないとか、そんな感じで処女が漠然と妄想していた幻想を容赦なく打ち砕いてくる。
そっか、まあAVのあれは演技だよな。薄々ちょっと過剰だなとは思ってたけど。
なんとなく抱いていた疑念を自ら認めた夜は、サンタクロースがいないと知った時に似て少し寂しかった。みんなそうやってエロガキから、少し大人のエロガキになるのだ。
また、なんにでも言える事だが、そもそも初めての体験を満足に終えるのは難易度が高い。
例えば初めてバスケットボールを触った人間が、いきなりスリーポイントシュートを決められるだろうか? 車をぶつけずに縦列駐車できるだろうか? 素晴らしい絵を描けるだろうか?
それが共同作業ならば言わずもがなだ。
舐めた事があると言えばアイスくらいの甲矢にとって、波動の提案は願いを叶える悪魔にも似ていた。美味しい話ではある。
が、絶対に無理、第一関門すら危うい。使命を全うする自信など微塵も無い。きっと情けない思いをするだけだ。てかシチュエーションが意味不明すぎる。
しかし謎の自信を持って大丈夫と言い張る親友の言葉を無下にするわけにはいかない。
第一関門を突破できずとも、現実にはモザイクが無い。最悪もう見るだけでいい。
一段落した甲矢が得た結論としては、ネットに書いてあった事は全部嘘だった、ぜーんぶウソじゃん。いろいろ試したけど全然怒らなかったし、むしろ悦んでた。え? てかひょっとしてわたしが上手い? たはー。
エチケット袋に入った勲章だってたくさん手に入れた。エッチ将軍だ。
それに相手を満足させる事がこれほど楽しく嬉しいとは思わなかった。肉体的に得る快楽とは別種の多幸感がある。
甲矢や波動がこれほど都合よい経験を得られたのは、実は彼の心のパチモンアベンジャーズのおかげでもある。
彼はアッセンブルの為に女性向けAVをよく観ていたので、行為の際にどういった反応を求められているか、何をすれば喜ばれるか知っていた。
声を出すのは恥ずかしかったが、女性が悦んでくれると彼も心身ともに嬉しいのでノリノリになるし、NG行為も無い。
つまり、世間一般には「あれはAVとかマンガのフィクションだから」で斬って捨てられた幻想が顕現していたのだ。
都合がよすぎる。信じるべきは友だった。
ただ、そろそろ夏休みの季節。一般的には長期休暇だが雄英のヒーロー科の一・二年生にそれは無い。十日ほどの林間合宿が行われる。
ということは、その間ねじれは彼と会えない事になる。わたしはともかくとしてそれは少し可哀想だ。
そう考えた甲矢は妙案を思いつく。たしか中学の後輩がヒーロー科の一年にいたはずだ。
さっそく事情を説明するが、少し前の自分と同じような反応だ。むしろ彼に対する侮辱ともとれる言動に、怒気を孕んでいるようにも見える。
だがここは折れるわけにはいかない。幸いにも説得材料となる動画はある。
そうして甲矢は一仕事終えて額の汗を拭った。
信じて送り出した彼氏が林間合宿の間で以下略だったら、『イエ~イ、波動先輩見てる~』とか送られてきたら、たぶん親友は喜ぶだろうから。
しかし健全なのでこの前振りが回収されることはないし、全て匂わせで終わる事は記しておかねばならないだろう。
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「はいじゃあテスト結果を返すから呼ばれた人から取りに来てね」
ミッドナイトが次々に筆記試験の用紙を手渡す。
解けたかどうかの手ごたえはすぐにわかるので、全員不安は無かった。問題は演習試験である。
「林間合宿のしおり配るから後ろの人に回して」
「え、あの~演習試験の結果は……」
おそるおそる葉隠が尋ねた。
「ん? 合否はその場でわかったじゃない。講評もしたし」
「いや赤点とかは、どうなんですか?」
「ああ、そういうのは今回は無しになったの。ハンデありのプロとの実力差を体感してもらうっていうコンセプトだから、不合格で当然。ダメだった点がわかったでしょ?」
コテンパンにされた嫌な思い出が脳をよぎる。
「まあ、はい」
「それは合宿で補えばいいし、良かった所は伸ばす。それだけの話よ」
それを聞くとクラスは安堵感に包まれた。彼と拳藤と柳の視線が自然に合い、小さな笑みがこぼれる。
「八月の頭には出発だから、来週中にはご両親からの宿泊許可書を提出する事。あとしおりの必要品項目と各自の判断でいるものは用意しといてね」
ぱらぱらとめくると、下着類やパジャマなどの想定する数、常備薬などが記載されていた。
スケジュールとしては十日の間に二日休みで組まれている。身体を休めるのも訓練の内だ。
簡易的な地図を見るに合宿先は山中にあるが、休日には街に下って息抜きをしたり、嗜好品や日用品を買い足せるだろう。
「ああそれと、しおりには書いてないけど」
ミッドナイトがさらりと、しかし聞き捨てならない一言を告げる。
「水着あった方がいいわよ、海に行くなら」
水着!?
そう、地名を聞いただけではわかるはずもないが、実は海へのアクセスも容易なのだ。
夏、太陽、海、水着。なにやら胸がときめく言葉が連なる。
小休憩の時間に、クラスメートはあれが要るこれが要ると口々に相談し合っていた。
そんな中、彼が深呼吸で緊張をやわらげて言った。
「明日の休みに、みんなで買い出しに行かない? 合宿用のあれこれ。木椰にあるショッピングモールで」
難色を示されたらどうしようと、今さらながら冷や汗が出た。
確かに芦戸たちや拳藤たちとは親しくなったが、他のクラスメート同様に友達というよりはまだ学友に近い。だからこそあと一歩踏み込んで、仲良くなる切っ掛けとしたい所だった。
彼の提案は、教室を流れる時間に一瞬の停滞を生んだ。
もしも1-Aの男女比率がもっと偏っていなかったら、特に何も考えずに賛同していただろう。
ただどうしても唯一の男性というところに気を使ってしまうというか、遠慮のようなものを覚えてしまう。嫌われたくないというか。
とはいえ断る理由は無い。
いやあ歯磨きとかのお泊りセット持ってなかったんだよね~、とか。旅行カバン的なの持ってないからな~とか。せっかくだからお昼も食べちゃおうよ、期末の打ち上げ的な。といった意見が飛び出し、あれよあれよという間に日時が決まった。
こうして、昼休みに一緒にご飯を食べるようになったのだからもう少し勇気を出して、学友から友達にステップアップしたいという彼のささやかな願いが始まった。
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夏の日差しが降り注ぐ週末のショッピングモールは賑わっていた。家族連れや恋人、友達と遊びに来ている学生、ふらりと一人でのんびりショッピングを楽しんでいる人。
老若男女が思い思いの一日を過ごしている。
現地集合場所の噴水前には、すでに1-Aの面々が集まっていた。
彼はクラスメートの私服を見るのが初めてなので、感動を覚えるとともに新鮮に感じる。
なんだかみんな気合が入っているような気がした。
まあこういう都会と言うか、活気にあふれた場所に来るなら着飾るのは当然かと納得する。逆にどこにでもいるような服装のじぶんがちょっと恥ずかしい。
全員揃っているが約束の時刻まであと五分ほど猶予があり、なんとなくお喋りで時間を潰した。そのとき角取が意外に思ったのは、彼が結構マンガやアニメ、ゲームに詳しかったことだった。
「角取さん、マンガ好きなんだ。どんなの読んでるの?」
「基本的に雑食ですが、そーですね……最近だと恋彦†国士とか、かなり古いけどハンターハンターとかジョジョとか好きです。知ってます?」
「あー知ってる知ってる。対個性戦を学んでるとより楽しいよね。オリジナルの発とかスタンド考えてたなー」
「おお! わかってマスねー。わたしもアメリカにいた時はいろんなジャパニーズコミック読んで空想してました」
うんうん、と角取は腕を組んで納得の表情。
「そういえばママが言ってたのですが、ハンターハンターを完結まで全巻一気に読めるのは幸せだって言ってましたけど、どういう意味だったのでしょうか?」
「あ、それおれも言われた。なんでだろうね」
二人して小首をかしげていると、定刻になったので拳藤が軽く音頭を取る。
「時間になったけど、どうする? みんなでグルっと回る……のは時間かかるからざっくりと自由行動にしよっか」
「そうですね。各自必要な物は違うでしょうし」
と塩崎が同意した。『ツル』をケアする為の活力液肥を買うのは彼女だけだろう。
「じゃあ今から二時間後の昼過ぎにここにまた集合って事で」
それでなんとなく買う物が被っている者どうしのグループが出来上がった。
ふと柳が、彼は何を買いに来たのだろうと声をかける。ついこのまえ一佳と健全な朝帰りした事もあり、距離感は割と気にせず接せられた。
「わたしは日用品とかだけだから、付き合うよ。何見るの?」
「水着」
「えっ」
思わず声が出てしまった。
えっ。
なに? また? わたし呪われてる? 「こういう水着どう?」って意見求められたやつがエッチだったらなんて返せばいい? 判断を誤ると終わりなラッキースケベは求めてないんだけど。前世でなんかした? これも映画でありがちなナチスのせい? カルトに出てくるネオさま呼んできて。
慌てて周囲を確認するが、皆そそくさとその場を後にしていた。玉突き事故に巻き込まれたくはない。水着を選びに行くと聞いてから「実はわたしも新調したかったんだよねー」などとワザとらしい事は言えない。頼みの綱の八百万は既に耳郎とカバンを見に行っていた。
しかしこのままでは二人きり。それはまだちょっと緊張する。拳藤と目が合った。彼女は強く目を閉じ、覚悟を決めた。
「じ、実はわたしも新調したかったんだよね~」
変に意識したせいでよりワザとらしくなってしまった。しかし彼がある程度エッチな事に寛容なのはわかっている。それに親友を見捨てるわけにはいかない。
三人で目的の店まで歩きながら、たびたび寄り道してくだらない話で笑っていると、不意に彼がしみじみと言った。
「けどほんと広いねここ」
「初めてなんだっけ?」
「うん、一度来てみたかったんだよね」
スポーツ用品店に入ると、季節ガラか水着コーナーは充実していた。自然に男女で別れ、見て回る。
基本的にレディース物は、トップはキャミソールやタンクトップ型。ボトムはボックスタイプのショートパンツか、三角ビキニの部分を見せないようパレオ、フリル、スカートが一体となっている。
腹部は見えるものの、南国の暑い地域なら普段着として通用する程度の露出に収まっていた。三角ビキニだけだとビーチがざわめく、とまではいかないが多少目立つ。
対してメンズ物は、トップはTシャツタイプやポロシャツ、パーカー、タンクトップ型のラッシュガードが主流だ。年齢層が高くなると襟のあるドレスシャツタイプも選択肢に入ってくる。
もともと海軍の制服だったセーラー服タイプも根強い人気があった。最近の女子学生のものよりも直線的なディティールで無骨な感じを残しており、ポピュラーな一品だ。
スカーフリボンではなくネクタイを結ぶアレンジもあり、組み合わせて雰囲気を変えるおしゃれが楽しめるので、メンズの水着セーラー専門店まで存在する。
アイボリー地に深いエメラルドグリーンの襟は一種のアイコンとなっていた。
サイズとしてはもちろん普通からビッグシルエットまであるが、丈は短めが多く、おへそがちらちらしたりしなかったりする。
ボトムはショートパンツや短パン、サーフパンツ、スパッツ型が無難だ。クラシカルなセンタープレスの入ったものも流行っている。ブーメランパンツだとかなり目立つというか、ヤバいヤツと思われるかもしれない。
一通り見て回り、どうしよっかなと腕を組んで頭を悩ませる。
買う事は決まっている。
さすがに学校指定の水着はいかにも学生感が出て恥ずかしい。時期的にはビーチも賑わっているだろうし、地味過ぎて逆に浮いてしまうかもしれない。
それに
しかしどの水着を買うべきか。
おしゃれしたいお年頃としては、ちょっと大胆なものを着て海を過ごしてみたい。
たった三回しかない青春の夏、いや──と、マスキュラーやミッドナイト先生と戦った時の事が脳裏をよぎった。
──ミルコ先生が絶対に戦うなと言っていた、体術の通用しない典型例。死亡要因となる天敵。つまり……だからどうなる? 負ける? 死? ──
──わたしが花火田の組織の人間なら、きみは死んでる──
夏は、最後になるかもしれない。予期せぬヴィランとの接敵は士傑の件もあるし、雄英もその危機感は絶やさず胸に灯しておくべきだ。花火田を追うなら尚の事。
生に刹那主義を覚えているわけではない、死に追われているわけでもない。死と対峙する理解があるから、刹那の生をやわらかく握っていたい。
よし、と決心して、ある程度身体に自信がないと着こなせないタンクトップとショートパンツを選んだ。短いボトム丈とアダルトな色合いの黒だが、せっかくクラスメートと行く海なのだから冒険してみてかった。
会計を済ませて合流すると、出し抜けに柳が言った。
「ど、どんなの買ったの?」
拳藤が反射的に柳を二度見する。大丈夫か? その質問は。いや、もうだいぶ仲良いし、友達……だよなもう。だったら普通か。フツーフツー。
「んー、まあ、秘密」
「え。でも今日買ったやつ、合宿で海に行ったら着るんでしょ?」
「そうだけど、それとこれとは話が別っていうか。なんか急に恥ずかしくなってきた、やっぱもっと普通のにすればよかったかも」
どうせどんな水着か知る所となるのだから、多少時間が前後するだけの話ではある。
しかし買った物を知りたいという目的の為にその場で見せるのと、海で泳ぐという目的の為に着た結果見せるのでは、プロセスに明確な違いがある。
その繊細で複雑な男心を理解するのはなかなか難しい。
返品して別のにしよっかな、という雰囲気になりそうだったので慌てて前言撤回し、その後は日用品を買いそろえた。
そろそろ集合時間という所で、拳藤と柳がお手洗いに向かう。
彼は荷物番となって、適当な休憩スペースのベンチに座りぼんやりとあたりを眺める。ふと、ある店に目が留まった。
普段はあまり気に留めなかったが、異形型の個性使いの為の衣類やコップが数多く並んでいるようだ。魚眼や爬虫類の人用のコンタクトレンズや、蹄用の靴、毛並みを保つためのブラシや換毛用のコロコロ。
ミルコ先生もああいうの使ってるのかな、と想像してみる。かわいい。
店舗の上部には、社名であるデトネラットを示すDRというロゴの看板が掲げられていた。
たしか、それなりに昔からある企業だった。個性に合わせた日用品や衣類などを生産する業界の中堅どころ、といった印象。
そういえば一度、電気系の個性の為のバッテリーを自主回収する騒ぎになったニュースを見た事がある。
過充電かなにかで爆発の恐れがあるとかで、ネットでは兵器だとか手榴弾とか小型爆弾とか揶揄されていた。
「あのー失礼ですけど、もし違ったらごめんなさい。ひょっとしてこのあいだの雑誌に出てた雄英の方ですか?」
声を掛けられた方に顔をやると、一人の青年がいた。歳は二十歳ほど。ポロシャツにジーンズというありふれた格好で、期待に満ちた瞳で覗き込んでいる。
疑問形で尋ねた割には、やけに自信に満ちた口調だった。
前のあとがきで書いたように、五話でエンデヴァー家は円満っぽいので荼毘くんは元気にお兄ちゃんやってると思います。