【完結】男女比率がおかしい貞操観念逆転アカデミアだけど強く生きよう 作:hige2902
大事に使いますね。
「え、あーはい。そうです」
突然の事に、彼は気恥ずかしくなって目を泳がせる。
「あーやっぱり! 体育祭で見た時からファンなんだ!」
そう言って、パッと表情を輝かせた。
応援してもらえるのは嬉しいのだが正直言って、まだヒーローを目指す身としては過分な反応に遠慮してしまう。
「すごいなあ、本物だ。あの、なにかご馳走させてもらえない?」
「いやそれはちょっと……連れを待ってるんで」
青年がちらと荷物に目をやって言った。
「ひょっとして林間合宿? もうそんな季節かあ、懐かしいな」
「なんでそれを、あっ、ひょっとして……」
「うん。ぼくも雄英生、って言っても授業についていけなくてヒーローは断念したんだけどね。今はフツーの社会人やってる。情けないでしょ」
落とした影を払うように、青年は苦笑する。
そんな先輩になんと声を掛けたらいいかわからずに、彼は口をまごつかせた。
「それは、でも、一つの選択というか。あっ、隣どうぞ」
彼がいそいそと荷物を移動させると、「ありがとね」と青年が座った。
「体育祭で見た時から、ずっときみと話したかったんだ」
「なにを、ですか?」
「ぼくが挫折した理由。ま、すぐ済む負け犬の話だから」
青年は、まるで遥か昔の故人を懐かしむように語った。
「当時、憧れの雄英になんとか入学したはいいけど周りは凄い個性使いばっかりでさ。けどぼくはいわゆる弱個性で、こんなので免許取ってヒーローになっても足を引っ張るだけだ、誰も助けられないって思ったら、頑張れなくなった」
一拍置き、重々しく続ける。
「だから体育祭で、個性らしい個性を使わなかったきみを見て心配だった。ひょっとしたらこの子もぼくと同じく弱個性で、挫折しちゃうんじゃないかって……杞憂だったけどね、マスキュラーを倒しちゃうんだもん。すごいよ、ほんと」
「あれは……運が良かっただけです」
「それでもすごい。ぼくも諦めなかったら、きみみたいになれたのかなって後悔するくらいには」
沈痛な面持ちで、青年は拳を握りしめて尋ねた。
「どうやって倒したの? やっぱり機転を利かせたとか。それとも、隠してるだけでほんとは強個性だったりする? 三年生がほとんどやったとか? できれば教えてほしい、この歳で夢なんて見ずに済むから」
その切実な問いは、喉まで出かかった答えを飲み込むのを戸惑わせた。理性が定型文を吐き出す。
「すみません、事件の詳細は差し控えるように警察に言われているので」
「そっか、わかった。付き合ってくれてありがとう。変なこと聞いてゴメンね。これからも陰ながら応援しているよ」
それだけ言うと、青年は席を立った。去り際に、ふと思い出したように振り返る。
「
それはまだ、彼にもわからない質問だった。個性の壁に阻まれ、いつか取りこぼしてしまう命があるかもしれない。
「そう、思います」
確信ではなく、何かあればすぐ崩れてしまいそうな願望を口にした。
「そう。じゃあ頑張ってね。勝手な話だけど、ぼくの分まで」
それだけ言うと、青年は去った。ちょうど入れ替わりになるように二人が戻ってくる。
拳藤が人混みに紛れた青年の背に視線をやった。
「どしたのあの人。あ、ひょっとしてファンってやつ?」
「って言ってた。雄英のOBなんだって」
「へえーそうなんだ。てかもうファンとかいるのか~。わたしらも声かけられはするけど、テレビで映った人程度だからなー」
「嬉しいけど学生の身だし、分不相応な感じがするんだよね」
謙遜でその話は終わったが、青年の投げかけた最後の質問は彼の心をささくれだたせたままだった。
弱個性でも、誰かを助けられると思う?
もしかしたら、じぶんが弱いせいで誰かを傷つけてしまうのではなか、という不安が色濃く影を落とした。
そうしてあの青年と同じように頑張れなくなって、諦めてしまうのだろうか。
どしたの? と柳が顔を覗き込んで心配そうにする。
「さっきの人になんか言われた?」
「いや、なんでもない」
と、彼は湿った疑念を振り払う。楽しみにしていた打ち上げの日に考えても栓の無い話だ。
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打ち上げはショッピングモールから少し離れたレンタルスペースで行われた。
十数人が楽に入れるほど広々としており大型のテレビや台所などもあるが、一時間あたり三千円もいかないので割り勘すれば格安だった。
食べ物はスーパーで適当に買ってきたスナック菓子やカットした果物、冷食をチンして紙皿に盛っただけだが、学生にはこれが結構嬉しい。
「蛙吹さん手際いいね」
「いつも弟妹の世話してるから」
へーと感心しながら手伝っていると、あっという間に準備が整う。
アテはもちろん演習試験の映像だった。
戦闘訓練と同じく復習目的で配布されたものだが、真剣勝負の対個性戦はヘタなアクション映画より迫力があって面白い。体育祭が一大イベントになるのも頷ける。しかも本人のコメント付きで見られるのだから盛り上がらないはずがない。
「マジでミルコ先生容赦なくってさー、もーでっかいたんこぶ出来てびっくりしたよ。『酸』は全然当たらないし」
「芦戸がやられたから個性で身体バラバラにして逃げようと思ったら、一瞬で全部に蹴り入れてくるんだもん。三十分割した身体のパーツ全部にだよ? まいるよホント。でっかいたんこぶ出来るしさー」
「角を飛ばす暇も無くでっかいたんこぶ出来ましたー」
ぼこぼこにされたのも今となっては笑い話だ。
拳藤のグループで一瞬むらっと変な空気になったが、それも無理やり笑い飛ばす。
「この時は必死に起きてようとしたんだけど、それが夢の中なのかどうかもわかんなかったよ」
「あのうらめしい鞭、現役の時のアイテムらしいよ。ヤバい時にしか使わなかったみたいだから知られてないみたいだけど」
「初見殺しだよね。近づけばなんとかなると思ったけど、無茶苦茶っつーか。結局どうすればよかったんだろ」
あーだこーだと炭酸ジュース片手に議論は弾み、『ポルターガイスト』を付与した状態の彼を『大拳』で脱出ゲートまでぶん投げ、着地は柳がコントロールするというのが回答だろうという事に落ち着いた。
一通り見終わり、ショッピングモールで何を買ったか軽く見せ合った後、夕方前には帰る準備に取り掛かる。
その最中に、ぽつりと彼がこぼすように言った。
「今日さ、実はかなり楽しみにしてたんだよね」
そうなんだ、と拳藤がなんとなしに答える。
「そういえば今日行ったショッピングモール、来た事ないって言ってたね」
「まあそれもあるんだけど」
彼は雄英に来てからまだ一度も、休日に友達と遊んだことがなかった。
芦戸、取蔭、耳郎が学校帰りに寄り道したり、週末に映画やショッピングを楽しんでいるのはなんとなく耳にしている。その他にも、クラスメートどうしでちょくちょく出かけているらしい。
それを羨ましいと思うのも仕方がない。
だから今日を切っ掛けに、もう一歩仲良くなれたらな、と勇気を出した。
恥じらいを誤魔化すように、背を向けて食べ終えた紙皿を片付けながら言った。
「ほら、あんまりその……1-Aの、と、友達と出かける事って無かったから」
それを聞いて、女性陣は顔を見合わせる。
クラスのみんなは、決して彼を仲間はずれにしているわけではない。普通に仲良くしたい。
ただ純粋に、異性と休日に遊ぶ約束をするのはハードルが高すぎないか? そんなのもうほとんどデートの誘いに近い気がする。無理だ、出来るわけない。結局、同性でツルんでた方が気楽でいいと斜に構えて誤魔化すしかない。まあ、向こうから誘ってくれれば予定を空けるが?
そう、基本的に思春期の無駄に性欲があり余る多感なお年頃は草食系の受け身なのだ。こればっかりはもうホントにしょうがない。
だがそれを理由に距離を置いていたのも事実だ。寂しい思いをさせてしまったかもしれない。
なんとなく、男女の友情の捉え方は難しい。
もしもあと一人でも1-Aに男性がいれば話は別だっただろうが、彼の友達になれるのは現状ではじぶんたちしかいないのだと改めて気づく。
そしてせっかく向こうから歩み寄ってくれたのだから、こちらも勇気を出すべきだった。
「わたくしはその……あまり殿方と休日を過ごしたことが無かったので、エスコートできるか不安で誘えなかったのですが、改めるべきですわね」
と八百万が申し訳なさそうに頬に手を当て、塩崎と視線を合わせる。小さく頷かれたので勇気を出して続けた。
「こんど塩崎さんと日本風景画の特別展に行く予定なのですが、いかがです? 興味が無ければあまり面白くないかもしれませんが」
「え、行く行く。行ってみたい!」
「え、映画とか観に行くほう? 気になってたホラーがあるんだけど」
と、柳が探るように言った。
「ウェルズの透明人間の再々リブート版なんだけど。いや他に観たいのあったら」
「行きたい行きたい!」
「あーそれわたしも観ようと思ってた。『透明』の個性使いとしては見逃せないっていうかさ」
もちろん雄英ヒーロー科において余暇は限られているので、毎週遊ぶのは難しい。予習復習、身体づくり、個性の訓練に時間を取られるが、残った僅かな日常の青春を楽しむ権利はある。
こうしてまた一つ、クラスの団結は固まった。
「せっかくだから、みんなで写真撮る?」
小森の提案に、芦戸が「お、いいね~」と、スマホを取り出す。
「またなんかイベント事が終わったらさ、こーやって集まろうよ」
主催者ということで、彼を中心に適当に並ぶ。
『ポルターガイスト』でいい感じに浮いたスマホがセルフタイマーでシャッターを切るまでの短い間に、みんなちょいちょいと前髪や服装を直す。
彼の隣に並んでいた拳藤が、思い悩んだ末に決断を下した。
友達なんだから肩に手を置くくらい普通、だよね? フツーフツー。
パシャリと鳴り、ちょっと上からいい感じに撮った夏の思い出が記録された。
後日、合宿前に波動と会った時、打ち上げの写真を見せるとなんか燃えていた。
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雄英のOBを自称する青年が、どこにでもあるようなマンションの一室に入った。部屋には最低限の家電や家具のみで、生活感はまるで無い。
ベッドに座って胸元からペンダントのトップを取り出した。冷たい金属のフレームに囲われた小指の先ほどのカプセルの中に、生々しく赤い液体が最先端の技術によりいつまでもその鮮度を保っている。
それをカーテンの隙間から射す夕陽に照らすと、宝石のように美しく煌めいた。
うっとりした顔でその護符を愛でながら、無骨な携帯端末で連絡を取る。
「定時連絡です。目標組織に潜入成功、人相や異能も割れました。映像記録は後ほど然るべき手順で送ります。副目標と接触しましたが異能は判明しませんでした」
妙齢の女性の声がスピーカーから返ってくる。その声色に、青年は酔心した面持ちになる。
『素晴らしいわね。副目標の異能はうちの記者相手にも喋らなかったし、異能弱者である事は確かだろうから構わないわ……引き続き目標組織の確証監視および妨害工作、余力があれば自己の判断で副目標への誅罰を許可します。わたしの血は足りてる?』
「はい。大切に飲んでるので」
妙齢の女性は柔らかな声色で青年を称賛し、戦士としての名、解放コードを呼んだ。
『
通信はそれで終わった。
聖典と呼ばれた青年の服と体表がどろりと溶け落ちる。中から出てきたのは一糸まとわぬ一人の少女だ。
リュックの中から透明な袋に入った、
携帯端末にインストールされているアプリで無線通信するとデータが移行される。提出前に最終確認するが、問題なく映っていた。
少女が一息ついて冷蔵庫の扉を開くと、中には小さな香水瓶のようなものが数本あった。その内の一つの封を開け、ちう、と口をすぼめて吸うように飲み干す。
小さな舌に酩酊の味が広がる。
他人の血を飲む、という条件が満たされ『変身』が起動する。聖典の姿は、緩やかなウェーブを描く藤色の髪と青白い肌をした妙齢の女性になっていた。首元が大きく開いている、ボディラインのはっきりする黒のワンピースドレスを身に纏っていた。
聖典は姿鏡に映る姿に頬を上気させた。唯一の心の止まり木であり、血を吸わせてくれ、異能を抑圧され苦しむ人間を助ける為に活躍する、わたしの本物のヒーロー。
それは電話口の相手であり、集瑛社に籍を置く専務、気月 置歳であり、そして──
少女がまだ警察やヒーローから逃げ回っていた頃、
異能解放軍の本拠地の有る泥花市は、全国で最もヒーロー事務所の少ない地域だからだ。
行政と司法にも息が掛かっており動きは鈍い、というより解放軍の指示が優先されている。
ゆえに身寄りも後ろ盾もない孤独な渡我は出会う。
──そしてあの日、路地裏で生ごみにまみれた渡我に手を差し伸べ、他とは違うおかしさを受け入れた救済者。
固唾を飲み、ベッドに倒れ込んで細く柔らかな髪の香りを吸った。甘く、そそる匂いがする。
キュリオスさま、と甘えるようにその名を囁く。
そのまましなやかな指先で下腹部を撫でまわし、なぞる。やがて荒い息遣いと粘質な音が、暗く蒸し暑い部屋に溶けだした。
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