【完結】男女比率がおかしい貞操観念逆転アカデミアだけど強く生きよう 作:hige2902
いつもありがとうございます。
実験的にですが、
漢字や平仮名が連続して読みにくいけど「、」を挟むとテンポが悪くなるの文には半角スペースを入れて調整しています。
「いろいろ言いたいことはあるけど……まず!」
ビシッとミッドナイトがバラ鞭で彼を指す。
「そんな露出しちゃダメでしょ! しかも身体のラインが出すぎ! せめて下に短パンでいいから履け!」
場所を移した明るいモニタールームで、1-Aの面々に訓練内容を説明する前にミッドナイトが吠えた。
「すみません、企業に丸投げしてたらこんな事に。おれ自身も正直わけわかんなくて嫌なんですけど……オールマイトとかもぴっちりだからいけるかと」
「あの人は別よ。一昔前のヴィランが跋扈してた時代はアイテムの質が今ほど良くなかったから、どーしてもコスチュームが厚くなって動きにくいってのもあったし。それに言っちゃなんだけど、あの格好がシンボルになって市民権を得てるからね」
テレビアニメ、クレヨン・シンちゃんが、頻度は下がったがいまだに全国でケツだけ星人を出来るのも同じ理由だ。国民的なものだから許されるというフワッとした倫理が働いているのは、アニメも現実も変わらない。
「あんたの望んだ事じゃないならいいけどね。でも視線誘導は近接戦術戦闘を行う上で有効だということは覚えといて損はないから。まその辺は追々ね……そんで八百万!」
「はい!」
「論外!」
「なぜですかッ!?」
「え……そこで反論されるとは思わなかったわ」
「わたくしの個性は『創造』。体内から造り出した物質を、皮膚を通して生み出す関係上これがベストのコスチュームですわ!」
そう言って胸元から黒い短パンを造り出し、彼に手渡す。
礼を言っていそいそと履くが、女性の体の一部を身に着けるのはなんとなく背徳的だった。人肌程度に温かい。
「いやいやいや、だからってマズいでしょ……仮にヒーローとしての活動区域が海辺でもアウトよ。クレームばんばん来るから。経験談」
「乳首と性器が見えなければ法には触れないのでは?」
怪訝な顔でいまいち納得のいってない八百万を、芦戸たちは呆然と見つめる。なに言ってんだコイツ……
「お尻や太ももとか胸もそうだけど、過度な露出は場合によっては公衆に嫌悪感を与えるって理由で軽犯罪法違反になるから。ていうかよく企業はオッケーしたわね……ほんとにそれだけ? 他に着るもの入ってなかった?」
ミッドナイトは腕を組み半目で問いただす。
着替えて集合という課題を出した以上は、適切な場所でコスチュームを完全装備する事が要件に含まれる。時間が無いからと手袋などの装具を省いたのなら減点対象だ。
「上着が一枚ありましたが、あれは冬用ですので」
「だからか、たぶん企業は一年通してそれとセット運用すると思ってたわけね。一応聞くけど、まさか丈がメチャクチャ短いとか透けてるとかじゃないでしょうね」
腰に手を当てて得意げに答える。
「トレンチコートなので問題ありませんわ」
それじゃ春先に出てくるヤバい奴じゃねーか。なにが冬用だ。
その場にいる全員が喉元まで出かけた言葉は、八百万があまりにも自信満々だったので飲み下された。
そして薄々勘付きだす。更衣室で気の利いたことを言ってくれた勇者だと思ったが、まさか……
「あーもー、とりあえず下なんか履いて」
その言葉に渋々と従い、ホットパンツを造り出す。ローライズなので水着の腰回りの紐が見えていた。わたしはこんな悪趣味な水着をしていますと合法の範囲から主張しているようで、かえって変態度数が上がってしまった気がする。
そんな八百万が彼に向き直り、不安そうに尋ねた。
「あの……わたくし、ミッドナイト先生の言うように、嫌悪感を抱くような身体でしょうか?」
その言葉でモニタールームに凍てついた緊張が走る。
セクハラを火薬にした爆弾の生まれ変わりか? 普通の男性ならばここで怒るか軽蔑するか、とにかく良い方向には転がらない事は確かだ。
なぜ自分から進んで嫌われに行くのか。
同時に、まさか……と抱いていた懸念が確証に変わる。
たぶん八百万はただの天然だ。そこに男性にセクハラして楽しむといった悪意は存在しない、ある意味でもっとも純真な精神の持ち主だ。
喋り方といい立ち振る舞いといい、細やかな仕草がどこか浮世離れした感があったし、たぶん箱入り娘のお嬢様なのだろう。
雄英に受かるくらいなのだから性交の知識くらいはあるのだろうが、それは生理現象や子孫を残すためのものであって、付随する快楽方面はきっとからっきしなのだ。
「い、いや。あれは一般論みたいなところがあるから。おれとしては別に嫌悪感なんてそんな」
それどころか劣情を催す肉体だった。脳裏にベストしーニストを思い描かねば、勃ってて立ってられない。
彼の優しさに救われたな、と芦戸は八百万の肩に手を回し、少し離れた場所まで移動して囁いた。こいつには一から教えてやる必要がある。危なっかしくて見ていられない。
何より場が気まずくなる。まるで家族の団らんの時間中に、芸人が処女であることをからかうシーンが流れた時のような。下手をすればそれ以上だ。
「あのねえ八百万……」
「……はあ」
「……くらいする時あるでしょ? ……」
「オナニーって何です?」
「バッ! ……カ、声が大きい」
彼は背後から聞こえる色香の節々を考えないように虚空を見つめる。
そんな剥き出しの背中を、クラスメートたちは、これお金払わなくて見てもいいやつなのだろうかと思いながらぼーっと眺めていた。
†††
紆余曲折あったが、ようやく訓練が開始された。
二人一組でヒーロー側とヴィラン側に分かれて、制限時間内にビル内の核の奪取かその阻止を競う内容である。初の実戦形式という事もあって緊張感が漂う。
ミッドナイトがクジを引いて一回戦目の組み合わせが決まった。
ヒーロー側は蛙吹と拳藤、ヴィラン側は彼と八百万。
「それじゃーヴィラン側は先行してビルで迎撃準備ね」
よろしくお願いしますね。と八百万は微笑んで彼と握手し、打ち合わせをしながらモニタールームを出た。
「ところであなたの個性はどのようなものでしょうか?」
「うーん、正直あんまり役に立てそうにない」
「でしたらわたくしが前衛を……」
なんだかえらい格好のチームが出来上がってしまったが、モニタールームの面々はもう何も言わなかった。
五分後、ヒーロー側はビルの外でインカムから訓練開始の合図を受け取る。
よっし! と拳藤が手のひらと拳を打ち合わせて気合を入れる。脚の可動域を考慮した、丈の短いチャイナドレスの裾が風に揺れた。灰色の街に深いエメラルドグリーン色のコスチュームが映えている。もちろん下はスパッツを履いているのでヒーロー倫理的にもセーフ。
「どうする? ヴィラン側の戦闘力は低そうだけど、正面突破?」
「少し待ってね」
蛙吹は集中して耳を澄ます。風の静寂に紛れて、確かな人の音を拾う。
「三階と二階に一人ずついるわ。わたしなら壁を伝って三階から侵入できるから、拳藤ちゃんは下から攻めるというのはどうかしら」
「え、『カエル』の個性でそこまでわかるの?」
ケロッ、と蛙吹は頷いた。
キハンシヒキガエルという両生類がいる。
このカエルの珍しい点はまず生息地にあった。タンザニア奥地の熱帯雨林、そこにある巨大な滝壺周辺を住みかとしている。
滝の高さは相当なものであり、膨大な落下水量が轟かす音は隣にいる人間にも大声で話さなければいけないほどだ。また、舞い上がる水しぶきは濃霧のように視界を遮る。
食物連鎖ヒエラルキーの中間点に位置する生物が外敵から身を守るには格好の場であるが、生存するには一つ問題があった。
果たしてそのような環境下で、このカエルはどうやって同族を見つけ、繁殖しているのか?
それは並外れた聴力にあった。落雷のような轟音の中でも仲間の鳴き声を聞き分けられるという珍しい特性により、外敵の少ない環境下で種を保存し続けていたのだ。
その稀有な特徴を持つカエルを、蛙吹の個性は模倣した。ほんの些細な衣擦れや床を踏みしめる音を頼りに位置を把握する。
個性とは生まれ持った時から不変のものではない。自分の個性を理解し、向き合い、鍛えれば深度が増す。
「じゃあその案で行こう。梅雨ちゃんが三階で奇襲に成功したら、そのまま核を探すか降りてきて挟み撃ちにするか考える。二階のヴィランが八百万だったら、わたしなら近接戦に持ち込めばなんとかなると思うし」
作戦が決まり、蛙吹は外壁を這って窓を割って忍び込み、ひたひたと天井を這う。コスチュームの手足にはアマガエルのような吸盤がついていた。
再び集中して耳を澄ます。曲がり角の先に一人いる。有効射程距離内。相方に合図を送り、まずは目標の無力化を実行する。
異形型の個性持ちの中でも、特に動物系は極めれば無類の強さを誇る。人体構造が異なり、人間でないが故に人間の常識外からの攻撃が可能だからだ。
角に姿を隠したまま、聴覚による情報だけを頼りに凄まじい速度で赤い舌を伸ばす。
まず蛙吹が行ったのは情報の分断である。どのような個性攻撃を受けたか、現在の安否、応援の必要性を喋らせないことに重きを置いていた。
お手本のような対個性戦が映し出されたモニタールームでは、そのあざやかな手段に動揺する。一歩先を行かれた気分だった。
「蛙吹、あいつ……」
芦戸は悔しそうに拳を握りしめる。
「やりやがった……」
わたしは普通のキスもまだなのに。
モニターの中では、しなやかで弾力性のある舌が猿ぐつわのように彼の口を封じている。とうぜん二人の舌は否応なく触れ合っており実質ディープキスだった。蛙吹の舌はそのまま視覚を遮断し、身体に巻き付いて自由を奪う。
あっ! これ凌辱ヒーローもののAVで観た事あるやつだ!
「あーわたしこれ知ってマース」
と二本の大きな角を生やした角取 ポニーが言った。
「丸飲みですねー。ジャパニーズHENTAIカートゥーンで観た事ありマース」
エロアニメをそんな風に言うやつは初めて見た。
「ミッドナイト先生これいいんですか!? このままじゃ戦闘訓練じゃなくて、いかがわしい撮影会になるんじゃ」
取蔭が羨まけしからん状況に可否を問う。
「まあ、舌による攻撃は合理的だし他意はなさそうだから……」
マジかよ。芦戸は額の汗をぬぐい、モニターを食い入るように見やった。こんなの……こんなのエッチすぎる。
そんな彼女たちの好奇の視線など知りようのない彼は苦しんでいた。別に頸動脈を絞められているわけでも呼吸を止められているわけでもなかった。
ただ、素肌やインナー越しに伝わる熱い舌と締め付け、トロリとした甘い芳香の唾液が身をよじるたびに淫靡な音を立てる。それがマズい。
「拳藤ちゃん、こっちは無力化したわ。そっちはどう?」
蛙吹は確保テープを取り出す。それを首元にでも巻けばヴィラン役は退場だ。しかし彼はそれとは別の危機に瀕していた。心の中で、現在係争中のパチモンヒーローであるベストしーニストを思い描く。
頑張れ! 女の子の舌の中というアウェイだけど、性欲ヴィランに負けるな! 負け……
その時蛙吹に電流走る。
もちろん彼女の行動には一点の曇りも無く、たとえ同性でも同じように対処した事は間違いない。
だが無力化したという事実からどこか油断していたのかもしれない。あるいは、舌から伝わる熱く固い感触に、戦闘モードに入っていた脳内が混濁する。
あれ? これって噂に聞く男性特有の……いやだとしたら彼はわたしの舌に拘束されて興奮したという事……まさかそんなはずは……でもだとしたら実質オーラル……
蛙吹の拘束が一瞬緩む。その隙を突き、彼はずろぉりと脚から抜け出した。後には中身を失った筒状の舌がほこほこと湯気を立て、唾液が滴る。
なんの暗喩だよ!? やっぱAVじゃん!
「蛙吹もう一回! 頑張れ! やれー!」
女性だけになったモニタールームから下品なヤジが飛ぶ。
彼はドロドロの身体で、姿勢を低くして蛙吹と対峙する。危なかった。もう少しで確保テープを巻かれたし、別の方も本当に危なかった。
しかし依然として不利であることに変わりはない。なぜ蛙吹の舌が緩んだのかはこの際考えないでおくことにして、勝つ事だけを考える。
まずはインカムで相方に状況を説明した。
「ごめん、八百万さん。正直勝てそうにない。時間稼ぎくらいしかできない」
『わかりましたわ。ちょうどそちらに向かっているところですので、安心してください』
「え?」
その言葉の意味するところは、近接戦に長けた拳藤を破ったという事に他ならない。
同時に蛙吹にも通信が入る。
『悪い、確保テープ巻かれた。油断するな、八百万はあんなふざけた格好だけど──』
階段口から八百万が飛び出す。一直線の廊下で、彼を挟んで蛙吹を目視した。スピードを一切落とすことなく駆け寄る。
蛙吹は舌を飛ばして迎撃する。が、寸でのところで踏みとどまった。
八百万は知っていたのだ。カエルが舌を伸ばす速さは秒間4000メートルもあり、まばたきする暇もない。個性の鍛錬による上乗せが加われば、まず見てからでは対応は出来ない。
「ケロッ!?」
故に身体の要所から両刃のカミソリを造り出しながら接近していた。この状況で舌を巻きつければどうなるかは想像に容易い。硬質で鋭い金属音を立てて床を打つそれらは、もちろん脅しなので刃は無かった。
蛙吹は後方に跳躍し、天井に張り付く。ひとまず距離を置き、リーチ外へ逃れた。そのつもりだったが、八百万は足裏からブーツを貫通する円錐状のスパイクを造り出し、左右の壁を蹴り上がって蛙吹に組み付く。
ホールド時の衝撃と八百万の体重が加わり、二人は床に落下する。蛙吹が眼を開けた時、すでに八百万がマウントをとっていた。
「降参ね、負けたわ」
†††
四人がモニタールームに戻ると、妙な熱気の残滓というか祭りの後のような寂しさが漂っていた。
「梅雨ちゃん、あんたはほんとによくやったよ」
取蔭が背中を叩いて健闘を称える。だいたいみんな同じ気持ちだ。
「でも拳藤は……何があったの? 八百万の個性って戦闘向きじゃないと思うんけど」
いやー、と拳藤は気落ちして頬をかく。
「完敗だったよ……ていうか、え? 見てなかったの?」
ほぼ全員が目を逸らした。拳藤が戦っている間に、いろいろとすごい事が起こっていてそっちに夢中だったのだ。
「じゃあその辺も含めて詳しく講評といきましょうか」
ミッドナイトがリモコンを操作すると、拳藤と八百万の戦闘シーンが再生される。
初動を制したのは拳藤だった。『大拳』の個性で巨大化した指の力で地面を掻き、獣が這うような低さで八百万の背後に回って襲い掛かる。
対応して八百万は、背中から瞬時に数本の鉄棒を造り出して迎撃する。ハリネズミのように生やされたそれは、もし円錐型ならカウンターで拳藤を刺していただろう。
「なにっ!?」
『創造』は近接戦向きではないという先入観もあり、予想外の対処法に拳藤は攻撃の手が止まる。八百万は振り返ると同時に身体から切り離された鉄棒の内一本を掴み、苛烈に打ちかかった。
文武両道を地で行くお嬢様である彼女は、とうぜん薙刀やそれに類する棒術も嗜んでいる。的確に手首や肘を狙い、反撃を許さない。
「ジェダイの騎士かっての!」
数合の間に拳藤が鉄棒を掴む。が、八百万は得物から簡単に手を放して一歩踏み込む。身体を入れ、腹部めがけて膝蹴りを放った。
本来であれば、拳藤のバックステップで回避できた攻撃だった。しかし膝から造り出された鉄棒が伸びて鳩尾に入る。鋭い痛みに加えて横隔膜の動きが鈍り、呼吸が阻害された。脳への酸素供給が滞り、思考は消え去って苦悶以外を感じない。
膝から切り離された鉄棒がガランと音を立てて落ちた。
拳藤は吐き気を堪えながら口元から涎を垂らし、腹を抱えて膝をつく。八百万はそうして差し出された首へ、不感無覚に確保テープ巻いた。
ふむふむとミッドナイトが顎に手をやる。
「推薦一位の面目躍如ってところね」
「まいったよ、八百万」
拳藤は握手を求めながら言った。
「正直、格闘戦には自信があったんだけど。またリベンジさせてよ」
「もちろん受けて立ちますわ」
差し出された手を握る。
「わたくしも拳藤さんの格闘術には興味がありますもの」
にこやかに言うが、今の一戦で八百万が雄英でも上位の使い手であることは間違いなさそうだった。掌底と同時に手から鉄棒を造り出された場合、果たして避けられるのだろうか。
初見ではまず難しい。一瞬にして物質を生やすように『創造』することであらゆる格闘打撃のリーチが伸び、ハリネズミのようなカウンター兼 瞬間的防御も可能なのは理不尽すぎる。
それに加えて前述の戦闘方法は、『創造』のもたらす数多くの手札の内の一枚にしか過ぎないのも底が知れない。
ただ格好が変質者のそれなので、いまいち強さの実感がわかない。印象としては変態のクセに妙に強い止まりだった。
青春ねえ、とミッドナイトが眩しそうに目を細めた。
「じゃあ次、蛙吹はなんで拘束を緩めたの? あそこは逃がしちゃだめでしょ」
言われて蛙吹は彼の方をチラと盗み見る。顔を青くしていた。
思い出したようにどっと嫌な汗をかく。飲み込まれるように舌で拘束されて勃ったとバレた日には、クラスメートはきっと幻滅し軽蔑するだろう。孤独な学生生活を送ること間違いない。
そんな彼の危惧とは裏腹に、蛙吹は尊敬の念のようなものを抱いていた。
まず常識から考えて、女性の舌でがっちり巻かれて男性が興奮するはずがない。ということは、アレは意図的に引き起こされた生理現象だ。つまり訓練開始前にミッドナイト先生が言っていた、視線誘導は近接戦術戦闘を行う上で有効という教えの応用を即興でやってのけたという事に他ならない。そしてそれにまんまと乗せられたのだ。
個性戦では圧倒できたが、それに頼らない実戦面では負けた気がしていた。
ただ、その称賛の気持ちを公衆の面前で明らかにするのは躊躇われた。
「……それは、拳藤ちゃんが負けた事に動揺したからね」
「ぐっ、すまない梅雨ちゃん。面目ない」
「なるほどね。結構ずぶとい性格してそうだから意外だけど、現場じゃ想定外の状況に変わることはザラだから、場数踏んでその辺のメンタルを鍛えなきゃね」
彼はほっと胸をなでおろす。よかった、バレてないみたいだ。安心したが、いいとこ無しだったことを思いだす。
「おれは、特に何もできなくて実質八百万さんにおんぶに抱っこでしたね」
いや撮れ高すごかったから。ありがとう。
口惜しそうにする彼の肩を、取蔭は勇気を出して軽く叩く。
「ま、まあ蛙吹の死角からの攻撃を防ぐのは無理だありゃ」
「そおーそぉー。個性戦って相性がモノを言うらしいし」
ヘタクソな相槌で耳郎が拾う。芦戸が続けて言った。
「そんな落ち込むなって、次があるし」
この距離感を探る感じ、青春だわー。とミッドナイトが懐かしみを覚える。
「そうね。これから山ほどの挫折や苦悩を雄英は提供するんだから、これくらいで気落ちしてちゃ身が持たないわよ! 時間も押してるから、さっさと第二回戦を始めましょうか!」
この戦闘訓練には二つの目的があった。一つはもちろん個性を用いた実戦形質の訓練だが、新入生のコミュニケーションを活性化させたいという背景がある。
実際に個性と身体を使って共通の目的に向かわせることでクラスメート全体の理解を深め、今後の学校生活での成長を促すというものだ。
モニターの中では次々と個性による理不尽の押し付け合いが繰り広げられている。
小大の『サイズ』で小さくなった核を探しまわる芦戸が頭を抱えた。
「だあぁー見つからない!」
頭髪の『ツル』が特徴的な物憂げな表情の塩崎 茨が、ワンフロアをツルで物理的に満たして侵入を拒み、麗日と角取が呆然として匙を投げる。
「これはウチらの個性じゃどうにもならんわー」
そんなこんなで、十四人の戦闘訓練が終わる。最後は余った二人のサシでの勝負だった。
ほどよい疲労感と流れた汗、学友の個性と性格に触れられた事もあって不思議な充足感に満たされた。
よかった。最初はいかがわしい撮影会になるかとヒヤヒヤしたが、やはり雄英だ、終わってみればしっかりとした戦闘訓練だった。
「みんな自分の個性の長所や短所も理解できたわね。今回勝った者も負けた者も、プルスウルトラの精神で研鑽に励むこと。以上!」
いやー疲れた疲れた。という雰囲気の中、小大が「ん」と柳に耳打ちする。柳は思わず、澄ました顔の彼女を見返した。天才過ぎる。
「あのっ、先生!」
柳が手を挙げて、モニタールームから出ようとするミッドナイトに声を投げかけた。
「どしたの、何か質問?」
「その~、今まで大がかりな個性の実戦訓練なんてやるのも見るのも初めてだったので、みんなの個性の使い方がすごく参考になるというか、後で見直したいというか、自習?」
「あーそういうこと。じゃあ今回の映像ファイルは各自の端末に送っとくから」
実のところ、彼の戦闘シーンが一回しか見れないのは惜しい気もするなーと考えていたのは結構居た。だがそこだけもう一回というのはいかにもスケベすぎるので言い出せない。そこでいっそ全員分のデータを鍛錬目的で要求した小大の機転はしたたかだった。
その夜。もちろん多くのクラスメートは映像ファイルを自習目的で再生した。後から自分の動きを見返すのは成長に有効な方法で、ヒーローのみならずスポーツ選手や俳優もよくやる。
そこで甘かったムーブ、取れたはずの選択肢を反省して次につなげることが出来るからだ。
映像は定点カメラのみだったが、意外と様々なアングルを切り替えられて非常に参考になった。
そして最後に第一回戦のファイルが残った。ティッシュ箱を手繰り寄せる。他意は無い。
一段落付くと、なんともいえない倦怠感の中で、なぜヴィランは発生するのか、ヒーローとは、平和とはなんなのかをぼーっと考え、一つの結論に至った。
やっぱり戦闘訓練じゃなくていかがわしい撮影会だった気がする。
†††
世の女性にとってブラというものはすこぶる邪魔で鬱陶しいものでしかない。ノーブラだと乳首が目立ち、男性が不快感を覚えるのでマナーとして仕方なくつけている。
しかしヒーローコスチュームを着用する場合はブラを付けなくても問題なかった。薄い生地でありながらもきちんとその問題に対処しているのだ。
ただ、そのぶんやたらと揺れる。個性で殴りあっても頑丈な肉体なのでクーパー靭帯がどうとかいう心配がない分、誰も気にしていないが彼は別だった。
カメラの性能のおかげか地上波レベルの高画質なので、それはやむを得ずだった。
彼を責めるのは酷だ。男性向けの成人コンテンツの供給が少ない以上、なぜか存在するローアングルカメラから見上げた八百万にときめきのようなものを感じるのも致し方なしなのだ。
特有の虚脱感を覚えながら、同級生に対する罪の意識と自分のおかしい価値観に辟易する。アンニュイな気分のままネットで動画を探した。今回の反省点を改善する必要がある。
ベストしーニストでは性欲という名のヴィランに打ち勝てなかった。一人でダメなら、チームアップで対抗するしかない。
「ヌけ忍! エッチショット」「ウルシ鎖牢でいざ早漏」といったサムネイルをクリックし、次々にカートに入れる。無料サンプルだけでもショックを受けるがまだ足りない。あの1-Aで学校生活を送るにはまだ。
丸々とした恰幅の良い大阪の顔のBMIヒーロー、ファットガムのパロAVである「Fuck Come」までは耐えられたが、ドラム式洗濯機に手足の生えた洗濯ヒーロー、ウォッシュの「コインランドリーに堕ちた洗濯機」を見た時は気が狂いそうになった。複数の女性にワンコインであれやこれやされる洗濯機を鑑賞する時間とは一体何なのか。
だが厳しい選考の末、ようやくパチモンAVヒーローたちが彼の心に集まった。
来るなら来い、最強の
その夜、勢ぞろいしたアベンジャーズが夢に出てきて酷くうなされた。