霧隠れの狂人   作:殻栗イガ

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4月後半とGWを利用して最終話近くまで執筆出来ました…が、流石にもう少し掛かりそうなのと見直すと内容盛りたくなったところがあったりしたのでひとまず1話だけ更新

当分先になりますが次回更新から最終話まで1話ずつ毎日更新で投稿しようと考えているので、次回更新をお待ちしつつ最終話までお付き合い頂けましたら幸いです。


終の刀

「無限月読から抜け出す手段を得たんだろう、何で戻ってきた!?」

「いや…その、ちょっと刀をもう1本造りたくなったというか…そもそも"妖刀・村雨"が試作品段階なのでやっぱり正式版を造りたいというか…」

 

偽雨との戦いを終えて帰宅した結果激怒したオビトさんに詰められて正座する。

折角無限月読から抜け出す手段が見つかったというのにこの世界に留まろうとしているのだからオビトさんに叱られるのは当然…本来ならばしっかりとその言葉を受け止め反省するのが道理なのだが今は一刻も早く目的を果たしたい。

 

──なので、この場は申し訳ないが話を切り上げさせてもらうとしよう。

 

「オビトさん、お怒りは尤もです…その上で大変失礼なのですが──」

「何だ?」

「もう一度神樹を取ってきて貰えませんか? 前より少し多めに」

「いいよー」

 

突如オビトさんが怒りを鎮め優しい笑顔を浮かべて時空間移動で姿を消した。

 

「……やっぱりこの世界良くないですよね」

「全力で享受していながら言うことではないがな!」

 

あまりの万能感に囚われない為の自制の言葉を神樹を片手に修羅の如き様相で戻ってきたオビトさんに怒りの肯定されて思わず目を逸らす。

 

しかし、今からはもっと無限月読に頼るのだ…今更臆してはいられない──そう自制心を捨て、次はマダラさんと向き合う。

 

「マダラさん、今から私達は試作品だった"妖刀・村雨"の正式版を造ります…なので求道玉を全部ください」

「冗談が過ぎる…というべきなのだが、そういったところでオビトの二の舞か」

 

断ろうにもこの世界ではそれが出来ないのは先程のオビトさんが示した通りだ。

呆れたようにため息を吐いた後マダラさんは背に纏う求道玉を作業台の上に浮かべた。

 

これで素材は集まった──ならば早速始めようとここまで一言も発する事なく立っている偽雨へ視線を向ける。

彼女は私達のやり取りに一度も意識を向けずただ静かに、祈る様に目を閉じていた。

 

彼女の記憶に刻まれながらも彼女自身は一度も経験した事のない本気の刀造り──それに対する緊張と恐れ…そして何より溢れる昂揚感を必死に抑えている様だった。

 

己の全てを引き出す為の精神統一…その儀式を邪魔しないように離れ今の内に前準備を始める。

 

オビトさんから受け取った神樹を手頃な大きさに斬り、普段使っている薪と入れ換える。

…実際にこれが何かしらの効果があるのかは分からないがこの世界なら良いかもと思えるものはなんだってすれば良い。

神樹の薪を入れた後はそれを燃やす炎もマダラさん、オビトさんに火遁で着火してもらい準備は完了。

 

現実ならば大切な作業台がとんでもない事になっていたかもと目の前の光景に苦笑していると不意に偽雨の声がする。

 

「お待たせ、もう大丈夫」

「うん、それじゃあ…始めよう」

 

迷いの無い、強い意思を秘めた彼女の目を見て頷くと今回の刀造りのベースとなる"妖刀・村雨"を作業台の上に置く。

 

「マダラさん、お願いします」

 

静観しているマダラさんに呼び掛けると返事はないが宙に浮かぶ求道玉が吸い込まれる様に次々に"妖刀・村雨"の刀身と混じり合っていく。

最後の1つ…9つ目の求道玉が刀身に吸い込まれたのを見計らい、掲げた鎚を振り下ろす。

今まで幾度と聞いた激しい音が響き渡るとと同時に振り下ろした鎚がそれを握る両腕諸共消滅し、一瞬遅れて激しい痛みに襲われる。

 

「お、おい、無事か!?」

「…ぅ、ぅぅ…だ、大丈夫です」

 

これが現実世界だったならば刀匠の命たる腕が消滅した事に動転も、絶望もしただろうがこの世界に限っては偽雨との戦いで身体の欠損など既に慣れたものだった。

 

オビトさんに無事と訴え無限月読の力で消滅した両腕と鎚を再構築する──その最中に先程私が鳴らした音と全く同じ金属の衝撃音が鳴る。

 

偽雨の両腕と彼女が握る鎚もまた"妖刀・村雨"との衝突によって掻き消されていた。

だが、それで良い…私の両腕は既に再生し手にした鎚を大きく振り上げているのだから。

 

再び"妖刀・村雨"へと鎚を振り下ろし消滅した両腕を入れ替りで偽雨が鎚を振っている間に再生させる。

 

両腕の消滅に痛みこそ伴うがこれならば問題ない。

1人ならば消滅と再生のサイクルに少しの遅れがあったかもしれないが2人ならばそれがない。

 

後は"妖刀・村雨"を造った時と同じ、この鎚の一振一振にこの刀が"最強である"という揺るぎない確信を込めてその刀身の内側へ深く深く打ち込み、"最強のまま"で固定する。

そうすれば刀身に混じった求道玉の数が増え六道の力を更に得たこの刀ならばそれだけで"妖刀・村雨"を遥かに越える刀となるだろう。

 

…だが、それだけでは足りない。

強いまま固定するのではない、強くなり続ける。

完成という到達点をも超越する刀…それがこの刀の完成形だ。

 

そんな荒唐無稽な刀を今なら造れるのだと私は偽雨との戦いで確信した。

 

彼女とぬのぼこの剣をぶつけ合った時に感じた激情…彼女の想いの強さが私と全く同等である事実への強い拒否感。

如何に偽雨が私の同一体だとしても私の想いの方が強くないはずがないという憤り。

 

実に身勝手な感情だ、しかしそれは私だけではなく偽雨も私に対して同様の想いを抱いている。

ならば"ぬのぼこの剣"の特性に対してこれ程都合の良い素材はないだろう。

 

"ぬのぼこの剣"を基にした螺旋構造…絡み合うその刀身の片方に私の、もう片方に偽雨の想いを宿らせることで2つの刃は互いに片割れよりも強くなろうとし続ける。

 

そこに限界はなく"最強として造られた刀"ではなく"最強であり続けようとする刀"、それこそが私と偽雨、二人だから造ることの出来る究極至高の作品だ。

 

そして、それを実現する為ならば何度腕が消し飛び絶叫する程の痛みに苛まれようとも決して手を止める事はない。

 

想いを込めて刀を造る。

そんな心構えの様な言葉が本当にこの刀に力となるのならば刀への愛情も憧憬も、そして共に造るライバルへの対抗心も…私の心の内の何もかもを全て捧げよう。

 

やがて燃え盛る炎の熱も、耳に響く鎚の音も、一振する度に襲う痛みも全てが意識の内から無くなる。

 

極限の集中力で無心となるのとも違う。

刀造りに傾倒して以降ずっと1人で造り続けていたからこそ初めて抱く感覚、共に造る者に負けたくないという強い想いが心の内を埋め尽くしていた。

 

 

 

それを自覚してからどれ程の時間が経ったのか。

刀への想いと偽雨への想い、それを全てを刻み込むには途方もない時間を有したと思うが、その長い時間の果てに直感的にピタリと動作を止めて偽雨と同時に鎚を作業台に置いて息を吐く。

 

「出来た……出来た」

 

噛み締める様に繰り返す偽雨を眺め、もう一度息を吐く。

己の想いを全て捧げた結果なのだろうか、それとも自分以外の存在がそこにいたからなのだろうか…清々しい達成感よりも深い倦怠感が重く圧し掛かる。

 

それでも何とか気力を振り絞り大きく背中を伸ばした後にずっと、自分達の想いを刻み続けた刀を見つめる。

"ぬのぼこの剣"の形状を模して神樹で造った木刀はその素材に反して銀色の──鋼の刀身を輝かせていた。

 

「美しい」

 

これまで刀を造る度に何度も口にした月並みな感想、それでも気が付けばその言葉が口から出ていた。

 

万感の想いに浸りながら偽雨を見ると彼女は優しい手つきで刀の柄に触れていた…それは芸術品を恐る恐る触れるよりも親しい存在との別れを惜しむ様な、そんな寂しい所作だった。

 

いや…事実彼女がこの刀を見て、触れられるのはこの瞬間だけなのだ。この刀が完成した以上私がこの世界に留まる理由はもう何もないのだから。

 

「……偽雨、もう…いい?」

 

良いはずなどない。

そんなこと分かっているが、その一言がなければ愛する作品から手を放すことが出来ないのも私はよく分かる。

だから私は最後まで彼女に非情にそう告げるのだった。

 

少しだけ、躊躇う様に手を震わせて彼女は柄を握り──無言のまま私に差し出した。

 

「ありがとう」

 

生まれ変わる以前の"妖刀・村雨"よりも少しだけ重く感じるその刀を礼と共に受け取る。

 

これで、今度こそこの世界から抜け出せる。

この先手に入るこのないであろう理想の世界、偽雨の消滅、現実世界へ戻った時に待ち受ける本物のマダラさん…決心が揺らぎそうになるものは多くある。それでも──

 

「それでも…行くの?」

「うん」

「殺されるって分かってるのに?」

「この先に道がなくても、これまでの道に背きたくはないから」

 

勿論、水月やハレンチ博士に最後会えないのは少し悲しいが、それはここに留まり続けても私が望む彼らが再現されるだけなのだから同じこと──

 

「──あ!」

「なに? …どうかしたの?」

 

ふと、唐突にある可能性に思い至り声を上げ偽雨が首を傾げ…疑う様な視線を向けてくる──水月とかがよくする目だ。

 

「少し、この世界の外で試したいことが出来ただけ」

「そう、何をする気かは知らないけど…好きにすれば良い、これまでの道がそうだったんだから」

「うん、じゃあ偽雨…最後にこの子の名前、決めて?」

「え?」

 

偽雨は目を丸くして素っ頓狂な声を上げた。

 

「"妖刀・村雨"じゃないの?」

「…その名前はやっぱり自分1人の作品に使いたいから…それに自分の作品に名前を付けるまでが作品造りだから」

「…じゃあ"妖刀・偽雨"?」

「贋作みたい」

「私の名前がそうなんだから仕方ない」

「そうでなくても私の要素が無い」

 

偽雨のあまりのセンスに苦言を呈すると彼女は不満そうに腕を組んで2、3回唸った後渋々口を開く。

 

「"終刀・真月(ついとう・しんげつ)"」

「…うん、良い名前」

 

偽者として生まれた彼女にとって最初の最後の真作

私にとって彼女の死を忘れぬ追悼の作品であり、この先超える事が出来ないであろう終わりの作品

そして、世界を平和へと導く"紅い満月"を断ち斬る刀にこれ程ふさわしい名は無いだろう。

 

「それじゃあもう行くね、偽雨」

「…うん、夢でも現実でも、もう二度と私を造ったりしないでね」

 

彼女の言葉に大きく頷く。

劣化した分身としては勿論、1人の存在としての偽雨としても苦しめてしまった。

 

「私は村雨という1人の刀匠の分身として造られた存在、だから自分が偽物であるということに耐えられなくなる…貴女がどう望んでも"偽雨"として私が幸せになることはない」

 

そう、だからこの世界で彼女は最初"偽雨"としてではなく名前も姉か妹かも曖昧な誰かとして再現されたのだろう。

でも、そうなのだとしたら──

 

「偽雨、貴女は私のチャクラの一部を基に生まれた…だから、私が基でさえあれば今度は分身としてではなく1人の人間としていつかは…」

「流石にそんな単純な理屈は通じないと思う…それに仮に可能だとしても現実の世界で"終刀・真月"を造るより難しそう」

 

失礼な…と言いたくはあるが恐らくその通りなのだから何も言うまい。それに可能性はあると期待を煽ったところでそれに応えられるかは別、だからこの話はもうおしまいだ。

 

そして話が終わったのならばこの世界に留まる理由はなく、そっと"終刀・真月"を頭上に掲げる。

 

「さようなら村雨──貴女なんて大嫌いだった」

「うん…ばいばい偽雨」

「……またね」

 

寂しそうに微笑んだ彼女のその言葉は刀の振るう音と重なってなお不思議と耳に届く。

私も、同じ言葉を返そうとするがそれよりも早く"終刀・真月"によって目の前に造られた空間の亀裂が広がり視界全てが闇に包まれるのだった。

 

 

かくして、究極幻術は破られた。

無限月読の世界は断ち斬られ、私は現実世界に戻る…それが当初の手筈だった。

 

だが偽雨やオビトさん、それにマダラさんも思惑はそれぞれ違っても私を送り出してくれた人達には申し訳ないが無限月読を断ち斬る際に私はその先に現実世界とは別の世界を望んだ。

 

そして世界を創り変える刀は私の無限月読と"その世界"を繋げる亀裂を斬り開いた。

 

出来る保証はなかったが可能性はあった。

二人の忍が幻術に掛けられた時に相互に幻術を掛けることで相手の幻術世界へ介入する手段があるように、世界に干渉するこの刀ならば幻術世界であろうとも繋げることが出来る。

ましてや無限月読の中でそれを望み、その行き先もまた無限月読の中なのだから。

 

辿り着いた場所は深い霧の中だった。

少し先の景色も見えず物音一つしない静寂の世界。

 

そんな世界に彼は1人、そこにいた。

 

「──おはようございます、鬼鮫さん」

 

霧の世界の主は己の理想郷において存在するはずのない私の来訪にただ驚愕に目を見開くのだった。

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