ブーケトスの魔法   作:Pond e Ring

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Prologue: Receive a Bouquet

 

 

 

花束が宙を舞う。

 

 

 高く高くあがったそれを、周りの人はみな見ている。

 

 

 透き通るほどの綺麗な青色を背にした赤色はやけに映える。

 

 

 そして、その綺麗な放物線は、確かに静のいる場所へと迫ってきていた。

 

 

 ▼△▼△▼△▼△

 

 

 これで何度目だろう、と静は思った。

 周りの人々は穏やかな顔で、彼らを見つめる。

 

 その彼らは、純白のタキシードとドレスに身を包んでいる。

 そしてとても幸せそうに見つめ合い、微笑んでいる。

 

「おーっす、静ー!」

 

 静を呼ぶ声がした。その声の方を向くと、高校時代に同じクラスになった背が高めのボーイッシュな同級生がいた。

 

「久しぶり。静」

「あぁ、久しぶり」

 

 テーブルの上のグラスを手に取り少し口の中へと注ぐ。

 静は苦味の中にある甘味をいまいち感じられなかった。

 不味いという訳では無いが、甘味は無かった。

 

「すっごい、幸せそうだよね、ヒロコ。高校時代からずっとだよね、あの二人」

 

 同級生はウェディングドレスを羨むような目で見つめながらそう言う。

 静は、ただ「あぁ、そうだな」と返事を返す。

 

「私もそろそろ結婚しようかなぁ〜、彼とももう足掛け五年だし」

 

 そう呟いた同級生は、静にこう尋ねる。

 

「そういや、静は良い人いないの?」

「うん、まだいないかな」

 

 その答えを聞いて、その同級生は、寝耳に水とでもいった表情でいつものセリフを吐く。

 

「えぇ! 静、絶対モテるでしょ」

「いや、全然モテないんだな、これが」

「うっそー! 選り好みしてるだけなんじゃないの〜? 高校の時、モテモテで付き合ったりもしてたじゃん! 実はその中に私の────」

 

 思い出話が出た時、また静はおもむろにグラスの中のワインを口に注いだ。先程よりも多く──

 

 ──やはり苦い。

 

 合コンに行っても失敗続きだった。

 決して寄り付かれなかった訳では無い。

 ただ、二回、三回と会うと、自然に会わなくなり、連絡が途絶えることが多々あった。

 そして、その都度静は思った。

 ───私を愛し、私が愛せる人は本当にこの世にいるのだろうか、と。

 

 だが、そんな静にも、たった一人。たった一人だけ、もしかしたら、と思う人がいた。

 

 その人は、私のことをよく分かってくれていた、と静は思う。趣味も合うし、何より優しさが痛いほど伝わってきた。

 

 そして、ある冬の日。とある橋の上で、缶コーヒーを飲みながら、その人の前でいつもの癖で自虐に走ってしまった。

 

「まぁ、そういう私も計算違いばかりしてるから結婚できないんだろうけどなぁ。この前も友達の結婚式があってなぁ……」

「いや、そりゃ相手に見る目ないんですよ」

 

 その人の瞳は、真っ直ぐ私のことを貫いていた。

 嘘はなく、濁りとは無縁の澄んだ瞳。

 その瞬間、静の心の中の何かもが貫かれた。

 

 ──鼓動が速い。

 

 ──頬が紅潮する。

 

 その場では何とか誤魔化したが、もう自分自身に嘘は付けなくなっていた。

 

 一度伝えてしまったこともあった。静を頼る彼に不意打ちで。もちろん本気ではなかった。一瞬赤面した彼も、すぐにそう受け取った。

 だが、ほんの一握りだけ、あわよくばと思ってしまったのだ。ズルい女だと、静は自分を卑しめた。

 

 

 決して抱いてはいけなかった。

 だって彼は、

 ──私の生徒なのだから。

 

 この甘酸っぱい感情は唾棄しなければならなかった。

 

 

 ▼△▼△▼△▼△

 

 

 放物線を描く赤色の花束は、間違いなく静の方へと飛んできている。

 

 それを掴めたら何かが変わる? 

 

 ──いや、きっと何も変わらない。

 

 そんな諦めが、静を支配する。静はもう悟っていた。きっと永遠に受け取る側だ、と。

 

 花束は飛んでくる。前方にいる女性達は必死に手を伸ばしているが、花束は捕まらない。

 

 そして目前まで花束が近づいた時、ふと一つの叶わざる願いが頭をよぎった。

 

 ────もし、その人と同級生で同じ時を過ごせていたら

 

 そんなどうしようもない願いが慈悲深い神様の心を揺らしたか。

 ストンと、赤色のブーケが手元に落ちる。

 

 

 

 その瞬間。

 

 

 

 ふと、視界が暗転した。

 

 

 

 

 ▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

 

 

 

 

 気付くと静は、何故かどこか建物の屋上にいた。

 

 

 透き通るほどの青色の快晴の下。

 

 妙に身体は軽い。

 吸う空気もどこか清々しい。

 

 そして、ちょっとだけズシッとした全身の重みは、先程着ていた服と明らかに違う。

 これは、間違いなく、ブレザーだった。

 屋上というのも、間違いなく学校の屋上だ。目の前のフェンス越しに、校庭が見えるのだから。

 

 静は状況が飲み込めないでいると、背中側から古びれた扉が開く音が聞こえる。

 

「よぉ、平塚」

 

 静を呼びかけるその声は、聞いたことがある声だ。

 だからこそ、余計に分からなくなった。

 

 ──なぜ今あの人の声がする? 

 ──なぜあの人は私を呼び捨てにする? 

 

「缶コーヒー、お前の分買ってきたから、ほら投げ渡すから取ってくれ」

 

 

 静はそう言われるがまま、背中側を振り返った。

 缶コーヒーが放物線を描く。それは彼の顔を綺麗に隠した。

 そしてその缶コーヒーが、手元に辿り着く時、見えた彼の顔は、間違いなく、あの人なのだ。

 

 

「ナイスキャッチ。で、用事って何?」

 

 

 彼──比企谷八幡は、静と同じブレザーに身を包み、壁に寄りかかって腰を下ろすと、そう尋ねてきた──。

 

 

 

 

 

 

 

 

 








もし平塚先生が八幡と同級生だったらどうなるのか?
皆さんが一度は思ったであろう、その事を描いていけたらなと思います。

よろしくお願いします。
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