ニンジャスレイヤー ツバサ・プロダクシヨン   作:Sir_pasta

1 / 1
【バトル・オブ・タマ・リバー】

【バトル・オブ・タマ・リバー】

 

 

 

 草木も眠るウシミツ・アワー。ここはツバサ・プロダクシヨンの事務所付近のタマ・リバー河川敷。オオヌギ地区にもやや近いこの河川敷は、普段であれば浮浪者らのねぐらとなっているが、先ほどまで降っていた重金属酸性雨の影響で彼らの姿は全く見えない。そして、この河川敷と工業廃水によって薄汚れたタマ・リバーを横断する「タマ・ブリッジ」の上に一人のニンジャあり。白いトレンチコートに、清潔な白シャツ、スカイブルーのラインが入ったネクタイを身に着けるサラリマンめいたこの男は、黒いメンポを装着している。その姿はまさしくニンジャである。

 

(((既に約束のウシミツ・アワー。ヒナナ=サンとマドカ=サンはいつ来てもおかしくない。この時間、そしてこの場所を選んだということは、彼女たちは俺と戦い、その最中で俺を見極めるつもりなのだろう。)))

 

 事前に暴力行為をやめるよう口頭で注意したプロデューサーに対して、マドカより返されたのは「ウシミツ・アワーにタマ・リバー河川敷」という文言のみであり、これは彼女らが素直に彼の言うことを聞き入れない意思表示でもあった。それを理解したプロデューサーは彼女たちの呼びかけに応えて、そこでのやり取りに活路を見出そうとしたのである。

 

(((彼女たちから信用を得るには、相応の手続きを踏まなければならない。タイガー・クエスト・ダンジョン、多少の危険に臆してはいけない。)))

 

 ツバサニンジャが考えを巡らせていた、その時である。後方よりクナイダートがおよそ2ダース、彼に降り注いだのである!研ぎ澄まされたニンジャ第六感によってクナイダートに気づいたツバサニンジャはスリケンを投擲。回避困難なクナイダートのみを撃ち落とした。

 

「イヤーッ!」バク宙を繰り出し、河川敷へと降り立ったツバサニンジャは後ろを振り返る。すると、先程まで彼がいた場所に二つの影があった。クリーム色とワインレッドのニンジャが彼を見下ろすように立っているではないか。「マドカ=サン、それにヒナナ=サンか!」ツバサニンジャの誰何に応えるように、二人のニンジャは橋から飛び降りた。「「イヤーッ!」」

 

 二人のニンジャは見事な着地を決め、すかさずオジギをした。

「ドーモ、ツバサニンジャ=サン。マドカ・ヒグチです。」

「ドーモ、ツバサニンジャ=サン。ヒナナ・イチカワ、改めシアーブリスです。」

ツバサニンジャは既に相手が臨戦態勢であることに驚きつつ、オジギを返した。「ドーモ、マドカ・ヒグチ=サン。シアーブリス=サン。プロデューサー、改めツバサニンジャです。」両者の間には、プロデューサーとその担当アイドルらしからぬ、サツバツしたアトモスフィアが漂っていた。アイサツの後、数秒間のシシオドシめいた静寂があたりを包み込む。そして、それを先に破ったのはツバサニンジャであった。

 

「マドカ=サンに、ヒナナ=サン。まず、昼間に話したことについて言及したいことがある。よろしいか?」この問いかけに対して、ヒナナが「イーヨー!」と普段通りの調子で承諾した。マドカは何も言わなかったが、ツバサニンジャの言葉を遮ることもしなかった。

 

「二人のモータルに対するこれまでの行いにはおそらく相応の理由があり、必ずしも非難に値するものだったとは思っていない。しかし、アイドル自らがヨタモノを裁くことは良いことではない。何か問題が発生したのなら、それはプロデューサーが解決すべきことだ。ゆえに、プロデューサーである自分を信じて、これまでのようなことは自重してもらえないだろうか」ツバサニンジャは落ち着いた声色で、語り掛けるように言う。「アハー!でもー、プロデューサー=サンはトオル先輩=サンとか守れるカナー?」シアーブリスに続き、マドカも言う。「それだけじゃない。私たちは一体何を根拠にあなたを信用すればいいんですか。あなたも結局はニンジャではないですか」

 

「……」ツバサニンジャは即座に答えることができなかった。ヒナナが指摘する通り、彼は自分が未熟なニンジャであることを十分すぎるほど自覚していた。その上、見知らぬ芸能関係者、ましてやニンジャなど信用できない気持ちというマドカの気持ちも、芸能界に身を置く人間だからこそ十分に理解できたのである。それだけではない。マドカが悪質な記者にケジメを強要した件に関しても、noctchillメンバーからその話を耳に入れるまで、彼は一切事情を把握していなかったのである。そのことはツバサニンジャに忸怩たる思いを抱かせていたのである。

 

「ニンジャとしても、プロデューサーとしても、まだ信用できないかもしれない。だが、そう判断するには時期尚早であると思えないだろうか。ヒナナ=サン、マドカ=サン。急いては事を仕損じる、ミヤモト・マサシのコトワザだ」ツバサニンジャは自身の言い分が説得力に欠いていることに気づきながらも、このように言う他なかった。担当アイドルと拳を交えるなど、可能な限り避けたかったのである。

 

「ウン、ヒナナもそう思う~!だから、こうしてここに呼んだの。そうだよね、マドカ先輩=サン?」と言うヒナナ。ツバサニンジャはヒナナの声色に恐ろしいものを感じ取った。「…ヒナナ=サンの言い分はともかく、そういうこと。ツバサニンジャ=サン、構えたら?命まではとらないから」マドカはそう言いながら、腕を交差させて腰のクナイダート・ベルトからクナイダートを5本ずつ取り出した。マドカはツバサニンジャを睨む。既に交渉の余地はないと悟ったツバサニンジャはジュー・ジツの構えをとる。それを見て取ったヒナナは「アハー!」と特徴的な笑い声をあげ、マドカは満足げな笑みを浮かべた。

「かかってこい!シアーブリス=サン、マドカ=サン。カラテのレッスンをつけてやろう!」

 

 ツバサニンジャの言葉を合図に、マドカは攻撃を仕掛けた。「イヤーッ!」目にも止まらぬ速さでクナイダートを連投する。マシンガンによる銃撃と見紛うような苛烈極まるクナイダート投擲を迎撃していてはジリー・プアーであることは必須。ツバサニンジャは回避を繰り返して、河川敷の木立へ身を隠した。しかし、ただの樹木ごときではクナイダートの攻撃を永遠に防ぎ続けるのは不可能。ツバサニンジャは樹木ごとスイスチーズとなってしまうのか!

 

 否、ツバサニンジャはこの程度で手詰まりにはならない。「イヤーッ!」なんたることか。ツバサニンジャはローキックで遮蔽物となっている樹木を叩き折ったではないか!「ツバサッ!」そして、足をスイッチして、今度は樹木に対して後ろ蹴りを繰り出した。叩き折られた樹木はそのままクナイダート投擲を続けるマドカへと一直線に飛んでいく。

 

「……ッ!」マドカのクナイダートは一発の力は実際弱く、飛んでくる樹木を空中で叩き落すことは不可能であった。ゆえに、彼女はクナイダート投擲をやめて回避行動に移った。そして、そのマドカの動きを見越していたかのように、今度は樹木の陰に隠れていたツバサニンジャが攻撃を仕掛ける。攻撃目標は先ほどから傍観に徹しているシアーブリスである。「隙だらけだぞ!シアーブリス=サン!」樹木をトビバコの如く飛び越えたツバサニンジャはカトゥーンめいたトビゲリの態勢をとる。しかし、シアーブリスはそれに対して逃げも隠れもしない。それどころか、ツバサニンジャに対して両手を構え、迎撃しようとしているではないか。ウカツ!

 

 シアーブリスが「ヤハーッ!」と特徴的なカラテシャウトをあげると、上空が一瞬フラッシュし、空気を引きちぎるような音と共に光がツバサニンジャ目掛けて落ちてきたではないか!落雷である。「グワーーーッ!」数千ボルトにも達する電撃がツバサニンジャの体を駆け巡り、白いニンジャ装束は黒く焦げ、彼はタンブルウィードめいて河川敷に転がった。一体何が起こったというのだろうか!その答えはセンコ花火めいて電気がスパークするシアーブリスの両手にあった。シアーブリスはカミナリ・ジツの使い手であり、野外であれば半径6マイル圏内に超精密雷撃が可能なのだ!

 

「アハー!プロデューサー=サン、やっぱり引っかかったー!」シアーブリスはいたずらが成功した子供めいた笑い声を挙げた。その間、蹴り飛ばされた樹木を回避したマドカは、地面を転がるツバサニンジャに追撃のクナイダートを投擲する。なんたる無慈悲さか。「グワーッ!」クナイダートが数本ツバサニンジャの体に突き刺さった。読者の皆さんも、「弱ってきたらさらに棒で叩く」というミヤモト・マサシが詠んだコトワザを思い出さずにはいられないだろう。本来ならば大してダメージのないクナイダートでも、重傷を負ったツバサニンジャには致命傷たりえた。だがしかし、これまで19人のアイドルをほぼ一人で守り続けてきたニンジャは伊達ではない。

 

 跳ねるように飛び起きたツバサニンジャは体に突き刺さったクナイダートを空中で引き抜き、それをより近いシアーブリスに対して投擲した。「イヤーッ!」数本のクナイダートはシアーブリスのパンチによって容易に落とされるが、ツバサニンジャが肉薄するだけの時間を稼ぐには十分であった。遠距離戦ではマドカらに軍配が上がる。ツバサニンジャは至近距離カラテで勝負を決めるつもりなのだ!

 

「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」

 

 ワザマエは互角に思えたカラテの応酬も、わずか一瞬のうちに決着が付いた。「イヤーッ!」「グワーッ」シアーブリスのキドニーブロウがツバサニンジャの防御をすり抜け、彼の体に突き刺さったのである。ジョルリめいて吹き飛ばされツバサニンジャは、そのままマドカの元へ飛んでいく。「イヤーッ!」マドカは既に力尽きた自身のプロデューサーを容赦なく蹴り上げ、彼はそのままタマ・ブリッジへと墜落した。ツバサニンジャがここまで一方的にもてあそばれるのは、シアーブリスのカミナリ・ジツだけが原因ではない。先ほどツバサニンジャに刺さったクナイダートには麻痺毒が塗られていたのだ!マドカはドク・ジツの使い手だったのである。

 

「アハー!プロデューサー=サン、そこまで強くなーい!やっぱり、サンシタ相手に勝ちを拾ってきただけだったんだネ!」

「言うだけなら誰だって出来るんですよ。タイゲンソウゴはもっとカラテトレーニングを行ってからにしてくださいね、ミスター・サンシタ=サン」

「アハハ!マドカ先輩=サンはクナイダート投げていただけなのに~?」

「は?」

 

 薄れゆくツバサニンジャの意識少しずつ遠のいてゆき、彼女たちの声も同様に小さくなっていった。

(((社長=サン。申し訳ありません。私はアイドルを守れないばかりか、彼女たちに勝つことすらできませんでした。やはり、私はどうしようもないサンシタです。)))

ツバサニンジャは心の中で詫び続けた。自分を信頼して期待を寄せてくれた社長=サン、いつもお世話になっているハヅキ=サン、そして自分を頼ってくれる担当アイドルたちに。こんな情けない姿は到底彼らには見せられない。彼らのことを思い返すたびに、印象的な記憶がソーマト・リコールめいてフラッシュバックする。アイドル達と勝ち取ったW.I.N.G.優勝、一緒に乗り越えた壁、社長によるインストラクション。…………社長によるインストラクション。……インストラクション。

 

「いいか、プロデューサー=サン。お前のニンジャソウルはアスラ・ニンジャクランだ。アスラ・ニンジャクランは人間の感情や情念から得られるカラテを追い求めたニンジャクラン。ゆえに、お前がイクサを行う上で最も考えるべきことは「勝つために如何にして戦うか」ではない。「アイドルのために如何にして戦うか」だ。私はお前がどれほどアイドルという像に情熱を持っているか知っている。アイドルに情熱をぶつけろ!そして、それをイクサに活かすのだ!」

 

 ニンジャソウルが自分に宿って間もない日に、社長はこのような檄を自分に飛ばしたのであった。(((社長=サン、私はインストラクションを忘れていました。そして、大切なことを思い出させてくれたことに感謝します。もう一度、アイドルに情熱をぶつけてきたいと思います)))

 

KABOOM!!

「イヤーーーーッ!!!」大きな爆発音と共に、ツバサニンジャはタマ・ブリッジから飛び上がった。その手には金属ボーが数本握られている。あれはタマ・ブリッジの柵だ!起き上がりと同時に、チョップで周囲の柵を切り取っていたのである!

 

「アハッ!ヒナナのカミナリ・ジツを受けてもまだ戦えるんだー!」口を手で抑えて愉快に笑うヒナナ。「一旦下がって!シアーブリス=サン!」それとは対照的に、やや焦った表情のマドカ。怒り狂った殺人闘牛めいて突進するツバサニンジャは、己のニンジャ平衡感覚によって超低姿勢を保ちつつシアーブリスへと接近する。その姿はまるで、敵領内へ侵入するステルス爆撃機だ。これをただのヤバレカバレではないと直感的に察したマドカは、クナイダートの弾幕を張りつつシアーブリスに後退を促すが、当のシアーブリスはそれを聞きいれない!

 

「ヒナナのカミナリ・ジツは最強だからネー!ヤハーッ!」シアーブリスはツバサニンジャに向けて再びカミナリ攻撃を放つ。しかし、ツバサニンジャは身を守る盾など一切持ち合わせていない。モスキート・ダイビング・トゥ・ベイルファイア!この間、マドカはツバサニンジャに対してクナイダート投擲を続けるが、超高速で移動する彼には当たらない。「沢山撃つと実際当たりやすい」と江戸時代のレベリオン・ハイクではそう謳われたが、現実はそこまで上手くいかないのである。

 

「イヤーッ!」ツバサニンジャは自身の進行方向に合わせて金属ボーを投擲するも、それはシアーブリスには到底届かないような位置で地面に突き刺さる。ツバサニンジャは攻撃を仕損じたのだろうか?否、そうではない。シアーブリスは、間髪入れずカミナリ攻撃。「ヤハーッ!」だが、見よ!おお、ゴウランガ!天から降りたる光の筋はツバサニンジャではなく、その近くの金属製のボーへと落ちたではないか。避雷針である!

 

「ヤハーッ!」「イヤーッ!」殺人的カミナリは再び金属ボーへと落ちる。「ヤハーッ!」「イヤーッ!」殺人的カミナリは再び金属ボーへと落ちる。「ヤハーッ!」「イヤーッ!」殺人的カミナリは再び金属ボーへと落ちる。カミナリ・ジツ破れたり!シアーブリスがいくらカミナリ・ジツによって雷撃を操れるかといって、避雷針の前には無力である。

 

 ワン・インチの距離まで接近されたシアーブリスはアイキドーのワザ、ジェット・ツキと繰り出す。「ヤハーッ!」超音速のジェット・ツキはソニックブームを生み出し、周囲の粉塵がケムリめいて舞い上がった。しかし、シアーブリス渾身の一撃はツバサニンジャの頭部を穿ってはいない。ジェット・ツキに用いた左腕の手首はツバサニンジャに掴まれていたのだ!この瞬間、シアーブリスはツバサニンジャの表情がオニめいていることに気づき恐怖した。コワイ!「イヤーッ!」ツバサニンジャのカラテシャウト、オニめいた表情、自分に繰り出されるであろうツキに本能的に恐怖したシアーブリスは目を閉じた。

 

 シアーブリスに痛みはなかった。恐る恐る目をあけて見ると、先ほどまで自分に迫っていたツバサニンジャの姿もなかった。カミナリも止み、クナイダートの風切り音も聞こえなくなった。タマ・リバー河川敷は数刻前の静けさを取り戻している。「レッスンは終わりだ。シアーブリス=サン。いや、ヒナナ=サン!」声の聞こえる方角へ向き直ると、土手の上には満身創痍のツバサニンジャが立っていた。この時、ヒナナは自分の髪の毛を結っていた白いオビが無くなっていること、そしてツバサニンジャの手にそれが握られていることに気が付いた。「ヒナナ、負けちゃったネー」ヒナナは素直に自身の敗北を認めた。しかし、その声色からは悔恨や落胆などの感情は一切感じられなかった。「だが、そのカラテとジツは見事なものだった」ツバサニンジャはヒナナの健闘を称え、ヒナナは「ヒナナ、やっぱりニンジャにも向いてるネー!」と笑って言った。

 

「まだ終わっていない!ツバサニンジャ=サン!」戦意を失いつつある二人に対して、未だ闘志を燃やし続けていたマドカは叫んだ。両手には逆手持ちのビッグ・クナイ。だが、マドカは既に大量のクナイダートを精製した後であり、息は上がっていた。「マドカ先輩=サンのワザマエじゃ、プロデューサー=サンには勝てないよ?」ヒナナはそうマドカに対して武器を置くよう勧めるが、マドカは首を振って固辞した。「ツバサニンジャ=サン。確かにあなたはヒナナ=サンを納得させたかもしれないけれど、私はまだ納得していない。あなたのカラテを採点してあげるから、はやく構えて。」マドカの覚悟は既に決まっている。そう判断したツバサニンジャは彼女との決着をつけると決めたのであった。

 

「ドーモ、マドカ・ヒグチ=サン。ツバサニンジャです」ツバサニンジャはここにきて再びアイサツをした。ニンジャのイクサにおいて、仕切り直しの際にアイサツをしなければならない作法などない。つまり、このアイサツは、ここまでのイクサで半ば放置されていたマドカに対して、これより誠意をもって向き合うというツバサニンジャの敬意の表れであったのだ。「ドーモ、ツバサニンジャ=サン。マドカ・ヒグチです」マドカもこのアイサツに対して厳かにオジギした。

 

 アイサツから零コンマ五秒、ツバサニンジャはスリケンを投擲した。「イヤーッ!」マドカはこれを避けようともせず、両手のクナイで撃ち落としつつツバサニンジャとの距離を詰める。マドカは本来ならば遠距離攻撃を主体とした持久戦を得意とするニンジャであるが、この時ばかりは接近戦による短期決戦を選んだ。なぜなら、再びクナイダートを大量精製するほどの血中カラテが、彼女にはもはや残されてはいなかったこと。そして、時間経過によってツバサニンジャがニンジャ耐久を回復させてしまっては、マドカにとってジリー・プアーであることが大きく影響していた。

 

 地面を蹴り、前方に飛び上がったマドカは空中で体を捻じ曲げて、そのまま後ろ回し蹴りを繰り出した!「イヤーッ!」鋭い回し蹴りをツバサニンジャは紙一重で避けるが、追撃のハイキックが再びツバサニンジャに迫る。カポエイラのアルマーダ・マテーロを我流で作り変えた、空中二段飛び蹴りである。「ヌゥーッ!」ハイキックを避けきれず、両腕で受けたツバサニンジャはその打撃の重さにうめきをあげ、鍔迫り合いめいた攻防の様子が二秒ほど続いた。そして、先に根をあげたのはツバサニンジャの方であった。「イヤーッ!」ハイキックを受けた両腕でマドカを軽く突き飛ばし、はるか後方へと飛び退いた。

 

「この感覚は一体…」マドカのハイキックを受けた後、ツバサニンジャは奇妙な感覚に襲われていた。息苦しく、体がほのかにアツい。それだけではない。拳に力が入らず、視界がぼやけている。ツバサニンジャのニンジャ第六感がレッドアラートを告げる。「まさかドク・ジツか!」マドカは顔色一つ変えずに答える。「その通り。私の体は薄い毒の層で覆われている。少しでも体が触れあえば、体に毒が回る。もっと長ければ、ニンジャと言えどオタッシャ重点。」本来ならば、ツバサニンジャのニンジャ免疫力でマドカのドク・ジツをある程度は無効化できたかもしれない。だが、ツバサニンジャの体はヒナナのカミナリ・ジツとマドカのドク・ジツで弱りきっている。このまま時間だけが過ぎていけば、ツバサニンジャが先に倒れることは明白。ツバサニンジャにとっても、長期戦という選択肢はなくなったのである。

 

「次で勝負をつけるぞ、マドカ=サン!」ツバサニンジャは叫び、再びジュー・ジツの構えを取った。マドカも古いカラテ流派の構え、猫足立ちで迎撃の態勢をとる。数秒間のにらみ合いが続き、両者は惹かれ合う磁石めいて飛び掛かった!「「イヤーッ!」」ツバサニンジャのトビゲリを払った後、マドカは両手を地面について片足を軸に繰り出すカポエイラのケリワザ、メイアルーアジコンパッソをツバサニンジャの頭に目掛けて打ち込む。だがしかし、ツバサニンジャはこれを回避せず片腕で受け止めた!無論、メイアルーアジコンパッソは片手だけで受けきれるようなワザではない!

 

「……ッ!」マドカは金属ボーのように折れ曲がったツバサニンジャの右腕を見て、相手の真意を理解した。ツバサニンジャは自身の右腕を犠牲にして繰り出すケリ・キックによって、マドカと刺し違えようとしたのである。「イヤーッ!!」咄嗟に自身を支えていた両腕で防御態勢を整えショックに備えたが、ワルダクミ・カンパニーのニンジャとの戦いで鍛え抜かれたケリ・キックは生半可なものではなかった。「ンアーッ!!」先刻とは立場が逆転し、上空へと突き飛ばされたマドカは己の敗北を悟った。血中カラテは既に尽きた。回避運動を全くできずに自由落下するマドカは、対空カラテで容易に迎撃されるであろう。爆発四散するまで攻撃されることはないだろうが、しばらくは体を動かせず、トオルやコイトを近くで見守ることさえできない。(((それもこれも、自分がカラテの鍛錬を怠ったせい。インガオホー)))マドカは潔く、自身の弱さを認めた。

 

 だがしかし、マドカを迎えたのは苛烈な対空カラテでもなく、薄汚れた河川敷の地面でもなく、ツバサニンジャの腕であった。ツバサニンジャは優しいニンジャである。このマッポーの世でアイドルの輝きが人に希望と夢を与えるのだと本気で信じ、その輝きを曇らせぬためならば自分のことは顧みず、体中が毒で覆われている少女を落下の衝撃から守ってやるような男である。その心に打算や疚しいものなどはない。彼は純粋で、ニンジャでありながら人でもあったのだ。

 

「このようなイクサをさせてしまって申し訳ない、マドカ=サン。マドカ=サンが俺を信頼できなかったのは、自分の未熟によるところ。もう一度、考え直してもらう機会を自分に与えてはくれないだろうか?マドカ=サンに信頼してもらえるように、これまで以上に行動で示すつもりだ」ツバサニンジャは真剣なまなざしでマドカの目を見つめた。だが、マドカはすぐにツバサニンジャから目をそらした。そして、「ハァ…最悪」と自分にしか聞こえないよう声量で呟いた。

「…いつまで私を抱えているつもりですか。ミスター・変質者。そんなマッポにお世話になりたいんですか、アナタ。それに死にますよ。降ろして」不機嫌そうな顔で文句を言うマドカ。「…ヨロコンデー」ツバサニンジャは素直にマドカの言う通りにした。実際、マドカのドク・ジツの効果が現れ始め、彼はもう真っ直ぐ立っていられなかったのである。「ヌゥーッ!」マドカを降ろしたツバサニンジャはそのまま足をついた。「もう帰ります」片足を地面につき、呼吸を荒げるツバサニンジャをしばし見下ろして後、マドカは踵を返した。「今日もハヅキ=サンのレッスンが入っていますので。では、オタッシャデー」マドカはそれ以上言わず、速足でその場を去ろうとする。「…マドカ=サン!」ツバサニンジャは声をひねり出した。「夜道にはオキヲツケテ」それだけを言うと、ツバサニンジャは地面に伏した。

 

しばらくした後、ツバサニンジャははっと目を覚ました。周囲を見渡すと、そこは見慣れたツバサ・プロダクシヨンの事務所であり、自分はそこでソファに寝ていたと気づいた。おそらく、ヒナナが運んでくれたのであろう。外は暗く、時計の短針は四の数字を指していた。身体をゆっくりと起こし、ソファの付近のチャブ・テーブルに目をやると、コケシマートで売られているようなパック詰めのスシがそこにあった。

「…これもヒナナ=サンの厚意か」

現在、A.M.四時。ツバサニンジャはニンジャ装束を脱ぎ、プロデューサーの姿へと戻り、スシを補給した。今日も仕事である。

 

 

 

(【バトル・オブ・タマ・リバー】 終わり)




 ここまで読んでいただきありがとうございました。さて、一つ注釈しておくと、雛菜の「マドカ先輩=サン」という不自然極まる呼称は、ニンジャスレイヤー本編【ワン・ミニット・ビフォア・ザ・タヌキ】における「ガガイケ専務=サン」という記述を参考にしました。ただ、後から気づきましたが、ニンジャスレイヤー四部だと「(名前)+(役職)」のような感じで「サン」をつけずに呼ばれている人もいるので、単純に「マドカ先輩」でも良かったと思います。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。