ポケモンにはポケモンの生存競争があり、トレーナーのポケモンもまたそんな生存競争の一部。そこには勝者こそがルールという決まりしか無いのだ。
薄明の翼を見たら書きたくなってしまった……
ポケモンモノは初挑戦ですので……失礼
△〇△─────
静かに波打つ湖のほとり、木々が風に揺れ動き木の葉がさざめいている中、鳥ポケモンたちの囀りが響き渡り、それに答えるように獣型ポケモンたちが楽しげに鳴いている。
正しく平和的であり、同時にそれは自然的であった。
トレーナーのもとではなく、野生の中でポケモンたちへ群れを築いて他のポケモンと対立し共生し彼らは今を生きている。
このワイルドエリアではそれがより顕著だ。
だからこそ、彼らは強く強くより強く、生きる為に何処までもこの生存競争を生き抜いていく。
その相手は同じ野生のポケモンであり、天敵のポケモンであったり、同じ群れのライバルであったり、別の群れのライバルであったり、そして────
『────ッ!!!』
瞬間、音が響き渡る。
雄々しく騒々しいほどの嘶きがこのほとりに響き渡る。
騒がしい、と言わんばかりにほとり付近を泳いでいたポケモンたちは湖の深い場所や離れた場所へと泳いでいき、鳥ポケモンたちや獣型のポケモンたちはそそくさとその場から離れていき、大型のポケモンたちは自分の群れや家族を引き連れながら、警戒する様に巣へと戻っていく。
そして、それ以外の好奇心旺盛なポケモンや物好きなポケモンたちは咆哮の出元へと向かって移動していく。
彼らは野生だ。
彼らの生存競争の相手は同じ野生のポケモンたちであり、そして同時にそれは外からやってくる彼らでもある。
『─────ッ!』
この湖のほとりからそれなりに近い場所には高台があり、崖や岩場に洞窟といった地形がある。もちろん、そんな環境にもポケモンはおりとりわけそういった場所に生息しているのは屈強なポケモンであったり、凶暴なポケモンであるなど、全体的に強いポケモンだ。
そんな岩場で一匹のポケモンが咆哮をあげていた。
体色は主に黒いが、その翼となっている前肢にある皮膜は薄緑色で首元には白い毛がフサフサと生えている。まるでズバットに近い翼を持ちながら、体躯はドラゴン系のポケモンに似ており、何よりも特徴的なスピーカーを思わせるような耳を持つこのポケモンの名はオンバーン。
ドラゴンタイプという強者の括りに分類されているオンバーンはその特徴的な耳からして主に聴覚に優れており、そして縄張り意識が強いポケモンだ。
曰く、近づいてくる物全てに襲い掛かる血の気の多いポケモン。
ならば、そんなオンバーンがこうして叫んでいる。その理由など一つだろう。
『キッザァ!!!』
目の前に敵がいる。
オンバーンの咆哮とそれに伴うばくおんぱ、そしてその凄まじい爆音によって破壊され、吹き飛んでいく瓦礫などものともせずに直接音波に巻き込まれないように岩場を駆け回る影が一つ。
赤と灰の体躯に刃の四肢を持つ人型のポケモン。
キリキザンは縦横無尽に駆け巡りながら、少しずつ距離を詰めていく。
勿論、オンバーンとてそんな事は許しはしない。敏捷の面でキリキザンを二回り以上も優れているオンバーンはその前肢を使って自分を中心にぼうふうを引き起こし、風の壁を作り出す。このまま突っ込んでしまえば、鋼タイプであり強固な肉体を持つキリキザンとてダメージはデカいだろう。
────だから、どうした
『キリ…………キザァッ!!』
キリキザンはぼうふうなど知らぬ存ぜぬどうでもよい、と言わんばかりに自らぼうふうの壁へと身を投じる。
ぼうふうによって巻き上げられた瓦礫や木の枝などといった様々なモノがぼうふうの壁の中で飛び交いキリキザンの身体を風と共に傷つけていく。
決して小さくは無い、致命傷では無いが無視するわけにはいかないそんな傷が次々と出来ていき、ぼうふうの壁を抜けた頃には無数の傷が合った。
『ンバァーンッ!!』
だからこそ、そんなボロボロの敵が目の前に現れればオンバーンはトドメを刺す。
嘶き開かれた口はそのまま空気を吸い込んでいき、微かにオンバーンの特徴的なスピーカーの様な耳が震え始めていく。距離にして五メートルもない。
そんな近距離でオンバーンは既に技を放つ準備を始めており、ぼうふうから抜け出したキリキザンでは距離を詰め技を放つ前にオンバーンのばくおんぱが襲い掛かる事だろう。
普通ならば、だ。
ぼうふうから抜け出してきたキリキザンの姿を見たオンバーンは一瞬、硬直した。目の前に現れるのボロボロなポケモンの筈だ、愚かにも戦いを挑んできた余所者のポケモンの筈だ、人間に飼われ牙を抜かれた様なポケモンであるはずだ。
自身のぼうふうの壁に飛び込んで無事でいられるわけがない、ましてや────攻撃の準備など出来る筈がないのに。
目の前のキリキザンはボロボロだと言うのにその瞳は微塵の敗北の色も浮かんでいない。
そして、キリキザンの周囲には金属片が浮かんでいた。それはキリキザンがぼうふうの壁で受けて削られたキリキザン自身の身体の一部だったモノで、それはキリキザンの傷だ。
『キリッザァ…………ザァァン!!』
メタルバースト。
鋼タイプのポケモンが直前に受けたダメージをより強くし、自身の破片である金属片諸共相手に叩き込むカウンター技。
ぼうふうという飛行タイプの技でもかなりの火力を有する技を強引に突き抜けてきたキリキザンに蓄積されたダメージはいったいどれほどか。
キリキザンの咆哮と共に弾けた金属片が互いにぶつかり合いながら乱反射し様々な角度からオンバーンを狙い撃つ。
『オォン……!?』
オンバーンは多くの同族とぶつかり合い、他のポケモンたちと戦い生存競争を生き延びてきた。その経験値はオンバーンに迎え撃つ事よりも回避を要求し、その結果、メタルバーストが直撃する寸前でオンバーンはその前肢を使って飛び上がってみせたがやはりさきの硬直が仇となったか、僅かに皮膜や尾、といった外側の部位に金属片が傷を、穴を、つけた。
そうして走る痛みにオンバーンは苦痛の悲鳴をあげながらも、空中というアドバンテージを活かし今度こそ敵を葬らんと口を開く。
放つのはドラゴンタイプのエネルギーを有した
対して、キリキザンはぼうふうの壁が既に消えている為に衝撃波から逃れる為、後方へとアクロバティックに跳び退きつつ刃の脚を振るい、
互いに同じ技がぶつかり合い、打ち消し合っていく。これだけを見れば空中というアドバンテージを持つオンバーンが有利────であるが、攻撃という点で言えばオンバーンはホバリングした状態で真空の刃を放っているのに対して、キリキザンは脚だけでなくその両腕を使っても放っている。その場で止まっているオンバーンと動き続けているキリキザン、少しずつ少しずつ崖や岩場を使ってオンバーンへと近づいてくる以上、オンバーンは距離を取らねばならない。
だが、取ろうとすればそれはキリキザンの放つ真空の刃に対しての対処が難しい、回避という選択肢もあるだろうが先のメタルバーストでの負傷が僅かに行動を阻害している。
『ンバァ!!』
『キッザァ!!』
だからこそ、オンバーンは迎え撃つしかないのだ。
『キリッザァ!』
岩場を跳びながら、オンバーンへの距離を詰めていく最中に片脚で真空の刃を近くの崖へと放ち、切り崩した崖の一部を足場にして高らかにキリキザンはオンバーンの頭上へと跳び上がる。
太陽を背にしての強襲。
ばくおんぱ、りゅうのはどう、どちらも使うにはタイミングが合わず、真空の刃を放つにもキリキザンならば即座に対応出来るだろう。ならば、オンバーンが切る手札は無い。
『オォォオンバァア!!!』
いや、まだだ。
オンバーンの口から炎を漏れる。
オンバーンは群れの長として今まで多くのポケモンとぶつかってきた。とりわけ、対抗馬となるのは同じドラゴンタイプであるジュラルドンやジャラランガ、オノノクスなどであり、中には天敵の氷タイプのポケモンとぶつかる事がある。
その過程でオンバーンは天敵である氷タイプに対して、優位となる手札を有していた。炎タイプのかえんほうしゃ、ドラゴンタイプであるが故に弱点を突けるわけではないがそれでも決定打を与えるソレを鋼タイプで相性が悪いキリキザンが耐える事など出来やしないだろう。
回避?空中という足場も無ければ翼も無いキリキザンが回避など出来るわけもない。
『キィィィアアア!!!』
だと思っているのだろう?
オンバーンが野生の生存競争を生き抜いてきた猛者であるのならば、キリキザンはトレーナーと共に多くの多種多様な野生の環境では出会わぬようなポケモン達との勝負をこなしてきた戦士だ。
相性など関係ないと言わんばかりのパワープレイをするようなポケモンやどう考えても相性が悪いタイプの技を使うようなポケモンや奇を衒った技を持つポケモン、そんなポケモン達と戦ってきたキリキザンにとって、目の前のドラゴンタイプが自身に不利なかえんほうしゃを使ってくるなど考えないわけがない。
ましてや、オンバーン。ドラゴンタイプの中でも比較的ポピュラーなポケモンである以上、戦闘経験など両の指では数えきれない。故にキリキザンはオンバーンの特徴を理解している、故に選ぶのは攻撃でも回避でもない。
刃の両腕をクロスさせ、炎を漏らしながら今すぐにでもキリキザン目掛けてかえんほうしゃを放とうとするオンバーンへと身を投じて…………刹那、甲高いきんぞくおんが辺りに響いた。
『───ンバ……』
数メートルも無い距離。
ソレをモロに受けた、オンバーンは口内に収束していた炎を消し散らしながら白目を剥いて、墜落していく。
何が起きた。
簡単だ。鋼タイプならば出来て当然の技、攻撃ではなく相手の軽い妨害程度でしかない、きんぞくおんを近距離で使ったに過ぎない。普通のポケモン相手に使ったところでせいぜい不快感で防御面に僅かな綻びを生じさせる程度だ。
だが、その相手がオンバーンである事が問題だ。
聴覚に優れたオンバーンに対してのきんぞくおんは並の効果では済まない。
『オ、オ、ンバ……ンババ……』
現にこうして、オンバーンは今も白目を剥き呻きながら岩場でのたうち回っている。普通の聴覚でもきんぞくおんは不愉快極まりないものであるのに聴覚に優れているオンバーンがソレを近距離で受けてしまえば、マトモでいられる筈がない。
だからこそ、キリキザンはそうしたのだ。
きんぞくおんによる防御面への綻び、そしてオンバーンに生じるどうしようもない隙。それらは全てトドメの一撃に繋げるための布石。
懐から取り出したオボンのみを口にして自身の傷を癒しながらキリキザンは落下する。
『キィィザァァア!!』
落下する最中、キリキザンは両手を自分の胸元へ添え鋼色のエネルギーを収束させていく。微かに体表の刃等金属部分に小さなヒビが生じ、更には錆びて摩耗し始める。
急激な消耗を引き起こしながらも依然として収束する鋼エネルギーを落下しながら、キリキザンはのたうち回るオンバーン目掛けて放出する。それによって鋼の身体が軋み悲鳴をあげるがしかし、そんな事知らぬと言わんばかりに放出された鋼エネルギーは周囲の岩場を削り刻み抉り飲み込んでいく。
△〇△─────
鋼エネルギーが細まり気づけば霧散していく。
先程まで岩場と崖であった環境はまるでそこだけ人工的に整地された様に刻まれ平面があった。鋼エネルギーが残留しているのか、僅かに陽光で地面に反射している。
そんな中、全身はボロボロで膝をつきながらも未だ健在なキリキザン。
そして、もはや動く事は出来ないオンバーン。
勝者はキリキザンであるのは誰の目で見ても明らかで、キリキザンはガタつく身体にムチを打ちながら立ち上がり、目の前のオンバーンにトドメを刺そうとゆっくりゆっくり前へ前へ歩き始めて────
『ップル』
『キザ……』
オンバーンへとその刃腕を振り上げた所で甘い香りと共にのんびりとした鳴き声がキリキザンの足もとから聞こえ、キリキザンはその腕を止め視線を足もとへと向ける。
そこにいるのは緑色の体躯にまるでアップルパイを背負っているかのようなまん丸に太ったポケモンがのんびりと目元が帽子で隠れた様な顔をキリキザンへと向けている。
敵対心など皆無なそのポケモン、タルップルの鳴き声にキリキザンは戦意を失ったか、ため息をつきながらタルップルを抱き上げてオンバーンを一瞥し、もはや興味など無いと視線を切ってキリキザンはその場を後にした。
「〜〜〜」
《みなさーん こんにちは!》
ラジオから女の子の声が流れる中、湖のほとりに建てられたキャンプで大きな鍋をかき混ぜている少年が一人。そして、その周囲では複数のポケモンたちが思い思いに過ごしていた。
そんな彼のキャンプに草木を分けながら訪れるポケモンが二匹。
『タルップ』
『キザッ』
「ん?おかえり、キリキザンにタルップル。昼ごはん出来たぞ」
主である彼の言葉に二匹は互いに顔を見合わせてから笑みを浮かべ、ボロボロな身体など気にせず、他のポケモンたちと共にカレーを作る彼のもとへと駆け寄っていった。
△〇△─────
基本的に主人公であるトレーナー(主人公なのに名前は出ない)のポケモンたちはバランス皆無な作者の趣味旅パです。
タルップルは良いぞぉ……リンゴ……ソードだとアップリューだとは思わなかった……