単行本1巻、第二話『シロ、日々勉強』の扉絵と梶井基次郎の『櫻の木の下には』に思いを馳せて。

死体等グロテスクなものが出てきますので、警告タグをつけておきますね。そこが美しいんですけれど(ひそひそ)

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『櫻の木の下には』は現在の私達が憧れるような美しさとグロテスクさが同時に存在します。梶井基次郎の作品には、そういう物がとても多くて、眩草は大好きです。『檸檬』なんて、学校でやった方もいるんじゃないでしょうか。
 死体等グロテスクなものが出てきますので、警告タグをつけておきますね。
 別サイトの作品を推敲した後アップしております。


櫻の木の下には

死体が埋っているという。

 

 それを体現したかのような光景だった。現世の桜の木の根本が崩れ、なんと、あろう事か骨が見えていたのだ。

 鬼神と共にいた犬はたちまち歓声をあげた。

「鬼灯様、骨だよ、骨!ちょっと古いけれど齧っていい?」

 と、鬼神が許可しない内に齧りつく。

 それを少しだけ見て、鬼神は桜の花を見上げた。風が吹くたびにひらりひらりと落ちてくる。そのあまりの多さに蛇の目をさしてみる。

 

「『 桜の樹の下には屍体が埋まっている! 』」

 小さく物語の冒頭を諳んじてみた。

 

 そう書いたのは、此岸にいた男。

 それを読むのは、彼岸の鬼神。

 本当の満開の下で蛇の目を片手に、鬼神は忘れ得ぬ共感をした。

 

 此岸の男が何を思ってそう書いたのかはわからない。

ただ、その言葉は人ではない者にも充分な説得力を持って響いたのである。

 

 蘇るのは此岸にいた日々。ずっと、ずっと昔、もう記録に残っていないほど太古の記憶。 柔らかな緑色に染まる山の中腹。咲いていたのは 山桜だった。野生の桜の木は逞しく伸びて、白に近い、淡いピンク色の花を付けていた。 それを見て、幼い少年は怯えた。何が怖かったのか、それはわからなかったけれど。

 山桜の命は短い。美しい花は7日ともたずに散ってしまう。そのくせ、花の幻影は、まるで幽霊のようにずぅっと彼の脳裏に、残るのだ。

 美しい。だけれど、同じくらい恐ろしいと思った。

 しかも、自分が何に怯えているのか、少年にはわからなかった。それが尚更、彼を苛立たせ、怯えさせた。

 村人たちは皆その花が好きで、時には食べ物やお酒を持って山に登った。少年には縁のないことだったけれど、連れて行かれないと思うとほっとした。

 自分は他の人々のように桜を楽しむ権利を与えられていないのだ。幾度となく、そう思ったのは、自分が他人とは違う運命を持った者になる運命を負うていたからだろうか。

 

しかし…

 

「なるほど、桜の木の下には死体が埋まっていて、 桜の根が彼らを抱き、その透明な漿液を吸っている…」

 あぁ、どうせ空想だろう。分かっていたが、やはり想像してしまう。そして、その想像から逃れられなくなる。

 この上もなくグロテスクで醜い空想。

 きっとそれは受苦無有数量処の光景に似ているだろう。あるいは、冬虫夏草にも似ている。毒の根が傷口に根付いていく恐怖。自分が少しずつ削られていく想像。

 それで良いのだ。だってその上は桜の花がいっぱいに咲き誇っているのだから。

                                               

 「世界は常に美しさと残酷さを隠し持っているものです」

 

 呟いてみれば、白い犬が首を傾げる。

 

「何?どうしたの、鬼灯様?」

 

 別に何でもないのです。くだらない独り言です。そう言うと、白い犬はいつもの骨を齧る作業に勤しむ。

 

 思えば、あの日の幼い少年はそれに気づいていた。

 だが、見つけられなかったのだ。美しい花に隠されたグロテスクなものを。だから怯えていたのだ。恐ろしい物が側にあるのに、それを確認出来なかったのだから。

 けれど、桜の樹下に死体が埋まっているだなんて、誰が考えつくだろう。

 

 もし、時間を遡る事か出来るようになったら、鬼灯は少年に教えてやろうと思った。

 満開の桜の木の下で怯えきって立ち竦む少年の耳元で囁いてやりたいと思った。

 

 「桜の木の下には屍体が埋まっている」

 




 読んでくれてありがとう!
 『櫻の木の下には』に限らず、鬼灯様の読んでいる本が大好きで、彼とお話したらとっても楽しいだろうなぁと思う眩草です。
 先日も鬼灯様が『悪徳の栄え』読んでいて息をつまらせていました。

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