新戸がいるせいでシリアスさが台無しになる……タイトルの時点で笑っちゃうもん。(笑)
月日は流れ、年を越し。
新戸は東京府奥多摩郡にある雲取山の麓にある街を訪れていた。
「……ったく、何で俺が行かなきゃなんねェんだよ。他の柱でもいいだろうが」
どこか不満げに呟く新戸。
というのも、普段は大体私用――それも大体が賭場か知人への訪問――で外出する彼だが、今回は鬼殺隊の
その内容は、水柱・冨岡義勇の援護。新戸自身としては、水の呼吸を極めた義勇を助太刀する必要性はない上、そもそも自分は
なお、この時一緒にいた隠達は、その気迫に呑まれて卒倒しかけたとかしなかったとか。
「っつーか天狗じいさん、まだあのこと根に持ってんのかよ……」
参ったな、と頭を掻く。
鬼殺隊には、隊員の育成を担う
その原因は、やはり素行の悪さ。鬼殺隊士として働く気がない上、どうせ使い道少ないだろうからと柱の給料を盗んだり、鎹鴉を振り切って独断行動しまくる問題児中の問題児を誰が庇ったりするものか。実際、鬼殺隊の風紀が乱れるからと書状を何度も送ってるぐらいだ。
その育手の一人が、雲取山の近くにある狭霧山で暮らす元水柱・
「門前払いはないでしょ……働く気はないとはいえ」
プンスカと不満を漏らす新戸。
この生物、自覚しておいても働かないのが余計に頭にくる。
すると……。
「あの」
「あ?」
後ろから声を掛けられ、振り返る。
そこには、髪や瞳に赤が混じった、左額に火傷の痕を持つ市松模様の着物を着た少年が。背負っている籠からは少しばかり炭の匂いが漂っており、炭焼き稼業の家だということが一発でわかった。
(あの髪と瞳……噂に聞いた
(人間の匂いじゃない……でも血の生臭さや、獣の臭いがない……っていうか、酒の匂いが強いなこの人!)
お互いにまるっきり違うこと考えているが、気になっているのは同じ。
ふと新戸は、あることを思いだした。
(そういやあ、最近炭欲しかったんだよな……消臭用と料理用で)
「……あの、もしかして炭が欲しかったんですか?」
「!? ……何でわかった」
「俺、昔から鼻が利くんです。あなたから炭を欲しがるような匂いがしたんで」
少年の言葉に、きょとんとした表情を浮かべる新戸。
どうやら異常発達した嗅覚で、相手の感情を読み取れるようだ。嗅覚の神経は、記憶や感情を司る脳の部分に直接つながっているからだろうか。
「……鬼いちゃんが人間じゃねェってことも、勘づいてたりする?」
「っ……」
「顔色が変わったね、当たりかな」
あからさまに動揺した少年に、新戸は悪い笑みを浮かべた。
「そう……鬼いちゃんは鬼だ」
唇を引っ張り、鋭くなった犬歯を見せつける。
それと共に鬼の気配を感じ取ったのか、少年は眉間にしわを寄せて睨んだ。
「いやいや、俺ァ人を喰わねェ体質の鬼だよ。酒と煙草さえあればどうにかなるから、別にビビるこたァないよ」
「わかりました、すいません疑って!」
「いや、いやいやいや! もうちょっと疑った方がいいんじゃない?」
「噓をついてない匂いがしたので!」
キッパリと言われ、新戸は不安そうに見つめる。
――この子、絶対騙されやすい性格じゃねェか……。
「俺は
「鬼いちゃんは小守新戸。よろしく」
怠け者の鬼殺隊所属の鬼・小守新戸は、働き者の炭焼き一家長男・竈門炭治郎と邂逅するのだった。
*
その日の夜。
雲取山の山中にある竈門家に、新戸は義勇を見つけるまでお世話になることになった。
「「「あーーーーーっ!!」」」
「ぶっはっはっはっ! 甘い甘い! クヌギコマを持った俺は天下無敵よォ!」
夕食後、大声で叫ぶ子供達に対し、新戸は連戦連勝で大人げなく爆笑。
産屋敷家の御子息達と壮絶な戦い? を繰り広げた「どんぐりゴマ」を竈門家でも決行し、新戸は上機嫌になっていた。
「うーーーーっ……もう一回!!」
「懲りねェ
次男坊の
このやり取り、かれこれ5回目である。
「お兄ちゃん、私もやるー!」
「俺もー!」
次女の
しかし竹雄は、相当悔しいのか非常に嫌がっている。
「まあ、アイツが見つかるまでは世話になるんだ。また明日相手してやっから、代わってやんな」
「うぅ……次は勝つからな!」
そんな新戸達の様子を、長男は感心した様子で見ていた。
「上手なんですね、新戸さん」
「
愉快そうに笑う新戸に、炭治郎も釣られて笑う。
新戸は産屋敷家によく出入りし、その御子息達の子守をあまねに代わってやれる程に子供の扱いに長けている。煉獄家で居候していた頃は幼少期の杏寿郎の相手をしていたし、万世極楽教においては信者の子供の世話もしたことがある。
新戸という鬼は、
「炭治郎、そういやあ一番下はどうした?」
「
末弟はどうやら他の兄弟よりも一足早く寝床に向かい、長女があやしているようだ。
「禰豆子ちゃんねェ……嫁に行く時ゃ大変だろうな、二つの意味で石頭のお前という障壁を越えにゃならんからな」
「確かに! 兄ちゃん頭硬いもんな!」
「こら、竹雄!」
新戸の呟きに便乗した竹雄を、炭治郎は叱る。
その光景もまた、平和の一言に尽きるものだ。
「それにしても、悪いねホント。こんなどこの馬の骨か知れない鬼を入れさせてくれて。金の方は分のアレで勘弁してくれ」
「いいのいいの、気にしないで新戸さん」
遠慮しなくていいのよ、と微笑む割烹着を着た炭治郎の母・
頭突きで猪を追い払って撃退したという武勇伝を持つ、とんでもない母親である。
「あんなに頂いていいの? あなた働いてる?」
「
「なんで兄ちゃんみたいに働かないの?」
「ん? ああ、死んだ兄ちゃん達に
ただ空腹感はあるんだよなァ、と呑気にボヤく。
医者である鬼の珠世ですら未知の領域が存在すると断言する、鬼であって鬼にあらずという言葉が似合う、文字通りの未確認生命体。鬼擬きというよりも人間擬きというのが正しいのだろうか。
「……そういやあ炭治郎、その耳飾りは何だ? お前のか?」
「ああ、これですか? 父さんが譲ってもらったんです。俺のご先祖様の物らしいんですけど」
「ってこたァ、何かの祭具か? そのご先祖様、神職の人間なのかもしれねェぞ」
「それは違うと思います。でも、ヒノカミ神楽は神楽舞だし……似てるのかな」
炭治郎の口から出た言葉に、新戸は目を細めた。
ヒノカミ神楽とは、全部で十二ある舞い型を日没から夜明けまで何万回と繰り返し、一年間の無病息災を祈る厄払いの神楽だという。神職の出でもないのに天津神に神楽舞を奉納する慣習があるとは、かなり珍しいことだ。
(……日没から夜明けまで舞い続ける……かなり過酷だな)
「新戸さん」
「! な、何だ?」
突然声を掛けられ、肩をビクつかせる新戸。
声の主は、葵枝だ。
「お風呂でもどうかしら?」
「おっ、ちょうど気分スッキリしたかったんだ! じゃあな、今日は俺の勝ち逃げだ」
「ズルーい! 一度も勝負してないのにーーーっ!!」
「ダッハッハッハ! 俺は心が澱んでるんでな!」
花子の抗議の声を一蹴し、新戸は勝利宣言をするのだった。
「フゥー……」
入浴を終え、新戸は竈門家の外で一服していた。
子供達がいる上、煙草の不始末で火事となっては申し訳が無い。新戸が外で喫煙するのは至って自然なことだ。
(……にしても、ヒノカミ神楽ねェ)
新戸はいつも通りの飄々とした態度だが、内心ではヒノカミ神楽に興味を持っていた。
炭焼き職人の家系である竈門家は葵枝・炭治郎・禰豆子・竹雄・花子・茂・六太の七人家族で、大黒柱である
というのも、炭治郎が言った通りヒノカミ神楽は全部で十二ある舞い型を日没から夜明けまで何万回と繰り返す。特に冬場であれば日没は早く日の出は遅いため、相当長い時間休まず舞い続けることになる。ましてや炭十郎は病弱であったようで、いくら大黒柱で継承者であろうと、そんな過酷な舞を舞おうものなら命にかかわる。
だが、話の流れでは病死するまでの間、年に一度のヒノカミ神楽を最後まで舞うことができていた。しかも葵枝から聞いた話では、舞った後は何事もなく過ごしていたのだという。
(やっぱり……どこからどう考えても、ただの炭焼き一家じゃねェ)
新戸は一家から得た情報から、竈門家とヒノカミ神楽の真実を炙り出そうと一人考える。
神職ではなく、炭焼き職人が継承する神楽舞。
日没から夜明けまで何万回と繰り返すのに、継承者はその間一切疲れずに舞える。
耳飾りは祭具ではないが、竈門家の先祖から受け継いでおり、元の持ち主がいる。
そのことから、新戸の中である一つの仮説が成立した。
「……もしかして、全集中の呼吸と関連性があるのか?」
全集中の呼吸は、言わずと知れた鬼殺隊士が扱う特殊な呼吸術。これを昇華させた全集中・常中は、体得すれば身体能力を向上し続けることが可能な上、応用すれば血管や筋肉を収縮させて傷口を閉じたり、心臓を一時的に強引に止めるなどの身体操作が行えるようになる。
もし、その全集中の呼吸がヒノカミ神楽にも関係していたとしたら……?
(……これは結構な重大案件になりそうだぞ、耀哉)
根拠に欠けるが、確信はあった。
ヒノカミ神楽を日没から日の出まで舞い続けるために、全集中の呼吸を活用する――決定的な証拠を掴んではいないが、そう考えると病弱だった炭十郎が舞えた事実に対する理由として筋が通る。
それを前提にすると、ヒノカミ神楽こそ全集中の呼吸の流派の一つであり、神楽舞の形で全集中の呼吸を後世に伝えるということは、あの
「……炭治郎に明日聞いてみるか」
竈門家に隠された秘密の領域に、新戸は足を踏み入れようと目論んだ。
*
翌日の夜。
新戸はだらけきった様子で畳の上で寝っ転がっていた。
「炭治郎よ~、早く帰ってこねェとお前の分の明日の朝飯全部食い尽くすぞ~……」
「大人げない……」
「悪い大人だ……」
思いやりが強く心優しい長男ですら腹を立てるような意地悪を口にする新戸に、禰豆子と竹雄は白い目で見る。しかも新戸が完全に鬼であることすら忘れている。
ここまで態度が悪いのは、新戸の起床が十時頃であったことに加え、やりたくもない炭作りや家事に付き合わされて気分が落ち込んだからである。やはり新戸は新戸のようだ。
「母ちゃん、兄ちゃん三郎爺さんのところかな? この山の麓だし」
「そうね、今日は雪深いから、明日になるかもしれないわね……」
そろそろ寝ましょうか、と声を掛けようとした、その時だった。
――ドンドン
「あら? こんな時間に誰かしら」
扉を叩く音が響く。
葵枝は応じようと扉に手をかけようとしたが――
「ちょい待ち。全員、外に出るな」
「新戸さん……!?」
いつの間にか立ちあがった新戸が、鋭い目つきで声を発する。
傍に立てかけていた仕込み杖に手を伸ばし、いつになく真剣な表情で立ち上がる。
「俺が出る。何があっても家から出ちゃダメだ」
「新戸さん……?」
「下がってろ、
その地を這うような低い声に、一同は思わずたじろぎ、押し入れの方へと下がった。
「はいはーい。何の用ですか? 道でも迷った?」
対する新戸は、いつも通りのだらけきった態度で、扉を開ける。
そこに立っていたのは、洋装を着て目が血のように赤い青年。
そう、新戸が属する鬼殺隊が長きにわたり追っていた、不倶戴天の怨敵――
「っ!? 貴様……なぜここに!!」
「あれ? 無惨さんじゃないですか。
「……は?」
十三年の時を経て、ついに両者は因縁の再会を果たした。
【ダメ鬼コソコソ噂話】
新戸は竈門家の手伝いで薪を割る時、斧ではなく仕込み杖を使ってました。
【重大発表】
過去の活動報告で「鬼滅の刃」の小説投稿の際のアンケートにあった、「鬼のオリ主は伊之助の子分役」というネタの小説を投稿しようと思います。
新戸と対のオリキャラに仕立てますので、時期を見計らって投稿します。