新たに鬼滅の新小説「我が名、嘴平伊之助が子分・嘴平一子!」も連載中ですので、是非お読みください。そちらも感想・評価をお待ちしてます。
――あれ? 無惨さんじゃないですか。
唐突な発言に、無惨は呆然とした。
こいつ、今何と言った?
「……何だと?」
「いや、あんまりにも音沙汰がないもんですから。お亡くなりになられたのかと思ってたんですよ」
無惨の顔にビキビキと青筋が浮かび上がり、体が怒りで震え始める。
音沙汰がないのは、そう仕向けてるからである。太陽を完全に克服するためにあらゆる手を尽くす無惨にとって、鬼殺隊は最大の邪魔者。ゆえに十二鬼月を筆頭に多くの鬼を放ち、自分は人間に成りすまして手段を探っていた。
――それなのに、こいつは私を故人だと思っていたのか!?
「……悪く見えるか?」
「はい?」
「私の顔は青白いか? 病弱に見えるか?
「ええ、パッと見は。色々と流行ってるご時世ですから」
何と思いっきり頷いている。
人間はおろか鬼ですら滅相も無いと否定するのに、新戸は勿論とでも言わんばかりに肯定。しかも即答である。
というか、それ以前にお互い不死身の鬼である。これは完全に確信犯だ。
「……このうつけ者がっ!!」
「うをぉ!?」
無惨は左腕を巨大な触手に変化させ、薙ぎ払った。
新戸は咄嗟に仕込み杖を抜いて受け止める。
「こんな平和なド田舎で、そんなモン振るっちゃダメだろワカメ頭」
「……やはり貴様は殺すべきだった。あの量の血に順応できたから、成長次第では喰らってやろうと思ったが……」
「そいつはやめとけ、腹下しても責任取らねェぞ?」
飄々としつつも、仕込み杖に手を添え真剣な目つきになる新戸。
人類の天敵を統べ、古より人々を苦しめた鬼殺隊の宿敵・鬼舞辻無惨。いくら頭の足りない小物でも、その戦闘能力は本物だ。
斬撃と剣圧を飛ばす血鬼術と搦め手嵌め手を主軸とする新戸にとって、煽ったり冷静さを欠かせることは容易いが……。
(気ィ抜いたらオダブツだ……とりあえずは一定の距離を保ちながら日の出まで持久戦に――)
だがここで、思わぬ事態が。
「……新戸さん?」
「っ! しまっ――」
何と禰豆子が様子を見に顔を出したのだ。
その姿を見た無惨は右腕を触手に変化させ、禰豆子の体を貫こうと振るった。
新戸はすかさず仕込み杖を抜いて斬撃を飛ばし、攻撃の軌道をどうにか逸らしたが間に合わず、禰豆子はそれを食らってしまった。しかし直撃を受けてれば間違いなく死んでいた攻撃で、幸いにも掠った程度。血を流して倒れてしまったが息はある。
が、もし鬼の始祖の血を受けてれば――
「黒死牟と似た血鬼術か……どこまでも癪に障る奴め」
「っ……! てめェ、気まぐれで来たわけじゃねェな」
新戸は確信した。
先程まで自身に集中していた殺意が、禰豆子の姿を確認した途端、彼女の方に集中したのだ。新戸と禰豆子を比較すれば、どちらが厄介なのかは一目瞭然であるのにもかかわらずだ。
これは八つ当たりや癇癪などではない。こいつらは絶対に生かしておくわけにいかないという、
「新戸さん!! 禰豆子!!」
「姉ちゃん!!」
「来るな!! この頭の足りねェ小物の狙いはあんたらだ!!」
新戸は無惨を罵倒しながら、竈門家を庇うように構える。
彼としては、こういう面倒事はドが付く程に嫌いだ。しかし今後のこと、特に自分に後々押し付けられるであろう仕事を考えると、否が応でも動かざるを得ない。
「クソが、防衛戦は苦手なんだよ……!」
「ほう……それはいいことを聞いた。護ってみろ異常者め」
悪意に満ちた微笑みを浮かべたことを皮切りに、無惨と新戸の全面対決が始まった。
先手を打ったのは無惨。鞭のように変化した両腕で新戸を攻撃し、新戸は血鬼術で斬撃を飛ばし、刀傷を与えながら両腕を弾いていく。
(っ! ……この感じ、鬼狩りの刀と同じ……!)
新戸の斬撃を受け、無惨は苛立った。
新戸が放つ斬撃は、日輪刀と同じ効果を持つ。頸を斬られても無惨は死なないが、それでも不快に思える程の痛みは覚える。
一番腹立たしいのは、人間を一人も食っていないのにこれ程の力を得た新戸の体質だ。自分を差し置いて人間を超越した生物の素質があったのだろうか。
「小癪なっ!」
無惨は変化した両腕にある多数ある口で吸息を始めた。
その勢いは、さながら重力場や竜巻でもあるかのよう。見事に嵌った新戸は吸い寄せられてしまい、体の一部が抉り取られかけた。
が、新戸の真髄はここからだった。
「脇が
新戸は仕込み杖を無惨の右腕に深く突き刺して堪え、空いた左腕を振るって五つの小さな斬撃を飛ばし、無惨の両眼を斬った。
何と、新戸は左手の爪から斬撃を放ったのだ。切れ味はかなり落ちるが、補助攻撃や不意打ち、刀を落としてしまった場合の一時的な対応などで重宝している攻撃手段である。
(爪から斬撃だと!?)
まさか爪からも斬撃を放つとは思わなかったのか、面を食らった無惨は吸息の攻撃を緩めてしまった。
鬼という種族特性と桁外れの身体能力を重視した戦法である無惨に対し、新戸は戦略眼や戦闘技術を重視した戦法だ。無惨が今まで屠ってきた剣士とは別次元であり、鬼の不死性と日輪刀と同じ効果を持つ血鬼術も相まって、鬼の始祖にとって新戸は〝相性最悪の敵〟となっているのだ。
「その程度で穀潰しの玄人に勝とうなんざ千年
一瞬の隙を突き、無惨の顔面に蹴りを叩き込む。
新戸も一端の鬼だ。人間を遥かに上回る怪力を持つのは他の鬼と変わらないため、無惨は文字通り吹っ飛んでいった。
「……新戸さん……」
「すっげぇ……」
深手を負った禰豆子を介抱する葵枝と竹雄は、あのだらけきった新戸の意外な強さに驚愕する。
これが、鬼の強さなのか。
「……産屋敷の狗め……楽に死なせんぞ……」
「……もう完治してんのかよ。もはや呆れるぜ」
血管が浮き出た憤怒の表情である無惨に、新戸は引きつった笑みを浮かべる。
人格面や指導者としてはポンコツだが、その最強すらも超越せんとする強さは伊達ではないようだ。
「……もういい。お前の顔など見たくない。肉片一つ残らず喰らってやる」
「それはマジで止めといた方がいいんじゃね? 酒と煙草の臭いと味が血液に染み込んでるらしいぞ。現に珠世さんもこの世の終わりみたいな顔で卒倒したらしいし」
「貴様本当に鬼なのか!? 喰う気が失せたわ……いや、待て。珠世だと?」
人間どころか鬼としても悪い意味で逸脱し始めた新戸に、さすがの無惨もツッコミを入れたが、面識のある女の名前に食いついた。
「ああ、知ってんの? アンタの悪口でいつも盛り上がってる間柄なんだけどよ」
「あの女狐、私をコケにするか……!」
「言っとくけどアンタがコケにされるようなマネしてるからだからね」
思いっきり煽りまくる新戸に、無惨は「黙れ!!」と激昂。
それを新戸は〝追儺式 鬼こそ〟で一閃し、見事に両断するが、あっという間に再生してしまう。
「ちっ……やっぱ
「当然だ、異常者が天変地異に勝てるとでも思ってるのか?」
鬼としての格の差が浮き彫りになったことに苛立つ新戸に、無惨は笑みを浮かべた。
敵としても鬼としても得体の知れない生物の、ほんの一瞬だけ垣間見た「心の隙」。千年以上生きてきた無惨は人間の心の隙を突くことに長けている。新戸とて元は人間なのだ、心をへし折ることも不可能ではない。
無惨は新戸に対し精神攻撃を仕掛け、感情的になって隙だらけになったところで袋叩きにする作戦を取った。
「いいか、新戸。私に殺されることは大災に遭ったのと同じだ。どれだけ人を殺そうとも、天変地異に復讐しようという者はいない。ほとんどの人間がそうだ。だが異常者の集まりである鬼狩りは、仇なんぞにこだわってる。お前もそうだろう? 考え直せ、死んだ人間が生き返ることはないのだ。生き残ったのだからそれで十分だろう」
「その異常者を生み出し続けてんの結果的にアンタだよね」
新戸の発言に、無惨は呆然とした。
激情に駆られることもなく、憎悪を向けることもなく、言い放ったのはただただ冷たいツッコミ。
予想を裏切られてポカンとする無惨に、今度は新戸が語り出した。
「誰かを殺せばその家族や仲間、縁者が何らかの形で必ず復讐や報復に現れる。それは殺しかもしれねェし、法に則った裁判かもしれねェし、殺された方がまだマシだと思うやり方かもしれねェ。俺はそういう奴を多く見てきた」
鬼殺隊の隊士の多くは、鬼に対して並みならぬ憎悪を抱いている。
鬼に対して復讐を成就できた者がいることも、果たせぬまま死んだ者がいることも、新戸は知っている。そしてその想いを受け継ぎ、亡き者に代わって成就させた者がいることも。
「鬼殺隊と産屋敷一族が今日まで存続してるのは、全部アンタのザ・自業自得だ。俺が始祖だったら三年あればこんな戦い終わらせられるぜ?
あくどい笑みで語る新戸に、無惨の怒りは頂点に達した。
――どこまで私を嘲笑えば気が済むのだ!!
「どうやら私は誤解していたようだ……貴様こそが
「その真の異常者を生んだの、結局はアンタだけどな」
「貴様ァァァァァァァァァァッ!!!」
無惨は両腕を振るうだけでなく、背中から九本の管状の触手を生やし放った。
その集中砲火に臆さず、新戸は〝鬼威し 鬼太鼓〟を放って強烈な剣圧を展開。全ての触手を弾き返した。
「ぐっ……」
「さて……ボチボチ終わらせっか」
すると新戸は全ての力を手に集中させ、仕込み杖の柄を全力で握り締めた。
鬼特有の怪力による「万力の握力」は、刀身にも伝わる。そして――
「――っ!?」
「フゥー……」
その刀身の変化を目にした無惨は、顔色を悪くした。
新戸の仕込み杖の刃が、赤く染め上がったのだ。
それと共に、無惨自身が封印していた
「貴様、なぜ――っ!!」
問い質そうとした矢先に、新戸は斬撃を飛ばした。
深紅の斬撃は無惨の肉体を斬り裂き、灼けるような猛烈な痛みを与えた。
「鳴女っ!!」
刹那、琵琶の音が鳴り響き、無惨の背後に障子が現れた。
あの野郎、逃げる気か――本来なら追撃するべきだろうが、新戸の戦いはあくまでも防衛戦だ。竈門家を無惨から護り切れればいいのであり、これ以上戦えば
それに――
(今は禰豆子だ。まだ昏倒してるが……)
仕込み杖を鞘に収め、無惨が逃亡したのを視認してから葵枝達の元へ駆けつける。
「大丈夫か?」
「新戸さん……」
「うわあぁぁん!」
「怖かったよぉ!!」
脅威が去ったことに安堵したのか、花子と茂は思わず泣き喚いた。
あれ程までに強大な存在に命を脅かされ、どうにか家族が無事でいられたのは奇跡としか言い表せない。もし新戸がいなければ、竈門家は今頃全滅していたところだろう。
「……それより、葵枝さん。禰豆子なんだが……」
「今は中で横になってるわ」
「だといいんだが……」
どうも嫌な予感がしてならない。
新戸は様子を見に家の中へ入った途端――
「グアァウ!!」
『!?』
獣のような声を上げ、禰豆子が新戸に襲い掛かった。その顔には太い血管が浮かび上がり、食いしばった口からは新戸と同じく鋭い牙が見え、瞳孔も猫のように鋭かった。
新戸は咄嗟に左腕を盾にして防ぐ。禰豆子の牙が腕に深く食い込み、鮮血が滴る。
「ああ、やっぱこうなっちまったか……!!」
「禰豆子!? どうしたの!?」
「
その言葉に、竈門家は驚愕と絶望に包まれる。
鬼殺隊は鬼を狩る組織。鬼になった人間は容赦なく斬り、成り立ての者も人を喰らう前に斬るのが掟だ。新戸は鬼殺隊に属するが結果的に得すればいいとやりたい放題し、時には他の鬼とも接触・結託する。
それでも、締める時は締める。新戸はその判断を問われていた。
(どうにか庇えたが、このままじゃあ……これで義勇が来たら最悪。早く手を打たねェ――)
「――ウガアアアアアアアアアッ!?」
刹那、禰豆子が断末魔の叫びを上げて倒れた。
何事かと思って近づいてみると、禰豆子は白目を剥いて喉元を押さえ、口からブクブクと泡を吹いていた。
「禰豆子!? 今度はどうしたの!?」
「姉ちゃん大丈夫か!!」
「お姉ちゃん!!」
「ガゥ……」
悶絶する禰豆子は、ついにガクッと気を絶した。
「……まあ、一件落着か」
新戸は安堵すると共に、自分の体質に戦慄を覚えた。
以前、新戸の血を試しに飲んだ珠世がこの世の終わりみたいな顔で倒れたという。血液検査という名目で血を渡していたので、おそらく少量、それも多くてお猪口一杯分程度だろう。
だが、それぐらいで成人女性の鬼を昏倒寸前にさせたくらい、お酒と煙草の臭いと味が新戸の血に染み込んでいる。血だけでなく肉もそうだろう。それを直接喰らおうものなら、いかに飢餓状態の鬼でも溜まったものではない。
そして運悪く、禰豆子は新戸の腕に食いつき、捕食しようとした。それが禰豆子を正気に戻したのかもしれない……というか、完全に意識を失っている。
(そりゃあ無惨のバカが嫌がるわけだ)
不味い上に臭く、味を覚えた途端に悶絶し、最悪気絶する。
それは餌や捕食対象ではなく、ただの毒物である。そんなものを喰らう鬼などいないだろう。
「新戸さん……これからどうすれば……」
「うーん……とりあえず応急処置で口枷でも作って嵌めるか。竹とかねェ? あと縛る用の布」
「お、俺! 取ってくるよ!」
竹雄がそう言って動いた直後、人影が迫った。
それは気絶する禰豆子へ向かい、刀を抜いて斬りかかった。が、新戸がいち早く察知し、人影に抜刀した仕込み杖の切っ先を突き付けた。
人影の正体は、新戸が耀哉から頼まれ探していた水柱・冨岡義勇本人だった。
「なぜ庇う、新戸」
「いや、それ以前にてめェどこにいたんだよ! こっちは鬼舞辻のバカの襲撃に遭って大変だったんだぞ!!」
「何だと……!?」
無惨と一戦交えたことを知り、顔色を変える義勇。
鬼舞辻無惨は姿を隠すのが異様に上手いため、柱ですらも接触したことがない。だが新戸は無惨と遭遇し、一戦交えたというのだ。
人喰い鬼と鬼殺隊の均衡が崩れようとしていることを感じたのか、義勇は刀を鞘に収めた。
「……まずはお館様に報告だ」
「俺は嫌だよ、どうせ腹切るとか書くんでしょ? それ読まれるのスゲェ嫌なんだよ」
「…………」
「え? 何その沈黙?」
本当に書くのかよと、新戸は頭を抱えるのだった。
炭治郎が帰宅し、禰豆子も意識を取り戻すのは、一夜明けた翌日の朝だった。
【ダメ鬼コソコソ噂話】
新戸の血肉は鬼にとって猛毒。
肉を喰らったら半年近く卒倒します。
ちなみに童磨も新戸の血をすでに口にしており、あまりの不味さにしばらく血肉恐怖症になったとか……。