鬼は鬼殺隊のスネをかじる   作:悪魔さん

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6月最初の投稿。
今回、新戸の体に異変が……!


第十三話 あいつと一緒になるのはなァ……。

 鬼舞辻無惨と小守新戸による、竈門家を巡った攻防から一夜明けた。

 炭を売り終えてから、麓に住む三郎じいさんに勧められて一晩泊まった長男・炭治郎が帰宅した。

 長男の無事に泣いて喜ぶ家族と、口枷をつけたまま眠り続ける長女、そして飄々とした鬼の客人とその隣で正座する剣士……何があったかわからない炭治郎に、新戸はあの夜の出来事を一通り語ると、全集中の呼吸でも使ってるかと思える程の速さで頭を床に擦り付けた。

「ありがとうございますっ……!! 家族を護ってくれて、本当に……!! 長男の俺が……!!」

「いや、長男だろうと次男だろうと、あのバカの相手は無理だって」

 新戸は何となく炭治郎の頭をわしゃわしゃと撫でる。

「そんでだ。これからについてちょっと話し合おう」

「……それはお前が決めることじゃない」

「この中で一番喋るの苦手な奴に言われたかねェって」

 新戸のド直球な返しに、義勇は心外!! と言わんばかりに驚いた。

 ただし、事実である。

「うっし。じゃあもう一度最初(イチ)から全部話そうか。話長くなるから寝てもいいぞ」

「それはダメだろう」

「いいって、どうせ一人ぐらい起きてるだろうし」

 煙草に火を点け、新戸は全てを語った。

 竈門家を襲った男・鬼舞辻無惨の正体、鬼殺隊と鬼の戦い、隣にいる冨岡義勇の立場……新戸が竈門家が知るべき事実と判断した、鬼殺隊と鬼に関するありとあらゆる情報がポンポンと出される。

 あまりにも浮世離れした話だが、新戸という鬼を客人として迎え入れた上、昨夜の襲撃に遭ったことから、一家は割とすんなり受け入れた。中々に図太い家族であった。

「っつーわけで、こっからは竈門家の今後についてだ」

 その言葉に、一同は顔を強張らせた。

 ちなみに三男の茂と次女の花子、四男の六太に関しては寝そうになってるので放置している。

「ぶっちゃけた話、最終的な決定権は耀哉にあるから何とも言えねェ。だが今回の件で保護は確定だな」

 無惨が気まぐれで襲ったならばともかく、新戸の目から見ても明確な目的を持った襲撃である以上、このまま家に住まわせるのは危険すぎる。

 ゆえに、鬼殺隊の力が及ぶ関係者の家に移住することになると新戸は語った。

(受け入れ先はカナエんトコにするよう、耀哉に言っとくか……)

 新戸が頼ることにしたのは、元花柱・胡蝶カナエだ。

 過去の一件――上弦の壱・黒死牟との戦闘で柱を引退せざるを得なくなった彼女だが、それでも下級の鬼なら複数相手取っても単独で屠る程度の技量は健在だ。それに隊士の出入りが多く、柱の出入りもよくあるため藤の家よりも安全だろう。

 それがダメなら、煉獄家の屋敷もある。実力で言えばカナエよりも槇寿郎の方が遥かに上であり、竹雄や茂達と年の近い千寿郎とも気が合うだろう。産屋敷家も捨てがたいが、色々と制約が掛かるので最終手段だろう。

 そんなことを考えていると、一羽のカラスが舞い降りた。

「あ、鎹鴉……」

「……お館様からの書状だ」

「え? もう飛ばしたの?」

 いつの間にか話が進んでた。

 義勇曰く、無惨と新戸の一戦の件と竈門家の件を報告したところ、本部から竈門家の保護と新戸の本部出頭を要請されたという。

「呼び出し食らっちまったじゃねェか! どうしてくれる!」

「別に何もすることないだろう」

「あるわ! 俺だってやんなきゃなんねェことあんだよ」

 新戸はそう言うと、立ち上がって戸を開けた。

「どこへ行く」

「義勇、耀哉にこう伝えとけ。「〝猫の手〟を借りてくる」ってな」

「……?」

 謎の伝言を残し、新戸は逃げるように竈門家を去っていった。

 

 後に眠り続けていた禰豆子が目を覚まし、炭治郎が禰豆子を人間に戻すべく鬼殺の道に身を投じることを宣言し、義勇がそれを承諾して狭霧山の師匠に話を通すというやり取りがあったのだが。

 新戸はその事実を知らないまま、一人浅草を目指した。

 

 

           *

 

 

 その夜。

 帝都・浅草の診療所で、新戸は無惨への復讐を誓う珠世と久方ぶりに顔を合わせていた。

「あのワカメの血を受けて鬼になった嬢ちゃんがよ、俺の腕に噛みついて血を飲んだら泡吹いてぶっ倒れたんだけど、何か心当たりねェ?」

「いえ……新戸さんの血液を取り込んだことで、先に注がれた無惨の血が拒絶反応を起こしたのかもしれませんね。新戸さんの血は、鬼としても生物としても規格外ですから。あんな有害成分に満ちた血は初めてです、よく生きてられますね」

「当たり前だろ、フグが自分の毒で死ぬかよ」

 的確すぎるツッコミに、珠世は思わず困ったように苦笑い。

 その時、新戸の頭にある声が響いた。

 

 ――困っている珠世様も美しい……!!

 

「愈史郎、今「困っている珠世様も美しい」っつったろ」

「!?」

 新戸がそう指摘すると、愈史郎は顔を赤くして声を荒げた。

「なっ……なななな、何も言ってないだろう!!」

「いいや、絶対言ったね。俺の耳は都合よくできてませんぜ」

 フヒヒヒと悪い笑みを浮かべる新戸。

 顔を赤くして動揺する愈史郎を見て、クスクスと笑いながら珠世は新戸に尋ねた。

「愈史郎の顔に出ていましたか?」

「いや、頭ん中に響いたんだよ。()()()()()()

「っ!?」

 新戸が言い放った言葉に、珠世は驚愕してイスから崩れ落ちた。

 その動揺ぶりは尋常ではなく、顔は真っ青で体をブルブルと震わし、恐怖と混乱に満ちた眼差しで新戸を見ていた。

「珠世様!? おい小守!! 貴様何をした!?」

「何もしてねェよ! 勝手に腰抜かしてんだボケ!」

「そ、そんな……こんなことが……!? あり得ない……絶対にあり得ない……!! いくら血の量が多いからって……体質が変化したからって、無茶苦茶すぎる……!!」

 常に落ち着いた態度の珠世は、血の気が引いて気が動転している。

 しかし暫くすると、正気を取り戻したのかいつもの珠世に戻った。

「っ……すみません、取り乱してしまって……」

「ぜっっったい俺の身に何かあったろ。それも()()()()()()のが」

「え、ええ……」

 珠世は冷や汗を流しつつ、いつになく真剣で、どこか恐怖心を孕んだような眼差しで新戸を見据えた。

「新戸さん、これはあくまでも私の憶測です。ですが……かなり高い可能性を持っていると確信しています。覚悟して聞いて下さい」

「いや、まあ別に何だっていいけど」

 緊張感のない態度の新戸に、珠世はとんでもない言葉を口にした。

 

「新戸さん、あなたは鬼舞辻無惨と同じ能力が開花し始めています」

 

「なっ!?」

「はぁ!?」

 あまりにも衝撃的な内容に、愈史郎と新戸は声を荒げた。

 鬼の始祖が持つ能力を開花させるなど、聞いたことがない。

「鬼舞辻が配下の鬼に刻む呪いの一つに、配下の鬼が知覚する様々な情報を自身も共有するというものがあります。視界に映る範囲ならば思考まで読み取ることができ、またどれだけ離れていても位置を把握することだけは可能なのです」

「うわー嬉しくねェ」

 露骨にイヤそうな顔を浮かべる新戸。散々罵倒した無惨と一緒にされたくないのだろう。

 しかし、能力だけで言えば大規模な行動・作戦を実行する際にはかなり有効。情報戦の成果がよろしくない鬼殺隊にとっては、一気に情報網が広がる魅力的なチカラだろう。

 それでも、珠世にとっては戦慄を覚える事態だった。

(新戸さんの血は、()()()()()()()()()()()()()……もしかしたら……)

 珠世が最も恐れているのは、新戸が無惨以上の厄災の種となる可能性だ。

 正確に言えば、()()()()()()、である。

 新戸は不老不死の鬼であるが、無惨と違って人間の血肉を摂取する必要が無く、短時間なれど日光への耐性がある上、現在進行形で体質が変化している。その変化の行きつく先によっては、人間と鬼による争いが悪化する。

 惡鬼滅殺の鬼殺隊と無惨率いる人喰い鬼に加え、強欲な人間という第三の勢力が生まれ、夜だけでなく昼も死の臭いが漂い日ノ本を覆う……そんなことになれば、この国から真に平穏が失われるかもしれない。それだけは何としても避けねばならない。

(鬼舞辻の日光克服だけでなく、新戸さんの体質変化の果ても注意しなければ……)

「俺の体質か……そこんトコは、俺も気ィ配るわ」

「っ!!」

 思考を読まれたことに、珠世は一瞬動揺するが、すぐさま落ち着きを取り戻した。

 そもそも珠世と愈史郎は、新戸の血を摂取して人間の食べ物を口にできるようになった。愈史郎が思考を読まれるのなら、珠世も例外ではないのだ。

「……ってことは、童磨も禰豆子もそうなるのかねェ」

「ええ、おそらくは」

 そう言い切る珠世に、新戸は顎に手を当てた。

 上弦の弐である童磨は、新戸の悪友であると同時に、無惨側の最高戦力の一角である。彼の思考を読めば、間接的に無惨の命令や動きを盗み聞きすることもできるかもしれない。それが成功すれば、無惨の頭無惨な計画も筒抜けになり、それを鬼殺隊に流せば()()()()()()()()()()()()()()可能性すら秘めている。

 無惨と同じになるのは非常に癪だが、惹かれる部分があるのは否定できなかった。

(……いっそのこと、俺の血で何か(おも)(しれ)ェの作ってもらおっかな)

 珠世の医術が非常に優れているのは、もはや疑いようがない。

 医学には薬を作る技術があるが、それは毒にも転用する。研究を重ねれば、人間にも安全かつ有効な回復薬になるかもしれないし、逆に鬼をも脅かす毒薬にもなるかもしれない。それを戦闘法に昇華すれば、たとえ全集中の呼吸を会得できずとも鬼を倒せるようになるだろう。吹き矢にするなり銃弾にするなり仕込み武器にするなり、考えれば無限に広がる。

 それを柱だけでなく一般隊士や隠にも装備させれば……。

(ヤベェ。俺の血スゲェなマジで)

「悪だくみが楽しそうだ……」

「悪人の顔ね……」

 本当に敵じゃなくてよかったと、愈史郎と珠世は心底思った。

 

 

 一方、鬼殺隊本部。

 悲鳴嶼から任務の報告を受けていた耀哉は、義勇からの手紙を受け取っていた。

「……そうか。ついに新戸も動いてくれるんだね」

「お館様、「〝猫の手〟を借りてくる」とは一体……?」

「私の父、先代当主の頃から新戸が産屋敷家に対してのみ使っている暗号だよ」

 耀哉曰く。

 猫の手とは、猫のように鋭い爪を持つ者という意味。すなわち新戸と面識のある鬼ということを表している。新戸が猫の手を借りてくると伝える時は、水面下で何があったかは全く知らないが、必ずと言っていいくらい鬼殺隊に有利に働く。

 つまり「〝猫の手〟を借りてくる」とは、新戸が自らが信頼する鬼と接触し行動を起こすということを知らせる事前通知なのだ。

「君達もわかっているだろう? 新戸は振る舞いや態度とは裏腹に賢く教養があり、謀略に長けている。無惨を出し抜くために、()()()()本気になってくれた。もっとも、私のスネをかじり続けるためだろうけどね」

「……なぜそれをもっとしてくれないんでしょうか」

「それは私にもわからない。彼とは君達よりも長く付き合ってるんだけど、未だに未知の部分というか、謎に包まれた一面があるんだ」

 耀哉はそう言って微笑んだ。

 それは、鬼殺隊と人喰い鬼の争いが大きな転機を迎えようとしていた瞬間だった。




そろそろ伊黒や無一郎、伊之助や善逸との絡みも入れよっかな……。
あ、でもやっぱり獪岳がいいかな……。

皆さんは誰がいいですか?(笑)

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