鬼は鬼殺隊のスネをかじる   作:悪魔さん

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「鬼滅の刃」にハマったので、ついに小説投稿しました!
本作はニート気質ゆえに無惨から早速縁を切られた青年姿の鬼が主人公です。


爆誕編
第一話 九時起きは辛い。


 〝鬼〟……人を食する血の災厄。陽光を浴びる以外では死なないという不老不死に限りなく近い肉体を持ち、異能を開花させる個体もいる、悲嘆と怨嗟の声を生み続ける人間の天敵。

 〝鬼殺隊〟……「(あっ)()(めっ)(さつ)」の下、古より闇に紛れて人喰い鬼の手から只人を護り続けて来た鬼を狩る者。鍛練で超人的な技を身に付け、智慧・業・力を以て鬼に立ち向かう政府非公認の組織。

 彼ら彼女らの戦いは、鬼の始祖たる()()(つじ)()(ざん)を滅ぼすその時まで続く。

 だが、その戦いの裏で、鬼でありながら人を喰らわず、それどころか人のスネをかじり続けるクズニ……ではなく異端の鬼がいる。

 毎日をダラダラと生き、それでいて誰よりも生きることを謳歌する、どうしようもない鬼の青年。その名は――

 

 

           *

 

 

 時は一九一一(明治44)年、九月十一日。

 ここは蝶屋敷。負傷した隊士の治療所を兼ねた、鬼殺隊の最高位に立つ剣士達〝柱〟の一人である花柱・胡蝶カナエが所有する私邸。

 その私邸内の病室で、胡蝶カナエの妹である鬼殺隊士・胡蝶しのぶは白昼堂々怒声を上げていた。

(にい)()さん!! いい加減起きて下さい!!」

「……うっさいなァ、しのぶ。何時だと思ってんの? まだ朝の九時じゃん」

「もう九時です!!」

 ゆっくりと起き上がり、寝癖で爆発している頭をモリモリと掻く青年。

 詰襟の上に紫の着物を尻端折りで着用した出で立ちは、鬼殺隊でたった一人しかいない。

 

 この青年の名は、()(もり)(にい)()

 鬼舞辻無惨によって鬼となった元人間で、鬼でありながら人を喰らわない異端の鬼だ。

 本来は鬼殺隊に狩られる側の彼が、なぜ鬼殺隊の内部にいるのか。それは今からちょうど10年前に遡る。

 

 

           *

 

 

 小守新戸は、誰にも知られていない秘密がある。

 それは、前世の記憶を持っている、言わば転生者であるということである。

 平成の世に生まれたぐうたらな大学生であった彼は、ある日突然道路に飛び出してきた子供を庇い、トラックに跳ねられて命を落とした。不慮の事故で死んだ彼は、輪廻転生によって「ある世界」の過去の日本へと転生した。

 彼は華族という身分の高い家柄で、三人兄弟の末っ子として生まれた。しかし兄二人よりも3年遅く産まれたせいか、家督の話や他の名家への養子の話は一切回ってこなかったため、前世以上にぐうたらになった。今で言う「ニート」という者だ。

 末っ子がニートとなれば兄達や両親が怒るかと思われたが、金銭面以外は最低限の自立――と言っても家事の手伝い程度――はしていた上、兄達から可愛がられたため家を追い出されずに済んでいた。

 

 そしてある日、血の匂いと共に幸せは崩れた。

 

 

「……うっさいなァ」

 ある夜、新戸は苛立ちながら暗い廊下を歩いていた。

 というのも、深夜1時でありながら居間がうるさかったのだ。二階で寝ている新戸の部屋は居間の真上なので、それがモロに聞こえるのだ。

「ちょっと、今何時だと思って――」

 騒いでいた家族を一喝しようとした新戸は、放心状態になった。

 居間が殺人現場と化していたのだ。

 壁だけでなく天井にも血飛沫が染みつき、両親や兄達の遺体が横たわっていたのだ。そんな惨劇の中央に立つ、紅梅色の瞳と縦長の瞳孔を持つ見知らぬ男に新戸は釘付けとなった。

「……まだいたのか」

 地を這うような、相手の恐怖心を煽るような声に震え上がった。

 アレは人間じゃない。本物の化け物だ。

 身の危険を察知し、すぐさま逃げようとしたが、男の動きは早く、あっという間に片手で新戸の首を掴み持ち上げてしまう。

「ちょうどいい、貴様は鬼にしてやろう」

 鋭く尖った爪を首に突き刺し、男は自らの血を注ぎこんだ。

 その瞬間、新戸は声にならない悲鳴を上げて暴れ始め、床に落とされてのたうち回った。

 

 男――鬼舞辻無惨は、この家が薬師の家系と知り、「青い彼岸花」という植物の情報を聞きに訪れていた。しかし新戸の父は何も知らないと言い、さらに新戸の母が「具合悪そう」と心配そうに言ったことで激昂し、二階で一人寝ていた新戸以外を皆殺しにしたのだ。

 そして運悪く新戸は現場を目撃したため、口封じと証拠隠滅も兼ねて血を注いで鬼に仕立て上げたのだ。

 

 暫くして、のたうち回っていた新戸はゆっくりと起き上がった。

 瞳孔は猫のように細くなり、犬歯が牙のように鋭くなっていた。

 小守新戸は、鬼となったのだ。

「お前に命じる。あの肉片を残さず喰らえ。鬼になったばかりで腹も空いたろう」

 ここまでは、鬼舞辻無惨にとっていつも通りだった。

 が、ここで想定外の事態が起こった。

「……」

「何だその別の生き物を見るような目は!!」

 ピキピキと顔中に血管を浮かばせ、無惨は怒った。

 絶対的支配者の命令に、新戸は露骨にイヤそうな顔を浮かべていたのだ。

「っ……もう一度言う。あの肉片を喰って片づけろ」

 無惨は改めて命じた。

 人間から鬼への変異直後は、激しい意識の混濁・退行がある。こいつの場合はその影響が強すぎて、会話についていけてないのだ。そう必死に自分に言い聞かせながら。

 が、新戸はその遥か上を行く返答をした。

「別にいいじゃん、一日くらい。ってか何で人間食べなきゃなんないの? バカなの? あーあー、やだねえ、欲が強い人は……」

 床で横になり、尻を掻きながら欠伸をする新戸。

 これでは人間が鬼に変化したというより、人間がダメ人間に退化しただけである。

(なぜだ? なぜ私の命令を拒む!? 私は絶対的存在だぞ!? なぜこんなゴミクズが限りなく完璧な私を……!!)

 無惨は混乱していた。

 そもそも無惨の血で鬼になった者は、その時点で強い闘争本能や無惨への忠誠心といった「呪い」を植え付けられる。それは無惨に反逆できないよう肉体・意識の両面で絶対の制約をかけられている状態で、この呪いを外すことは鬼の最高位である「十二鬼月」でも、余程奇跡的な要因が重ならない限り不可能なのだ。現に無惨自身、自らの呪いから外れた存在は〝逃れ者〟となった(たま)()以外知らない。

 

 しかし、無惨はある部分を見落としていた。

 いや、そもそも思いつくことも気づくこともなかったのだろう。

 自分の血がもたらす影響が、必ず同じとは限らないということを。

 

 新戸は前世の頃からぐうたらな性格であり、今世ではぐうたらぶりに拍車をかけていた。そのいい加減さは茶菓子数個で一食を済ませることがあった程で、ただでさえ前世で生活習慣の乱れが目立ったのに、今世でさらに乱れるようになった。言わば「ずっと誰かのスネかじって生きていたい」という欲望が剥き出しなのだ。

 そんな新戸に、鬼舞辻無惨の血が注がれた。彼の血を受けて鬼になった者は、剥き出しの本能のまま人を襲うようになる。鬼の本能は人喰いという「食欲」で、無惨の支配の下、より多くの人を喰らい強くなることを目的として行動する。だが新戸の場合、鬼の本能よりも前世から継承してきたぐうたらぶりが爆発的に肥大化し、人肉や血に対する激しい飢餓や無惨の「呪い」をも捻じ伏せてしまう異常事態となったのだ。

「お兄さん、いい服着てるね。金持ってるんでしょ? 俺養ってくれない?」

「……」

 無惨は何も言わず、まるで無かったことにしようとでも言わんばかりにその場を足早に立ち去った。それはそうだ、向上心どころか自立心の無い、鬼になる前から人として色々終わってる奴を部下にはしたくない。

 私の盾になれ、役に立てと言っても「嫌だよ、何で俺?」「別に自分でやればいいじゃん」という返答が返ってくるのが目に見える。不変は好きだが、クズっぷりが変わらない意味での不変は大嫌いである。

(なき)()っ!!」

 無惨が苛立つように叫ぶと、ベベンッとどこからともなく琵琶の音が鳴り響き、襖が現れた。

 あんなクズと二度と関わるものかと、襖を通じて拠点に戻ろうとしたが、そう簡単に事は終わらなかった。

「待って待って待って待って!! 待ってよお兄さァァん!!」

「なっ!? 貴様離せ!!」

 無惨の足に、新戸が万力を込めてしがみ付いた。

「俺を養っておくれよ!! もうこの家終わってるしさ、俺を養う余裕あるでしょ!? それか1万円くらいでいいから、お金分けて!!」

「自分の食い扶持くらい自分でどうにかしろ!!」

「やだよ、俺はずっと養われたいの!! 毎日ご飯が出てきて勝手に洗濯される日々を過ごしたいんだよォ!!」

「働く気は無いのかクズが!!」

 鬼の血に適合したことでクズっぷりが増した新戸に、無惨は「しつこい!!」と叫びどうにか振り払おうとする。

「クソ、どうしてこんな奴を鬼にしてしまったんだ私は……!」

「それよりも俺を養うか3万円分けるか決めてくんない? 俺マジで遊んで暮らしたいからさ」

「何で2万も増えてるんだ!! 誰がお前のようなクズを引き取るか!!」

 ついに堪忍袋の緒が切れた無惨は、鋭い爪で新戸の両腕を切りつけた。

 この時、本来なら自動的に無惨の血が注がれるのだが、無惨の役に立つ気がないダメ鬼に注ぐ程寛大ではない彼はただ振り払うためだけに攻撃した。

「イタッ! 何すんの!?」

「馬鹿がうつる!! 二度と私に近づくな!! 金もやらん!!」

「そ、そんな!! どうか、どうかご慈悲を!!」

 

 ベベンッ

 

「……行ってしまった……」

 虚空に手を伸ばし続け、そして項垂れる。

 服装からして相当の上流階級と判断してスネをかじろうとしたが、失敗してしまった。

 途方に暮れる新戸だが、そこへ新たな来客が。

「……お前、鬼か?」

「?」

 声がした方へ振り向くと、そこには一人の男が立っていた。

 男は炎を思わせる髪が特徴的で、詰襟姿で刀を腰に差し、白地に炎の意匠がある羽織を羽織っている。

 その姿を見た新戸は、目を見開いた。

(――カネの匂いがするっ!)

 あの人、軍人っぽいからお金持ってそう。

 そう判断した新戸は、目にも止まらぬ速さで男に縋りつき、涙目かつ上目遣いで嘆願した。

「なっ!?」

「なあ軍人さん!! 俺を養ってくれ!! それか3万円分け――」

 

 ゴッ!

 

「フゴッ!!」

「馬鹿者! 鬼を養う〝柱〟がどこにいる! 俺は「鬼殺隊」だぞ!!」

 鉄拳制裁を受け、新戸は沈んだ。

 新戸は気づかなかったが、縋りついた男の正体は〝炎柱(えんばしら)(れん)(ごく)(しん)寿(じゅ)(ろう)――鬼の天敵である「鬼殺隊」の最高位に立つ剣士だったのだ。

「全く……鬼の分際で戯言を抜かすな」

「ハァ!? 何言ってんの!? 俺にとっちゃ死活問題なんだよ!! スネかじる相手、今アンタしかいなんだぞ!!」

「恥ずかしくないのか!?」

 槇寿郎は新戸の言い分に呆れ果てた。

 この鬼、鬼殺隊に居候しようと目論んでいる。

「ていうか、柱とか鬼殺隊とか言ってるけど、何それ? 俺を養ってくれんの?」

「知らないで俺に命乞いしたのか……?」

 そもそもあの言葉は命乞いではない気もするが、槇寿郎は警戒心が薄すぎる新戸に「冥土の土産に教えておくか」と思い、鬼殺隊について説明した。

 といっても、鬼殺隊は鬼の撲滅を目的とする組織だと教えるぐらいだが。

「成程……じゃあ結構な組織だな。その分資金も豊富なはず……」

 慌てる素振りも見せず、思考の海に潜る新戸。

 暫くすると、パンッと両手を叩いて爆弾発言を投下した。

 

「よし! じゃあその鬼殺隊の親分さんのスネをかじろう」

 

 首を縦に振って「俺って天才」と自画自賛する新戸に、槇寿郎はカカシのように突っ立った状態で真っ白な灰になった。

 

 

 その後、新戸は鬼殺隊に対する警戒心や敵意の無さ、いつまで経っても飢餓状態が訪れないことから、対処に困った槇寿郎は第96代鬼殺隊当主に報告。もしかしたら現状打破の要素になり得るかもしれないという当主の考えにより、新戸は鬼殺隊本部に連行されたのだが――

「君は何者だい?」

「俺は小守新戸。あなたのスネをかじりに来ました」

「おい、ぶっちゃけすぎだ!!」

 ……といった具合で、槇寿郎の肝を何度も冷やした。

 当然他の柱達は反発し斬首を主張したが、現場に残された家族の死体が喰われてなかったこと、鬼でありながら居眠りをして何度も槇寿郎に叩き起こされたこと、何より色々ぶっちゃける遠慮知らずさから「今までの鬼とは違う稀有な存在」と判断され、ひとまずは本部預かりとして柱一名の監視を条件にスネをかじることを許された。

 ただし、昼間から酒に浸るなどクズっぷりを遺憾なく発揮したため、「人を喰うより質が悪い」と頭を悩ませる柱が後を絶たなかったとか。

 

 

           *

 

 

 そして現在に至る。

「お館様の御呼び出しです!」

「しのぶ、ここ病室だよ。静かにして」

「こ、このダメ鬼……!!」

 神経を逆撫でする言葉を投げ掛ける新戸に、しのぶは額に大きな青筋を浮かばせ怒気を剥き出しにした。

 患者達や看護師達がはわわと狼狽え始め、いつ修羅場になってもおかしくない空気となった病室に、蝶屋敷の主人である花柱・胡蝶カナエが姿を現した。

「あんまりしのぶを困らせないでくださいね、新戸さん」

「姉さん!!」

「カナエ。珍しいな、腰に刀なんか差して」

 どっこいせ、と立ち上がる新戸はカナエに問う。

 彼女曰く、今日は自分がお館様の下へ案内するという。

「呼ぶなら呼ぶで何で今なんだよ」

「だからこそじゃないかしら。あなたを疑う人はまだいるもの」

 そう、カナエの言う通り、新戸に反発する者は少なからずいる。鬼殺隊公認の存在となって間もなかった頃は、随分と疎まれていた。

 ただ、それが鬼だから信用できないという理由よりも「鬼殺隊に属しておきながら働かず、遊んで暮らしているから」という理由の方が多いのだが。

「ったく、しょうがないな……墓参りする元気あるんだから耀哉が来ればいいじゃんか」

「それ全鬼殺隊士を敵に回す発言ですよ!?」

 絶対に外で言ってはいけない爆弾発言に、一同は凍りつく。

 鬼は平然と嘘を言うが、新戸は鬼でありながら素直な一面がある。ただ、それは思ったことをそのまま言うため、相手がお館様でもお構いなし。面と向かって言うことも多いため、柱を含めた多くの隊士が犠牲となっているのだ。

「さあ行きましょう!」

「ちょっと待って、俺今日は博打しに浅草へ行くつ……」

「行きましょう!」

 軽快な足取りで新戸の腕を強引に引っ張って連れて行くカナエに、しのぶは思わずジト目になるのだった。

 

 

 鬼殺隊の本部である産屋敷邸で、カナエと新戸は現当主・耀哉を待っていたのだが……。

「っ…………だーーーーーっ!! (あち)いィィ!!」

 異常なまでに汗を流す新戸は、苛立ちを露わにする。

 新戸は人を喰わないことで体質が変化した影響か、鬼でありながら日光を浴びても灰にならない。それだけ聞けば、鬼が日の光を克服することは鬼殺隊の敗北に繋がりかねないため、柱ですら血の気が引き、無惨は是が非でも手に入れ吸収したがるだろう。

 だが、新戸は日光を克服したのに未だに無惨から刺客を送られてきたことは無い。と言うのも、新戸は日光に30分以上照らされると汗が止まらなくなり倦怠感に襲われ、鬼特有の超人的な身体能力・怪力・不老不死性が著しく低下し、さらに1時間照らされ続けたら疲弊しきって動けなくなるのだ。つまり、日光を克服してると言うよりも、90分だけ日光を浴びながら活動できるようになったのである。

 無惨から見れば、日光を克服するという長年の悲願成就に対して、90分以上浴び続けると死にはしないが無駄に苦しむという代償を払わねばならないのだ。千年の努力に対して結果が釣り合わない上、そもそも新戸は無惨から「馬鹿がうつる」という理由で生理的に無理な相手と認識されている。ゆえに新戸は無惨に狙われず、こうして無為徒食の毎日を送れているのだ。

「耀哉め、俺が苦しむ様を楽しんでるな! 許せん! 鬼の所業だ!」

「それをあなたが言います?」

「「お館様の御成にございます」」

 産屋敷家の息女が姿を見せると、カナエは頭を垂れた。

 それに対し、新戸は手拭いで汗を拭きながら胡坐を掻く。

「お早うカナエ、新戸。今日も空が青く澄んでいていい日だね」

「何が今日も空が青く澄んでいていい日だ。耀哉、俺が活動時間の限界超えるとどうなるかわかってんだろ」

 止まらない汗を拭いながら顔を背ける新戸に、耀哉は困ったように笑った。

 これは完全に不貞腐れている、と。

「……で、どういった用件で」

「私はね、新戸。君を正式に鬼殺隊の戦力として前線に出てもらいたいと――」

「断るっ!!」

 新戸は大声で耀哉の言葉を遮った。

「先代の頃からずーーーっと言ってるけどさ!! 俺は一生スネをかじって生きていたいの!! 何で働かなきゃならないんだよ!! っつーか鬼を狩るのはお前らの仕事だろ!!」

「ふふ……何も君に鬼狩りをしろとは言わないよ、新戸。ただ、これは君じゃないとできないと確信している」

「俺じゃないとできない……?」

 耀哉が新戸に頼んだのは、〝上弦の鬼〟達の情報収集だった。

 鬼舞辻無惨の配下には「十二鬼月」と呼ばれる強力な十二体の鬼がおり、その十二鬼月の中でも上位六体は〝上弦の鬼〟と呼ばれ、幾度となく柱を葬ってきた怪物である。その規格外の強さゆえ、上弦の鬼達の情報を鬼殺隊はほとんど把握できていない。出会ったら殺されるか致命傷を負わされて逃げられるかのどちらかしかないのだ。

 だが鬼殺隊に属する鬼である新戸ならば、上弦の鬼と万が一交戦しても、鬼特有の不死性ゆえに生きて情報を持ち帰ることができるのではないか……耀哉はそう考えた。実際、普段のぐうたらぶりからは想像もつかないが、新戸はかなり強い。有益な情報を持って帰還できる確率は高いし、鬼殺隊側の犠牲も最小限に抑えられるのだ。

「……まあ犠牲になるのは俺一人だから戦略的には正しいかもな」

「わかってくれるかな? 君は鬼殺隊の希望にもなり得るんだ、新戸」

「でもやっぱイヤだ!」

 理解を示してなお断る新戸に、カナエは顔を引きつらせ、万が一を想定して待機していた非戦闘部隊の(かくし)は一斉に青褪めていた。

 我が強く個性の強い性格が勢揃いの柱ですら、耀哉の要請を真っ向から拒否する者はいない。ある意味では鬼らしい自己本位な人格と言えるが、どちらかと言うと我が儘な子供である。

「言っとくけどさ、今の俺には家もあるし着る服も飯もあるんだぞ。その上仕事やろうなんて贅沢すぎだ。鬼の俺が人並みの幸せを得ていいのかよ? それに鬼殺隊の使命に泥を塗るマネはしたくないんだ……だから耀哉、俺の気持ちを汲み取ってくれ」

 真剣な表情で力説する新戸。

 ぐうたらぶりを一切削ぎ落としたその様子に、耀哉は一瞬だけ大きく目を見開く。

 しかし満場一致で一同は思った。

(コイツお館様を言いくるめようとしてやがる!!)

 

 ――そこまでして働きたくないのか、このダメ鬼は。

 

 スネをかじり続けるためだけに、周囲の尊敬を集めるお館様を全力で騙しにかかるクズっぷり。もはや潔さすら感じられる。

 が、そこは我らがお館様。元々先代の頃からの付き合いである分、鬼殺隊の誰よりも新戸を理解しているだけあり、ニコリと笑いながら一刀両断した。

「正論っぽく言い回すのはよくないよ、新戸」

「…………ちっ、勘のいい奴」

 新戸はその後もダダをこね続けたが、活動時間の限界を超えて行動不能となり、最終的には根負けして耀哉の要請を受け入れた。

 ただ、終始イヤそうな顔をしていたため、耀哉を除いたその場にいた全ての者が新戸を睨み続けたとか。

 

 

 残酷な世界で、(ふう)(てん)を。

 一度だけの生に、享楽を。

 罵詈雑言に、開き直りを。

 抱かれた殺意に、無頓着を。

 

 これは、日本一チャランポランな鬼の物語。




【ダメ鬼コソコソ噂話】
新戸は呪いから外れています。
だって生理的に無理な相手と無惨に認識されているから。
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