鬼は鬼殺隊のスネをかじる   作:悪魔さん

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オリキャラの因縁が語られる……!


第二十話 敵が人間だった場合の方がヤベェ。

 玄弥も弟子にとった新戸は、実弥に勘づかれないように戦術指南に努めていた。

 二人は今、日輪刀で手合わせをしている最中だ。

「おっと」

「オラァ!」

 新戸が横薙ぎを躱した瞬間、すかさず日輪刀を振り上げて唐竹割りを繰り出す玄弥。

 だが、新戸は仕込み杖を持ち替え――

「ほいっと」

「うっ!」

 玄弥の刃を柄頭で受け止め、跳ね返した。

 そして鞘で足を払って転ばせ、首元に刃を突きつける。

「っ……」

「狙いはよかったが、脇が(あめ)ェ。刃渡りの長さを考えて、関節技とかにした方が俺の隙は大きかった」

 キンッと仕込み杖を納刀すると、新戸はほくそ笑む。

「悲鳴嶼のおかげか知らねェが、基礎戦闘力はちゃんと身についているようだな。合格点だよ」

「そ、そうっすか……?」

「全集中の呼吸は向き不向きがあるからな、全ての型を扱える奴は案外多くねェ。独自の呼吸を使う奴も結構いる。だから土台となる基礎戦闘力が重要ってこった」

 全集中の呼吸は岩塊よりも硬い鬼の頸をも斬り落とす技術だが、それを本当に習得できるかどうかは個々の才能と努力次第になる。また、鬼の血鬼術には全集中の呼吸を封じることができる異能が存在する可能性もあり、全集中の呼吸を会得できるか否か以前に「基礎戦闘力でどこまで鬼と戦えるか」が重要となるのだ。

 新戸は強力な血鬼術を扱うが、それ以前に戦略や戦術を得意とする頭脳派である。基礎戦闘力で張り合いつつ、頭脳戦で敵を翻弄する戦法を得意とするので、呼吸を扱えない者や全集中・常中を会得できない者にとっては貴重な指南役であったりするのだ。

「お前の場合、二刀流と血鬼術を軸とした戦法を生むべきだな。たとえば……血鬼術で攻撃しながら銃撃で牽制しつつ止めは日輪刀って感じでな」

「む、難しすぎる……」

「言っとくが獪岳はお前の三歩先だぞ? 「難が有るから有難い」って必死に食らいついてきたんだ、お前も頑張れよ」

 新戸はそう言うと、玄弥に新たな訓練を課した。

「よし、今日からお前にも反射訓練をしてみよう」

「反射訓練?」

「見ればわかるさ。獪岳、手本を玄弥に見せろ」

 新戸はジャキッと仕込み杖を鳴らすと、獪岳は瞬時に距離を取って抜刀。

 そこへ新戸が、仕込み杖を抜いて〝鬼剣舞 刀剣舞の狂い〟を発動。畳み掛けるように斬撃を飛ばす。

 その飛ばされた斬撃を、獪岳は日輪刀で捌いていく。刃こぼれが生じないよう流し、時に刀を振るって相殺し。新戸が放った斬撃全てを捌ききった。

「……!」

「さすがにこの程度は呼吸抜きで全部やれるか。……玄弥、俺が言いてェことが理解できたか?」

 その言葉に、玄弥はゆっくりと無言で頷いた。

 獪岳は今の血鬼術を、()()()()()()()使()()()()無傷で捌いており、玄弥にも同じ要求をしている。今の血鬼術を無傷で全部捌いてみろと、新戸は言っているのだ。

「これは柱を目指すって大口叩く奴ならやれて当然だ。長年色んな隊士を見てきた俺が、お前には素質があると判断したんだ。できるよな?」

「はい!」

「いい返事だ。じゃあ始めっぞ。離れろ」

 玄弥は新戸から素早く後退し、距離を取る。

 新戸は仕込み杖を抜き、斬撃を飛ばした。

 

 

 結果から言うと、玄弥はボコボコにされた。

 新戸の斬撃は破るのは容易いが、それはあくまで柱並みの技量を持っていればの話。並の隊士では一太刀受け止めただけで持ってかれそうになる。それが無制限に飛ばされるとなれば、溜まったものではない。

 見かけによらず、かなり過酷な内容だったのだ。

「し、死ぬ……」

「うははは、まあ獪岳も最初ん頃はそんな感じだったよ。……そういやあ、お前の最高記録って百二十回だっけ?」

「百二十七です」

「……ってこった。まずは五十を目指そうか」

 新戸はそう言うと、飯を食おうかと二人に握り飯と水筒を渡した。

 握り飯は四つ。昆布、梅、鮭、おかかがそれぞれ入っており、割と大きいので腹に溜まりやすい。

「スゲェ美味しい……」

「米炊くの相当上手いだろ、師範」

「料理に必要なのは愛情とか言う奴は素人。玄人は火加減って答えるから」

 煙草を吹かす新戸は、ドヤ顔を決める。

 すると、それを見た玄弥が新戸に釘付けとなった。

「……どした?」

「――へっ!? あ、いや、その……ちょっと煙草が……」

 質された途端、しどろもどろになる玄弥。

 玄弥は無口で粗野に見えるが、本質的には気遣いのできる優しい性格であり、新戸の弟子になってからは本来の性格を取り戻しつつある。ゆえに吸わないでほしいのなら正直に言うはずだ。

 そうでないということは、つまり――

「玄弥、お前煙草吸いたくなったんだろ?」

「っ!」

「はあ?」

 ケラケラ笑う新戸に、二人は目を丸くする。

 新戸曰く、玄弥は自分の血を取り込んだことで、酒や煙草を欲しがるようになった可能性が高いという。新戸は睡眠や食事だけでなく喫煙と飲酒で体力を回復できる、鬼どころか生物としても稀有な個体。その血を取り込んだ玄弥も同じ体質になっているかもしれないのだ。

「一本やるよ。ただマッチが切れちまったからな……とりあえず咥えてみん」

「あ、はい」

 渡された煙草を貰い、咥える玄弥。

 すると新戸は、顔を近づけて火の点いた自分の煙草の先端を、玄弥が咥えている煙草の先端にくっつけた。

「玄弥、息吸え」

「は、はい……」

 息を合わせ、同時に吸う。

 なぜか目をギュッと瞑る玄弥に、新戸は愉快そうに笑いながら火を貸した。

 なお、このやり取りに獪岳はムッとした顔で玄弥を睨みつけていた。

「はい、いいよ。一気に吸うとむせっからゆっくり少しずつな」

「ん……」

 言われた通り、ゆっくりと吸い込む。

 吸った煙を口内に留め、深く息で肺に入れ、口から吐き出す。

「うめェだろ?」

「……はい。それと、気持ちがいいって言うか、落ち着くって言うか……」

「そこまで感じることができりゃあ、俺の煙草友達として百点満点だよ」

 煙草友達欲しかったんだよな、と楽しそうに語る新戸。

 その姿は、まるで近所の気のいいお兄さん――厳密に言うと〝鬼いさん〟だが――のようで、とても親しみやすく感じる。人間の理から外れた鬼だと言われなければ、本当に人間だと思い込んでしまう。

「……ちっ」

「そう拗ねるなよ、一番弟子。ワカメ()したら一番上等なの吸わせてやっから」

「……約束ですよ」

 ムスッとした表情の獪岳の頭を撫でる新戸。

 一番弟子と言われたことが嬉しかったのか、若干照れている。

「しっかし、玄弥といい炭治郎といい……今回の合格者はかなり腕が立つな。カナヲと伊之助は予想通りだったが、どこの馬の骨か知らねェ(あが)(つま)(ぜん)(いつ)ってガキは何者か知りてェな」

「っ――あんなカスに構わないでください!!」

「うおっ!? 焦った……」

 いきなり大声を上げた獪岳に、新戸は肩をビクつかせた。

「え? 何、善逸って奴知ってんの?」

「……弟弟子ですよ」

 獪岳曰く、我妻善逸は同門の弟弟子で、ダメだ無理だと喚き散らす泣き虫だという。

 新戸は産屋敷家を通じて合格者の大まかな氏素性は知れるが、その人間関係までは把握しきれていない。ゆえに善逸が獪岳の弟弟子であるのは初耳だった。しかも話の素振りからして、性格が正反対のようで、今でも反りが合わないようだ。

「……師範。師範があのカスを拾ったらどうしますか」

「その善逸がどこまでの(カス)かは知らねェが、弟子取りは(けん)(こん)(いっ)(てき)の大勝負と同じだ。師範が孤児(ガキ)を拾ったら二つに一つしかねェ。住み込ませて金づるにさせるか、全て与えて後継者にするかだ」

 弟子は師匠の半減か、それとも出藍の誉れか。

 弟子となる者が師を超えることができる素質を持ってるかを的確に見極めねば、どんなに手塩に掛けても無駄なものは無駄だ。

 そういう意味では、弟子を取ることは一か八かだろう。

「難儀だねェ、今時の(わけ)ェ衆は。まあ俺と栄次郎の方がヤバかったけど」

「栄次郎? 誰なんですかそいつ」

「ん? そういやあ話してなかったな……でも嫌な思い出しかねェんだよな、アイツとは」

 新戸は乗り気ではない様子であるが、「背に腹は代えられねェか」とボヤきながら語り始めた。

 

 栄次郎の本当の名は、(たか)(なみ)栄次郎。

 風の呼吸の使い手であった、柱を除いた鬼殺隊の最高位・甲の隊員。その剣の技量は当時の柱達に匹敵する程の剣士で、まだ柱として活躍していたカナエですら「冗談抜きで強い」と言わしめ、新戸も実弥と彼の親友であった(くめ)()(まさ)(ちか)を差し置いて風柱になるのではと推測していたという。

 

 それ程の剣士でも、柱に選ばれなかったのか――獪岳と玄弥は柱の壁の大きさに息を呑んだ。

「甲になっても、柱の座は遠いんですね……」

「いや、()()()()()柱になり得る人材だったさ」

「……仲、そんなに悪かったんですか」

「今までで一番悪かったよ」

 そう、栄次郎は確かに柱として申し分ない強さを持ってたが、同時に鬼殺隊士の中で新戸と()()()()()()()()であった。

 新戸の人望の御粗末さは有名だ。鬼殺隊に属して十五年、ずっと産屋敷家か煉獄家か蝶屋敷で怠惰を貪る日々を過ごしており、独断行動は多いわ昼間から酒を飲むわ賭場に出入りするわ……とにかくズボラである。だが好きか嫌いかで言われると、賛否両論だったりする。新戸の戦術家としての一面は優秀であり、有能さは何だかんだ認めている者もいると言えばいるからだ。

 だが栄次郎は、周囲から見ても異常と思えるくらいに新戸を敵視していた。病的なまでに新戸という存在を忌み嫌い、殺し合いに発展する程に険悪な関係だった。あまりの仲の悪さゆえ、耀哉が自ら仲裁役として和解の場を設けたが、栄次郎のある言葉で新戸が本気でキレてしまったため、それ以降は無期限の接触禁止になったという。

「それって……兄貴みたいに、鬼が憎かったからじゃないですか?」

「いや、アイツは身内や親友を鬼に殺されてねェ。両親は病気で他界してるってカナエから聞いたし、俺も俺で調べがついてる。アイツは鬼と因縁なんざねェよ」

「じゃあ、何で……」

「それがわからねェんだよなァ……栄次郎はもうこの世にいねェ。死人に口なしだ」

 新戸は溜め息を吐くと、栄次郎の最期を語った。

「賭場の帰りに、たまたま悲鳴嶼が栄次郎連れて任務中だったトコを出くわしてな。接触禁止だったし首突っ込む気分でもなかったから、親切に軽く忠告したのさ」

 

 ――栄次郎、人間も疑えよ? 人間の狂気は、鬼の本能をも上回る。

 

「……それで?」

「それ言ったらアイツ斬りかかったから、ささっと躱してトンズラした。そんで次の日に、蝶屋敷で訃報を聞いたよ。「人間に刺されて死んだらしい」ってな」

 新戸曰く。

 栄次郎は鬼を倒した直後、協力者であった人間に左胸を刺され、激昂して日輪刀で協力者を斬り殺してしまったという。悲鳴嶼が事態を聞いて駆けつけたところ、その時には栄次郎の姿は影も形も無く、捜索しても一向に見つからなかったという。

「左胸刺されたんだ、死んでるだろ」

「死んでれば良いけどな」

 二本目の煙草を咥えて火を点ける新戸の呟きに、二人は一瞬で凍りついた。

 そう、栄次郎の遺体は未だ見つかってないのだ。おそらく心臓を刺されたため、少なくとも死んでいるだろうが、それはまだいい方だ。最悪なのは、無惨や上弦の鬼と鉢合わせてしまい、鬼になってしまった場合だ。その可能性を拭えない以上、不安要素が残ったまま現在に至っているのだ。

「そんなことが……」

「今思えば、俺にとって栄次郎(アイツ)は最初にして〝最凶の敵〟だったかもしんねェな……」

 実力や技量ではなく、凶暴性や危険性という意味合いでは、鬼以上のナニか。

 栄次郎という男は、千年に及ぶ鬼と鬼殺隊の戦いから生まれた〝鬼狩りの怨みの化身〟だったのではないか――新戸はそう語った。

「憎しみや恨みは焦熱地獄だ、一度燃え始めると中々鎮火できねェ。しかもちょっとでも燻ぶればそれがまた大火の元になっちまう。二人共、誰かを恨むのは結構だが、度が過ぎると自分を失って取り返しつかなくなるから気をつけるんだな」

 新戸の言葉の重みに、二人は息を呑んだのだった。

 

 

           *

 

 

 その後、獪岳と玄弥は鎹鴉からの指令を受けて鬼狩りの旅へ向かった。

 一人残った新戸は、たまには煉獄家で寝泊りしようかと考えたが……。

 

 ヒョコッ

 

「は?」

 突如、目の前に手紙を片手に氷の人形が現れた。

 その見た目は、非常に見覚えのあるもので……。

「お前……童磨の?」

 その問いかけに、氷の人形はコクリと頷いた。

 新戸の悪友である上弦の弐・童磨の血鬼術の技の一つに、〝結晶ノ御子(けっしょうのみこ)〟というものがある。童磨を模した膝くらいの大きさの人形だが、見かけによらず童磨本人とほぼ同じ威力の術を行使できる恐ろしさを有する上、自動で動くのだ。

 今までは攻撃の為だったが、新戸との邂逅でさらに悪知恵が働くようになり、情報共有の為にも使用している。ちなみに言い出しっぺは新戸である。

「手紙渡しに来たのか? ありがとよ」

 結晶ノ御子から童磨直筆の手紙を受け取り、目を通す。

「ちっ、野郎ムカつくぐらい字がキレイじゃねェか」

 しかもミミズが這ったような字体じゃない分、とても読みやすい。

 宗教の教祖は伊達じゃないようだ。

「――うわ、マジか! ダメ元だったんだけどな」

 新戸は手紙の内容に驚愕した。

 その内容は、童磨が吉原遊郭に潜む上弦の陸・堕姫が、新戸の血によって無惨の支配から外れて寝返ったというものだった。

「うははは! これで()()()()、上弦二体が鬼殺隊(こっち)の戦力となれそうだ」

 ニィッと悪い笑顔を浮かべる新戸。

 新戸は以前より上弦の陸に目を付けており、どうにかして味方に引き込めないか機を伺っていた。しかし竈門家の一件以来、鬼側の動きが活発になった上に産屋敷家からの圧力が若干増してきたため、思うように動けないでいた。

 そこで童磨に上弦の陸を味方にしたいと相談したところ、何と童磨自身が鬼にしたという過去が発覚。早速童磨に自分の血を上弦の陸に少しずつ盛って、無惨や他の上弦に勘づかれない程度に寝返るよう働きかけることを頼んだのだ。

 新戸の血は〝無惨の呪い〟を上書きし、知覚掌握などが可能になる。しかも支配権(のろい)は上書きであって「完全な解除」ではないため、無惨は()()()()()()()()()()()()()ために呪いから外れたことに気づかないという利点がある。

 そして今回。童磨の裏工作によって見事に上弦の陸は寝返った。もっとも、うまく行かなかった場合の計画も用意してはあったので、新戸としては別にそっちでも構わなかったが、やはり人手不足解消という面では柱三人分以上の力を持つ上弦の鬼は必要というのが本音だ。

「まあ、話し合いが通じる相手とは言い難かったが……その時は童磨に任せりゃいいか」

 上機嫌に鼻歌を歌いながら新戸は山を下りた。

 

 

 同時刻、万世極楽教の寺院。

「……本当に知らねェんだな? 童磨さん」

「ごめんねぇ。彼、思った以上に悪知恵の働く鬼でさ」

「いや、あのクズ野郎の厄介さはわかる。引きこもりの癖に無駄に賢いからな」

 困った様子の童磨に理解を示す、鬼の青年。

 鬼殺隊の隊服の上に「鬼」の一字が刻まれた羽織に袖を通しており、かつては鬼狩りであったことが伺える。

(しかし参ったな。彼には何と言おうか……一応知らせておくべきか)

「童磨さん、アイツが来たらすぐ知らせてくれよ。アイツを殺せば、あの御方も安心して腐った鬼狩り共を滅ぼせるからよ」

 そう言って、鬼の青年は去っていった。

 その背中を見届け、童磨は眉を顰めて呟いた。

「正攻法で勝てる相手じゃないよ。哀れな栄次郎君」




次回、ついに原作における柱合会議!
新戸無双が勃発しますので、乞うご期待。

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