童磨の裏工作が成功したことに喜んだ、その三日後。
早朝、新戸は蝶屋敷にて竈門家と密談をしていた。
「兄ちゃんが裁判にかけられる!?」
「建前だとは思うけどな。話はすでに通したし」
声を荒げる寝癖がヒドい竹雄を制し、新戸は頭を掻きながら答える。
実は先程、
そして耀哉の方針により、
「大方の予想はつく。禰豆子が本当に人を喰わねェのかを証明しろってことだろう」
「何で!? 新戸さんと冨岡さんが動いてくれたのに!!」
「百聞は一見に如かずってこった。てめェの目で判断したいっていう意見が多かったんだろう。――まあ、こうなるだろうとは思ってたがな」
新戸の中では、ここまでの動きは想定内だった。
禰豆子が鬼になってから二年。耀哉はその間、一人として監視目的の使いを派遣しなかった。鱗滝の下にいたのもあるが、一番は本当にその間人を喰わずにいられるかを試したのだろう。そして義勇以外の柱の接触はなく、事実を知ってるのは新戸としても信頼できるカナエ程度しかいない。
つまり、これから行われる柱合会議にて、禰豆子が新戸と同じ鬼殺隊公認の鬼となる。裁判は、その重要な過程なのだ。
(新参の甘露寺と無一郎は従うし、しのぶは検体として支持。杏寿郎は俺との縁があるから中立で、義勇が一応賛成だろう。問題はさねみんとネチネチ坊主か……)
新戸として、一番の難点は風柱と蛇柱。
集団の和や規律を重んじるあまり、新戸のような掟破り・型破りを認めるつもりはないだろう。新戸が先代の頃から居座ってることにも難色を示したのだ、おそらく戦略よりも感情が表に出るだろう。
ましてや、上弦の一部や珠世一派の件も考えると、下手すれば新戸と柱の全面衝突になる。新戸としては、自分の主張を通すのに実力行使は面倒臭いゆえに好まないため、頭を使って捻じ伏せるしかない。
「まあ、一応あの手紙は渡ってるから大丈夫だろうが……」
「兄ちゃん、死んじゃうのかな……!?」
「いや、さすがにそこまでバカじゃねェとは思うけどな……」
泣きそうな顔の六太に、新戸は悩む。
あの手紙の効力は間違いなく通じると確信はしてるし、悲鳴嶼と宇髄も戦術指揮という面でギリギリ納得してくれるかもしれないが、実弥と伊黒は梃子でも動かない可能性が非常に高い。最悪伊黒は甘露寺に口利きして引き込めるかもしれないが、やはり不確定要素は残る。
重要な場面とは、本来味方してくれる人間が寝返る可能性が高いのが常。新戸は絶対に従わざるを得ない状態にしなければならないと判断し、脳味噌を雑巾のように絞って案を出そうとするが、中々いいのが出ない。
そこでうっかり、とんでもないことを口走ってしまった。
「――最悪、全員で腹切ってお詫びしますって書くか……」
『それだーーーーーーっ!!』
「は?」
竈門家が一斉に声を上げ、その直後に新戸も素っ頓狂な声を上げた。
「いや、何を真に受けてんの? あくまでも選択肢の一つだぞ、迷うか否定しろよ」
「でも兄ちゃんと姉ちゃん死なせたくないよ!!」
「いや、だからそうはならないとは思うっつって――」
「じゃあ他に何か考えてるの!?」
花子のグサリとくる言葉に、新戸は「うぐっ」と声を漏らした。
新戸としては竈門家全員での嘆願は、最後の手段である。それをやった方が手っ取り早いというのが本音だが、良心が完全に失われたわけではないので
だが、よりにもよって一家はそれで満場一致。竈門家は新戸が関わった「家族」の中で一番恐ろしい一面を持っていたのだ。
「……葵枝さんはどう思ってんの」
あくまでも最後の手段だということなので、新戸は葵枝に判断を仰いだ。
すると葵枝は深々と頭を下げた。
「ぜひ、炭治郎と禰豆子の為にも、私達も命を懸けさせてください」
「しまった、母親がどういう生き物かすっかり忘れてた……!」
まさか推してくるとは思ってみなかったのか、思わず頭を抱える新戸。
今回の柱合裁判は、思った以上に混沌と化すかもしれない。
「――話は終わったかな?」
『!?』
そこへ、一羽の鎹鴉が舞い降りた。
産屋敷家の――耀哉の鎹烏だ。
「新戸、出頭しなさい。君がいないと成り立たないんだ、来ないとは言わせないよ」
「バカタレ、今回は出るわ。義勇じゃ力不足だ」
新戸は面倒臭そうに言うが、その顔には鬼らしい獰猛な笑みが浮かんでいた。
――久しぶりの口喧嘩だ。
「うっし……いっちょやるか、俺の十八番の〝舌戦〟!」
*
産屋敷邸にて、炭治郎は拘束されてうつ伏せに転がされていた。
目の前にいる剣士達――柱の面々は炭治郎をどうしようかと意見を交わせており、妹の斬首を視野に入れた厳罰に処するべきという声も上がっている。
このままでは殺されてしまう。どうにか訴えようとした時、新戸のある言葉を思い出した。
――炭治郎、もし鬼殺隊のバカ隊士に禰豆子のことで殺されそうになったらこう言え。「小守新戸が産屋敷耀哉に話を通してある」とな。そう言えば少なくともすぐには殺されねェはずだ。
「ま、待ってください! 禰豆子のことは、新戸さんが産屋敷耀哉に話を通してあるって――」
「ハァ? アイツが話を通してあるって? ウソ言ってんじゃねェ」
「それが本当なんだよ」
ふと、聞き覚えのある声が響く。
視線を向けると、その先には仕込み杖を携えた一人の鬼が。
「新戸さん!」
「おう、随分ボロボロじゃねェの。猪にでも襲われた?」
「これが猪の傷ですか!?」
「冗談だっての。それぐらいの元気あんなら大丈夫そうだな」
ヘラヘラしながら煙草を吹かす新戸は、炭治郎の縛る縄を引き千切ると、彼を庇うように立つ。
緊張感漂う中でも相変わらず掴み所の無い新戸に、柱達の厳しい視線が集中する。
「おい、小守。納得する説明できるだろうな貴様」
「納得しなくても押し通すけどな。とりあえず耀哉を待て。アイツがいないと始まらねェ。……そういやあ、白ヤクザどこ行った? おはぎ食い過ぎて腹でも下した?」
「誰がおはぎ食い過ぎて腹下したってェ?」
そこへ、実弥が禰豆子の箱を片手に現れた。
その顔には苛立ちが露わに立っており、それが全て新戸に向けられているのは明白だ。
「鬼を連れてた馬鹿隊員はそいつかィ。一体全体どういうつもりだァ? 新戸ォ」
「まあ、色々あってな。炭治郎と禰豆子の身柄は俺が
「てめェがァ?」
「ああ。今回は本気なんでよろしくな」
不敵に笑う新戸に、実弥は舌打ちしながら睨みつける。
「――ところで、その手に持ってるのは禰豆子が入ってる
「気のせいじゃないと思います!! あそこには禰豆子が!!」
「だろうな。傷物にする気満々なのが伝わってくる」
「お前何つーこと言いやがんだ!!」
加虐心に満ちてるような言いように、激怒する実弥。
新戸は実弥が箱から目を逸らした一瞬の隙を見るや否や、左手を突き出して掌から目を開かせ、瞬きさせた。
ギュンッ!
「んなっ!?」
掌の目から飛び出た矢印は箱を貫き、まるで吸い寄せられるように新戸の手の上に乗った。
「新しい血鬼術!?」
「いつの間に……!!」
「よもや、斬撃と剣圧だけではなかったのか!?」
いつの間にか新たな血鬼術――というか奪ったものだが――を身につけた新戸に、唖然とする。
「てめェ……!」
「脇が
顔に出てんぞ? と余裕綽々な新戸に、血管を浮かばせて睨む実弥。
舌戦も不意を突くのもお手の物である新戸にとって、柱を手玉に取ることなど造作もないのだ。
「そういうこった。おい耀哉、ちゃんと躾はしとけよ」
「フフ……考えてはおくよ」
『!!』
新戸が座敷の奥に声を掛けると、穏やかな男性の声が響いた。
いつの間にか鬼殺隊の最高指導者・お館様が立っていたのだ。
「よく来たね。私の可愛い
そう言うや否や、柱達は横一列に並んで片膝を突き、深く頭を垂れた。
炭治郎も、実弥に頭を押さえつけられる形で頭を下げたが……。
「お前も頭下げろやァ!」
「いや、俺コイツの部下じゃないし」
「ただの屁理屈だろうがァ!!」
「屁理屈も理屈だろ」
全く譲らない新戸に、耀哉は「相変わらずだね」と穏やかに微笑んだ。
「お館様におかれましても御壮健で何よりです。益々の御多幸を切にお祈り申し上げます」
「ありがとう、天元」
「畏れながら、柱合会議の前にこの竈門炭治郎なる鬼を連れた隊士について、ご説明いただきたく存じますがよろしいでしょうか」
丁寧に挨拶をしてから、宇髄は本題を切り出す。
耀哉は「驚かせてしまってすまなかった」と一言告げてから答えた。
「二人のことは、新戸を介して私が容認していた。どうか認めてはくれないだろうか」
その一言に、柱達はざわつき、それぞれの見解を口にする。
甘露寺と無一郎は「お館様の意に従う」と述べ、義勇は無言。杏寿郎は「万が一の時はすぐ頸を斬ればいい」と中立の意見を述べ、しのぶと悲鳴嶼はそれに同意。実弥と伊黒は断固反対の立場を貫き、宇髄は「そんなに鬼を認めていいものなのか」と反対寄りの意見だ。
新戸の予想通り、賛成と中立と反対に分けられ、現状では中立を含めれば賛成が有利と言ったところだ。
(宇髄が中立じゃねェのは意外だったが、大よそは想定内。だが柱の中の上下関係を考えると、もう一押しだな)
そんなことを考えていると、耀哉の傍に立つ少女――娘のひなきが手紙を取り出した。
「ひなき様、その手紙は?」
「こちらの手紙は、小守新戸様から頂いたものです」
『!?』
一同が驚きを隠せないまま、ひなきは手紙を読み上げた。
無惨と俺が戦ったのは、すでに聞いてるだろ?
あのワカメ頭は、無能な十二鬼月に対する八つ当たりとかで来たわけじゃねェ。明確な理由があって襲撃してきたんだ。実際、民間人の禰豆子の顔を見た途端、敵である俺じゃなくてそっちを先に攻撃しやがったからな。
そこで思ったのが、炭焼き職人である竈門家が継承しているヒノカミ神楽っていう神楽舞だ。炭治郎から聞いたんだが、父親の炭十郎は病弱だったが日没から日の出まで疲れることなく舞い続けたらしい。このヒノカミ神楽、もしかしたら全集中の呼吸の流派の一つかもしれねェ。
それだけじゃねェ。炭治郎が炭十郎から受け継いだ耳飾りも訳アリだ。聞いた話だと耳飾りは祭具じゃねェようだが、先祖代々受け継いでる代物で、詳しくはわからねェが元の持ち主がいるらしい。ヒノカミ神楽との関連を考えると、元鬼殺隊の剣士であるかもな。
これはあくまで俺の推測だが、ヒノカミ神楽は当時の鬼殺隊士が習得した全集中の呼吸の流派の一つで、頭無惨が死に物狂いでこの世から消そうとした程の技術かもしれねェ。根拠には乏しいだろうが、そう考えると辻褄が合ってくる。
それを踏まえると、竈門家は無惨に狙われ続けることになる。炭治郎も鬼になった禰豆子も、無惨は十二鬼月を刺客として動かす。もしかしたら無惨本人が接触しにくる可能性もある。禰豆子の方は俺の血を取り込んだから人を喰うことはねェだろうが、万が一の場合は俺一人が全部責任を取る。鱗滝の天狗爺や義勇も一門として関わっただろうが、アイツらは責めないでほしい。
この嘆願を聞き入れなかった場合、生涯後悔するぞお前。
『……!!』
――万が一の場合は俺一人が全部責任を取る。
その言葉を聞いた時、炭治郎は胸がいっぱいになり、涙を流した。ぐうたらでチャランポランな新戸が、そこまでの覚悟をして庇ってくれることに。
柱達も息を呑んだ。無責任さが漂うあの新戸が、実質「命を懸ける」と明言していることに。
だが、ここで宇髄が気づいた。
「……いや、派手にちょっと待て。最後の一文おかしくねェか」
「ひなき様、もう一度最後の文をお読みくださりませんか」
「……「この嘆願を聞き入れなかった場合、生涯後悔するぞお前」と書いてあります」
時が凍りついたような静寂が訪れる。
直後、怒声が新戸に集中した。
「ふざけんなァ!!」
「お館様への脅しではないか!!」
「性根が腐敗してるのか貴様!!」
「てめェ派手に正気か!?」
殺意すらも孕んだ視線を向けられるが、新戸は煙草の紫煙を燻らせ素知らぬ素振りを貫く。
すると耀哉は、右手の人差し指を当てた。途端に柱達はピタッと口を閉ざす。
「新戸はこの世に蔓延る鬼の中でも、非常に稀有な存在だ。そして無惨や上弦の鬼達とも渡り合い、しかも上弦の鬼を寝返らせる離れ業も成し遂げた。そんな彼が炭治郎と禰豆子に命を懸けると言ったんだ。これを否定するには、否定する側はそれ以上のものを差し出さねばならない」
「うむ! 無理だな!!」
きっぱりと言う杏寿郎に、他の柱達も遠い目をする。
今までの独断行動が今回のような事態の為の布石だったとすれば、計略で新戸に勝てる人間はいないだろう……。
「それに新戸の予想通り、炭治郎は鬼舞辻と遭遇し、鬼舞辻は二人に向けて追手を放っているんだよ」
『!?』
その言葉に、柱達は目を見開いて炭治郎を凝視した。
「新戸の推測が全て正しかったら、近年起こるこの鬼の変化こそが無惨討伐の鍵となるかもしれない。この機を逃す訳にはいかないんだ、わかってくれるかな?」
「そういう訳だから、裁判ごっこはこれでお開きと行こうや。この後の方が大事なんだし」
新戸はさっさと終わらせようと畳み掛ける。
が、やはりと言うべきか。人一倍鬼を憎む実弥と伊黒が待ったをかけた。
「承知できません、お館様!! 鬼を滅殺してこその鬼殺隊だ!!」
「俺も反対だ。そもそも新戸すら信用に値しないのに、これ以上鬼の力を借りるのは反吐が出る」
忌々しそうに反対意見を述べる二人。
その意見はもっともであり、内心では他の面々も同意であったが――
「え? お前ら無惨に塩を送るつもりなの?」
新戸は一瞬で反対派をバッサリと切り捨てた。
とどめの一撃に呆然とする二人を見て、しのぶは「勝負ありですね」と呟いた。
「全く……鬼殺隊に属する
そう言うと新戸は縁側に上がり、耀哉の隣で胡坐を掻き、真剣な表情で口を開いた。
「いいかお前ら。鬼との戦いは様々な要因ですぐ逆転するモンだ。想定外の事態、まさかの増援、共犯の人間の存在、未知の血鬼術との遭遇……初っ端は明らかに優勢だったのに、数分後には全滅寸前なんてことはザラとある。俺も槇寿郎やカナエに付き合わされた頃、何十回とエラい目に遭った」
新戸は現役時代の槇寿郎やカナエに連れ回され、多くの修羅場をくぐり抜けてきた。
時には十二鬼月でもない奴に苦戦することも多々あった。その度に知恵を振り絞り死中に活を求め、反撃の一手を打ち人々の命を繋いだ。
本人達はあまり公言していないが、新戸がいなければヤバかった死線も多かったのも事実だと認めてたりするのだ。
「これ以上鬼の力を借りるのは反吐が出るだと? 自惚れてんじゃねェぞ青二才が。むしろ正々堂々真っ向勝負仕掛けたら、すぐ長期戦・持久戦に持ち込まれてシメーだろうが。それに加えて周囲に民間人や負傷した仲間が云十人、相手が上弦の鬼だったらどうするつもりだ。てめェ一人で全員護って頸取ることできんのか? できずに全員死んでったろ? だから数百年も泥仕合してんだろうが」
ズバズバと言ってのける新戸に、一同は反論できず顔を顰めた。
現にカナエも上弦の壱の前では手も足も出ず、新戸が通りかかって撤退しなければ間違いなく死んでいた。帝都での下弦の弐討伐も、相手の血鬼術を利用するという奇策を新戸が実行しなければ、被害は拡大していた。
その事実を覆すことなど、この場にいる者にできるはずもない。
「――どうした、言い返してみろガキ共。俺の手を借りてでも人を護る責務を全うした槇寿郎やカナエとは違うんだろ?
「新戸、そこまでにしなさい」
「……フン」
状況を見かねた耀哉に制止され、新戸はぷいっと横を向いた。
まだ言いたいことがあるのか、不満気な様子だ。
「炭治郎。新戸は今まで自分の頸を懸けることはしなかった。君達兄妹に対する新戸の想いは、私達の想像以上だろう」
耀哉は炭治郎に静かに語りかけた。
「十二鬼月を倒しておいで。そうしたら皆に認められる。炭治郎の言葉の重みが変わってくる」
「――はい! 俺は、俺と禰豆子は鬼舞辻無惨を倒します! 俺と禰豆子が必ず!! 悲しみの連鎖を断ち切る刃を振るう!!」
「今の炭治郎にはできないからまず十二鬼月を一人倒そうね」
「は、はい……」
急に恥ずかしくなる真っ赤になる炭治郎だったが、新戸は耳元で囁いた。
「炭治郎、禰豆子の件はごめんな。あの白ヤクザ、年下を甚振るのが生き甲斐だったのすっかり忘れてた」
「やっぱりそうだったんですか!」
「ぶっ殺されてェのかてめェらァァァァ!!」
新戸の印象操作に激怒する実弥。
炭治郎の宣言で笑いを堪えていた柱達――義勇と杏寿郎は除く――は、そのやり取りでついに吹き出してしまう。
すると新戸は、今度は耀哉の下へ向かい耳元で囁いた。
「っつー訳だから、
「うん……さすがに一家総出だとね……」
墓まで持っていこうかと、小声でごにょごにょと会話する耀哉と新戸。
その内容は伝わってないのか、一同は首を傾げた。
その直後だった。
「やあやあ、随分と可愛い女の子が揃ってるね」
ガラリと、いきなり襖を開けて一人の青年が現れた。
一見は気さくな好青年だが、左目に「上弦」、右目に「弐」の文字が刻まれている。
つまり、青年の正体は――
「上弦の弐!?」
鬼殺隊本部、それも耀哉のすぐそばに十二鬼月の一角・上弦の弐がいる。
一斉に抜刀し、切っ先を童磨に向ける柱達。
緊張が走り、一触即発となるが――
「この人格破綻野郎、どこほっつき歩いてた!」
「おやおや、タダめし食らい殿は随分とご立腹だ!」
その空気を一瞬で搔っ攫うように、新戸は童磨と悪口を言いながらガシッと固く握手した。
「遅れて悪かったよ、可愛い黒子ちゃんと行きたかったのに気を遣ってくれなくてさ」
「琴葉さんいるだろうが。贅沢言うんじゃねェ」
「それは琴葉が一番だけどさー」
まさに数年ぶりに再会を果たした親友のような光景に、呆然となる。
耀哉だけが唯一、悠然と構えてニコニコと微笑んでいる。
さらに、思わぬ来客が二人現れた。
「炭治郎さん、酷いケガを……大丈夫ですか?」
「全く、その程度で死にかけるようじゃ先が思いやられるな」
「珠世さん! 愈史郎さんまで!?」
何と炭治郎が浅草で出会った珠世一派も来ていたのだ。
立て続けに鬼、それも上弦の弐という大物まで産屋敷邸にすでに上がっていた事実に、ついに立ち眩みを覚える柱も出てきた。
「……さて、色々と問い詰めたいことがあるだろう。全ては私と新戸が話そう」
耀哉の宣言により、鬼殺隊の歴史上初の「鬼が介入する柱合会議」が始まろうとしていた。
【ダメ鬼コソコソ噂話】
耀哉は原作通り、鱗滝さんの嘆願書は預かってます。ただし新戸の手紙の方がビックリしたので、鱗滝さんに「新戸が全責任負うつもりだから大丈夫!」と連絡済み。鱗滝さんは新戸が炭治郎と禰豆子の為に動いたことに「あの不届き者が……」と感慨にふけってます。