鬼は鬼殺隊のスネをかじる   作:悪魔さん

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今回は念話のシーンがあります。
念話は〈〉で描写しますので、ご了承ください。


第三十二話 なっちまったモンはしょうがねェ。

 新戸と栄次郎。

 決して相容れなかった男達の因縁の戦いの先手は、新戸が打った。

「〝奥義 赫醒刃〟」

 仕込み杖に怪力で圧力を掛けて刀身を赤く染める。

 赫醒刃は高熱を帯びた赫い刃。数百年も上弦の鬼として君臨する強者・猗窩座ですら、赫醒刃には苦戦を強いられた。新参者の栄次郎にとっても絶大な効力を発揮するだろう。

〈玄弥。聞こえるか?〉

「!?」

 その時、傍に待機していた玄弥の頭に、新戸の声が入ってきた。

 念話だ。かの鬼舞辻無惨と同じ、血を受けた者に対し直に言葉による指示を送る能力だ。

〈お前は戦えない奴らを護れ。栄次郎の狙いは俺だ、意識を俺一人に集中させればこの鉄火場を切り抜けられる。ただし〝流れ弾〟には気をつけろ。必要な時はこの念話で呼ぶから、玄弥は炭治郎達を頼む。()()()()()()()()()()()()

〈……わかりました〉

 玄弥は了解の意を伝えようと強く念じた。

〈……頼んだぜ〉

(!! 通じた……)

 念話が通じたことに、玄弥は驚愕して新戸を見た。

 新戸は不敵に笑っており、玄弥の頭に手を伸ばしてガジガジと撫でた。

「……そんじゃ、いっちょやるか」

 刹那、新戸は地面を割る程に踏み込んで栄次郎に斬りかかった。

 栄次郎は紙一重で躱し、風の呼吸で胴を両断しようと横に薙いだ。が、それを先読みしていた新戸は体勢を低くして回避し、すかさず頭突きで顎を穿った。

「がっ!?」

 顎から伝わる衝撃に、よろめく栄次郎。

 そのまま新戸は〝鬼こそ〟で栄次郎を真っ二つにしようとするが、花の呼吸に切り替えた栄次郎は極太の斬撃を捌いた。

 すかさず栄次郎は反撃に移り、月の呼吸で月輪と共に斬撃を飛ばすが、新戸は剣圧を放ちながら後退。多少頬が斬れて血が流れるも、ほとんど無傷に近い。

 すると新戸は、十分な間合いを取ると仕込み杖の切っ先を下ろし、栄次郎に嗤って告げた。

 

「お前……やっぱ弱くなってね?」

 

「……てめェ、今何つった?」

 栄次郎は鬼の形相で天敵を睨みつけた。

 当の新戸は、その禍々しい圧迫感を意にも介さず言葉を紡ぐ。

「人間の頃の方が、緊張感があった。肝が冷えるっつーか、本気でヤベェって思わせてた」

 そう言った時には、新戸は一瞬で懐に潜り込み、逆袈裟に栄次郎の胴を斬り裂いた。

 それと共に、灼けるような激痛が栄次郎を襲い、断末魔の叫びを上げる。

「何だ、まさか俺がぐうたらしっぱなしだと思ってたのか? これだから素人は困るってモンだ。穀潰しの玄人はな、生活を脅かす相手には重い腰あげんだよ」

 軽い調子で言いながら、新戸は赤い斬撃を浴びせまくる。 

 繰り広げられる斬撃。飛び、舞い散る鮮血。柱二人分の戦闘力はある裏切り者を完全に手玉に取ってる新戸に、一同は息を呑んでいた。

「驕れる者久しからず……それが今のお前だ。現に俺の知る栄次郎(アイツ)の太刀筋じゃ、こんなに見えるワケねェしな」

「っ!!」

 新戸はズイッと栄次郎に顔を近づける。

 栄次郎は思わず動きを止めてしまった。

 

「お前さァ、何の為に鬼になったの?」

 

「っ――クソがァァァァ!!!」

 殴りたいくらいに憎たらしい笑みで挑発する新戸に、栄次郎は激昂して〝滝壺〟を繰り出す。

 しかし太刀筋を見切っている新戸はヒョイッと軽やかに躱した。

「ホラホラ、そっちじゃねェぞ栄次郎」

「てんめェェェ!!」

「手数は揃えりゃいいってもんじゃねェぞ。その次の段階を踏まねェとな。――そういう訳だから、()()()()()()

 新戸は素早く後退して距離を取り、刀を構えた。

 すると先程斬られた頬から流れた血が発火し、仕込み杖の刀身を包んだ。

「〝(ばっ)(けつ)(とう)(えん)()〟!」

 新戸が刀身に爆血の炎を纏わせた瞬間、炎が巨大な虎を模した。

 そのまま刀を大きく振るって突進。栄次郎は刀で防御するが、爆血の炎が刀身を焦がし始め、ボロボロと炭化して砕け、袈裟掛けに斬撃を叩き込まれた。

「ぐあああああっ!!」

 爆血の炎に包まれ、火達磨になりながら吹き飛んでいく栄次郎。

 血鬼術の精度も戦略も挑発の練度も、あらゆる面で新戸は栄次郎を上回っていた。

(すごい……冨岡さんでも苦戦した鬼を圧倒している……! これが新戸さんの本当の強さなんだ……!)

 激情に駆られていない()()()()()()新戸の強さに、炭治郎は絶句する。

 新戸は感情的になって戦うと、じわじわと追い込まれてしまうという短所がある。事実、先の無限列車における猗窩座との戦いは、その新戸の短所が浮き彫りになって仕留め損なった。

 だが、冷静な状態で本気を出した新戸は、最高のパフォーマンスを発揮する。つまり今の新戸は、もっとも強い状態であるのだ。

「……し、師範……やったんですか?」

「いやあ、まだだ。この程度でやられるような野郎(タマ)じゃねえ」

 新戸がそう言った直後、凄まじい数の斬撃が襲いかかった。

 地面を抉りながら迫るそれを、横薙ぎに一振りして相殺すると、肉体のほとんどが炭化した栄次郎が幽鬼のような足取りで新戸を睨みつけていた。

「新戸ォ……!!」

「ヒッ!」

 憎悪を全身から立ち昇らせる栄次郎は、地獄の底から響くような声で天敵の名を呼ぶ。

 まさしく悪鬼羅刹。怒りで顔が強張り、血反吐を吐いて狂気を露にする栄次郎に、さすがの玄弥も身を震わせた。

 しかし、体力を消耗しているのがどちらかと言われれば、間違いなく栄次郎だ。彼は今の新戸の強さを見誤っており、鬼となったことで己の強さを過信した。それがこのような状況を生んだのだ。

「まあ、昔のよしみで止めは刺してやるよ。カナエとかにさせたらお前の勝ち逃げ感がスゴイし」

 いつも通りの軽い調子だが、その眼光は鋭い。

 新戸は仕込み杖を大きく振りかぶり、栄次郎に容赦なく振り下ろしたが――

 

「〝月の呼吸 伍ノ型 (げっ)(ぱく)(さい)()〟ァァ!!」

 

 ドンッ!!

 

「っ!!」

 栄次郎は刀を全く振らずに竜巻の様な斬撃を出現させた。

 完全に間合いの中に入ってしまった新戸は、身体をズタズタに斬り刻まれ、利き腕を斬り飛ばされてしまった。

「師範っ!!」

「フハッ……ハハハハハ!! かかったな新戸!! 脇が甘いんだよ!!」

 狂喜する栄次郎は、得意の風の呼吸の剣技で新戸の頸を狙った。

 このままじゃあ新戸が殺される! ――玄弥は焦って銃口を向けたが、その直後に念話が届いた。

〈玄弥、まだ待機だ〉

(……え?)

 新戸からの念話の内容に、呆然とした。

 絶体絶命なのに、手を出すなと言っているのだ。

 全く意味がわからないと玄弥が混乱している内に、栄次郎は新戸の頸を斬り飛ばそうとした、その時!

 

 ボンッ!

 

「ギャアアアアアアアッ!!」

 突如、栄次郎の体が巨大な炎に包まれた。

 その炎は、新戸が扱っていた爆血の炎。しかし扱っているのは新戸でも、ましてや玄弥でもない。

 ということは――

「禰豆子!?」

「ムンッ!!」

 そう、爆血の本来の持ち主・竈門禰豆子だった。

 実は禰豆子は、栄次郎襲来直後に炭治郎から蝶屋敷の皆を護るように頼まれ、たまたま任務帰りで居合わせていた栗花落カナヲにも声をかけ避難誘導させていたのだ。が、その本人達が蝶屋敷へ戻ってきたのである。

 当然、禰豆子の情報を得ていなかった栄次郎は、鬼殺隊に与する鬼が複数いたなど想像だにしなかったのか非常に動揺している。

「なっ、何だこのガキ!?」

「栄次郎、俺は「戦力が出揃った」なんざ一言も言ってねェぞ」

「っ……新戸ォォ!!」

 怨嗟の声を上げる栄次郎。

 すると新戸は、念話で玄弥に指示を飛ばした。

〈玄弥! 今だ、撃て!〉

「っ!」

 新戸と禰豆子に完全に気を取られた一瞬の隙を突き、玄弥は銃の引き金を引いた。

 ドォン!! という発砲音が響き渡り、弾は見事に栄次郎の頭蓋を貫通した。

「っ……あの鶏野郎!」

 栄次郎はすかさず刀を振るい、玄弥を細切れにしようと月輪を飛ばしたが、それは義勇と実弥によって阻まれてしまい、全ての月輪を捌かれてしまった。

 苦虫を嚙み潰したような表情を浮かべる栄次郎だが、新戸はその隙に禰豆子と合わせて栄次郎の鳩尾を()()()()()()()()()()で穿ち、火達磨にしながら吹き飛ばした。

「脇が甘いのはどっちだ? 栄次郎」

「っ――どこまで卑怯なんだ、てめェはよォォォ!!」

(あめ)ェこと言ってんじゃねェ、卑怯は作法だ。まさか聖者でも相手取ってるつもりだったのか?」

 その後も、新戸の猛追は止まらない。

 斬撃、炎撃、打撃、銃撃……新戸と禰豆子と玄弥による呼吸を使わない強者の共同戦線に、栄次郎は追い込まれていった。新戸の最大の武器にして、敵対者にとっては一番の脅威である「頭脳」は、合理的に栄次郎を消耗させていく。

 反撃の暇を与えない、まるで予定調和のような攻撃に、栄次郎は防戦一方だった。

 そして、ついに()()()()()が来た。

(っ!! しまった、夜が明ける!!)

 遠くの空が白み始めているのが視界に映り、栄次郎は戦慄した。

 このまま朝日が昇れば、栄次郎は消滅する。

 それと共に、新戸の戦略に嵌っていたことに気づき憤怒の表情を浮かべた。

「てめェ、まさか!!」

「もう(おせ)ェよ、バーッカ」

 挑発する気満々の笑みを浮かべる新戸に、栄次郎は怒りで気がおかしくなりそうになった。

 新戸は、わざと長期戦に持ち込んだのだ。夜明けという鬼狩りの絶対的味方が来るまで持ち堪え、焦れたところで畳み掛けるつもりだ。

(ふざけんな! ふざけんなふざけんなふざけんな!!! こんなところで殺されてたまるか!!!)

 栄次郎は後退しながら、状況を打破する策を必死に練る。

 ふと、視線を逸らすと一人の鬼殺隊士――獪岳と目があった。

 そう言えば、あの隊士は新戸を師範と呼んで親しげに接していた。片方は鬼喰いの能力を持っていたが、もう片方は紛れもない人間だ。

 そんなことを考えていると、ある悪魔的な発想を思いつき、悪意に満ちた笑みを浮かべた。

「……ああ、あの手があったなァ」

「っ――逃げろ獪岳!」

 栄次郎の心意を察し、新戸は焦燥に駆られた。

 いつになく慌てた様子の新戸に、一番弟子なだけあって獪岳はすかさず身を引いた。

 が、間に合わなかった。

 

 ズブッ

 

「――ああああああっ!」

「獪岳!」

 栄次郎の指が、獪岳の眉間に沈んだ。

 それと共に、何かが注がれていくのが目に見えた。

 そう……それはまさしく、鬼舞辻無惨や上弦の鬼が行える行為。人間の鬼化だ。

「ハハハハ! 数字の無い鬼だからって油断したろ!?」

「栄次郎、てめェ!!!」

「これで少しは気が晴れるってヤツだ!! カナエさんは諦めるが、お前の心は傷物にしないとな!! 次こそはその間抜け面を恐怖と絶望で染めてから殺してやるよ!!!」

 呪詛のような捨て台詞を投げかけた途端、どこからか琵琶の音が鳴った。

 すると栄次郎の足下に、大きな障子が現れて開き、その中を栄次郎は高笑いしながら落ちていった。

「……野郎」

 静寂が訪れ、新戸の怒りに満ちた声が支配する。

 栄次郎が堕ちる所まで堕ちているとは予想していたが、まさかここまで不快にさせるとは思わなかった。

 大事な寄生先は崩壊寸前、弟子にも手をかけられた。周囲からクズだのどうしようもない奴だのと散々言われ、それを意に介さなかった新戸でも、我慢の限界だった。

「ヴヴヴヴ……!」

「……獪岳」

 ふと、自分の背後から獣が唸っているような声が。

 振り返ると、そこには白目が黒く染まった、変わり果てた弟子の姿が。

「……ウソ、だろ……?」

 一部始終を見ていた善逸は絶望の声を漏らし、炭治郎や伊之助、柱達も目を逸らしたくなった。

 目の前で同士が裏切り者によって鬼にさせられるなど、地獄以外に何と例えようか。

「……」

「グルルルル……!」

 ボタボタと涎を垂らし、鬼となった獪岳は新戸を凝視する。

 襲わないのは、僅かな理性でどうにか抗っているからだろう。しかし夜明けは近い。このままでは獪岳は日光に焼かれ消滅する。が、人を喰らう鬼になった以上、打てる手は斬首のみ。一切の苦痛を与えないのが、鬼となった彼に対するせめての慈悲だ。

 だが、それはあくまでも鬼殺隊士の場合。新戸は違う。

「……おい獪岳、まさか俺がお前を斬るとか思ってんのか?」

「グゥ……!?」

『!?』

 虚を衝かれた獪岳は目を瞠り、炭治郎達も言葉を失った。

 対する新戸は、「お前は俺を解ってないな」と笑って額を小突いた。

「言ったろ? 俺はお前を手放すつもりは毛頭ないし、失うわけにもいかねェって。ワカメ殺したら一番上等な煙草を吸わせてやるっつっちまったし」

「……ウ、ア……」

()()()()()()()()()()()()()()()。だからまた一から付き合え、一番弟子」

「ゥウ、ゥアアアア……!!」

 鬼となった獪岳は、新戸に泣き縋った。

 新戸は目を細めると、「夜が明けるから休め」と優しく告げて獪岳の意識を奪った。




【ダメ鬼コソコソ噂話】
新戸と獪岳が互いにどう思っているのかは、以下の通り。

新戸→獪岳
贔屓する価値あり。思考回路が似て物覚えもいい、手駒として最高の逸材。見捨てるなんてもったいない。切り捨てるなど以ての外。

獪岳→新戸
自分を誰よりも認めて期待してくれる、今まで会った大人で一番真面な人。正直、新戸さえいてくれればあとはどうでもいい。
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