鬼は鬼殺隊のスネをかじる   作:悪魔さん

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堕姫と禰豆子がお兄ちゃんネタで揉める部分が書きたかっただけです。


第三十四話 仕事はもっと楽に効率よくやるモンだ。

 栄次郎襲撃後、ようやく落ち着きを取り戻した鬼殺隊。

 その本拠地、産屋敷邸では新戸が大広間で中枢の面々と顔を合わせていた。

『戦略会議?』

「そう。一番暇な新戸に今後の鬼殺隊の方針の案を考えてもらってね、今日それをみんなに伝えるつもりなんだ」

「暇って言うな。俺だって色々動いてんだから」

 新戸はムスッとした表情で酒壺を煽ると、傍にいた珠世に声をかけた。

「珠世さんも一杯どう?」

「貴様、珠世様と飲み交わそうなど百年早いわ!!」

「あーあー、これだから堅物は。んな張り詰めてるとこっちも疲れるぜ」

「新戸さん、早く本題に入った方が……」

 何名か「早く喋れ」と無言の圧力をかけてくることに気づいた珠世が、新戸に催促する。

 当の本人は「そう焦んなよ」と頭をモリモリ掻きながら、大きな紙を広げて衝撃の発言を口にした。

 

「とりあえず先に言っておく。――俺の言う通りに事が進めば、この戦いは勝てる」

 

『!?』

 新戸の衝撃的な発言に、一同は目を見開いた。

 まだ対峙していない鬼の始祖に、すでに勝利宣言しているのだ。

「まず現時点の戦力差について知ってもらうぞ」

 新戸は筆でスラスラと字を書き始める。

 それぞれ「鬼殺隊」と「鬼舞辻」に分かれ円で囲っており、その円の中に筆を走らせる。

「上弦の壱と参は新戸が交戦してるから血鬼術は確定、弐と陸はこっち側の戦力、下弦は全滅な上に壱と伍以外は無惨によって討伐。これが今の戦局だ」

「師範、何で鬼の首魁が一番多く幹部を殺してるんですか?」

「一軍の将として致命的に無能なだけだよ」

「本当に悪運の強い野郎なんですね……」

 玄弥がしみじみと呟く中、新戸は筆を置く。

 紙に書かれた鬼殺隊の枠には柱の面々や珠世一派、新戸などの主戦力や炭治郎などの若手実力者の名前が記されている。ただ新戸の遊び心なのか、珠世には矢印で「永遠の19歳」、実弥には「おはぎ柱」といった余計な一文が入っている。

 対する鬼舞辻側は、無惨と寝返ってない上弦、栄次郎の名前に加えて下弦のことも記されている。下弦の鬼達には大きくバツ印が付けられており、誰が滅されたのかわかりやすくしている。ただ、やっぱり新戸の遊び心か猗窩座には矢印で「馬鹿座」、無惨に至っては「お迎えはまだか」という吹き出しがある。

「成程、単純に考えれば私達が優勢だね。しかし新戸、いくら君が鬼舞辻は無能と言っても、隠し玉がいる可能性があるんじゃないかな」

「そこは大丈夫じゃね? 相手は謀略の基本である内通者も用意できねェんだし」

「私も大丈夫だと思います。隠し玉があってもせいぜい捨て駒でしょう。鬼舞辻は脳が五つもあるのに知力は皆さんの五分の一以下ですから」

 ボロクソに無惨を罵倒する新戸と珠世。

 淡々と毒を吐く二人に、柱の何名かが頬の内側や唇を噛んで震えている。いつも通りの微笑みを浮かべている耀哉は、さすがと言ったところだろう。

「つまり、私達が決戦までにやっておかなきゃならないのは、上弦の肆と伍の討伐ってことかい?」

「ああ。一体一体じゃあ戦力分散で守りが手薄になるから、二人同時に討ち取るのが一番理想的だ」

「……それを可能にすることができるのか?」

 義勇の指摘に、一同は頷いた。

 上弦一体の強さは、柱三人分とも言われている。血鬼術や戦法の相性、経験値の差もあるだろうが、一度に上弦二体を討ち取るのは至難の業だ。それも上弦との遭遇率の低さを考えれば尚更だ。

 が、新戸は不敵に笑っていた。

「できる。まだ一つ残ってる()()()()()()()で引きつけりゃあいい」

「……まさか〝刀鍛冶の里〟か!?」

 悲鳴嶼の言葉に、一同は息を呑んだ。

「そうだ。刀鍛冶の里に誘い込み、雁首揃えた肆と伍を包囲殲滅する。上弦二体を確実に討ち取り、かつ無惨の先手を打ちながら鬼殺隊優勢の状態を維持するにはこれしかねェ」

「戯けたことをぬかすな。刀鍛冶の里を戦場にするのか? 日輪刀がこれ以上作れなくなるのかもしれないんだぞ、貴様の言うやり方は」

「んなモン、鍛冶屋が無事で材料と設備揃えりゃどうにかなるだろ。場所にこだわる必要性はねェ。それに弐と陸がこっち側と言えど、上弦があと四体も残ってんだぞ。最終決戦はなるべく〝的〟は少ない方がいいだろ?」

「っ……」

 新戸の反論に、伊黒は押し黙ってしまった。

 確かに、無惨の戦力である上弦の鬼をどこまで削れるかで決戦の行く末は大きく左右する。柱が全員揃っても、上弦の穴埋めをされては溜まったものではない。

「新戸、もしそうするなら相応の戦力が必要だ。君達に加えて、柱も何人か向かわせよう」

「俺の部隊以外なら、柱は無一郎と甘露寺と宇髄がいいな……ああ、炭治郎達も手配してほしい。上弦兄妹の立ち入り許可もくれ」

 何と新戸は柱を指名し、さらに要求。

 甘露寺を引き抜くからか、なぜか伊黒が異様に厳しい目を向けているが、新戸は意にも介さない。

「理由は?」

「宇髄の指揮能力と甘露寺の防御範囲の広さ、無一郎の合理的な判断力、炭治郎達のずば抜けた感覚、元上弦の陸の汎用性の高い血鬼術、鬼殺隊随一の頭脳を持つ俺……鬼の襲来を想定した防衛戦だと、この編成が一番効果的だ」

「最後、自画自賛だね」

「やかましい」

 無一郎の呟きを一刀両断すると、新戸は一同に告げた。

「正直な話、俺達はこれ以上雑魚鬼に付き合う義理はねェ。幹部格の頸を取ることに集中すればいい」

「それは看過できんぞ、新戸! いかに雑魚でも鬼は鬼だ!!」

「そう言うと思ってよ、すでに手は打ってあるぜ」

 杏寿郎の言葉に、新戸は心配無用だと切り捨てた。

 どういうことかと質すと、思いもしない回答が返ってきた。

「実は童磨や梅ちゃんの血鬼術に分身体作るヤツがあってよ。それに雑魚鬼の討伐をさせるよう頼んどいたんだわ」

『ハァ!?』

 猫の手ならぬ、鬼の手を借りた新戸。

 上弦の脅威の能力に加え、新戸の頭脳が加わったことでとんでもない事態になっていた!

「そう言えば、杏寿郎の列車の任務以降、妙に鬼達の被害の報告を聞かなくなったと思ってたんだけど……君の差し金だったのか」

「お前、よくそんなこと考えて実行できるな……」

「愈史郎……仕事はもっと楽に効率よくやるモンだ。せっかく上弦が与してくれるんだ、身の安全を保障する代わりに鬼狩りの代行をしてもらわねェと」

 何もさせないなど勿体無い、と不敵に笑った。

 新戸曰く、すでに上弦の弐と陸は、自らの血を取り込んでるため、彼らへの命令権は自分にあるとのこと。人を襲わずに行動してさえくれれば基本的に放任するが、それは無惨と同じ能力を使えるようになったがためであり、自分の代わりも兼ねて貢献してもらわねば後々グチグチ言われてるのが嫌なのだという。

 相談もせず独断で実行したのは、柱達の反発が目に見えたからなのだろう……。

「……反吐が出るぜェ」

「だが、それを行ってもらうとありがたいのも事実だ」

「! 意外だな、あんたがそれ言うなんざ」

 柱の代表である悲鳴嶼の言葉に、新戸も目を瞠った。

「新戸、私から一つ提案がある。お前にとっても悪くない話だ」

「……ってこたァ、下の連中絡みか」

「左様。我ら柱が直々に隊士全員への指導をしようと考えている」

 悲鳴嶼は、柱達を筆頭に全体的な組織力強化を図る修練を行うことを提案した。

 本来なら様々な任務があって、隊士全員への指導などしている暇が無いのだが、新戸がここまで手を回していれば日中限定で総合的な実力の向上の為の訓練ができる……そう考えたのだろう。

「基礎体力向上、高速移動技術体得、太刀筋矯正……施さねばならぬことは多い」

「鬼にここまで働いてもらっちゃあ、鬼殺隊の名折れだぜェ」

「だな。派手に賛成するぜ」

 実力と人望を兼ね備える悲鳴嶼の言葉に、柱達は全員賛成。耀哉も同意し、物の数十秒で可決された。

 が、新戸は少し違った。

「いやいや、それじゃあ足りん。どうせやるんだ、童磨や妓夫太郎と手合わせさせた方がいいだろ」

「ちっ、てめェと意見が合うなんてな……」

「お前ら、鬼かよ」

 何と新戸と実弥の意見が合致。

 過酷さが増し、柱達も心してかからねば死にかける程の内容になってしまった。

「……まあ、ここらで全体的に一休みしとけってこった。あとは里に事前連絡して兵力揃えりゃあいいんだからな」

 こうして、緊急の柱合会議は終わりとなった。

 

 

           *

 

 

 ここは「新蝶屋敷」。

 旧蝶屋敷が栄次郎との戦闘の影響で使えなくなったため、さらに大きな産屋敷家の別邸が開放されることとなった。土地の広さは想像以上で、鬼殺隊の当主の一族の別邸ゆえか、蝶屋敷の倍の病床数を確保しても部屋が余る程だった。

 その大広間で……。

「このクソガキーーーーーッ!!」

「ムゥーーーーッ!!」

 堕姫と禰豆子が取っ組み合いの喧嘩をしていた。

 鬼同士、それも女同士の喧嘩には誰も介入できず、肉親ですら迷う始末だ。

「おい! ねず公と蚯蚓(ミミズ)女、どう止めるんだよ!」

「てめぇ、誰の妹が蚯蚓女だぁぁ!?」

「妓夫太郎さん、落ち着いて! 伊之助も謝るんだ!」

「ハァァァ!? 何で蟷螂(カマキリ)に謝んなきゃなんねえ!?」

 伊之助が余計なことを言って、鎌を構える妓夫太郎を必死で止める炭治郎。

 そんな混沌と化した修羅場に、玄弥もお手上げだったが、そこへ救世主が現れた。

「何やってんの?」

「師範!!」

 珠世と愈史郎を連れ、新戸が帰ってきた。

 まさかの事態に、思わずきょとんとした。

「何で揉めてんの? どゆこと?」

「それが――」

 玄弥が事情を説明しようとした時だった。

「あたしのお兄ちゃんが強くてカッコいいに決まってんでしょう!?」

「ムムーッ!! ムーーーーーッ!!」

「何ですってェ!?」

「マジか、まさかの兄自慢かよ」

 喧嘩している際に飛んだ言葉に、新戸は事情を察し、吹き出しそうになった。

 

 堕姫は超が付く程に傲慢で高飛車であるが、同時に負けず嫌いで子供っぽい一面を持つ。

 どうやら、竈門兄妹の仲の良さが気に入らず、自分達の方がより絆が強く優れていると言ってのけ、遠回しに炭治郎を侮辱した発言でもしたんだろう。

 それに禰豆子が本気で怒り、叱ったところで堕姫が逆ギレしたんだろう。

 

「おい貴様、あの二人は止めないのか!?」

「いいんじゃね? 別に大したアレでもなさそうだし」

「アンタって、結構ほったらかしにしてんだなぁぁ……」

 呑気に煙草の紫煙を燻らせる新戸に、妓夫太郎はジト目で見つめる。

 この男、かなり面倒臭がっている。

 この下らない喧嘩は長くなりそうだと、愈史郎が頭を抱えた時だった。

 

 ゴンッ!

 

「ギャッ!?」

「ムグッ!?」

 揉め合う二人の脳天に、鉄槌が下った。

 衝撃に悶えながら、二人は涙目で裁きを与えた者を見上げた。

「師範に逆らう奴は等しく死ね」

 二人を容赦なく拳骨を見舞ったのは、獪岳だった。

「ちょっと、何すんのよ青二才! 信じられない!」

「獪岳! 禰豆子ちゃんを殴るな!!」

「てめェ黙ってろカス。その眉毛嚙み千切ってやろうか?」

 獪岳は善逸に辛辣に吐き捨てると、ギロリと白黒が逆になった瞳で二人を睨み、「正座」とドスの利いた声で命令。

 物凄い圧を放っている上、互いの兄が無言で頷いているため、二人は素直に従った。

「俺が言うのも何だが、てめェらは師範のおかげで頸の皮一枚繋がってるんだぞ。師範が鬼殺隊の掟に忠実だったら、今頃処刑されてる立場だっつーことわかってんのか? ウチは何体も善逸みてェなうるさいだけのカスは増やしたくねェんだよ」

「ちょ、兄貴? 俺泣いていい?」

「勝手に泣いてろ、そのまま枯れちまえ」

 心底見下した表情で善逸を一蹴すると、再び堕姫と禰豆子に向き直る。

「師範は見込みがあれば誰でも受け入れ傍に置く。逆を言えば、師範が生殺与奪の件を握っていて、()()()()()()()()()()()()()()()()。分を弁えろ馬鹿妹共」

 新戸が鬼を手駒にするというやり方は、あくまでも無惨討伐までの話。無惨討伐後は、どうなるかわからない。

 無論、新戸は自分の手駒に対してはこだわりが強いため、そう簡単に見捨てることはしない。だが彼が使えないと判断すれば、追放して処遇を鬼殺隊に一任する可能性がある。そうなれば、鬼を滅してこその鬼殺隊は斬首を迫るかもしれない。

 遠回しに突きつけると、二人は顔を青くさせて平伏した。

「師範を困らせるんじゃねえ」

 落ち込む二人に「次は拳骨じゃ済まさねェ」と釘を刺し、獪岳は新戸の元へ向かった。

「師範、お疲れ様です」

「やるじゃねェの。禰豆子ならいざ知らず、あの癇癪娘にも一発かませるとはな」

「師範は俺にとって〝特別〟ですから」

「……そうかい。師範として冥利に尽きるじゃねェの」

 ポンッと新戸は獪岳の頭に手を乗せ、ワシワシと撫でる。

 獪岳は少し頬を緩めて笑い、玄弥はそれを見てムッとした。

 

 新戸は、決して自分を切り捨てなかった。

 鬼にさせられてもなお、手を差し伸べた。

 打算的な関係が、いつの間にか絆になり、鉄壁の信頼関係に。

 それが、とても心地よくて、泣きたくなる程に嬉しい。

 

 師弟であり、ある意味では義兄弟のような関係に、獪岳の心は満たされていた。

「獪岳、このあと空いてるか?」

「鬼の能力の訓練ですか」

「さすが一番弟子、わかってんじゃねェか。――近い内にデカい博打を打つから、それまでに鬼の戦い方を教えてやる」

 すると新戸は、炭治郎達に一言告げた。

「そうそう、多分お前ら刀鍛冶の里に行くことになるから、ちゃんと体調整えとけよ」

「刀鍛冶の里?」

 

 新戸の策略が、上弦の肆と伍に牙を剥こうとしていた。




【ダメ鬼コソコソ噂話】
桑島切腹案件は、ちゃんと未然に阻止できました。
白装束を着て切腹用の短刀を握った途端、産屋敷家の鎹鴉が来て間に合ったそうです。
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