鬼は鬼殺隊のスネをかじる   作:悪魔さん

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単行本読み返してるんですけど、最近は「鬼殺隊も無惨側も情報戦がちゃんとできてないから千年以上泥沼の戦局続いたんじゃね?」って思ってます。

鬼殺隊側は、情報が揃ってれば上弦の対策も取れるし隊士の犠牲者も減ってた。
無惨側は、情報が揃ってればとっとと鬼殺隊滅ぼして太陽克服できた。

鬼滅の刃は、情報を得ることが如何に重要かを教えてくれるいいマンガです。


第三十五話 情報は情報だってのによ。

 翌日の夜。

 新蝶屋敷の大広間で、新戸達が作戦会議をしていた。

「童磨からの情報だと、上弦の肆・半天狗は窮地に陥いれば陥いる程に凶悪な分身体を生み出し、上弦の伍・玉壺は壺を使った空間転移や生物召喚が得意だそうだ」

「それ、スッゲェ重要な情報じゃないスか!?」

「何それ!? 増えるの!? 無理無理無理無理、絶対死ぬじゃん!! イヤーーーーーーーッ!!」

 標的の能力の凶悪さに、思わず声を荒げる玄弥。善逸に至っては――いつも通りと言えばいつも通りだが――絶叫しており、鬼化してなお理性を保つ兄弟子の獪岳に無言で締められた。

「分裂したり召喚したりして敵が増える……とても厄介だね」

「ええ、新戸さんが柱を三人寄越すよう言ったのも納得だわ」

「ハァ……皮肉なモンだな、鬼狩りが鬼の提供した情報に助けられるなんざ」

 新戸が立案した作戦に参加する柱達――無一郎、甘露寺、宇髄は口を開く。

 知らずに索敵したら、確かに勝つどころか生きて帰れるかすら怪しいだろう。

「情報戦がからっきしって、組織として一番致命的な問題を鬼殺隊は千年も抱えてたんだぜ? 眉唾物でも些細なことでも、情報は情報だってのによ」

「それでよく今まで潰れなかったなぁぁ……」

「鬼狩りって馬鹿しかいないの?」

 思わず呆れ返った妓夫太郎と堕姫の言葉に、新戸は「脳味噌詰まってなくても頸斬れりゃあ合格だからな、この組織……」とボヤいた。

 柱の前で言ってしまうあたり、新戸は相変わらずである。

「まあ、四百年前に一回滅びかけたらしいぜ? けどそれ、無一郎のご先祖の謀反とあんま関係ないんだよな……血鬼術の後遺症でも何でもねェのに、大体の隊士がポックリ逝ったって話だし」

「何でそんな組織を潰すのに手間取ってんだよ、十二鬼月」

「肝心の親玉がド級のノータリンだからな~……オツムの出来なら獪岳の方が断然立派だぜ」

 そう言ってワシワシと頭を撫でてくる新戸に、獪岳は鋭くなった爪でカリカリと照れ臭そうに頬を掻いた。

 それを間近で見た善逸と無一郎は、何か不気味なのでちょっと引いた。それに対し甘露寺と炭治郎は二人の関係に感動を覚え、宇髄らは普通に素っ気ない態度で見た。

「――ほんじゃ、大まかな作戦を伝えるぞ」

『!!』

 新戸は作戦を説明しだした。

 鬼殺隊きっての策略家の言葉に、耳を傾ける。

「まず上弦の肆と伍の対応についてだが、すでに振り分けといた。肆は甘露寺・炭治郎・禰豆子・玄弥・伊之助が、伍は無一郎・善逸・宇髄が担当。獪岳と妓夫太郎と梅ちゃんは、状況に応じて俺が念話で要請すっから、臨機応変に頼む」

「新戸さんは、何をするつもりですか?」

「一軍の将として判断を色々する。最前線と後方じゃあ、同じ戦場でも戦局の移り変わりの見え方が違うからな」

 新戸はあくまでも参謀として動き、自分の血を取り込んでいる獪岳達に念話で指示をするという。

 しかし、問題はまだ残っている。

「それはそうと、お前の言う上弦二体を倒すとして、里の連中はどうするつもりだ? 避難させるのも難しいぞ。まさか戦わせるとか言わねェよな」

「それについては問題ねェ。梅ちゃんの帯がある」

「アタシの?」

 驚いたように目をパチパチと瞬きする堕姫。

 新戸は彼女の帯を指差しながら、口角を上げた。

「梅ちゃんの帯は、中に人間を取り込んで保存することができる。梅ちゃんの操作か日輪刀で帯を斬れば解放することも可能だ。言い方変えりゃあ、帯は日輪刀以外の攻撃は防ぎ切れるってことでもある。その性質を利用して帯の中に避難させりゃあいい」

『!?』

 新戸の奇策は、まさに青天の霹靂。

 非戦闘員を鬼の肉体の一部と言える帯の内部に退避させるなど、常人どころか百戦錬磨の柱ですら思いつかない一手だ。だが伸縮自在で鋼のように強靭な帯ならあらゆる物理攻撃から護ることができるという点では、実に理に適っている。

 もし新戸が敵であったら……そんな考えが浮かび、その場にいる全員は背筋が凍る思いをした。

「もぬけの殻の里、殺すべき鍛冶職人は全員〝絶対防御〟の帯の中で戦線離脱済み、その場にいるのは鬼狩りと鬼の連合軍……かわいそうに、先手打ったつもりが実は里全体が罠でしたってんだからな。フヒヒヒ……!」

(人間を捕らえるための梅の帯を、人間を護る避難先にするって、何を食ったらそういう脳味噌になるんだぁ……!?)

 極悪人のように笑う新戸に、妓夫太郎は寝返って正解だったとしみじみ感じた。

 こんな奴を敵に回して相手取ったら、勝っても損しかないではないか。

 その時、無一郎が奇策を思いついた。

「だったらそれ利用して敵の鬼を拘束して、日中に解放して焼き殺すってやり方もいいんじゃない?」

「おお、それ地味にいいな!」

「確かに、それが成功すれば誰も死なずに……!」

 無一郎の策は、堕姫の帯に上弦二体を取り込ませ、日光に晒して焼くという妙案だ。

 仮に自力で脱出されたとしても、日の出まで封じ込められれば完封勝利となる。

 宇髄達は続々と賛同するが……新戸は難色を示した。

「俺も考えたんだが、そこに関しちゃあ読まれてる気もするんだよなァ……それが思いつかないようなポンコツだったら作戦会議なんざしねェって」

「あぁ、玉壺はともかく、半天狗は単独で殺すのは不可能だと思うぜぇぇ」

 妓夫太郎曰く。

 半天狗は分身体を次々と生み出すだけでなく、必要とあらば分身体同士を合体させることもできるという。分身体を生めば生む程、一体一体の攻撃の威力が落ちて弱くなるが、それでも柱以外では手に負えないのは変わらないだろう。

 しかも半天狗自身も、新戸には劣るが狡猾で抜け目がない一面を持ち、本体に至っては戦線から離れたところで隠れ、見つかった場合は瞬足で逃亡していくという。本体の大きさは野ネズミぐらいとのことだが、妓夫太郎や堕姫の頸より頑丈なので、防御力も鉄壁に等しいだろう。

「これ聞いてどう思う? 頸をわざと斬らせて分裂体を増やし続ける可能性もあんだぜ?」

「……そりゃあ、地味に想定外だな……」

「何じゃそりゃあ!? クソみてェな能力だな!!」

 妓夫太郎の情報に、宇髄は苦虫を嚙み潰したような表情を浮かべ、伊之助は声を荒げる。

 つまり攻略における厄介さを極めているのが、上弦の肆なのである。新戸が早めに潰そうと躍起になるのも納得がいく。

「小心者ってのは、言い方変えりゃあ警戒心が強いってことだからな……この戦いは俺とあいつの知恵比べになると思う」

「ちっ……勢いや真っ向勝負じゃあ絶対に勝てねェんだな」

「宇髄よゥ、いつも言ってるだろ? 卑怯は作法だって。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 新戸は自信に満ちた表情を浮かべる。

 小賢しく卑劣な手を使ってくる敵の戦略を読めるのは、戦略を熟知した者しかいない。

 勿論、鬼殺隊には指揮官として優れる者は複数いる。しかし戦術戦略に特化している実力者は新戸しかいない。

 全ての渦中にいるのは、新戸なのだ。

「理想の形は、壺野郎を秒殺して全戦力でジジイを袋叩きってトコだ。あとは逃がさないように仕向けりゃあいい」

「に、逃がさないようにって……どうするんだよ……?」

「――それは私が説明しますよ」

 そこへ、新たな人物が現れた。

 鬼殺隊を医療で支え、それでいて現当主のかかりつけ医も兼任する麗しき鬼の女性――珠世だ。その隣にはいつものように愈史郎が控えている。

「珠世さん! 愈史郎さんまで!」

「……めっちゃ美人」

「っ……」

「何惚けてんだカス共」

 女性への耐性が弱い玄弥と、女性に目がない善逸を獪岳は締める。

 珠世は全員に一礼すると、新戸に箱を渡した。

「新戸さん。例の回復薬に加え、しのぶさんと開発した毒もお渡しします」

「そいつァどうも」

 箱を開けると、そこには輸血パックと採血の短刀、そして紫色の液体が入った短刀が入っていた。

「この短刀って、刺さると自動で注入されるヤツ?」

「ええ。ただ日輪刀のような強度はないので、慎重に使ってください。――愈史郎」

「はい。……新戸、貴様に俺の呪符をやる」

「気が利くねェ。夜戦でこれ程重宝できる代物は無い」

 愈史郎は渋々といった様子で呪符を渡した。

 彼の血鬼術も汎用性が極めて高い代物。目隠しだけでなく幻覚を見せることも可能なので、この作戦においては大きな意味を持つだろう。

 すると獪岳が、新戸に進言した。

「師範、いっそのこと量産して隊士全員に配給させたりするのはどうですか?」

「それいいな、生存率と討伐率上がるからめっちゃ楽になる。――愈史郎、お前分裂して10人ぐらいになれよ」

「できるか馬鹿者ォ!!」

 声を荒げる愈史郎。

 しかし珠世が「一理ありますね」と呟いた途端、「当然です!」と返答。

 電光石火の手のひら返しに、新戸と炭治郎以外はジト目になった。

「……まあ、そっちはそっちで順調っぽいから良しとして……例の件についちゃあ情報だけでも押さえときたいな」

「例の件?」

「〝青い彼岸花〟……無惨達が必死に探してる代物だ」

 新戸曰く。

 童磨から聞いた情報だと、無惨が千年以上探し求めてるモノで、目標である太陽の克服に必要な要素を持っている可能性があるという。現に上弦の参はその捜索を命ぜられており、今もなお人を喰いながら探しているのだろう。

 ただし新戸の推測では、すでに絶滅してるか生態があまりにも特殊で人間も鬼も見つけられないかのどちらかで、たとえ実在していても確固たる情報さえ押さえてれば無視してもいいという。

「しっかし、ホントあの野郎欲張りすぎだよな。太陽を克服したい、鬼狩りを潰したい、産屋敷を潰したい……何でもかんでも全部同時にやったら()()()()()()()ってこと想像できねェんかねェ」

 新戸がそんなことをボヤいていると……。

 

「青い彼岸花なら、昔見たことありますよ」

 

 炭治郎が、爆弾を投下した。

「……今何つった?」

「青い彼岸花なら、母さんが昔採って見せてくれてさ。彼岸花って赤いから、青は珍しかったなぁ……()()()()()()()()()()()()()()()だって言ってたし」

 その瞬間、新戸と珠世一派、元上弦の陸が絶叫した。

「ハァァ!? ちょ、何でアンタみたいな不細工の家にあんのよ!?」

「嘘だろぉ!? ただでさえ半信半疑だったのによぉぉ!!」

「何でそんな大事なことを隠していた!?」

「炭治郎さん……本当に知ってるんですか!?」

 大混乱に陥る大広間。

 まさか鬼殺隊と人喰い鬼の均衡を一発でひっくり返す要素が、竈門家にあったとは。それも青い彼岸花の生態も新戸の予想通りの特殊性だ。

 あの時、竈門家にいてよかった――新戸は思わず安堵の息を漏らした。

「こりゃエラいことだぞ……炭治郎の実家の近くに、無惨が太陽を克服するために必要なヤバい代物が眠ってるんだからな……これは輝哉に伝えとくぞ。言い訳無用だ」

「当たり前だ!! んなヤベェ情報、バレねェように共有しねェと派手に滅ぶわこっちが!!」

 事の重大さを知り、炭治郎は段々と顔を引き攣らせていくのだった……。




【ダメ鬼コソコソ噂話】
新戸はオツムの出来が非常に良いので、新戸の血を取り込んだ鬼は知能指数が強化されます。
ですので、堕姫も原作よりちょっぴり頭が足りてます。

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