鬼は鬼殺隊のスネをかじる   作:悪魔さん

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そう言えば、鬼って目を回して気持ち悪くなったりするのかな?

※本作では鬼も目を回します。


第三十六話 程々にやるのが丁度いい。

「明日の朝には出発か……」

 新蝶屋敷にて、新戸は一服しながら産屋敷家からの文を読んでいた。

 未来予知と言える領域に達する「先見の明」を有する耀哉が、そろそろ行けと伝えているのだ。それはつまり、近い内に新戸の予想通りに里へ上弦が襲撃に来るという予感を覚えたからだろう。

「うっし、そろそろ準備すっか。全員呼ぶぞ」

 三本目に突入した新戸は、火を点けて紫煙を燻らせる。

 すると、傍にいた獪岳がいきなり質した。

「……師範、本当に肆と伍だけでいいんですか?」

「ん?」

「今の戦力なら、壱が来ても大丈夫な気もするんですが」

 獪岳は、今の鬼殺隊の戦力は歴史上最大規模ではないかと指摘する。

 確かに、15年程前の新戸の配属以来、千年以上の歴史がある鬼殺隊は列強の軍隊よりも強大な戦力を手中に収めている。

 

 既存の常識に縛られず、大胆かつ合理的な奇策を次々に立案できる参謀・小守新戸。

 非常に高度な医術を有する珠世と、その助手の愈史郎。

 敵対しているはずが、新戸の介入によって与してくれるようになった上弦の弐と上弦の陸。

 

 鬼狩りが鬼と手を組んで無惨抹殺を図るなど、いくら鬼の首魁でもこればかりは想定外だろう。

 ましてや鬼化してなお理性を保つ隊士や、鬼として非常に稀有な個体である少女もいる。

 全面的な総力戦になっても、勝てる戦いに持ち込めるのではないか――獪岳はそう考えたのだ。

 だが新戸は、それだと思い通りに事が進まないとして彼の意見に同意はしなかった。

「下手に相手の戦力を削ると、予測不能の一手を打ってくるかもしれねェ。まァ無惨は頭無惨だからな……大方、日本中に散らばってる雑魚鬼共を集めて強制的に強化させるぐらいが関の山だろうが」

「予測不能の、一手……」

「それを防ぐには、程々にやるのが丁度いい。博打と同じだ、鉄火場での欲張りは身を滅ぼすから覚えとけ。それに「二兎を追う者は一兎をも得ず」って、よく言うだろ?」

 ニィッ……と不敵に笑う新戸だったが……。

 

 ――ドクンッ!

 

「!? …………え、ちょま、マジか!?」

 何かを察知した新戸は、顔色を変えて立ち上がる。

 良いか悪いかと言われれば、かなり悪い顔色である。

「あのバカ童磨……何やらかしやがった!? 行くぞ獪岳、ちと厄介な事になりやがった!」

「は、はい!!」

 新戸は肩をいからせて、轟音が響いた方向へと走った。

 

 

           *

 

 

 その頃、新蝶屋敷の庭では。

「グアアゥゥゥ!!!」

「禰豆子!! 正気に戻ってくれ!!」

「禰豆子ちゃあああああああああん!! どうしちゃったんだよォォォ!?」

「クソッ! こういう時に新戸がいりゃあ、派手に秒で解決できるんだが……!」

 炭治郎達が暴走した禰豆子を取り押さえていた。

 今の禰豆子は手足の長い成人程の体格に変化し、右側頭部には角が生え、身体の各所に枝葉の様な紋様が入った姿となっていた。しかしその分鬼化を進行させているせいか、人喰いの衝動に駆られているようだ。

 そして、なぜ禰豆子が暴走したのかというと……。

「おやおや、これは困ったなぁ」

「おい、糞親父!! ねず公に何てことしてんだ!!」

 ポリポリと頬を掻いて眉を下げ、伊之助に叱られる童磨。

 どうやら彼に原因があるようだ。

「クソ、世話の焼ける小娘だなぁぁ!」

「ちょっと、大人しくしな!!」

「わ、私も手伝うわ!!」

 炭治郎と善逸に加え、妓夫太郎・堕姫兄妹と恋柱も乱入して禰豆子を拘束するが……。

「ウガアアアァァァァ!!」

 

 ドォン!!

 

 禰豆子の全身から、爆血が熱波として放たれた。

 人間である炭治郎達は無傷で済んだが、鬼である妓夫太郎達は火達磨になった。

「「「ギャアアッ!?」」」

「おい、大丈夫か上弦共!?」

「禰豆子、やめるんだ!!」

 断末魔の叫びを上げる鬼達に、炭治郎達は悲痛な声を上げる。

 幸いにも鬼としては禰豆子以上である肉体に加え、爆血を扱える新戸の血を取り込んでるため、鬼殺しの火に対する耐性はあるので滅却されることはなかったが、それでも黒炭一歩手前の状態に追い込まれた。

 鬼にとっても人にとっても災厄となり得る状態と化した禰豆子に、宇髄は判断を迷った。

(どうする……どうすりゃあいい!)

 すると、そこへようやく救世主が現れた。

 

「なーにやってんだよ、このスットコドッコイ」

 

「新戸!」

「新戸さん!」

 鬼殺隊に与する鬼達の頂点が乱入。

 納刀状態の仕込み杖の石突を喉元に突きつけ、面倒臭そうな声色で牽制する。

「新戸さん! 禰豆子がっ!!」

「わーってるよ。ったく……」

 溜め息を吐く新戸に禰豆子は容赦なく喰らいつこうとする。

「グアアアアアゥゥゥ!!」

「ちったァ落ち着け。じゃねェとこうなるぞ」

 新戸が無造作に左腕を上げ、その掌から眼を出現させる。

 その眼が瞬きをした途端、禰豆子の身体に巻き付くように赤い矢印が展開された。

「ヴッ?」

 

 ――ギュルルルルルルッ!!

 

「ガアァァアァァァァ!?」

 刹那、禰豆子の身体が矢印の方向へコマのように高速回転。

 それを見ていた童磨は「気持ち悪そう」と顔を引き攣らせ、炭治郎達は呆然とした。

 そして回り始めてからおよそ二十秒後、回転は収まったが……。

「ううぅ……」

 完全に目を回している禰豆子は、フラフラと覚束ない足取りで三歩くらい歩くと、そのままうつ伏せで倒れ起き上がれなくなった。

「禰豆子!! 禰豆子、大丈――」

「うぅ……あぁ~………」

「あ、コレ駄目なヤツだーーーーーーっ!!!」

 白目を剥いて泡を吹く禰豆子に、善逸の悲鳴が木霊する。

 あられもない姿を晒す禰豆子に、同情の視線が集中した。

「おい新戸、止め方が雑過ぎるだろ……」

「いや、これが一番手っ取り早くて被害も最小限だろ」

「そりゃそうだがよ……一応は女だぞ?」

 「もうちっと優しくしろよ」と呆れる宇髄をよそに、新戸は童磨を質した。

「お前、何やらかしてんだよ」

「いやいや、おれは禰豆子ちゃんを強くさせようとしただけだよ?」

「ざけんじゃねェよ! どう考えてもテメェだろうが糞親父っ!!」

 伊之助の怒りの咆哮に、新戸は目を細めて尋ねた。

「おれの()()()()()()には、暴走する禰豆子が映ってたが……何やらかしたんだコイツ」

 新戸に質された伊之助は、ありのままを伝えた。

 何でも、童磨が禰豆子に興味を持ち、強くさせようと――おそらく本人は遊びのつもりで――彼女と手合わせしたそうだ。

 その際、容赦なく血鬼術を行使して凍らせたり、鉄扇を振るって手足を斬り飛ばしたり、仕舞いには頸を一閃して刎ね飛ばしたりと、それは散々やらかしたそうだ。が、禰豆子の潜在能力によるものか、バラバラになっても瞬時に元通りとなり、むしろ童磨を爆血で甚振るように焼き始めたという。

 これはいけないと炭治郎達は慌てて柱や妓夫太郎達を呼び、拘束させようとして、現在に至るようだ。

「……そんなんだから嫌われるんだよ、てめェ」

「俺は嫌われてないよ。それを言うなら新戸殿もだろう?」

「おれは嫌われた方が独断行動しやすいんだよ。あえて嫌われるように振る舞ってやりたい放題してるだけだし」

「そっちの方が問題だろうが」

 新戸の言い分に半ギレでツッコむ宇髄。

 そんな理由でやりたい放題されて敵味方問わず搔き回されたら、溜まったものではない。

「んなことより、耀哉から手紙を預かってんだ」

「それ先に言えよ」

「言える状況じゃなかったろ。……刀鍛冶の里へは明日の朝に出発するぞ」

 新戸は手紙の内容を伝えると、全員が気を引き締めた。

 刀鍛冶の里が、近い内に戦場となる。新戸の作戦通り、一人として死ぬことなく進まねばならない。

 責任重大だが、肝心の新戸は至って通常運転だ。

「……成程、よくわかった。だが移動に関しちゃあ、なるべく少人数にしねェといけねェ」

「そうね、隠の皆に負担を強いるわけにもいかないわ……」

 二人は移動手段に課題があると指摘する。

 刀鍛冶の里の場所は産屋敷邸と同じく秘匿されており、隠の案内以外で辿り着く術は無い。 目隠しと耳栓をされた状態で隠におんぶされ、案内する鎹鴉ごと途中で何度も入れ替わりながら向かうのだが、今回はいかんせん人数が多い。

 どうしたものかと一同は考えるが……。

「いや、だから新戸がさっき言ったろ。上弦の妹の帯の中に入りゃあいいだろうが」

『あっ……』

「気づくのおっそ……これ大丈夫か?」

 宇髄の一言にハッとなる炭治郎達を見て、新戸は一抹の不安を覚えたのだった。

 

 

           *

 

 

 翌日の朝。

 曇り空の下、新戸は堕姫と共に玄関で隠と顔を合わせていた。

「は、はじめまして……お館様からの許可が下りましたので、ご案内します……」

「ふぅん、こんな不細工がねぇ」

「印象最悪だからやめろっての」

 ゴンッ! と仕込み杖で堕姫の頭を叩く新戸。

 「何すんのよ!!」と抗議する帯鬼と涼しげな顔で無視するズボラ鬼に、隠の女性は複雑な表情を浮かべた。

「そんで、()()()()()()よな?」

「当たり前よ! 私を誰だと思ってるの!?」

 堕姫はそう言うと、背後から帯を触手のように伸ばした。

 帯には炭治郎達や宇髄ら柱の面々が、目を閉じた状態で取り込まれていた。

 しかもよく見ると見慣れない美人が三人混じっている。天元の妻である雛鶴・まきを・須磨だ。

「……スッゲー揉めたんだな。須磨の顔がひでェ」

 須磨の涙と鼻水でぐしゃぐしゃになった顔を見て、新戸は吹き出しそうになった。

 善逸に匹敵かそれ以上の騒々しい泣き虫である彼女には、さすがの堕姫も怒りを滲ませた。

「アイツ、ホントうるさかったのよ!? しかもあのタンポポと一緒に喚き散らしたのよ!!」

「だろうな。獪岳の顔の青筋スゲェもん」

 取り込まれた獪岳の顔の青筋の量に、「イライラしたんだろうなァ」と呑気に呟く新戸。

 すると、ズズ……という音を立てて堕姫の背中から妓夫太郎が現れ、それを見た隠の女性は卒倒しそうになった。

「おいぃ、早く行くべきだろぉ」

「ああ、そうだな」

「早くあの変態を仕留めて終わりにしたいわ! それと新戸! あとで上等な酒を用意して!」

「めちゃくちゃ染まってんじゃん」

 

 鬼殺隊と鬼の連合軍は、上弦二人(へんたいたち)を迎撃・殲滅するべく刀鍛冶の里へと向かうのだった。




早く刀鍛冶の里、やってくんないかなァ。
上弦の鬼とお奉行のCVが気になって仕方ない。

お奉行は山路さんとかだと面白そう。

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