12/3 修正と付け足しを行ってます。
同年九月二十日、午前十一時四五分。
この日、鬼殺隊最強と見立てられる〝
(この気配……小守もいるのか? それに……御子息様達も?)
敬愛する主に加え、子息達の気配とあのチャランポランな鬼の気配を感じ取り、思わず怪訝な顔を浮かべてしまう。
その時、新戸の高笑いを耳にし、何事かと思い柱達がいつも集う庭に向かうと――
「「うっ……」」
「俺に勝とうなんざ百年
縁側に陣取って高笑いする新戸の前で、産屋敷家の幼き跡取り・
新戸は産屋敷邸に居る時は、必ず五つ子の誰かと遊ぶ。新戸自身が退屈なのもあるが、鬼狩りの中枢としての仕事を務めてばかりでは疲れが溜まるばかりと見て、こうして遊びに誘っては満喫するのだ。
今日の遊びはどんぐりゴマ。しかも新戸が「一度でも自分を負かせたら仕事をしてやる」と賭けを申し出たため、三人は父の為にと意気込んで容認した。だが遊戯において化け物じみた強さを誇る新戸に、輝利哉とかなたは絶望の淵に立たされていた。
すると、窮地に追い込まれた二人を見ていた姉のくいなが、「奥の手を使わせていただきます」とクヌギでできたどんぐりゴマを取り出した。
「んなっ!? くいな!! 何でクヌギコマ持ってんだよ!? 俺ですら見つけられなかったのに!!」
「敵は取ります! そして働かせます!」
(平和だ……)
悲鳴嶼はスッと涙を一筋流す。
新戸が鬼でなければ。輝利哉達が普通の子供であったなら。その様子は近所の青年が子供達に交じって遊ぶ、ありきたりで平穏な日常の一部だ。
この日常を鬼から護るのが鬼殺隊だ。鬼の青年が人間の子供、それも敬愛するお館様の御子息達と仲良くしてるのは、鬼に人生を狂わされた身ではあるが少しだけ微笑ましくも思えた。
「あーーーーっ!!」
すると、今度は新戸が絶叫し、膝から崩れ落ちて項垂れた。
くいなが新戸に勝ったようである。
「お父様、勝ちました!!」
「よかったね、三人共」
輝利哉達が嬉しそうに
暗い影を落とす新戸の姿は、まさしく崖っぷちに立たされた人間。いや、この場合鬼狩りに頚を斬られる寸前まで追い詰められた鬼と言うべきか。どちらにせよ、調子に乗って変な賭けをするんじゃなかったと心の底から後悔していた。
「……手を抜いて負けたのか、小守」
「悲鳴嶼か……違う違う、手を抜かなきゃなんないんだよ、人間と同じくらいの力に。そうじゃないと
酷く落ち込んだ顔で言う新戸に、悲鳴嶼は察した。
鬼の特性の一つに、超人的な身体能力や怪力がある。その拳や蹴りは臓腑を破裂させ、人間の体をへし折ったり抉ったりすることすら造作も無い。
新戸の場合、どんぐりゴマを回すには
「難儀なものなのだな……」
「相変わらず慈悲深いことで。俺のことは無理に同情しなくてもいいってのに」
「そう言ってくれるとありがたい」
ジャラジャラと数珠を擦りながら、また一筋の涙を流す。
すると、今度は花柱のカナエが同僚である〝
「新戸さん、残念でしたね」
「カナエと天元突破ハデンジミンか……ああ、そうだよ、クヌギコマさえあれば……クソッ!」
「いや、クヌギコマへの信頼が派手すぎるだろ……」
たかがどんぐりだろ、と呆れる宇髄。
そんな中、ふとあることに気づく。
「おい、あの地味な日輪刀はどうした?」
「え? 俺の仕込みのこと? ……はっ! しまった! 物干し竿代わりにしたまんまだった!」
「おいウソだろ、日輪刀を何だと思ってやがる」
必要以上に神経質にはならない新戸だが、こればかりはさすがの宇髄も引いた。いくら何でも扱いが雑すぎる。刀鍛冶が聞いたら血の涙を流しそうだ。
ちょっと取って来ると言って一度その場を去る鬼に、カナエは困った笑みで見つめ続けている。さすが「鬼と仲良くできる」という持論の持ち主だ。
「そう言えば宇髄さん、ここだけの話ですけど、新戸さんの日輪刀の刃元の彫り文字を知ってますか?」
「ん? あいつもあるのか? 俺達と同じ〝惡鬼滅殺〟なんだろ」
「残念でした、〝労働ハ敵〟ですよ」
「どんだけ働きたくねェんだよ!!」
正午になり、〝
「よく揃ってくれたね。私の大事な
息女達に連れられ、耀哉は頭を垂れる柱達に微笑む。
そこへ――
「お館様におかれましても御壮健で何よりです、益々の御多幸を切にお祈り申し上げます……耳に
どこか退屈そうな声が響く。
柱達は声が聞こえた方向に顔を向けると、物干し竿代わりにしていた仕込み杖を取りに行っていた新戸が戻ってきていた。
「新戸さん……」
「耀哉への挨拶は早い者勝ちって前に言ってたじゃんか」
「いや、それはそうですけど……何て言うか……」
新戸はそのまま縁側に上がり、耀哉の傍で胡坐を掻いた。
その呑気な態度に、一同は呆気にとられる。
「……お館様、失礼を承知で申し上げますが、何故鬼がこの屋敷に居て太陽の下で平然としているのですか」
ふと、実弥は地を這うような低い声で耀哉に尋ねた。義勇は一言も発していないが、警戒を強め刀に手を掛けている。
二人の顔には困惑と恐怖が混じっていた。それはそうだろう。鬼が日の光を浴びても灰となって消滅していないのだから。
殺気立つ二人に対し、新戸はというと……。
「え? 何か問題でも?」
「問題ありまくりだクソ鬼ィ!!」
あっけらかんとしている新戸に、実弥は声を荒げる。
柱達の前、それも耀哉の横で小指で鼻をほじるだらしない鬼の、あまりにも白々しい態度。いっそ清々しさすら感じた。しかし敵意は一切感じられず、カナエとのやり取りや他の柱達の様子を見た義勇は、何か思い出したのか目を見開いて警戒を解いた。
「二人共、驚かせて済まない。義勇も初めて会うかな。彼は小守新戸。私の父……先代当主の頃から鬼殺隊に在籍している、日光への耐性を持つ鬼だ。当然人を喰ったことは一度も無いし、鬼舞辻の支配からも逃れてるよ」
その言葉に、実弥と義勇は息を呑んだ。
そんな虫のいい話があるのかと、お館様は騙されてるのではと勘繰ってしまいそうになる。
「……俄には信じ難いです。人を喰らわない鬼がこの世に存在するとは思えません」
「フフ……そうだろうね。でも彼は見たとおりだ。鬼殺隊に来て10年、今まで監視をしてきた者達からは一言も人間への危害、人間の血肉を口にしたという報告は上がってない」
「ホントホント。耀哉の言ってること事実だから」
グビグビと瓢箪の中の酒を飲む新戸に、義勇は少しイラッとした。
まるで緊張感が無い。柱は誰一人として自分を殺せないという傲慢なまでの自信の表れなのか、それともこの場で刃傷沙汰はやらないだろうと信じているのか。ただ、お館様が自分達に嘘をつくわけがない。
それは実弥も同じで、あの白々しい態度が癪に障ったのもあってか、説明を受けても信じられないと食い下がった。
「人を喰わねェ鬼がいるわけねェ……お館様、俺がそこの鬼の化けの皮を剥いでやりますよォ!!」
「いや、化けの皮っつっても特に俺何も被ってねェんだけど」
「てめェ馬鹿にしてんのか!!」
そう怒鳴って抜刀し、自分の腕を斬りつけた。
実弥は稀血の持ち主である。稀血を持つ人間は誰であろうと肉体や血の栄養価が極めて高く、一人食べるだけで50~100人分の人間を食べるのと同じだけの栄養を得られるという。しかも実弥に流れる稀血は、その稀血の中でも希少かつ特別。鬼がその血の匂いを嗅ぐだけでも、酩酊するほど濃いものであるのだ。
どんな鬼でもその血を欲して本能を剥き出しにする。新戸という鬼も、鬼である以上は涎を垂らして食らいつくに決まっている。
そう思っていた実弥は、獰猛な笑みを浮かべた。
「本性出せや鬼ィ!!」
「…………」
「何だその顔はァ!!」
稀血が滴る腕を差し出した実弥に、新戸はドン引きしていた。
匂いで酩酊することもなく、正気を失って襲い掛かることもなく、ただただドン引きしていた。
「っ……おら、来いよ鬼ィ!!」
「気色悪い奴だな、しつこい」
納得のいかない結果に、実弥は稀血が滴る腕を突き出すが、新戸は非常にイヤそうに一蹴。
こいつ頭のネジ外れてるのかとか、そんな余計な副音声でも付いてきそうだ。
「お前の大好きな人間の血だぞォ……」
「そもそも煙草や酒より美味い血があるわけ無いじゃん」
とどめの一撃とも言える本音に、ついに全員が吹き出した。
新戸は人間の血肉ではなく、鬼が本来行わない睡眠や人間の食事でエネルギーを摂取し、酒と煙草で鬼の本能を抑えている。煙草と酒の依存ぶりは相当なモノで、人間の血肉への飢餓感をも凌駕している……というか、ほぼ中毒者である。
そんなぐうたらな彼にとって、稀血など無意味なのだ。なぜならすでに
「それよりも早く手当受けた方がいいよ、人殺し白髪丸君」
「誰が人殺し白髪丸だ!!」
「お前以外いないっての。鏡見てみん、実際鬼殺してるっつーよりも人殺してる顔だからマジで。誰がどう見ても人殺し白髪丸だから」
顔中に血管を浮かび上がらせる実弥と、彼を不審者でも見るような目をする新戸。
どこからどう見ても馬が合わない。鬼狩りと鬼という相容れぬ立場のせいだと思うが、仮に新戸が人間でも相性最悪だろう。
すると耀哉は口元に人差し指を当ててその場を鎮め、新戸に二人を紹介した。
「じゃあ改めて私が紹介しよう、新戸。〝水柱〟冨岡義勇と〝風柱〟不死川実弥だよ」
「水と風、か……まあこいつが言った通り、俺は小守新戸。現在進行形で耀哉のスネをかじってます。以後よろしく」
「何様のつもりだ。働け」
「えっ? 何で働かなきゃいけないの?」
新戸の言葉に腹を立てた義勇が完璧な正論で殴りかかるが、即座に放たれたとんでもない切り返しに言葉を失う。
完全な開き直り。意外そうな顔で発せられた吹っ切れた発言に、義勇と実弥はなぜ鬼舞辻無惨の支配から逃れることができたのかが理解できた。
――こいつは支配を逃れたんじゃない、クズすぎて
「あと一つ訂正ね。俺は日光への耐性はそこまでない。せいぜい90分……半刻とちょっとしか日光を浴び続けられないから。……ってか、そんなことの為に集めたのか?」
「君から本題を切り出すなんてね」
「いい加減気にするがな」
耀哉は柱達に顔を向け、本題を切り出した。
「新戸、これからの柱合会議は君も顔を出しなさい」
「ハァッ!?」
まさかの発言に、新戸は思わず声を上げた。
それは柱達も同様で、動揺を隠せないでいる。
「今までスネをかじってきたんだ、私が倒れる前にツケを払ってもらわないとね。輝利哉達の戦果も無駄にはしない」
「……おい、まさかアレか。これ俺に圧力かけるために集めたのか」
「何か問題でも?」
何を今更と言わんばかりに微笑む耀哉に、新戸は顔に血管を浮かばせた。
「お前、汚いぞ!! 権力濫用に加えて柱呼んで一人の人間……じゃねェや、一人の鬼に圧力かけるのは!!」
「君が働かないからいけないじゃないか」
「働かないのが人を喰うぐらい悪いってのか!?」
「お前
ゴシャッ!
「ひでぶっ!」
人喰いの単語を用いてスネかじりを正当化させようとする新戸に、実弥は思わず手を挙げて殴ったのだった。
なお、この柱合会議は待機していた隠達によって「御前騒動」と呼ばれ、ある種の伝説のように語り継がれるのだが、当の本人達はまだ知る由も無い。
*
午後七時半、東京府某所。
後に「御前騒動」と呼ばれることになる会議を凌いだ新戸は、腰に仕込み杖を差して単衣羽織を袖を通さず羽織り、柱も隊士も連れず一人で街をうろついていた。
「ったく何だよあのヤクザ柱、いきなり殴りやがって……あ、酒切れた」
瓢箪の中の酒が無くなり、しょんぼりとする新戸。
日中の会議の圧力で新戸は否が応でも働くハメになったが、その見返りとして単独行動を許された。今までは鬼という存在ゆえに人にいつ襲い掛かるかわからなかったために柱が監視役として付いたのだが、実弥の一件を機に監視を解いたのだ。といっても、あくまでも柱の監視が不要になっただけなので鎹鴉による監視は続いてはいる。
当然、その監視目的は仕事をしてるかどうかである。
「上弦の情報、か……
ブツブツと独り言を並べる新戸。
最悪な関係という訳ではないが、できれば頼りたくない知人の顔を思い出し、遠い目をする新戸だったが――
(うわ……また見られてる。今月で二度目だぞ……)
ふと察知した鬼の気配に、思わず溜め息を吐く新戸。
しかも今回は二体いる。しかし先日の女鬼のような敵意や悪意、殺意は感じ取れず、「モテ期なのかなァ」とボヤきながら二つの異質な気配に近づいた。
新戸を見ていたのは、黒髪を結い上げた着物姿の妙齢の女性と書生のような恰好をした少年だった。
「えーっと……鬼の御二方、何か用ですか?」
「っ! 貴様、鬼狩りか……? 鬼だからなんだ! 珠世様には指一本触れさせないぞ!!」
「よしなさい、
「いやいや、
新戸がそう言った途端、二人は一瞬で顔を真っ青にした。
まるで信じられない光景を目の当たりにしたような反応で、文字通り血の気が引いている二人に新戸は困惑する。
「貴様、珠世様と同じ体質なのか……!?」
「あなたは、何者なのですか……?」
「……場所、移す?」
困惑気味の新戸の提案に、二人は顔を縦に何度も振った。
午後八時頃。
新戸は町外れにある木造の診療所に案内され、奥にある西洋の装飾品がバランスよく配置された畳の部屋へと通された。
「申し遅れました、私は珠世と申します。この子は愈史郎です」
「俺は小守新戸。鬼殺隊公認の鬼だ」
軽く自己紹介をし、新戸はマッチを取り出して煙草を咥える。
喫煙者と知った珠世は、灰皿代わりにと白い陶器の皿を差し出し、新戸は気遣いに感謝するように一礼してから火を点けた。
「フゥ…………やっぱり煙草は美味しいぜ。悪いね、気ィ遣わせちゃって」
「ああ、全くだ」
胡坐を掻いて煙草を吹かす新戸を、愈史郎は腕を組んで吐き捨てる。
「それで、鬼狩りに認められてるとはどういうことだ」
「人を喰わないからな。血も必要ない。煙草と酒、それに睡眠と人間の食事……まあ要するに安全な鬼だ」
そう告げた瞬間、珠世と愈史郎は驚きのあまり目を見開いていた。鬼の範疇から逸脱した存在を目にするのは初めてなのだろう。
特に珠世の驚きぶりは尋常ではなく、我を忘れて信じられないと叫んだ。
「そんな馬鹿な……! どんな鬼も人間の血肉が無ければ生きていけないはずなのに……!」
「そのまさかなんだよなァ」
ケラケラ笑う新戸に珠世は戸惑いを隠せないが、同時に好奇心が湧いた。
新戸は確かに鬼だ。口を開けば鬼特有の牙が見え隠れし、その瞳孔も人間のそれではない。だが平然と紫煙を燻らせ、人前で鬼舞辻無惨の名を口にしても「呪い」が発動しない鬼など、数百年生きてきた珠世から見れば規格外にも程がある〝未知の個体〟だ。
この鬼を知らねばならない――そんな使命感を覚え、珠世は自らのことを話し始めた。
「私は自分で体を随分弄ってます。鬼舞辻の呪いも外し、人の血を少量飲むだけで事足りる。ですがあなたは、人の血肉を口にせず人間と同じ食生活を送れる。鬼は本来飲食を行えませんから……はっきり言って、羨ましい限りです」
「ん? 珠世さんと愈史郎は飲み食いできないのか?」
「私は紅茶だけです。体質を変化させましたが、あなたと比べると……」
どこか憂いた表情の珠世に、新戸は「難しいね」と言いながら灰を落とす。
そんな珠世を見た愈史郎は、憂いた顔も美しいと顔を赤くしている。
「……そう言えば愈史郎は彼氏? それとも息子? まさかの愛人?」
「んなぁっ!?」
まさかの質問に、愈史郎は茹で蛸のように真っ赤になった。
「こんな別嬪と二人っきりなんだからそう思って当然だろ」
「んな……ななな……!」
「そこんトコ、どうなんだい」
言葉にならない言葉で動揺する愈史郎を他所に目を向けると、珠世はクスクスと楽しげに笑みを浮かべながら答えた。
「愈史郎は私が鬼にした子です」
「珠世さんが? ……ってことはアレか、不治の病を患っていた者への延命措置的なヤツか」
「はい。もっとも、二百年以上かけて鬼にできたのは愈史郎ただ一人ですが」
「あんた一体何歳だ?」
「女性に歳を聞くな無礼者!!」
いつも通り思っていたことをそのまま口にする新戸に、案の定愈史郎は激昂。
鋭い正拳突きを繰り出すが、傍に置いていた仕込み杖の柄で受け止める。
「すぐ暴力で訴えるのはダメだろ。珠世さんの好感度高くしてェなら、な」
「! ぐっ……余計なお世話だっ!!」
フンッと顔を逸らす愈史郎を、新戸は愉快そうに笑う。
そんな光景に微笑ましく感じた珠世だが、すぐに真剣な表情になって新戸に告げた。
「新戸さん、あなたは先程鬼殺隊公認の鬼とおっしゃいましたね? すでに察してるかと思いますが、私は鬼であると共に医者でもあり、何より鬼舞辻を抹殺したいと思っています。あなたにも鬼殺隊での立場があってやりづらいかもしれませんが……どうか私に力を貸してくれませんか?」
「いや、全然いいですけど。むしろ大歓迎、いくらでも口利きしますとも。それで仕事せずに遊んで暮らせるなら切腹覚悟で直談判するよ」
「お前さては人間の頃から腐ってたな……?」
快く了承してくれたが、クズっぷりを遺憾なく発揮する新戸に愈史郎は思わず頭を抱えた。
しかし鬼殺隊と連携を取れるようになるのは、新戸の介入によって鬼殺隊に抹殺対象にされずに〝研究〟に没頭できるという意味でもあり、割とおいしい話。珠世は愈史郎に「お言葉に甘えましょう」と安堵した笑みで告げた。
「ありがとうございます。それと折り入って一つお願いがあるのですが……」
「今なら別にいいよ。労働関係以外なら」
「ええ、働くわけではありません。ただ……」
――あなたの体を調べさせてほしいの♪
その瞬間、新戸は仕込み杖を手に取り脱兎の如く逃げ出そうとした。
本能が察知したのだ。ヤバイことになったと。
だが、時すでに遅し。珠世は血鬼術「
「大丈夫、痛くはしませんよ」
それはそれは悪い笑みを浮かべた珠世に、新戸は震え上がった。
「ま、待ってくれ……! 話せばわかるから! 心の準備もできてないし! 愈史郎、お前も一言言え!」
「……フッ」
「こんの人でなしーーーーーっ!!」
自分のことを棚に上げた叫び声を上げ、珠世に体を調べられる新戸だった……。
【ダメ鬼コソコソ噂話】
新戸を監視する鎹鴉は五羽で、一羽は産屋敷家の伝令、残りの四羽は好き勝手にふらつく新戸の捜索係。