鬼は鬼殺隊のスネをかじる   作:悪魔さん

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新年初の更新です。
原作における柱稽古ですが、こっちの方が過酷かも。


第四十話 思いっきり嫌味じゃねェか。

 新戸が仕掛けた刀鍛冶の里での上弦殲滅作戦は、見事成功を収めた。

 上弦二体の討伐は鬼殺隊の士気を飛躍的に高め、耀哉も吐血して倒れるくらい嬉しさを露わにし、千年の悲願まであと一歩というところまで迫りつつあった。

 一方、産屋敷の戦力を削れなかった無惨側はどうしたのかというと――

「鬼の被害が突然なくなったァ?」

「うん……鴉達からの報告なんだ。君の作戦が成功して以来ね」

 産屋敷邸にて、耀哉に呼ばれた新戸は眉をひそめた。

 拡大しつつあった鬼の被害が、ピタリと止んだのだそうだ。

 無論、新戸が事前に童磨と堕姫の分身体に鬼狩りをするよう要請したのもあり、鬼の被害自体は減少傾向にはあった。だが、いきなり被害がなくなるのは不自然ではある。

「……新戸、お前はどう考える」

 数珠を鳴らしながら、柱の筆頭である悲鳴嶼は問う。

 すると新戸は、「総力戦だろ」と即答した。

「下手に部下の鬼達を動かせば、駒減らされると考えたんだろうよ。――バカだねェ、今更ジタバタしてももう遅いってのによ」

 愉快そうな声色で、新戸はあくどい笑みを浮かべる。

 上弦の弐と上弦の陸という巨大な戦力を戦わずして奪い、さらに珠世一派を引き入れたことで、今までにない兵力を得た鬼殺隊。それに対し無惨側は主君の愚行で下弦を、新戸の作戦で上弦を次々と失い、真面な戦力が無惨を含めて五人くらいしかいない。

 千年以上に及ぶ鬼と鬼殺隊の戦いの歴史上、戦局的にもっとも無惨を追い詰めた状況と言え、柱が誰一人欠けていないのも史上初と言える。それ以前に上弦を寝返らせるという離れ業を成し遂げてる方が凄まじいのだが。

「もう正直言っちゃうけどさ、この戦い勝てるよ」

「新戸……それは浅はかが過ぎるのではないか?」

「そうでもねェさ。考えてもみろ。本来ならこの国を鬼だらけにして、常に柱と上弦の一騎打ちにさせりゃあ無惨の勝利確定なんだぜ?」

 新戸の言葉を聞き、耀哉と悲鳴嶼は戦慄した。

 彼の言う通り、日本中に鬼を大量発生させれば戦力を分散せざるを得なくなり、それによって疲弊した柱を上弦で各個撃破すれば、鬼殺隊殲滅は割と簡単なのだ。もし無惨側に新戸のような戦略的に動ける鬼がいれば、あるいは無惨自身がその考えを早く思いつけば、鬼殺隊も産屋敷もとっくに滅んでいただろう。

 だが無惨は、新戸が爆笑するくらいに一軍の将として無能。情報の有益性や手駒の使い方、内通者の用意といった「謀略の基礎」がまるでできてない。隊律違反上等な合理的かつ効果的な戦略を仕掛ける新戸と違い、無惨は強力かつ凶悪極まりない手札を揃えておきながら計画性に欠けてるせいか、戦略が見事に空回り。むしろ童磨からの内部告発もあって新戸に読まれ、無惨な結果に終わっている。

 名は体を表すとはよく言ったものだ。

「そう言えば君は昔、「三年あれば鬼殺隊は滅ぼせる」とか言っていたね……」

「要するに、それをすれば可能ということか……」

「うん。そんでもって無惨の野郎、こんな簡単なこと千年経っても思いつかないんだぜ? てめェの無能を部下の有能で補ってるようなカスだから、当然っちゃ当然だがよ」

 無惨をボロクソに罵倒しつつ、新戸は本題を切り出した。

「……で、鬼殺隊の戦力強化訓練の件だったな」

「ああ……鬼の活動が止んだ今こそ、好機だと思っている」

「私も行冥に同感だ」

「それについてなんだけどよ……」

 新戸は二人に、自らの提案を語り出す。

 それを聞いた二人の顔は、見る見るうちに強張っていく。

「新戸、本気なのか……!?」

「より実戦に向いた形の方がいいと思ってよ。それに半端な覚悟であのワカメ頭を討ち取れっこねェっしょ? こんなトコで心へし折れるようなポンコツに、手駒の価値はねェ」

 不敵な笑みを浮かべる新戸に、目の見えない者同士が顔を見合わせる。

 暫し考え抜いた末、耀哉は新戸の案を採用した。

 

 

           *

 

 

 三日後の夜。

 鬼殺隊の隊士達は、新蝶屋敷に集結していた。

「おうおう、雁首揃えてらァ」

「……さすがに圧迫感ありますね……」

(兄ちゃんもいる……)

 目を細める新戸に対し、獪岳は柱が揃ってる光景に気圧され、玄弥は目を逸らした。

 柱も隊士も大方集結したところで、実弥が苛立った様子で質した。

「小守ィ、全員呼んで何を企んでやがる?」

(はえ)ェ話、俺が指導する戦力強化の訓練を始めるってこった」

 新戸の言葉に、一同は怪訝そうな表情を浮かべる。

 鬼の新戸が、柱を含めた隊士全員を鍛えるというのだ。

「中身は単純だ、俺が用意する()()()と組手をする。――わかりやすくていいだろ?」

 新戸はニヤニヤと悪い笑みを浮かべる。

 嫌な予感はするが、お館様が了承した以上、従う他ない。

「そうか!! それで、その刺客とやらは誰だ!?」

「ククク……そう話を焦るな、杏寿郎。刺客についちゃあ、柱と隊士は別に分けてあんだ。だが炭治郎達は問答無用で柱側に行ってもらうぞ、それぐらいの実力差はある」

「俺達が?」

「おお、じゃあ滅茶苦茶強いのが来るんだな!!」

 新戸の言葉に、伊之助は大興奮する。

 一方の炭治郎も、自分達の実力を高く評価され、どこか嬉しそうに微笑んだ。

「よし、まずは隊士側の刺客を紹介する」

 新戸がそう言うと、一同の前に一人の人物が現れた。

 流水と雲の様な柄の羽織を着用した、天狗の面を被った老人だ。

 それは、義勇と炭治郎、そして禰豆子にとっての大恩ある人物だった。

「まさかこのような形で再び会うとはな……義勇、炭治郎、禰豆子」

「っ……!」

「鱗滝さん!?」

「むむーっ!」

 そう、元水柱の育手・鱗滝左近次だ。

「……新戸、どういうことだ?」

「いや、見りゃあわかるだろ? 隊士達の刺客は元水柱の鱗滝左近次だ」

「いやいやいやいや!! 初っ端から壁が高すぎないか!?」

 まさかの相手に隊士達を代表して村田が声を上げるが、新戸は「一番易しいだろうが」と一蹴した。

「この爺さんボコれないようじゃあ、総力戦キツいぜてめェら」

「全く、お前という鬼は……」

「そう言うな。耀哉から戦局聞いてんだろ? ここで追い込めなきゃあ仕留め損なうぜ」

 新戸の言葉に一理あると感じたのか、溜め息交じりに左近次は「そうだな」と短く返した。

 すると、弟子である義勇と炭治郎に顔を向け、嬉しそうに抱き着く禰豆子の頭を撫でながら口を開いた。

「儂はお館様の命で、一般隊士の面倒を見る」

「……」

「鱗滝さん……」

「だが……今のお前達には無用かもしれんが、もし迷った時はいつでも頼れ。儂はお前達の育手であることに変わりはない」

 その言葉に、義勇と炭治郎は一瞬目を見開くと、決意を込めた眼差しで強く頷いた。

 口下手で口数も少ない義勇のいつもと違う一面を垣間見た実弥達は、驚きを隠せない。

「そんでもって、炭治郎達と柱連中が相手するのは……もうわかるよな?」

 新戸は指をパチンと鳴らす。

 それと共に、屋根の上から人影が二人分降りてきた。

「アンタ達の相手は!」

「俺達がやるぜぇぇぇ……!」

 炭治郎達と柱が相手するのは、元上弦の陸である堕姫と妓夫太郎の兄妹だった。

 まさかの大物の登場に、隊士達は悲鳴を上げて後退り、左近次も構えはせずとも警戒を強めた。それもそうだろう、鬼殺隊の中枢手前に、上弦を担った鬼がいるなど夢にも思わない。

 だが、柱達は違った。むしろ笑みを浮かべる者が目立っている。

「成程ォ、こいつらと戦うってことかァ……!」

「願ってもないな!! 相手にとって不足なし!! 受けて立とう!!」

「派手に上等じゃねェか!」

 上弦の鬼と手合わせできることに、柱達は士気を高めた。

 無惨との決戦の前哨戦に相応しい手練れに、興奮すら覚えていた。

「ちなみに医療班として珠世さんと蝶屋敷の面々、竈門家と琴葉さんもいるぞ」

「うわ、めっちゃ美人揃ってる!」

「ちなみにタンポポ、お前がケガしたら特別に獪岳が手当てしてくれるぞ」

「アンタ人の心ある!?」

 悲鳴を上げる善逸に、新戸は意地汚い笑みを浮かべるだけ。

 完全に確信犯である。

「そういうこった。言っとくがこれは耀哉が判を押した訓練だ、文句ある奴は俺じゃなく耀哉に直接言ってこい」

「ふざけんな、言えるかァ!!」

「済んじまったこと掘り返す暇あんなら、今日は休め。明日から死にたくなるくらいやってやるよ♪」

「それ殺す気ってことだよね?」

 ゲラゲラと笑う新戸に、無一郎は真顔でツッコミを炸裂させた。

 

 

           *

 

 

 解散後、新戸はある人物と顔を合わせていた。

 獪岳の育手である元鳴柱・桑島慈悟郎だった。

「新戸、まずは言わせてくれ。――すまんかった」

「……その言葉は俺じゃなく獪岳に言うべきだろうが」

 新戸はどこか苛立った様子で口を開く。

 しかし「その資格はない」と苦しそうな声で言葉を紡いだ。

「……儂はあの子の心を見抜けなかった」

「……そのことに気づいてるだけ、まだマシと捉えてやるよ。さすがに経験値が違うな」

 新戸は酒を煽りながら、俯く慈悟郎に告げた。

「人の頭ん中を読めても、心ん中で思ってることを見抜けなきゃ何を教えてもダメなんだよ。良い面も悪い面もひっくるめて全部見てるってことを()()()見せなきゃ、伝わるモンも伝わらねェ」

「……」

「あの子は誰かに認められたがっているし、()()()()()()()()()という想いがある。そういう奴に同格扱いって選択肢は絶対にやっちゃいけねェ〝禁忌〟だ。あのタンポポの日頃の行いを考えれば普通わかるだろ?」

 新戸は淡々と言葉を並べる。

 獪岳が強い承認欲求と自尊心の持ち主だからこそ、新戸は玄弥と差をつけるように扱い、自分の唯一無二の右腕として育てた。そうすることで獪岳の心の空白を埋め、欲求の肥大化を抑え、道を踏み外さないようにしたのだ。

 心の空白を埋めることさえできれば、あとはどうとでもできる。獪岳に「師範に失望されたくない」と思わせるように指導すれば、人を護ることはできるし栄次郎の二の舞にもならない。現に獪岳は「新戸に褒められたいから」という理由で玉壺に挑んだ。

「それと一つ訊く。……善逸に「一つできれば万々歳だ」とか言ったか?」

「! ……ああ」

「フッ……そりゃあ獪岳がクソジジイ呼ばわりする訳だ。思いっきり嫌味じゃねェか」

 新戸の言葉に、慈悟郎はハッとなった。

 獪岳は壱ノ型がどうしてもできず、それについて大きな劣等感を抱いている。今でこそ新戸を師範として慕い、その教えを優先しているために問題ないが、雷の呼吸の本質と言える霹靂一閃が使えないのはかなり不利だ。

 慈悟郎は果たして、獪岳の劣等感に気づいた上で善逸を励ましたのだろうか。ちなみに新戸はどっちに転んでも軋轢が生まれると考えている。

「……劣等感ってのはな、真面目である程にいつまで経ってもズルズルズルズル引きずるんだよ。現に槇寿郎がそうだった」

「……お前はないのか」

「全然。そもそも誰かと競うつもりねェから。テキトーに頑張ればどうにでもなる」

 新戸は酒瓶の酒を一気に飲み干すと、ゆっくりと立ち上がった。

「あの子はもう俺のモンだ。俺が面倒を見る。俺の弟子だ。――わかったら獪岳(アイツ)の〝心〟に近寄るな。せっかく埋めた穴を広げられんのァ困んだよ」

 座ったままの慈悟郎にそう告げ、障子を開けて縁側へと出て行った。

 その場に残った慈悟郎は、獪岳の抱える闇に気づけなかった己の不甲斐なさに一筋の涙を流したのだった。




【ダメ鬼コソコソ噂話】
新戸が弟子を育成する上では、以下のことを必ず守ります。

①弟子は多くとらない
②兄弟子と弟弟子を同格にしない
③一度とった弟子は絶対に見捨てない

これにはそれぞれ理由があります。
①は自分の教育をしっかり叩き込むため。多くとるとどこかしら抜けちゃうから。
②は互いの劣等感や自尊心の暴走抑止。同格だと絶対に対立するから。
③は「自分はいつでも味方」と植え付けることで、反逆させないため。悪く言えば洗脳。

これを固く守ってるので、獪岳や玄弥を上手くコントロールしてるわけなんです。
新戸はカリスマ性は無いですけど、教育力は鬼殺隊どころか作中随一です。
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