鬼は鬼殺隊のスネをかじる   作:悪魔さん

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【独り言】

本作も残り無限城のみ……今年の夏までには完結かな?
新戸のこと気に入ってるから、クロスオーバー作品としてのスピンオフとか考えトコっかな……。

呪術廻戦とかいいなぁ。吉野家か伏黒家に居候するとか、プロヒモとビジパになるとか、腐ったミカンもメロンパンも宿儺も出し抜いたりとか、面白そう。


第四十一話 次はねェぞ。

 新戸が始めた地獄の特訓。

 その効果は絶大で、基礎を固めたデキる剣士、半端な剣士、剣士どころか鬼殺隊士として難アリにキレイに分けることができた。これにより新戸は、無惨との最終決戦における部隊の配置がとても楽になり、ゲラゲラと上機嫌である。

 すでに新戸は無惨側を殲滅する作戦の大まかな流れを完成させており、現在は加筆修正の作業の真っ只中だ。

「ウハハハ! あー、楽だわやっぱ」

「師範、スゴいご機嫌っスね」

「そりゃそうさ、一番欲しい成果がもう出てるからな! あとは鍛冶の連中が造ってる人形と珠世さん達が作ってる毒が完成すりゃあ王手よ! ハハハ!」

 もう勝利祝いの宴の準備でもするか、と楽観視が過ぎる発言をする新戸。

 しかし、鬼殺隊随一の策略家がすでに勝利を確信しているのは、無惨との決戦は勝てる戦いであるという意味でもある。伊達に長く鬼殺隊に寄生――ではなく在籍していただけあり、穀潰しの玄人はご満悦だ。

 すると、三人は表に出て、その修羅場を目の当たりにした。

「おーおー、やってるやってる」

「「うわぁ……」」

 ニヤニヤ笑う新戸に対し、弟子二人は顔を引き攣らせた。

 三人の視線の先には、猛威を振るう元上弦の陸と、必死に渡り合う鬼殺隊の精鋭達が組手をしていた。

「何という攻撃の嵐……!!」

「これで最弱の〝陸〟かよォ……!!」

「うむ! やはり二人で一席となれば勝手が違うか!!」

「くっ……!!」

 文字通りの死に物狂いな柱達と、猛攻をしてくる堕姫と妓夫太郎兄妹。

 互いに息の根を止めるつもりがないとはいえ、仕掛ける攻撃は本気。妓夫太郎の血鎌の猛毒にやられ、珠世の治療を受けている面々が半数を占めている。

 今残っている面々は、悲鳴嶼、実弥、杏寿郎、義勇の四名。残りは全員戦闘不能だ。

「あれで最弱なんですか?」

「んな訳ねェだろ、カスが。……そうでしょう、師範?」

「あぁ!? 誰がカスだ!」

 青筋を浮かべて獪岳に食って掛かる玄弥。

 新戸はそんな二人に「今日も元気で何より」と笑いかけた。

「あいつらは俺の血を取り込んでる分、俺と同じ異能が使える。体質も変化してるか、無惨の野郎が生んだ鬼の上位互換かもな」

「なっ……!」

「それ勝ち目ないんじゃ……!?」

「話を最後まで聞け。いいか? 戦略戦法ってのは古今東西、あらゆる戦いで重要だと証明されてきた。数百人の軍勢が十倍以上の兵を揃えた敵軍を壊滅させたことなんてザラとある。戦ってのは頭数さえ揃えときゃいいんじゃねェし、個々の実力が高けりゃいいってもんでもねェ。戦は頭を使って仕掛けるからだ」

 トントンと指で頭をつつく新戸は、ある人物の元へと向かった。

 珠世達からの治療を受けている天元だ。

「おう、祭りの神。死にかけご苦労さん」

「新戸さん」

「てめェ……」

 ニヤニヤしている新戸に、青筋を浮かべる天元。

 しかし、この地獄を受け入れたのは敬愛するお館様であり、蹴ってもよかったのにそれを買った自分達にある。

 新戸に苦言を呈したところで何も変わらない……そう悟ったのか、天元はそれ以上は何も言わなかった。

「炭治郎達はどうだ?」

「毒の耐性がある俺様でもこの様だ、若手は満身創痍だぜ」

 天元が目を逸らすと、そこには撃沈した若手達が。

 炭治郎と禰豆子は竈門家に、伊之助は琴葉に、善逸とカナヲはアオイに介抱されている。

「ククク、そりゃあそうさ。俺の血を取り込んでんだから、俺の血鬼術使えるのは当然だろ」

「強化されてんのかよ!?」

「慣れとけよ、()()()も決戦ギリギリってトコで強化してくるかもしんねェから」

 新戸は続いて、珠世に声をかける。

「この様子だと、俺の依頼した薬は完成したようで」

「ええ。新戸さんの血を活用した回復薬や輸血用の血液の開発は、成功しましたよ。妓夫太郎さんの毒は中和できてます。副作用でしばらくは動けなくなりますが」

「それは上々。無惨の血に対する抗体にもなれそうだ、早めに予防接種させとこうか」

 新戸の言葉に、珠世も同意した。

 無惨の血という猛毒を体に流され、決戦の最中に誰かが鬼になるという事態を防ぐという意味合いでは非常に効果的だ。いかに無惨が愚かでも、()()()()()()悪知恵ぐらいは働くはずだ。

「愈史郎、血鬼術はどうなんだ?」

「呪符は陽光に晒されても多少は持つようになったし、呪符を媒体に会話ができるようになったぞ。誠に遺憾だが」

「ほうほう! そりゃあいいことを聞いた。立体的に指揮が執れるじゃねェの」

 新戸は笑みを深めた。

 童磨から無惨の拠点に関する情報はもらってはいるが、どこに無惨側の戦力が配置され、どれ程の規模なのかは皆目見当つかない。たとえ無惨が防衛に徹しても、災害級のチカラを有する壱と参は未だ健在で、鬼殺隊士とは相性最悪の栄次郎も残っており、油断はできない。

 だがこの呪符の効果があれば、鎹烏で呪符をばら撒いて耀哉が指揮をすることができ、柱に持たせれば現場での情報交換が可能となり、臨機応変に対応ができる。目隠し用の呪符があれば、撤退時に使用すれば生存率も上がる。

「今のところ、どこまで作れてる?」

「目隠しが二百と五十、会話用が予備も兼ねて二十だが……貴様のような悪辣な男のことだ、倍は作れと言いたいんだろう?」

「いや、それ以上作らなくていい。情報の漏洩は予測不能の危機を呼ぶ」

 下手に武器を多く持つと、いざという時に奪われて利用される。

 それを警戒し、新戸は量産を停止するよう頼んだ。

 その言葉に安堵したのか、愈史郎は「ようやく終わった……」とボヤいた。どうやら一人で黙々と作っていたようだ。

「今は脱落者が多いようだが、頃合いを見計らって童磨も参戦させるからな。若い衆にはもうちっと頑張ってほしいな」

「お前、鬼畜すぎるだろ」

「そうでもしねェと成長しねェだろ? こちとら突貫で修行つけてんだ、感謝しな」

 新戸は煙草で一服しながら、ニヤリと笑みを深めた。

 

 

           *

 

 

 今日の修行を終え、疲労困憊になる一同。

 炭治郎達や柱は肉体的に疲弊しているが、堕姫と妓夫太郎も柱全員を相手取ったために相当疲れている。鬼の目にも涙ならぬ、鬼の顔にも汗である。

 新戸はケラケラ笑いつつも「頑張れば童磨を送ってやる」と宣告。全然嬉しくない。

「てめェ、本当に容赦ねェな……」

「これぐらいしねェと、耀哉とあまねさんが俺に取引を申し出た意味がねェからな」

 その言葉に、全員が目を丸くした。

 お館様とあまね様が、新戸の馬鹿に取引? 寝耳に水だ。

 新戸が取引を申し出たのではないのだ。それが何を意味するのか、一同は神妙な顔つきになり、一部の者は剣呑な眼差しで見つめている。 

 新戸は不敵に笑いながら、「産屋敷家としての申し出だ」と前置きして、取引内容を告げた。

「〝()()()()()()()無惨を倒したら、産屋敷一族は俺の望みを何でも叶える〟……それが俺との〝契約〟だ」

『!!』

「あいつも何だかんだ、誰も死んでほしくないって思ってんだ。いくら無惨が頭無惨でも、何の犠牲もなく勝利できる相手じゃねェってのにな」

 呆れたように笑う新戸だが、一同は何とも言い難い表情だ。

 新戸は惡鬼というより悪党である。人間関係は割と律儀ではあるが、その本質は非常に狡猾で合理的……義理人情ではなく損得勘定で動き、自分の得を必ず重んじる。

 そんな奴と取引すれば、ロクなことにならない。

「おうおう、そうおっかねェ顔すんなよ。(わり)ィこたァ言わねェさ」

 欲深はいけねェしな、と新戸はあくどい笑みを溢す。

 明らかに悪巧みしている。

「……師範、楽しそうですね」

「まあな。伊黒と甘露寺をくっつけるとか、さねみんとカナエをくっつけるとか……耀哉(あいつ)の権力があればやりたい放題だ」

 新戸のとんでもない発言に、一同はギョッとした。

 ――こいつ、お見合いさせる気か!?

「な、なななな……!?」

「に、にに新戸、て、てめェ……!!」

「こん中で一番鬼殺隊の人間関係を熟知してるのは俺だ。誰が誰を想ってるのかは大体把握している」

 新戸は鬼殺隊に属して15年以上経っている。

 15年もあれば組織内の人間関係は大体把握でき、信頼関係や価値観はおろか、色恋沙汰の進展具合も凡その見当がつく。

 ずば抜けた洞察力を持つ新戸に、人間関係での隠し事は通じないのだ。たとえ柱であっても、だ。

「誰と相性がいいのかもわかるんですか?」

「当然……一番イイ感じなのは、義勇としのぶだな。合同の任務も多く、しのぶもガサツな割には協調性高いし」

「……そう言う師範って、好きな人いるんですか?」

 玄弥の一言に、空気が凍った。

 それと共に、新戸の纏う空気が様変わりした。

「――いたよ。俺よりも強くて、誰よりもカッコいい人がな」

(深い尊敬と……後悔の匂い……)

 匂いで相手の感情を汲み取れる炭治郎は、新戸からにじみ出た匂いに目を見開いた。

 新戸は、無理矢理笑っている。意地で笑って、感情を押し殺しているのだ。

 炭治郎はすぐに察した。その相手が、尊敬する煉獄杏寿郎の実母・煉獄瑠火であり、その別れも不本意なものだったのだと。

「……辛気臭いのは終わりだ。明日の修行について話すぞ」

 新戸は話を切り上げようとしたが、そこへ堕姫が待ったをかけた。

「新戸、あんたならどうにでもできたでしょ」

「……どうにでも、だと?」

「ええ。その想い人、鬼にすれば救えたのかもしれないじゃない」

「バカ!! てめェそれは禁句――」

 堕姫の発言に、実弥が血の気が引いた顔で窘めた時だった。

 ズンッ! と凄まじい殺意が襲い掛かった。

 ()()()()()()()()()()()()に、堕姫の顔が真っ青になり、柱の何名かも気圧された。炭治郎ら若輩に至っては、震えが止まらない始末だ。

 すると妓夫太郎が、目にも止まらぬ速さで妹の頭を畳に押し付け、自分も土下座した。

「旦那、勘弁してくれ……!」

「ちょ、お兄ちゃ――」

「てめぇ黙ってろ!」

 余裕のない表情で怒鳴り散らす兄に怯む堕姫。

 すると新戸から放たれた剣呑な気配は消え、仕込み杖を携えて立ち上がった。

 何も発さず、障子を開けて縁側に出ると、外を向いたまま一言告げた。

「――次はねェぞ」

 地獄の底から響くような、死刑宣告にも似た重すぎる声色。

 一言吐き捨てて表へ出た新戸に、一同は圧倒されたままだった。

「な、何今の……鼓膜破れるかと思った……」

「あいつ、とんでもねェ殺気放ってたぞ……」

 善逸と伊之助は、常人を超えた感覚から得た新戸の激怒ぶりに、身体を震わせていた。

 どうにか落ち着きを取り戻したところで、悲鳴嶼が「全員に聞かせたいことがある」と集合するように申し出た。

「……新戸と栄次郎の関係は知っているな?」

 栄次郎。新戸絡みの身勝手な理由の為に鬼になった裏切り者で、胡蝶姉妹との因縁も深い敵だ。

「実はお館様は過去に、新戸と栄次郎の話し合いの場を設けたのだ。その場で騒動が起きた場合を考慮し、お館様は任務を終えた私に非番であった冨岡と胡蝶を連れてくるよう頼まれた」

「しのぶさんですか?」

「いや、花柱を務めていた姉のカナエだ。当時からカナエは新戸と良好な関係だったのでな」

 その際の栄次郎の発言に、新戸は激怒し、瑠火に関する話は新戸の前で話さないようにという暗黙の了解が生まれたという。

 その発言はというと……。

 

 ――お館様、お言葉ですけど死にかけの人妻に恋を抱いてるゴミクズ鬼と、何で仲良くしなきゃならないんですか?

 

「酷すぎる……!!」

「人の心ないんですか!?」

「胸糞悪い……」

「とんだクソ野郎だな!!」

 栄次郎のあまりにも非情な発言に、炭治郎達は非難の声を上げる。

 当事者であるなぜ栄次郎がそんな発言をしたのかは、正直なところ不明だ。

 悲鳴嶼は、新戸への嫌味や挑発という意味で言ったのではないかと考えている。もしかすれば、新戸の頸を取る気だったのかもしれない。

「それを聞いた新戸は、とてつもない憎悪と殺意を剥き出しにした。完全に栄次郎は奴の殺気に呑まれていた。そのすぐ後に、冨岡が新戸を殴り倒して宇髄と共に引きずって離れた」

「義勇さんが!?」

「その時の新戸の荒れようは、尋常ではなかった」

 

 ――放せよ、おい!!! ぶっ殺すぞてめェら!!! 放せっつってんだよォォ!!!

 

 怒り心頭の新戸を、宇髄はどうにか押さえ、義勇が峰打ちをして気絶させたことで事は収まったという。 

 いきなり激昂して狂暴化した相手を殴り飛ばし、宇髄と協力して物理的に距離を置かせ、さらに峰打ちで意識を奪うという対応をした義勇。

 普通に考えれば問題ありまくりの対応だが、悲鳴嶼はあの場に限ってはそれが正解だと語った。

 

 産屋敷家が巻き添えを喰らわないように、怒り狂った新戸(おに)を止めるのは至難の業。

 義勇が新戸に手を上げなければ、間違いなく死人が出ていただろう。

 口で止めるのは不可能と瞬時に判断し、義勇は新戸を殴ったのだ。そうでもしないと止められないから。

 

 それ以来、二人は()()()()()()()接触禁止となり、事と次第によっては栄次郎の除隊も検討することとなったという。

 その時の耀哉も相当腹が立ったようで、度が過ぎた場合は鬼殺隊の敷居を跨がせないと言い放ったとのこと。それぐらい、栄次郎は歪んでいたのだ。

「もっとも、その矢先にああなってしまったのだが……」

「いつ思い出しても、不愉快極まりないぜ」

 宇髄は険しい表情で吐き捨てた。

「煉獄、不快な思いをさせて申し訳なく思ってる。これはお前がまだ柱になるずっと前の話であったから、初耳だろう」

「いや、新戸の気持ちはよくわかる! 俺も父上も斬りかかっていたのかもしれん!」

 鬼殺隊に起きた事件を知って顔が真っ青になった堕姫に、妓夫太郎は「口に気を付けろよぉぉ……」と注意した。

「そこまで、新戸さんは煉獄さんのお母さんを……」

「母上は、新戸のことになると楽しそうに話した。母上の前にいる時の新戸が、本来の新戸かもしれん」

 その言葉に、空気が少し重くなった気がした。

 新戸は、鬼になる前の記憶を失っている。最初からあんなチャランポランだったのか、それとも……鬼になる前の新戸を知る者は、もうこの世にはない。

 だからこそ、杏寿郎は思ったのだ。母といる時の新戸こそ、鬼になる前の新戸ではないのかと。

「……そう言えば、炭治郎の母さんや伊之助の母さんには、あの人結構丁寧な気がする……」

「重ねているかもしれんな。母上の影を」

 すると杏寿郎は「せっかくだ」と言い、朗らかに笑って一同に〝昔話〟を始めた。

「新戸が丁度席を外している……母上と新戸の関係について、俺の口から改めて話そう!」

「新戸の過去ォ?」

「ああ。実は新戸は――」

 杏寿郎は重くなった空気を変えるため、瑠火と新戸の知られざる関係を話し始めたのだった。




上弦の声優が超豪華っスね……。

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