前半は新戸との組手、後半は無惨様襲来です。
下ネタ注意。(笑)
第四十三話 死人が蘇るわけねーだろ!!
それは、童磨との組手を終えた翌日のこと。
きっかけは、実弥の一言だった。
「おい新戸ォ、てめェも組手付き合えや」
「え」
威圧感のある笑みで睨まれ、新戸は顔を引き攣らせた。
実弥曰く、無惨討伐の策を巡らすのはいいが、胡坐を掻いて手合わせをせず煙草を吹かしているのが気に食わないとのことだ。
確かに新戸は鬼殺隊の強大な戦力であり、総合的な戦闘力は上弦の鬼をも上回る。それ程の男が高みの見物というのは癪に障るのだろう。
「うむ! 確かに新戸が鈍るのもよくないな!」
「何だかんだ理由つけてトンズラはよくねェなァ」
「新戸さんの本気、見せてほしいです!!」
「俺達だけじゃあ割に合わないもんねぇ」
煉獄達を筆頭に、他の柱や炭治郎達、なぜか童磨も新戸との手合わせを所望し始める。
今までのツケというわけではないが、新戸としては味方にも手の内を晒すのを避けたがる性分なので、ただ気圧されるばかりだ。
「新戸、諦めなさい」
「耀哉っ……!」
ついには耀哉すら口を出し始めた。
それでもどうにか逃げる口実を必死に考えるが、とどめは刺された。
「師範、俺からもお願いします!」
「ぐっ……」
一番可愛がってる獪岳からも希望され、師範として逃げられなくなった。
新戸は
「わかったよ、しゃーねーなァ……ちょっとだけ付き合ってやる。ちょっとだけな。……ただ、本気で行くから血鬼術も多用すっから。卑怯も作法だってこと忘れんなよ」
新戸はそう忠告し、実弥達との手合わせを承諾した。
そして鬼殺隊は、本気の新戸の凄まじさを身をもって思い知ることとなる。
*
新戸対柱及び炭治郎達の組手。
先制攻撃を仕掛けたのは、新戸だった。
「〝刀剣舞の狂い〟」
仕込み杖を振るい、大小様々な斬撃を畳み掛けるように飛ばすが、悲鳴嶼が「鎖斧」とでも呼ぶべき特殊な形状の日輪刀を駆使し、全ての斬撃を相殺する。
その隙に新戸は飛び上がり、真上から剣圧を放つ〝鬼威し・柊〟で押し潰し攻撃を仕掛ける。地面に大きな亀裂が生じるが、巻き込まれた者はおらず、全員が回避していた。
「〝雷の呼吸 弐ノ型 稲魂〟!」
地面に着地した新戸目掛け、獪岳は黒い雷撃を飛ばす。
が、ここで新戸は想定外の攻撃を仕掛けた。
「〝
新戸がそう唱えると、仕込み杖の刀身に雷撃が迸り始め、それを振るって〝黒死雷〟を相殺した。それどころか貫通し、獪岳や周りの面々にも直撃した。
「え、ちょ、待って待って! それ半天狗殿の……!?」
「あいつの一部を取り込んだからか、自然とできるようになった」
「あー……新戸殿、ホント無惨様みたいな能力に……!」
バチバチと雷を纏い始める新戸に、一同絶句。
上弦の鬼の能力すらも駆使するようになるなど、寝耳に水だ。
そんなのアリかよ、と誰もが思った。
「どうした、まだまだやれるぜ俺ァ」
「上等だァ!!」
指でクイクイと挑発する新戸に、実弥は特攻。
新戸と真っ向から剣技で張り合い始め、次第に押し始めた。
(ちっ、さすがに剣腕じゃあキツいか)
「おらおらどうした、鬼殺隊最凶さんよォ!!」
「不死川、俺も行く」
ダメ押しとばかりに、伊黒が変則的な斬撃を繰り出す。
二人同時は厳しいのか、防戦一方になる。
が、そこは卑怯も作法と豪語する新戸。精神攻撃を仕掛けた。
「伊黒、そういやあ最近甘露寺と飯食いに行ったか?」
「なっ!?」
一瞬で顔を真っ赤にする伊黒は、太刀筋が乱れてしまう。
その隙を逃さず新戸が斬撃を放つが、実弥が庇って受け止めた。
「伊黒ォ、耳貸すんじゃねェぞォ!!」
「ちっ……」
「き、貴様っ……!!」
好いた相手の話で気を散らせた新戸に、伊黒は怒りを爆発させた。
しかし精神攻撃は常套手段。耐えられなければならない。
「おいおい、こんなんじゃあダメだぜ」
新戸はさらに斬撃の嵐を放ち、同時に爆血の炎を飛ばしまくる。
爆血の炎は人間には無害だが、鬼相手――ただし禰豆子以外――には効果絶大であり、人間相手でも目を眩ませるには十分。童磨や獪岳らは黒焦げになり、鬼殺隊側も爆血に視界を遮られて剣圧で吹き飛ばされる者が続出する。
「クソッ!」
乱れ撃ちに波状攻撃。
付け入る隙を見つけられず、思わず歯噛みする実弥。
だが、ここで絶好の好機が訪れた。
「〝八重帯斬り〟!!」
「〝飛び血鎌〟ァ!!」
上弦兄妹が、同時に攻撃。
新戸は臆することなく、冷静に剣圧で攻撃ごと二人を吹き飛ばすが、それと同時に死角から伊黒の奇襲を受け、仕込み杖を弾かれてしまった。
「何!?」
「そいつらは囮だ!!」
「行け!! 竈門少年!! 冨岡!!」
新戸はハッとなり、気配が強い方に顔を向けた。
「〝水の呼吸〟――」
「〝ヒノカミ神楽〟――」
義勇と炭治郎が跳びかかり、刀を振り上げる。
いくら丸腰の状態ではどうにもならないとはいえ、新戸はその常識に当てはまらない男。
丸腰のままニヤリと笑みを浮かべた。
「……〝狂圧鳴波〟」
「!? 皆、耳を塞げェェ!!」
本能的にヤバいと感じたのか、顔を青褪めた獪岳が全員に向けて叫び耳を塞いだ。
玄弥はその意図を察し、両手で耳を押さえたが、善逸達はどういう意味かわからず耳を塞がなかった。
次の瞬間!
――グオオオオオオオオオオオオオオッ!!!
新戸の口から、凄まじい雄叫びと共に音波攻撃が放たれた。
天地を震わす強烈な咆哮をモロに受けた義勇と炭治郎は、一瞬で意識を持ってかれ、白目を剥いて倒れた。
そして何を隠そう、音は振動であり、波のように広がる。音波の射程でなくとも咆哮自体は轟くものなので、聴覚が人一倍鋭い宇髄は悶絶し、善逸は失神。他の者も平衡感覚を狂わされ、膝をついた。
「……これで満足か?」
『殺す気かァ!!!』
意識をどうにか保っている面々は、新戸の容赦ない攻撃に非難轟々。
弟子である獪岳と玄弥は、「死ぬかと思った……」「生きてる、よな……」と互いに生存確認する。
「……精神攻撃に脆い上に、勝負焦ってらァ。丸腰になっても油断するな、鬼は基本
仕込み杖を鞘に収め、肩に担ぎながらその場を去る新戸。
一同はその背中を、ただ黙って見る他なかった。
*
それから三日後の夜だった。
新戸は産屋敷邸に居座り、煙草を吹かしていた。
「新戸……
「ギリギリ間に合ったってところだな……思ったより早くてびっくりしたぜ」
新戸は頬杖を突きながら、外の庭を見やる。
耀哉は寝たきりの状態で、彼を蝕む痣も広がっている。肌も痛々しい程に荒れ、体全体に包帯を巻いている。
「……もうちょっとだからな。変なこと考えんじゃねェぞ」
「……新戸……」
「あまねさん、梅ちゃんの帯は?」
「すでに巻いてあります」
淡々と述べるあまねに、新戸は「じゃあ、あとは迎え撃つだけだ」と笑った。
すぐ近くには、悲鳴嶼と珠世も待機している。ここまでお膳立てしておいて来なければ、無惨はある意味大物だ。
そんなことを考えていると、不意に気配を感じた。
「……とうとうおいでなすったか」
「……! 来たのかい……鬼舞辻、無惨……」
新戸の言葉に、耀哉はあまねに支えられながら起き上がった。
庭には、不俱戴天の仇――鬼の始祖・鬼舞辻無惨が立っていた。
「……何とも醜悪な姿だな、産屋敷」
無惨は耀哉の姿を見て嘲笑する。
しかし新戸がその場にいることは想定外だったのか、警戒して近づこうとはしなかった。
不用意に近づけば、反撃されるとわかっているようだ。
「あまね……彼は……どのような……姿形を……している……?」
「鬼舞辻無惨は二十代半ばから後半の男性に見えます。ただし瞳の色は紅梅色。そして瞳孔が猫のように縦長です」
「あまねさん、こんな大便を小便で煮込んだような性格の奴を一々美化して紹介せんでも……」
「ブフォッ!? ちょ、新戸……ゲホ、ゲホッ!!」
新戸の突拍子もないボヤきに、耀哉は吹き出してむせた。
素で言い放った爆弾発言に、あまねは唇を噛んで震え、無惨に至っては顔中に青筋を浮かべた。
「そう熱くなんな。せっかくの顔合わせだ、一杯やろうぜ」
「下らん」
新戸は酒壺を投げ渡したが、無惨は不快そうな顔で叩き割った。
「あーあー、せっかく槇寿郎んトコからパクった純米吟醸が……結構高いんだぜ、それ」
「この状況下でも暢気に酒を食らえる貴様の神経を疑う。性根も脳味噌も腐ってるのか?」
「その性根も脳味噌も腐ってる奴とやらに足掬われてるのは、一体どこの無惨様だい」
無惨の挑発に乗らず、むしろ挑発で返す新戸。
忌々し気に「異常者が……」と吐き捨てつつ、屋敷を見回した。
(この屋敷には産屋敷と妻のみ……子供がいると聞いたが、逃したか。だが護衛も新戸一人だけか……?)
大きな屋敷に、たった三人。
さすがに不自然に感じたのか、無惨は何かあるのではと考えていると、耀哉が口を開いた。
「無惨……この千年間、君は一体……どんな夢を見ているのかな?」
「お前どうしたいきなり」
「お黙り」
ジト目で見る新戸を一喝しつつ、言葉を紡ぐ。
「君たちは永遠を夢見ている……不滅を夢見ている……」
「……その通りだ。それもあと少しで叶う。お前達を滅ぼせば時間の問題だ」
「だが君は……思い違いをしている」
耀哉は無惨に対し、人の想いこそが永遠であり不滅であると告げた。
「この千年間鬼殺隊は無くならなかった……可哀想な子供たちは大勢死んだが、決して無くならなかった……」
「それは
「フッ……! 新戸、茶々を入れないでおくれっ……!」
無惨を指差しながら呟く新戸に、耀哉は破願した。
それとは対照的に、無惨の苛立ちは頂点に迫ろうとしていた。
そしてついに、新戸が動いた。
「まあ……耀哉の言ってることわかる訳ねェよなァ? だってお前らって……」
――無惨が死ねば、全ての鬼が滅ぶんだからな。
悪い笑みを浮かべる新戸に、無惨は目を見開いた。
――なぜだ? なぜ、こいつがそんなことを知っている!?
困惑を隠せない無惨に、新戸は笑いながら庭に降り立った。
「何で知ってるかって顔だな? 答えを言うと、俺は何も知っちゃあいない。逆説的に考えただけだ」
「何だと……!?」
「だって自分が死ねば全員道連れっていう万が一の可能性を潰すには、自分が不滅の存在になるのが一番手っ取り
トントンと仕込み杖で肩を叩く余裕綽々な新戸に、無惨は一筋の汗を流した。
「……まあ、お遊びはこの辺にして……そろそろ出番だぜ、縁壱!」
「何っ!?」
新戸が口にした名前に、無惨は顔を強張らせた。
縁壱……かつて無惨を最も追い詰めた剣士の名だ。
(なぜ知っている? 数百年も前の男だぞ!? まさか子孫が生きているのか!? そんなことはない、あの化け物が生まれ変わったり蘇るなど……!!)
シーン……
混乱しながらも無惨は警戒を強めた。
だが、あたりをどれだけ警戒しても何も起きない。
「……?」
「死人が蘇るわけねーだろ!! 引っかかったなバカがーー!!」
ドォオン!!
「ぐわああああああっ!!」
気を抜いた瞬間に爆血で無惨を焼く新戸。
無惨は両腕を振るって炎をかき消すが、その時には――
「っ!? 消えた……!?」
何と産屋敷夫妻は行方をくらませていた。
気配は、完全にない。まるで煙のように消え失せてしまった。
(バカな、あれ程の重症でありながら……)
この時……いや、無惨は産屋敷邸に入るずっと前から、ある事実を失念していた。
小守新戸という鬼は、血鬼術ではなく戦略戦法を得意とする鬼であると。
「お前って、本当に頭無惨だな」
「っ!」
頭上から声が聞こえ、上を向く。
視線の先には、宙に浮く帯の上で胡坐を掻く新戸の姿が。
どうやら付近に、堕姫が隠れていたようだ。
「貴様、いつの間に……!」
「おいおい、そんなトコでボーっと突っ立ってると危ねェぞ」
新戸はニィッ……と極悪人のように笑った。
「そんじゃあ、今宵限りの宴を始めようじゃねェの。まずは鬼舞辻無惨の燻製からだ」
「は?」
――ドゴォオオオン!!
新戸がそう告げた瞬間、産屋敷邸が大爆発し、爆炎が無惨をのみ込んだ。
鬼殺隊と鬼舞辻無惨の、最終決戦の始まりだ。
新戸の狂圧鳴波は、初代ゴジラの咆哮です。(笑)
あの咆哮を至近距離で食らえば、そりゃあ、ね……。
ちなみに新戸は、珠世さんを介して縁壱のことを知ってます。
さて、お館様とあまねさんはどこへ消えたでしょうか?
答えは次回以降で。