鬼は鬼殺隊のスネをかじる   作:悪魔さん

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別名、栄次郎脱落回。

ここで新戸が激怒した、瑠火への悪口の内容が明かされます。


第四十五話 俺は一途に想い続けるだけだ。

 襲い来る激痛が全身を走る中、栄次郎の顔には苦痛一色が浮かんでいた。

(クソ、クソ!! 何だこいつら!?)

 柱でもない、たかが三人。

 その三人に、栄次郎は防戦一方を強いられていた。

 

 稲玉獪岳。

 雷の呼吸と合わせた、黒い雷の血鬼術を扱う鬼化した隊士。斬撃を喰らうと体に亀裂が奔り、肉体のひび割れを誘発させる、厄介な特性がある。自分が鬼にしたため、新戸への嫌がらせとして機能するはずなのに、自我を保って殺しにかかっているのが腹立たしい。

 

 不死川玄弥。

 全集中の呼吸を使えない代わりに、鬼化の能力と狙撃術を駆使する隊士。鬼化している状態の身体能力は高い上、新戸と同じ能力を行使している。何度か身体を斬り刻んでも血液で繋ぎ止めて再生し、浴びた返り血が爆ぜて火傷を負わされてしまう。

 

 そして、いの一番に殺したい小守新戸。

 弟子二人に出張らせ、血鬼術でチマチマと攻撃している。弟子が危なくなれば斬撃や剣圧で攻撃を弾き、爆ぜる血液も駆使して牽制と反撃を繰り返す。その削るような戦いぶりは、非常に癪に障る。

 

 多くの隊士を貪り喰らい、その呼吸法を吸収した栄次郎にとって、新戸の戦術との相性は最悪。しかも無駄に連携が取れてる分、決定的な一撃を叩き込めない。

 これは新戸が常に念話を駆使し、的確に指示を送りながら攻撃をしているからなのだが、まさか無惨と同じ能力を開花・応用しているとは夢にも思わないだろう。

「ク、ソが……!」

 風の呼吸でかまいたちを飛ばし、新戸達と距離を取る。

 その隙に懐から、一つの瓢箪を取り出した。

 こんなこともあろうかと、体力回復と身体能力強化の為に稀血をかき集めていたのだ。

「おい、新戸……てめェだけとは思うなよ」

 

 バァン!! ガシャァアン!

 

「!?」

 壺の中の稀血を飲み干そうと口を付けた瞬間、銃声が轟いて壺が割れ、中身が全て零れ落ちた。玄弥が引き金を引いたのだ。

「鶏野郎……!」

「やるとわかってる回復強化を、黙って見てる訳ねェだろうが」

「クク……! 出来の良い弟子を持つと、師範として冥利に尽きる」

 鬼の形相で怒りを爆発させる栄次郎に対し、新戸は玄弥の英断にご満悦。

 すると、新戸は煙草の紫煙を燻らせながら唇を歯で切った。

「……これは俺の柄じゃねェが、弟子ばっかにやってもらっちゃあ師範として名折れだ」

「「師範……?」」

「本当なら()()()()()()()()()()()()()が、早く決着(ケリ)つけたいんでな。見せてやるよ」

 

 ボゥッ!!

 

「「「!?」」」

 刹那、新戸の全身を爆血の炎が包み込んだ。

 鬼殺しの火に包まれるが、徐々にそれは形になっていく。

(何だ、あの形態は!?)

「し、師範……?」

「そ、その姿は……?」

 それは、栄次郎はおろか、獪岳も玄弥も見たことがない姿の新戸だった。

 

 瞳は赤く染まり、左半身が轟々と爆血の炎を発し、身体から噴き出る煙を羽衣のように纏っている。

 右手に持った仕込み杖は、刀身が赤く染まり、バリバリと雷のようなモノを迸らせている。

 左手には、爆血の炎で作られた六本の枝刃を持つ炎の剣――「七支刀」を手に持っている。

 

 それはまるで、「火を司る神」の顕現を彷彿させた。

 

「全ての鬼を滅却する、血鬼術の頂点――〝ヒノカミ・ルカ〟だ」

 

「……ハッ! 何かと思えば、ただ炎を纏っただけじゃねェか」

 栄次郎は嗤った。

 ハッタリを得意とする新戸のことだ、見掛け倒しで騙し討ちをするつもりだろう。

 そう高を括ってしまった。

「じゃあ、行くぜ」

 新戸は左手に顕現した炎の剣の切っ先を向けた。

 すると、炎の勢いがいきなり高まり、蛇を象りながら栄次郎に襲い掛かったのだ。

「んなっ!?」

 アレに呑まれれば、マズい――直感で判断し、栄次郎は燃え盛る蛇から逃げ惑う。

 しかしそれを許すわけもなく、獪岳が死角から黒い雷を飛ばす。

「くっ!!」

 強力な遠距離攻撃に、反撃に出れない栄次郎。

 花の呼吸や風の呼吸、水の呼吸を駆使してどうにか牽制するが、それ以上の効果はない。その上、畳み掛けるように斬撃を放つ獪岳と玄弥により、無限城の部屋を破壊されていき、身を潜める場所すら奪われていく。

(こうなったら、あの人の技しかねェ……!)

 栄次郎は十分の距離を取ると、ホオオォォ……と呼吸を変えた。

 十二鬼月の頂点の鬼が扱う、血鬼術と全集中の呼吸の太極を披露する。

「〝月の呼吸 伍ノ型 (げっ)(ぱく)(さい)()〟!!」

 予備動作無しで、刀身から竜巻の様な斬撃を出現させる。

 炎の蛇は弾かれてしまうが、その直後に新戸が無数の斬撃を飛ばした。その無数の斬撃も、〝捌ノ型 月龍輪尾(げつりゅうりんび)〟で相殺し、畳み掛けるように放たれた獪岳の斬撃も〝玖ノ型 (くだ)(づき)(れん)(めん)〟で打ち消していく。 

「っ……!」

「ハハッ! やっぱり全開の血鬼術だから長く持たねェか!」

 新戸の顔から余裕が消えたことに、栄次郎は歓喜した。

 全開の血鬼術は、体力を大幅に消耗させる。それはつまり、戦局が栄次郎が有利な方向に傾いているということだ。

 このまますり潰してやる――止めを刺すべく、栄次郎は最後の切り札である〝拾ノ型 穿(せん)(めん)(ざん)()(げつ)〟を放とうとした。

 その時!

 

「グオオオオオオオオオオ!!」

「ぐあぁぁっ!?」

 突如、凄まじい咆哮と共に強烈な音波が栄次郎を襲った。新戸が〝狂圧鳴波〟を放ったのだ。

 距離を置かれていたために意識を奪うことは叶わなかったが、平衡感覚を狂わされた栄次郎は膝を突いた。その隙を、新戸が見逃すはずもなく。

「シメーだ」

 

 ザンッ!

 

 新戸の仕込み杖が、栄次郎の頸を刎ねた。

 ゴトッという鈍い音を立て、畳の上に転がる生首を、新戸は一瞥もしない。

「……は?」

 ゆっくりと納刀する新戸の背中を見つめ、数秒の後に己の置かれた状況を理解する。

 最も憎い敵に、あっさりと頸を刎ねられた。しかもただ刎ねられたのではなく、血鬼術でも呼吸でもない()()()()()()で勝負がついたのだ。

 それと共に、栄次郎は気づいた。さっきまで余裕がない表情だったのに、新戸は平然としているのだ。

「てめェ、まさか……」

()()()()は演技に決まってんだろ。芝居を打つのも戦術の一つだ」

 纏っていた爆血の炎をかき消す新戸に、とてつもない怒りと憎悪が沸き起こる。

「どこまで俺を侮辱するんだ!! てめェさえいなけりゃ、カナエは俺のモノだったってのに!!」

「……」

「あん時も言ったよなァ!? てめェみてェな()()()()()()()()()()()()()()()()の生き場所はこの世にねェって!! なのに何でてめェが勝つんだ!! 何で生き残るんだ!! あの人妻が死んだ時、お前の心は折れると思ってたのに!!!」

 

 ボォン!!

 

「ギャアアアアアアア!!」

 一言も告げるどころか目もくれず、新戸は爆血の炎で栄次郎を焼いた。

 背中を向けたまま、地獄の底から響くような声で発する。

「一つ誤解をしているぞ、お前」

 新戸は振り返ることもせず、言葉を紡いだ。

「カナエは俺に惚れちゃあいないし、俺もアイツに惚れちゃあいない。ただの腐れ縁に過ぎねェよ。色恋沙汰は性に合わねェし、そもそも蝶屋敷は寄生先だ」

「……は?」

 新戸の言葉に、信じられないとでも言わんばかりに目を見開く栄次郎。

 カナエとは仲が良いが、そこに情愛や恋情は一切存在せず、ただ彼女のスネをかじってただけなのだ。

 新戸らしいと言えば新戸らしいが、一方的にカナエに恋情を抱いていた栄次郎にとって、彼に対する嫉妬は的外れもいいところだったのだ。

 

 ――お前さァ、何の為に鬼になったの?

 

 かつて蝶屋敷で言われた新戸の言葉は、ここへ来て自分に帰ってきた。

 鬼になり、人々もかつての仲間も喰い漁り、ここまでこぎつけたのに……新戸はそもそもカナエに気がなかったという真実に、栄次郎は言葉を失った。

 今までの恨みは、何の価値も無いものだった。それを知り、慟哭の叫びを上げようとした時――

 

「俺は一途に想い続けるだけだ。あの人を……瑠火さんを」

 

 新戸は爆血の火力を最大まで上げ、悲鳴を上げることすら許さずに栄次郎を焼き尽くした。

 長い因縁に終止符を打った新戸は、懐から酒瓶を取り出して一口呷った。

「……下らねェ時間を過ごしたな」

「ええ」

「……玄弥、お前のおかげだ。ありがとよ」

「い、いえ……」

 新戸は弟子達の頭を優しく撫で、労いの声をかけるのだった。

 

 ――小守新戸、稲玉獪岳及び不死川玄弥と共に高浪栄次郎を討伐。

 

 

           *

 

 

 栄次郎討伐の報せは、無限城内を飛び回る鎹鴉によって周知される。

「何と……」

「ハッ! やりやがったかァ」

「へェ……派手に幸先がいいじゃねェか」

「……!」

 城内を走る柱達は、新戸が待っ先に敵を撃破したと知り、笑みを浮かべた。

 蝶屋敷を襲った、忌々しい裏切り者が先に死んだことに、胸がすいた。

「このまま殲滅だァ……!」

 柱達の士気が、さらに高まる。

 一方、童磨達はというと。

「ありゃりゃ……本当に哀れだったなぁ」

「……姉さんの心を踏み躙った元隊士を討ち取るとは……さすがですね」

「そうとなれば、俺達も本腰を入れないとね」

 童磨は血鬼術で結晶ノ御子を生み出すと、それらを解き放った。

 他の鬼狩り達を援護するためだ。

「さて……これからどうなることやら」

「おい、クソ親父! 母ちゃん泣かせたら頸斬り落とすからな」

「おお、怖い怖い。でもそれ、余計に琴葉を悲しませないかい?」

「んだとゴラァーーーー!!」

 ムキーッ! と鼻息を荒げる伊之助に、しのぶ達は苦笑する。

 そして、炭治郎達もその報せを知ることになる。

「……そうか」

「うむ! これで少しは余裕ができたな」

「さすが新戸さんだ……!」

 栄次郎討伐を成し遂げた新戸を称える三人。

 彼らと対峙した猗窩座は、動揺も怒りもせず、静かに「やはりな」と口にした。

「やはり? 負けると思ってたのか?」

「どうせあの男の騙し討ちにやられたんだろう。すぐ感情的になるあのガキは、捨て駒程度の価値しかなかった……まあ、そんなことはどうでもいい」

 猗窩座は腰を深く落とし、片腕を前に出して構える。

 上弦の参の血鬼術――〝破壊殺〟だ。

「さあ、始めようか。宴の時間だ」

 拳の道を極めた鬼が、ついに牙を剥いた。




新戸の最終形態〝ヒノカミ・ルカ〟は、ヒロアカの轟君みたいな感じに左半身が燃えていて、ワンピのルフィのギア5みたいに煙を羽衣のように纏った状態です。
ちなみに煙の成分は、新戸が吸ったタバコの煙です。長年蓄積されてますから。(笑)
この状態の新戸の瞳は、瑠火と同じ色になります。


あと、超どうでもいい設定ですが、この話の新戸と栄次郎の最終決戦のイメージソングは、King Gnuさんの『一途』としてます。
新戸の全身が爆血の炎に包まれてからイントロが始まる的な。
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