ここで新戸が激怒した、瑠火への悪口の内容が明かされます。
襲い来る激痛が全身を走る中、栄次郎の顔には苦痛一色が浮かんでいた。
(クソ、クソ!! 何だこいつら!?)
柱でもない、たかが三人。
その三人に、栄次郎は防戦一方を強いられていた。
稲玉獪岳。
雷の呼吸と合わせた、黒い雷の血鬼術を扱う鬼化した隊士。斬撃を喰らうと体に亀裂が奔り、肉体のひび割れを誘発させる、厄介な特性がある。自分が鬼にしたため、新戸への嫌がらせとして機能するはずなのに、自我を保って殺しにかかっているのが腹立たしい。
不死川玄弥。
全集中の呼吸を使えない代わりに、鬼化の能力と狙撃術を駆使する隊士。鬼化している状態の身体能力は高い上、新戸と同じ能力を行使している。何度か身体を斬り刻んでも血液で繋ぎ止めて再生し、浴びた返り血が爆ぜて火傷を負わされてしまう。
そして、いの一番に殺したい小守新戸。
弟子二人に出張らせ、血鬼術でチマチマと攻撃している。弟子が危なくなれば斬撃や剣圧で攻撃を弾き、爆ぜる血液も駆使して牽制と反撃を繰り返す。その削るような戦いぶりは、非常に癪に障る。
多くの隊士を貪り喰らい、その呼吸法を吸収した栄次郎にとって、新戸の戦術との相性は最悪。しかも無駄に連携が取れてる分、決定的な一撃を叩き込めない。
これは新戸が常に念話を駆使し、的確に指示を送りながら攻撃をしているからなのだが、まさか無惨と同じ能力を開花・応用しているとは夢にも思わないだろう。
「ク、ソが……!」
風の呼吸でかまいたちを飛ばし、新戸達と距離を取る。
その隙に懐から、一つの瓢箪を取り出した。
こんなこともあろうかと、体力回復と身体能力強化の為に稀血をかき集めていたのだ。
「おい、新戸……てめェだけとは思うなよ」
バァン!! ガシャァアン!
「!?」
壺の中の稀血を飲み干そうと口を付けた瞬間、銃声が轟いて壺が割れ、中身が全て零れ落ちた。玄弥が引き金を引いたのだ。
「鶏野郎……!」
「やるとわかってる回復強化を、黙って見てる訳ねェだろうが」
「クク……! 出来の良い弟子を持つと、師範として冥利に尽きる」
鬼の形相で怒りを爆発させる栄次郎に対し、新戸は玄弥の英断にご満悦。
すると、新戸は煙草の紫煙を燻らせながら唇を歯で切った。
「……これは俺の柄じゃねェが、弟子ばっかにやってもらっちゃあ師範として名折れだ」
「「師範……?」」
「本当なら
ボゥッ!!
「「「!?」」」
刹那、新戸の全身を爆血の炎が包み込んだ。
鬼殺しの火に包まれるが、徐々にそれは形になっていく。
(何だ、あの形態は!?)
「し、師範……?」
「そ、その姿は……?」
それは、栄次郎はおろか、獪岳も玄弥も見たことがない姿の新戸だった。
瞳は赤く染まり、左半身が轟々と爆血の炎を発し、身体から噴き出る煙を羽衣のように纏っている。
右手に持った仕込み杖は、刀身が赤く染まり、バリバリと雷のようなモノを迸らせている。
左手には、爆血の炎で作られた六本の枝刃を持つ炎の剣――「七支刀」を手に持っている。
それはまるで、「火を司る神」の顕現を彷彿させた。
「全ての鬼を滅却する、血鬼術の頂点――〝ヒノカミ・ルカ〟だ」
「……ハッ! 何かと思えば、ただ炎を纏っただけじゃねェか」
栄次郎は嗤った。
ハッタリを得意とする新戸のことだ、見掛け倒しで騙し討ちをするつもりだろう。
そう高を括ってしまった。
「じゃあ、行くぜ」
新戸は左手に顕現した炎の剣の切っ先を向けた。
すると、炎の勢いがいきなり高まり、蛇を象りながら栄次郎に襲い掛かったのだ。
「んなっ!?」
アレに呑まれれば、マズい――直感で判断し、栄次郎は燃え盛る蛇から逃げ惑う。
しかしそれを許すわけもなく、獪岳が死角から黒い雷を飛ばす。
「くっ!!」
強力な遠距離攻撃に、反撃に出れない栄次郎。
花の呼吸や風の呼吸、水の呼吸を駆使してどうにか牽制するが、それ以上の効果はない。その上、畳み掛けるように斬撃を放つ獪岳と玄弥により、無限城の部屋を破壊されていき、身を潜める場所すら奪われていく。
(こうなったら、あの人の技しかねェ……!)
栄次郎は十分の距離を取ると、ホオオォォ……と呼吸を変えた。
十二鬼月の頂点の鬼が扱う、血鬼術と全集中の呼吸の太極を披露する。
「〝月の呼吸 伍ノ型
予備動作無しで、刀身から竜巻の様な斬撃を出現させる。
炎の蛇は弾かれてしまうが、その直後に新戸が無数の斬撃を飛ばした。その無数の斬撃も、〝捌ノ型
「っ……!」
「ハハッ! やっぱり全開の血鬼術だから長く持たねェか!」
新戸の顔から余裕が消えたことに、栄次郎は歓喜した。
全開の血鬼術は、体力を大幅に消耗させる。それはつまり、戦局が栄次郎が有利な方向に傾いているということだ。
このまますり潰してやる――止めを刺すべく、栄次郎は最後の切り札である〝拾ノ型
その時!
「グオオオオオオオオオオ!!」
「ぐあぁぁっ!?」
突如、凄まじい咆哮と共に強烈な音波が栄次郎を襲った。新戸が〝狂圧鳴波〟を放ったのだ。
距離を置かれていたために意識を奪うことは叶わなかったが、平衡感覚を狂わされた栄次郎は膝を突いた。その隙を、新戸が見逃すはずもなく。
「シメーだ」
ザンッ!
新戸の仕込み杖が、栄次郎の頸を刎ねた。
ゴトッという鈍い音を立て、畳の上に転がる生首を、新戸は一瞥もしない。
「……は?」
ゆっくりと納刀する新戸の背中を見つめ、数秒の後に己の置かれた状況を理解する。
最も憎い敵に、あっさりと頸を刎ねられた。しかもただ刎ねられたのではなく、血鬼術でも呼吸でもない
それと共に、栄次郎は気づいた。さっきまで余裕がない表情だったのに、新戸は平然としているのだ。
「てめェ、まさか……」
「
纏っていた爆血の炎をかき消す新戸に、とてつもない怒りと憎悪が沸き起こる。
「どこまで俺を侮辱するんだ!! てめェさえいなけりゃ、カナエは俺のモノだったってのに!!」
「……」
「あん時も言ったよなァ!? てめェみてェな
ボォン!!
「ギャアアアアアアア!!」
一言も告げるどころか目もくれず、新戸は爆血の炎で栄次郎を焼いた。
背中を向けたまま、地獄の底から響くような声で発する。
「一つ誤解をしているぞ、お前」
新戸は振り返ることもせず、言葉を紡いだ。
「カナエは俺に惚れちゃあいないし、俺もアイツに惚れちゃあいない。ただの腐れ縁に過ぎねェよ。色恋沙汰は性に合わねェし、そもそも蝶屋敷は寄生先だ」
「……は?」
新戸の言葉に、信じられないとでも言わんばかりに目を見開く栄次郎。
カナエとは仲が良いが、そこに情愛や恋情は一切存在せず、ただ彼女のスネをかじってただけなのだ。
新戸らしいと言えば新戸らしいが、一方的にカナエに恋情を抱いていた栄次郎にとって、彼に対する嫉妬は的外れもいいところだったのだ。
――お前さァ、何の為に鬼になったの?
かつて蝶屋敷で言われた新戸の言葉は、ここへ来て自分に帰ってきた。
鬼になり、人々もかつての仲間も喰い漁り、ここまでこぎつけたのに……新戸はそもそもカナエに気がなかったという真実に、栄次郎は言葉を失った。
今までの恨みは、何の価値も無いものだった。それを知り、慟哭の叫びを上げようとした時――
「俺は一途に想い続けるだけだ。あの人を……瑠火さんを」
新戸は爆血の火力を最大まで上げ、悲鳴を上げることすら許さずに栄次郎を焼き尽くした。
長い因縁に終止符を打った新戸は、懐から酒瓶を取り出して一口呷った。
「……下らねェ時間を過ごしたな」
「ええ」
「……玄弥、お前のおかげだ。ありがとよ」
「い、いえ……」
新戸は弟子達の頭を優しく撫で、労いの声をかけるのだった。
――小守新戸、稲玉獪岳及び不死川玄弥と共に高浪栄次郎を討伐。
*
栄次郎討伐の報せは、無限城内を飛び回る鎹鴉によって周知される。
「何と……」
「ハッ! やりやがったかァ」
「へェ……派手に幸先がいいじゃねェか」
「……!」
城内を走る柱達は、新戸が待っ先に敵を撃破したと知り、笑みを浮かべた。
蝶屋敷を襲った、忌々しい裏切り者が先に死んだことに、胸がすいた。
「このまま殲滅だァ……!」
柱達の士気が、さらに高まる。
一方、童磨達はというと。
「ありゃりゃ……本当に哀れだったなぁ」
「……姉さんの心を踏み躙った元隊士を討ち取るとは……さすがですね」
「そうとなれば、俺達も本腰を入れないとね」
童磨は血鬼術で結晶ノ御子を生み出すと、それらを解き放った。
他の鬼狩り達を援護するためだ。
「さて……これからどうなることやら」
「おい、クソ親父! 母ちゃん泣かせたら頸斬り落とすからな」
「おお、怖い怖い。でもそれ、余計に琴葉を悲しませないかい?」
「んだとゴラァーーーー!!」
ムキーッ! と鼻息を荒げる伊之助に、しのぶ達は苦笑する。
そして、炭治郎達もその報せを知ることになる。
「……そうか」
「うむ! これで少しは余裕ができたな」
「さすが新戸さんだ……!」
栄次郎討伐を成し遂げた新戸を称える三人。
彼らと対峙した猗窩座は、動揺も怒りもせず、静かに「やはりな」と口にした。
「やはり? 負けると思ってたのか?」
「どうせあの男の騙し討ちにやられたんだろう。すぐ感情的になるあのガキは、捨て駒程度の価値しかなかった……まあ、そんなことはどうでもいい」
猗窩座は腰を深く落とし、片腕を前に出して構える。
上弦の参の血鬼術――〝破壊殺〟だ。
「さあ、始めようか。宴の時間だ」
拳の道を極めた鬼が、ついに牙を剥いた。
新戸の最終形態〝ヒノカミ・ルカ〟は、ヒロアカの轟君みたいな感じに左半身が燃えていて、ワンピのルフィのギア5みたいに煙を羽衣のように纏った状態です。
ちなみに煙の成分は、新戸が吸ったタバコの煙です。長年蓄積されてますから。(笑)
この状態の新戸の瞳は、瑠火と同じ色になります。
あと、超どうでもいい設定ですが、この話の新戸と栄次郎の最終決戦のイメージソングは、King Gnuさんの『一途』としてます。
新戸の全身が爆血の炎に包まれてからイントロが始まる的な。