鬼は鬼殺隊のスネをかじる   作:悪魔さん

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無惨は心の隙を突くのが極めて上手いですけど、新戸は無惨以上に上手いのです。



第四十七話 あんたは追い続け、俺は挑み続けた。

 黒死牟との戦いは、はっきり言って宇髄達が同情してしまうような展開だった。

 本気を出して拾陸ノ型まで繰り出したのに、完全修復が完了した縁壱零式は()()()躱しきって的確に斬撃を叩き込んだのだ。彼は相手の身体が透けて見えるようになり、先の動きを読むことができる「透き通る世界」という境地に至っているのだが……その目で見えたのは、肉体ではなく複雑な部品まみれの絡繰り仕掛けであり、この時点で攻撃の先読みが不能だった。

 百歩譲って鬼殺隊に、千歩譲って新戸に倒されるならともかく、弟を模した人形に殺されるのは屈辱以外の何物でもない。不敗への執念と憤怒で猛り狂った黒死牟は、ついには全身から刃と斬撃を突き出すという侍も減ったくれもない攻撃をしたが、縁壱零式は新戸達を傷つけることなく斬撃を捌いてみせたのだ。

 本当に人形かよというボヤきが響く中、ついに黒死牟が膝をついた。心が折れたのだ。

「もう、いい……やめてくれ……これ以上……生き恥を晒したくは、ない……」

「精神攻撃の耐性低すぎだろ……」

 新戸はそうボヤいたが、宇髄達もまさか上弦の壱の心が折れるという形で終わるとは思わなかったのか、戸惑いを隠せないでいる。

 しかも黒死牟の心が折れた途端、猛攻を仕掛けていた縁壱零式がピタリと止まった。あの人形はやはり何か宿ってるのだろうか。

「己の強さの為に……人であることも侍であることも捨てたのに……弟を模した人形に身も心も踏みにじられ続けるなど……なぜ、私は追いつけない……? 妻子を切り捨て、子孫にも刃を向け、全て捨てたというのに……」

「……強い誰かを超えたいって気持ちはスゲェわかるよ」

 その言葉に、一同の視線が新戸へと集中する。

「お前にも、いるのか……?」

「煉獄瑠火……それが俺が最後まで勝てなかった人の名だ」

 新戸は黒死牟の前で胡坐を掻くと、煙草を吹かして語りだした。

「人間も鬼も、時が流れるにつれて記憶がいい加減になるのは同じだ。俺だって家族の顔なんざ思い出せねェし、先代の当主や俺を拾った当時の槇寿郎以外の柱の顔もすっかり薄れちまった。――だけど、瑠火さんの顔だけは昨日のように憶えている」

「……私も、そうだ……両親も妻子も思い出せない中、縁壱だけが鮮明だった……」

「お互い、焦がれた相手に最後まで実力で勝つことができなかったな……」

「……小守新戸……お前と私は……何が違う……?」

 黒死牟の問いかけに、新戸は少し考えてから答えた。

 

「あんたは追い続け、俺は挑み続けた。……それが一番の差だと思うぜ」

 

 侍だった鬼にそう答えた新戸は、在りし日の瑠火との日々を想起した。

 

 

           *

 

 

 15年前。ズボラ鬼・小守新戸は、煉獄瑠火との初めての将棋対決で完敗を喫した。

(つえ)ェ……!」

 項垂れた新戸は、それくらいの言葉しか口にできなかった。

 生物として、常人はおろか屈強な鬼狩りの柱にも勝っていたのに、煉獄瑠火という女性の前では手も足も出なかった。人を超越した鬼の挑戦を、彼女は真っ向から受けて立ち、痛快なくらいに叩きのめした。

 悔しい――その想いで一杯になった新戸は、一つの誓いを立てた。

「クッソ……負けっぱなしでいられるかよ……!! いつか絶対……あんたを詰んで白旗上げさせてやるからな……!!」

 ある種、負け惜しみにも聞こえる言葉。

 鬼狩り達なら、誰もが一笑に付すだろう。

 しかし瑠火は、新戸の誓いを嗤うことも否定することもせず、一言優しく告げた。

 

 ――久々に楽しめました。いつでも来てくださいね。

 

 瑠火は穏やかに微笑んだ。

 まさに強者としての余裕と冷静さ……綻ばせた表情は、日輪のように輝いてるように見えた。

 新戸は思わず笑みをこぼした。心底、勝てないと思った。今は勝てない。だが勝ちたい。そう願いながら、新戸は強い瑠火に惹かれ、何度も挑み続けた。そして瑠火は、毎度新戸の挑戦を受け、コテンパンに打ち負かした。

 瑠火がいた頃の煉獄家で過ごした日々は、新戸にとってはかけがえのない宝だ。

 墓まで持っていくつもりで言わずにいたが、煉獄家は新戸にとって第二の家族も同然だった。

 ゆえに瑠火が逝去した時は、酒に溺れて落ちぶれた槇寿郎よりも、涙に沈んだ杏寿郎と千寿郎よりも悲嘆した。彼女の死が病であると承知しながらも。

 

 瑠火さん、なぜ死んだんだ。

 俺はあなたに、「立派になりましたね」と言わせたかったのに。

 

 

           *

 

 

「……私は、お前から逃げていたのか……縁壱」

 黒死牟は、縁壱零式を仰ぎ見た。

 縁壱零式はピクリとも動かず、ただただ見据えている。返事などするはずもないが、どこか訴えかけているように木でできた目を向けている。

「……何か伝えたいことは?」

「ない」

「だったら黒死牟さんよ、()()()()()()にしないか?」

「何、だと……?」

 新戸は黒死牟に一つの提案を持ち掛けた。

「あんたの弟ですら成し遂げられなかったことが、まだ一つ残ってるだろ」

「……貴様……まさか!?」

「縁壱は無惨を殺せてない。俺達は数百年前の最強が成し遂げられなかったことをやるつもりだ」

 新戸の提案は、黒死牟の謀反だった。

 まさかの提案に、宇髄達は言葉を失った。

「ワカメ頭への忠義か、縁壱を超える最後の機会か……好きな方を選べ。後者を選んでくれたら、〝名誉ある死〟を約束する」

「……」

「おい、新戸! 正気か!?」

「どうせ自分から死んでくれるんだ、いいじゃねェか」

 新戸は黒死牟の目を見据えながら、改めて問う。

「どうする? 侍としての名誉か、鬼としての忠義か」

「……随分と……意地の悪いことを……」

「意地も何も、これが事実であり現実だろ。どんなカスでも未来を変える権利はある。……で、答えは?」

 悪魔の囁きをする新戸に、黒死牟は――

 

 

 同時刻。

 童磨の寝返りで窮地に陥った猗窩座は、死に物狂いで戦っていた。

 その激戦はすさまじいを極めたようなものだった。

「畳みかけるぞ!!」

「炭治郎、ついて来い!!」

「はいっ!!」

「っしゃあ!」

 限界を超えて上弦の参に挑む。

 練り上げられた闘気は比べ物にならず、いつもの猗窩座なら満面の笑みで讃えているが、一番嫌っている男が鬼狩りの味方をしたせいでそれどころじゃない。

「琴葉の為にも頑張らないとね。〝蔓蓮華〟」

 童磨は生成した氷の蓮の花から蔓を伸ばし、猗窩座の隙を縫うように這わせた。時には猗窩座が飛ばす拳圧を受けることで鬼殺隊を護り、補助攻撃に徹する。

「くっ……! 〝終式(しゅうしき) (あお)(ぎん)(らん)(ざん)(こう)〟!!!」

 全方向に百発の乱れ打ちを全身全霊で放つ。

 絶大な破壊力を有するそれは、氷の蔓をも粉々に砕き、鬼殺隊に襲い掛かる。

 杏寿郎が、義勇が、伊之助が、攻撃を捌ききれず受けてしまい、失神して倒れていく。カナヲとしのぶは童磨が庇ったが、彼もまた深手を負い再生に徹する他ない。

 唯一躱しきれた炭治郎は、その凄惨さに絶句した。

「死ね、炭治郎」

「がっ!?」

 猗窩座は炭治郎に肉薄し、脇腹に蹴りを見舞う。

 意識が一瞬飛び、炭治郎はそのまま床に大の字で倒れた。追撃する猗窩座は、そのまま鳩尾に向かって拳を振るうが――

「よそ見していていいんですか?」

「っ! 女!?」

 

 ――〝蟲の呼吸 蝶の舞 戯れ〟

 

 しのぶが一瞬の隙を突き、日輪刀による刺突で毒を打ち込んだ。

 その毒は、新戸の血を利用した強力な劇薬。上弦でも随一の再生力を有する猗窩座も、これには堪えた。

「がっ……あああああああ!! 毒、かァ……!?」

「私は頸を斬れない剣士ですから」

 蹲り悶える姿を、しのぶは冷淡に言い放った。

 鬼に対して絶望的な威力を発揮する新戸の血を基に作った毒を受けた影響か、猗窩座は幻覚を見始めた。

 

 ――生まれ変われ、少年。

 

 ――私は狛治さんがいいんです 私と夫婦になってくれますか?

 

 ――誰かが井戸に毒を入れた……!!

 ――○○さんやお前とは直接やり合っても勝てないから あいつら酷い真似を!!

 ――惨たらしい……あんまりだ!! ○○ちゃんまで殺された!!

 

(これは……なんだ……?)

 毒を分解させながらも、頭の中に流れ込むそれに、戸惑いを隠せない。

 一方のしのぶも、分解の早さに思わず舌打ちし、「さすが上弦ですかね……」と感嘆した。

「……猗窩座殿?」

 ふと、童磨が猗窩座の異変に気づいた。

 頭を抱えながら、「女……毒……誰だ……」とボソボソ呟いているのだ。

 今こそ頸を斬る好機――どうにか起き上がった炭治郎は斬りかかるが、すでに体力の限界を迎えており、頸に刃が届くというところで握力が入らなくなり、意図せず殴りつける形となった。

 それが、引き金だった。

「……よくも思い出させたな……あんな過去を」

「!?」

 猗窩座は、炭治郎の頭に優しく手を置いた。

 殺す気満々だった上弦の参の態度とは到底思えない。

 炭治郎だけでなく、しのぶやカナヲ、意識を取り戻して起き上がった義勇達も唖然とした。

 そんな中、童磨がまさかと思って呟いた。

「記憶を、思い出したのかい……!?」

 その言葉に、一同はハッとなる。

 鬼は時々、人間の頃の記憶を取り戻すことがある。炭治郎が藤襲山で遭遇した手鬼や、那田蜘蛛山に根城を構えた下弦の伍・累も、頸を刎ねられてから涙を流すという形で記憶を取り戻している。

「……ありがとう」

 猗窩座は自分の胸に〝破壊殺 滅式〟を打ち込もうとした。

 その時だった。

「待っておくれよ、猗窩座殿」

「……童磨?」

 自決を止めたのは、童磨だった。

 きょとんとした顔で名前を言われ、「何か不自然だなぁ」と暢気に呟きながら、童磨は笑った。

「先程新戸殿から念話が入ってね……黒死牟殿が寝返りを決意したそうだ」

『はあっ!?』

 まさかの展開に、頭が追い付かない。

 十二鬼月最強の鬼――上弦の壱が寝返った。俄かに信じがたい情報だ。

 が、新戸からの念話によって伝えられたということは、新戸が何かしらの手段を講じて味方に引き入れたということだ。

「理由とか事情はともかく、明らかに無惨様への嫌がらせだねぇ」

「……」

「何をどうすればそうなるの……!?」

 義勇は言葉を失い、しのぶは思わず頭を抱えた。

 上弦が次々と陥落するのはいいが、寝返りという形の陥落は望んでない。

「……先日まで練っていた作戦と違う……」

「一番作戦めちゃくちゃにしてんの、あいつじゃねェか?」

 義勇と伊之助の的確過ぎるツッコミに、猗窩座以外はうんうんと首を縦に振るのだった。




本作の縁壱零式には、何かが宿ってるんですかね?(笑)

当初は黒死牟と猗窩座は原作通りに始末するつもりでしたが、鬼の中では黒死牟が一番好きなので、猗窩座と黒死牟は決戦後に生存はしませんが原作とは違う最期にさせます。
更新するたびに色々と芽生えちゃいましたので……。
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