鬼は鬼殺隊のスネをかじる   作:悪魔さん

49 / 56
縁壱零式が刀鍛冶の里で破壊された理由は、最終決戦でこういう事態が起こる可能性が高かったからだと思ってます。なぜなら縁壱だから。(笑)

あの世界、無惨の〝呪い〟がありますし、錆兎や真菰の霊も出るので、付喪神もいても何らおかしくないんですよ。


第四十八話 俺はお前に恨みなんかない!!

 上弦の壱と参が寝返り、戦局が大きく傾いた無限城での決戦。

 新戸は戦力温存の為に黒死牟、童磨、猗窩座の三人を分散させ、弟子二人と宇髄達と共に城内を歩いていた。

「おい、何をチンタラ歩いてんだァ!! 早くしねェと無惨が復活すんぞォ!!」

「焦ったところでどうなるもんじゃねェよ。頸斬っても死なねェんだし。将たる者はやせ我慢しても動じちゃなんねェのよ」

「っ……」

「童磨には隊士達の援護、寝返ったばっかのお二人さんには掃除を頼んどいたんだ。息抜きも必要だ」

 咥え煙草で回廊を歩く新戸に、実弥は渋々引いた。

 よく言えば余裕かつ冷静、悪く言えば暢気である。

「……師範、あの人形は?」

「炭治郎達に預けた。状態に問題ねェが……あれには何か憑依してんじゃねェかね、やっぱり」

「やめろよ、気持ち(わり)ィこと言うんじゃねェ!」

「何だよ、足のない幽霊がそんなに怖いのか」

 新戸の煽りに、実弥は「怖くねェわボケェ!!!」と激昂しながら襖を斬った。

 表情に出まくりである。

「……さて。とうとう見つけたな」

『!!』

 新戸は視線の先にあるものを見て、笑みを浮かべる。

 壁にへばりつく、肉の繭だ。そこから漏れ出る気配は、鬼殺隊の不俱戴天の仇――鬼舞辻無惨だ。

 宇髄達が殺気立つ中、新戸は一人冷静に念話を飛ばした。

〈あー……猗窩座、今どこ?〉

〈ちょうど炭治郎達と合流した。すでに残った雑魚鬼は全員片付いた。鬼狩りの隊士は一部を除いてかなり負傷してるが〉

〈被害状態はそこまで悪くはないか……そのまま無惨トコまで来てくれ、奇襲を仕掛けろ〉

 新戸は続いて、愈史郎に念話を飛ばした。

〈愈史郎、今どう?〉

〈やっとか、待ちくたびれたぞ! 琵琶女はどうにかできたが、女の柱と蛇を連れた柱が負傷した〉

 その言葉に、新戸は目を見開いた。

 穴埋めの上弦の鬼は少し手強かったようだが、どうにか鳴女を制圧できたようだ。

 新戸は頭を働かせ、指示を飛ばした。

〈その二人に死んだふりさせとけ。こっちで合図送るから、来たら援護するよう伝えてくれ。それまでは――〉

〈わかってる! これも珠世様の為だ!!〉

〈頼むぞ、マジで〉

 愈史郎との通話を終えると、新戸は改めて肉の繭を見やる。

 あの中に、あの頭無惨がいるのだ。

「……随分と趣味の(わり)ィ寝床だな。いくら顔がよくてもありゃあ夜這い誰も来ねェぞ」

「それよりも師範、呼び鈴が見当たらないんですが」

「ホントだ。しょうがねェなァ……じゃあコレだ」

 新戸は呆れながら仕込み杖を構え、剣圧で壁ごと吹き飛ばそうと画策。

 その直後、繭から黒い影が飛び出した。攻撃直前に脱出した鬼の始祖に、新戸は「ホント悪運だけは俺とタメ張れるな」とボヤいた。

『鬼舞辻無惨……!!』

 新戸以外の面々が、得物を構えて身構える。

 それと共に、頭だけとなった珠世を片手に無惨が笑みを浮かべながら顔を向けた。

 

 禍々しい牙を生やした口を無数に備えた四肢。

 返り血を浴びたように赤く変色し、所々血管のような紅い紋様が浮かんだ筋肉質な肉体。

 真っ白に染まった長髪。

 

 その凄まじく邪悪な気配に、獪岳と玄弥は冷や汗を流し、柱達も息を吞む。

 唯一通常運転なのは、神経の図太さとお頭の出来は三千世界で一等賞な新戸だけだ。

「忌々しい顔が並んでるな」

「てめェの葬式の参列者にしちゃ上等だろ?」

 一歩前に出て、煙草を咥えながら口角を上げる。

 それと共に、左手を突き出して掌から瞳に赤い矢印が刻まれた目を開かせ、瞬きさせた。

 矢印は珠世の頭に突き立ち、新戸の手元へポーンと飛んで行って回収された。

「新戸、さん……すみません……」

「心配しなさんな。あとは俺らでどうにかすっから」

「……頼みます、家族の仇を……」

 生首状態の珠世は、そのまま意識を失った。

 それを見た宇髄が、新戸に声をかけた。

「新戸、俺に任せろ。悲鳴嶼さん達がいりゃあ一人ぐらい抜けても大丈夫だろ?」

「まあ、別動隊向かってるし……頼むわ」

 新戸から珠世の頭を託された宇髄は、そのまま離脱。

 柱一人の欠員ではあるが、回復要員は必要だ。

「残念だったな、小守新戸。珠世の投与した薬は私には効かなかった」

「さすがに高望みだったな。ま、これも想定の内さ」

 不敵な態度が崩れない新戸に、若干顔をしかめつつも、無惨は口を紡ぐ。

「それにしてもお前達は本当にしつこい。飽き飽きする。心底うんざりした。口を開けば親の仇、子の仇、兄妹の仇と馬鹿の一つ覚え……お前達は生き残ったのだからそれで十分だろう」

『……は?』

「身内が殺されたから何だと言うのか……自分は幸運だったと思い元の生活を続ければ済むこと。私に殺されることは大災に遭ったのと同じだと思え。どれだけ人を殺そうとも天変地異に復讐しようという者はいないだろう」

 千年以上に及ぶ自らの所業の全てを棚に上げた、無惨の極めて自己中心的かつ醜悪な物言い。

 それを聞き、ある者は絶句し、ある者は殺気を膨らませて怒り、ある者は完全な無表情になる。

 しかし、新戸だけは違った。

「死んだ人間が生き返ることはないのだ。いつまでもそんなことに拘っていないで、日銭を稼いで静かに暮らせば――」

「フヒヒャハハハハハハハハハハ!!」

『!?』

 新戸はただ、ゲラゲラと大爆笑した。

 怒りに満ちておらず、かといって無表情になったわけでもない。ただただ、嘲笑。

 あからさまに見下したような眼差しに、無惨は激昂する。

「何がおかしい!!!」

 その一言で大気が――いや、空間が大きく震えた。

 そのとてつもない威圧感に、獪岳と玄弥は思わず屈しそうになるのを耐えた。

 そんな鬼の始祖に対し、新戸は指を差しながらとんでもない言葉を口にした。

 

()()()()()()()()()()()()!! お前みたいな大便を小便で煮込んだ性格のカスを恨んで一体何になる!? フヒヒャハハハハ!!」

 

『は?』

 その言葉に、信じられないと言わんばかりに目を見開いた。

 新戸は、そもそもの行動理念がお門違いなのだ。

 無惨は新戸が自分を倒そうとする理由がわからず、声を荒げた。

「ならばなぜ、お前は私の邪魔をする!? 異常者共の勝利の裏には、常にお前がいた!! それで恨みがないだと!? 私の言葉を理解できる頭があるなら!!  死んだ人間が生き返ることはないと理解できるなら!! なぜ異常者共と私を滅ぼそうとする!?」

「フヒハハハ!! お前は頭がホンットーに無惨だな!! 名は体を表すってのァ正しくこのことだな!! ()()()()宿()()()()()()()()()()()()()()()()!!」

 そう、それが全てだった。

 新戸が無惨を撃滅しに行くのは、恨みでも使命感でもなく、「自分の〝自堕落な生活〟を脅かすから」である。

 人々の為でも、鬼殺隊の為でもない、自分一人の生活の為。それを脅かす存在である以上は、あらゆる手段を駆使して叩き潰し、平穏を取り戻す。それが新戸が無惨と戦う理由だったのだ。

「師範……あいつが、憎くないんですか」

「俺は今を生きる男と決めてるんだ。俺は()()()()()()()()()()が、こんな体になっちまったから、瑠火さんやお前に会えたとも解釈できる」

「……師範……!!」

「そういうこった。顔洗って出直してこい」

 新戸の顔からは笑みが消えず、無惨は苦虫を嚙み潰したような表情になる。

 

 無惨の最大の失敗は、初めて新戸と会った時に、彼を鬼にしてしまったことだった。

 口封じにと新戸をきっちり殺していれば、度重なる上弦の裏切りという事態は起こらず、鬼殺隊の戦力を増大させることもなかった。

 そして、15年の時を経て無惨にツケが回ってきたのだ。

 

 新戸はそんな無惨があまりにも滑稽で、仕方なかった。

「最初から最後まで、どいつもこいつも笑わせてくれたぜ。産屋敷邸襲撃、ご苦労さんなこった」

「……まさか貴様、私をわざと産屋敷に!?」

「さて、それはどうだろうな~? それより、人の心配するより自分の心配をしな」

 新戸がそう言った瞬間。

 ドゴォ! という音と共に、無惨の背後から刀を振り上げた複数の人影が迫った。

 

 右半分が無地・左半分が亀甲柄の片身替の羽織を着用した剣士。

 炎を思わせる焔色の髪を揺らす、白地に炎の意匠の羽織を羽織った剣士。

 緑と黒の市松模様の花札のような耳飾りをつけた剣士。

 顔を含めた全身に藍色の線状の文様が入った、軽装の武闘家のような鬼。

 そして……腕が六本ある、炭治郎と全く同じ耳飾りをつけた謎の絡繰人形。

 

 四人と一体の奇襲に、無惨は呆気に取られた。

「覚悟しろ無惨!!」

「っ!?」

 日輪刀が無惨に迫るが、すんでのところで避けられてしまう。

 すかさず息を合わせて斬りかかるが、無惨は触手を振るって炭治郎達を攻撃。薙ぎ払おうとするが、猗窩座が盾となったことでかろうじで無傷で済んだ。

 なお、縁壱零式だけはなぜか見事に回避している。

「大丈夫か」

「は、はい……!」

「……すまない」

 猗窩座は身体を大きく抉られたが、すぐさま持ち前の再生力で元に戻る。

 土壇場の上弦寝返りはうまくいったようだと、新戸は安堵したが、無惨はそれどころではなかった。

「なぜ生きている、化け物!?」

 そう、かつて自分を圧倒的な戦闘力で斬り刻んだ男を模した人形が、目の前にいるからだ。

 上弦最強も鬼の始祖も恐れた、生まれながらにして人の理の外側に立っていたであろう男――継国縁壱が数百年の時を経て再会を果たしたのだ。人形なのだが。

《鬼舞辻無惨……》

「ひっ……!」

 額に張られた呪符から発した低い声に、無惨は縮み上がった。

 数百年前の〝死〟が、再び顕現したかのように見えた。

《兄上を鬼にした報い……その身に……》

 カタカタ音を鳴らし、炭治郎の見覚えがある構えをとる。

 無惨はその隙に、まさかの逃亡。脱兎のごとく駆けた。

「猗窩座、追ってくれ! お前の視覚を介して先回りする!」

「わかった!」

 猗窩座は無惨の追跡を始める。

 が、縁壱零式は絡繰人形の常識を超えた爆発的な加速で猗窩座をあっという間に通り越し、無惨にしつこく斬りかかった。

「こっちに来るなーーーーー!!!」

 無惨の断末魔の叫びが木霊し、新戸は思わぬ事態に「そんなにビビる?」と呆れ返った。

「新戸さん、無惨が!」

「大丈夫だ、一番の逃走経路はすでに制圧してる」

 鳴女を制圧した今、無惨は無限城内を逃げ回るしかない。

 ならば、こちらは珠世が投与した薬の効果が出始めるまで体を休め、弱体化が開始したと同時に一斉に袋叩きにすればいい。幸い、彼を倒すには十分すぎる兵力を抱えているため、功を焦って無駄に血を流さない方が利口だ。

 その時、無一郎が新戸に質問した。

「ねえ、さっきの人形の声って新戸さんの?」

「いや、俺ァ言ってねェぞ。あの呪符は剥がし忘れただけだし……」

 新戸の言葉に、一同は凍り付いた。

 縁壱零式が動いたのは新戸がぜんまいを回したからであり、声の方は新戸が愈史郎から拝借した呪符を介した精神攻撃用に張っただけに過ぎない。

 だが先程、縁壱零式は頭に貼った呪符から声を発した。それも新戸曰く「自分の声ではない誰か」の声を。

「じゃあ、あの声誰だ?」

『……………………』

 炭治郎達は顔を真っ青にし、新戸も顔を引き攣らせた。

 そして、新戸は生まれて初めて、煙草を手元からポロリと落としたのだった。




次回、ついに伝説の市街地戦。

原作では戦わなかった禰豆子に加え、元柱のあの人も参戦。浅草のあの人も産屋敷家で待機しているだけなので、出番用意してます。刀鍛冶の皆さんも、新戸の依頼で作った新兵器を投入予定です。
さらに、二次創作ならではの「奇跡の共闘」も!

本作もそろそろクライマックスへ。最後までどうぞよろしくお願いします。
無惨様、よかったですね。葬式の参列者がどんどん増えて。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。