そう言えば、憎珀天のCV山寺さんでしたね。
新戸もイメージCV山寺さんですけど、声質はまるっきり違います。
(馬鹿な、馬鹿な馬鹿な馬鹿な……!!!)
脱兎の如く無限城内を逃げ回る無惨は、憤怒と屈辱で視界が真っ赤に染まっていた。
原因は、あの絡繰人形――縁壱零式だった。
(なぜだ、なぜあの木偶人形から化け物の声がする!?)
無惨は脳が五つあるが、その全ての脳で考え抜いても理解できないでいた。
継国縁壱を模した絡繰人形は、本来はあそこまでの機動はできない。柱を差し置いて上弦最強と渡り合うなど、無惨の想定をはるかに超える珍事であり非常事態だ。
黒死牟と猗窩座の謀反は非常に手痛いが、どこまでも自分本位の無惨にとってはどうでもいいこと。今は縁壱零式から逃げきることが最優先だ。
なお、新戸本人も縁壱零式の暴走については「多分本人が憑いてるんだろう」と無理矢理答えを出し、それ以上考えるのをやめており、しかもこれが間違いではないのは秘密だ。
(それだけではない! 鳴女はなぜ私を助けない!? 鬼狩りの柱二人を仕留めたはずだろう!?)
無惨の怒りの矛先は、鳴女に変わる。
鳴女に何かあったという点では、無惨の考えは正しい。彼女は新戸の命を受けた愈史郎に脳を乗っ取られており、視界どころか無限城の制御も奪われてしまっていたのだ。
だが、その事実にまだ気づいていない無惨は「使えん奴め……!」と愚痴をこぼした。
次の瞬間!
ドガァッ!!
「ギャーーーーーーッ!!!」
目の前の襖を細切れにしながら、縁壱零式が真横から迫った。
気づかぬ内に回り込まれていたのだ。
《散れ!!》
「ふざけるな、化け物め!!」
腕や足を犠牲にしながらも、どうにか命だけは繋ぎとめる。
もはや鳴女を助ける余裕はない。無惨は苦渋の決断だと自分に言い聞かせて、自壊の呪いを発動させて鳴女を殺害した。
それは、紆余曲折あって鬼殺隊に寝返った猗窩座と黒死牟、そして随分前から裏切ってた童磨も感じ取った。
「……これは……!」
「……まさか」
「あー……やっぱこうなっちゃったか」
猗窩座と黒死牟は天を仰ぎ、童磨は苦笑いを浮かべた。
直後、無限城は静かに振動を始め、それはやがて地震のように大きな揺れとなった。
「無限城が……崩壊する……!」
『!?』
黒死牟の言葉に、炭治郎達は驚愕した。
それはつまり、寝返りが続出したが十二鬼月が全滅したことを意味し、残る敵は無惨一人だということを意味しているのだ。
だが、それは新戸の目論見を大きく外れる形となってしまった。
「師範!」
「これ、さすがに
「ちっ……参ったな、夜明けまで二時間半はちょっとマズいぞ……!」
懐から取り出した懐中時計を見ながら、新戸は顔をしかめた。
想定よりも早く無限城を捨てたため、得意の〝読み〟に大きなズレが生じてしまったようだ。
「ドカンと宙へ放り出されそうだ、ションベン漏らすなよ!」
新戸がそう言い放った瞬間、鬼殺隊と無惨、そして寝返った上弦達は一斉に地上へ吐き出された。
*
「ここは……地上!? 市街地か……!?」
数分程意識を失っていた炭治郎は、目を覚ました。
鎹鴉達は「夜アケマデ、アト二時間半!!」と叫んでいる。
無惨は日光以外では死なない。この場に二時間半留めなければならないのだ。
(やれるか……? いや、やるんだ!)
炭治郎が己を鼓舞して立ち上がった途端、瓦礫が突如吹き飛んだ。
土煙が上がり、晴れていくと目を疑う光景が広がっていた。
「ちっ、悪運の強い野郎だぜ……!」
《すま、ない……!》
「フハハハハハ! 残念だったな小守新戸! もう化け物は手を貸さんぞ!」
苦虫を嚙み潰したような表情の新戸に対し、まるで完全勝利したかのように高らかに笑う無惨。
その先には、17本の触手で蜂の巣にされた縁壱零式が、糸の切れた人形のように垂れ下がっていた。
だがよく見ると、無惨の額や足、股が日輪刀に貫かれている。結構死に物狂いだったようだ。
「こいつさえいなければ、恐れるものはない!!」
地面に叩きつけ、巨大化した腕で縁壱零式を粉々に破壊し、刺さっていた日輪刀も砕く。
だが、こんなこともあろうかと刀鍛冶に写しの作成を依頼していた新戸は、内心では「バカが」と笑っていた。間に合えば無惨の地獄は再開するのである。
「夜明けまで私をこの場に留めるつもりだろうが、無駄な足搔きだ。柱と裏切り者共以外は使い物にならん。当然、貴様の捨て駒にもな……!」
「戦力としちゃ十分だろ。むしろ弱い者イジメになんねェか不安なんだ」
「減らず口を……だが貴様の弟子はどうだ?」
無惨は瓦礫から這い出て立ち上がる玄弥と獪岳に狙いを定め、触手を放つ。
触手は二人の鳩尾を貫こうとするが、それは実弥と悲鳴嶼に阻まれてしまう。
「兄貴!!」
「悲鳴嶼、さん……!」
風柱と岩柱の姿を見て、無惨は舌打ちした。
受け身がよかったのか、五体満足でこれといった重傷を負っていない。
「怪我はないか……?」
「テメェ、俺の弟に何晒しとんじゃァ!!」
「さねみん、お前こないだまで玄弥のこと「テメェみてェなグズは弟じゃねェ」っつってたじゃん」
「一々掘り返すんじゃねェ!!!」
おちょくる新戸に激昂する実弥。
直後、無惨は四方から斬撃を浴びた。
「ごめんなさい!! みんな無事!?」
「無惨め、甘露寺を泣かせた罪は深いぞ……!!」
「ようやくお出ましか、鬼の大将は!!」
甘露寺、伊黒、天元が降り立ち、無惨は苛立ち気に触手と両腕を振るう。
が、それは二人の剣士によってあっという間に細切れにされた。
その太刀筋は、無惨がよく知る人物――もといよく知る鬼のものだった。
「黒死牟!!」
「さすが上弦の壱だね、黒死牟おじさん」
「……私が……おじさん……」
名誉ある死を選んで寝返った黒死牟と、その子孫にあたる無一郎の、息の合った連撃。
数百年の時を超えた継国の血筋は、さすがと言えよう。
無惨は上弦も相手取るとなれば面倒だと判断し、両腕を変化させた肉塊の如き極太の管二本で周囲の建造物をズタズタに引き裂き、さらに9本の管状の細く赤い触手で蹂躙を始める。
(速い! 目で追うのがやっとだ!)
炭治郎は隙を伺いながら斬り込もうと構えるが、無惨と視線が合った瞬間、衝撃と共に大きく吹き飛ばされた。
「があっ……」
宙を舞う炭治郎だが、そのまま地面に叩きつけられることはなかった。
誰かが受け止めてくれたのだ。
「大丈夫か、竈門炭治郎」
「あ、猗窩座……!」
炭治郎を助けたのは、正気を取り戻した猗窩座だった。
まさかの人物に、目が点になる炭治郎。
そのやり取りを無惨が見逃すことはない。
「猗窩座!!」
失望の念も込めた怨嗟を吐きながら、両腕と触手を振るう無惨。
その攻撃は、義勇と杏寿郎に阻まれ、さらにそこへ新戸が斬撃を飛ばして斬り刻む。
「小賢しいわ!!」
無惨は攻撃を速めた。
触手や腕の一薙ぎが風圧を発生させ、足を踏ん張っても身体が浮きそうになる。触手の先端の槍のような鋭利な骨の刃による高速斬撃は、日輪刀をへし折る勢いだ。
さらに、血鬼術〝
「下がれ!! てめェらカス共じゃ喰われるだけだ!!」
獪岳は立ち上がった他の隊士達に叫ぶ。
この戦場において、無惨と戦えるのは柱かそれに匹敵する猛者や鬼ぐらいだ。その上、無惨は血鬼術すらも吸収できる異能を持ち、下手に血鬼術で攻撃すれば無惨を回復させてしまう可能性もある。
戦力的には鬼殺隊が優勢だが、状況的には無惨が優勢。夜明けまでまだ二時間以上ある中で、無惨をこの場にどうにか留めねば。
「とりあえず、削るしかねェな!」
新戸は仕込み杖に積怒雷の雷撃を纏わせ、斬りかかる。
無惨は容赦なく腕を振るうが、その腕に黒い雷撃が直撃し、ひび割れを起こし始めた。
(あの小僧のか……小癪な)
ひび割れは無惨の肩にまで迫るが、付け根まで来たところで止まり、やがてひび割れは治った。
「腹の足しにもならんな」
「ちっ……やっぱ吸収すんのかよ!」
嘲笑する無惨に、獪岳は苛立つ。
やはり、物理攻撃系の血鬼術は吸収して体力回復に還元してしまうようだが、隙を作るには十分。
その隙に新戸が深々と仕込み杖の刃を突き刺し、雷撃を直に浴びせる。
「ぐあっ!」
「別に吸収なんか関係ねェよ!」
不敵に無惨を睨む新戸。
鬼殺隊は、無惨を夜明けまで留めれば勝利確定だ。無惨が体力の回復に勤しんでも、日光を浴びれば水の泡なのだ。
「……フハッ! 痴れ者め、ここまで懐に入るとは愚の骨頂だぞ!」
「何?」
「この距離であれば、全ての攻撃を浴びせられる!!」
「……俺はあんたに毒盛れるけどね」
刹那、無惨は背後から刀に突かれた。
しのぶの毒の剣だ。それも、刀鍛冶の里で猛威を振るった例の毒だ。
「あっ……がああっ!」
「残念でしたね! 鬼を人間に戻す薬以外にも劇物は用意してあるんですよ!」
しのぶの一突きにより、切っ先から出る毒が無惨を蝕んでいく。
無惨は鬱陶しいわァ!! と叫びながら二人を吹き飛ばし、しのぶは甘露寺達に受け止められ、新戸は玄弥と獪岳に受け止められる。
「死ぬがいい!!」
「っ! 下がれ!」
無惨は激しく追撃。
市街地を破壊し、瓦礫すらも武器にして周囲を吹き飛ばす。
その際に、炭治郎が無惨の触手を受けて斬られてしまう。
「あっ……うああああああっ!」
「炭治郎!?」
「竈門少年!!」
炭治郎の異変に気を取られ、義勇と杏寿郎も攻撃を受けてしまう。
それを見た無惨は、ニヤリと笑った。
「かかったな。私の攻撃には常に大量の血が含まれている」
『!!』
「その三人を鬼にするのも悪くない」
悪鬼の言葉に、血の気が引く一同。
無惨の攻撃で最も恐ろしいのは、血液を媒介とした攻撃を受ければ良くて即死、最悪の場合鬼に変えられ支配下に置かれるという理不尽な特性だ。
これを受ければ、いかに柱とて一溜りもないのだが……。
「ワカメ頭、それで謀ったつもりかよ?」
「……貴様、まさか!」
「珠世さんはスゲェよ。俺の言ったとおりの効能の薬作れるんだから」
無惨が驚愕している内に、血を注がれた炭治郎達が立ち上がった。
三人共、これといった異変は見当たらない。
「大丈夫か!?」
「すまない、煉獄……」
「俺はまだ戦えます……!」
「うむ! その意気やよし!!」
息こそ上がってはいるが、鬼化の兆候は一切見られない。
それを見た無惨は、射殺す勢いで新戸を睨んで叫んだ。
「おのれ、小守新戸!! 姑息なマネを!!」
「何言ってやがる、卑怯も姑息も戦場では作法だぜ」
焦りを隠せない無惨に、新戸は極悪人のように笑う。
そう、かねてより新戸は珠世に「回復薬」の開発を頼んでいた。鬼を人間に戻す薬を開発するついでに、人間にも鬼にも通用する回復薬を作ってほしい――そう頼み込んだことで、珠世は無惨の血を強制的に注がれても鬼化しないように一種の血清を生み出したのだ。
これは全ての隊士に投与されているので、無惨の目論見はすでに破綻している。
「どこまでも私の邪魔をする……!」
「うおおっ!?」
無惨は怒りを露わに、新戸へ集中攻撃。どうにか捌くが、防戦一方になる。
ついでに鬼殺隊への攻撃も忘れず、徹底的なゴリ押しで圧倒していく。
「ぐっ……」
「煉獄さん!」
その時、杏寿郎が立ち眩みを覚えて片膝をついた。
無惨の血が、思った以上に注がれていたようだ。
それを見逃す鬼の始祖ではなく……。
(こやつは竈門炭治郎の心の柱の一つ。ここで折っておくべきか)
容赦なく集中砲火を浴びせる無惨だが、ここで思わぬ事態が起こった。
「〝炎の呼吸 弐ノ型 昇り炎天〟!」
「〝水の呼吸 壱ノ型 水面斬り〟!」
「何っ!?」
突如、二人の剣士が杏寿郎への集中砲火を全て相殺した。
新手の登場に、無惨の苛立ちはさらに高まる。
「小守新戸……!」
「
口角を上げる新戸に、無惨の顔にさらに青筋が浮かび上がった。
そして、問題の二人の剣士の正体はと言うと……。
「無事か、杏寿郎」
「大丈夫か、炭治郎、義勇」
『!?』
何と、現れたのは先代炎柱・煉獄槇寿郎と元水柱の鱗滝左近次。
まさかの助太刀に、炭治郎だけでなく他の柱達も驚愕。
正しく総力戦であった。
「新戸、戦況は?」
「ひとまず全員無事、上弦の壱と参が寝返り、栄次郎と側近の琵琶女はぶっ殺した。あとは総力であのバカをこの場に押し留める」
「またお前は騙したのか」
「将棋は敵の駒を利用するんだよ」
新戸と槇寿郎は、互いに得物を構えて無惨を見やる。
ふと、槇寿郎は懐かしそうに口を開いた。
「何年ぶりだ? 貴様に背中を預けるのは」
「フヒヒヒ……お互い年取ったな」
「貴様は取ってないだろう」
「精神的に年取ってるから問題ねェよ」
死地でも軽口を叩き合う両者。
無惨はそのやり取りを眺めながら、鼻で笑った。
「老いぼれまで死地へ追いやるか……貴様も冷酷だな」
「どうせ御役御免になるんだ、このまま余生送るぐらいならもう一働きしてもらわねェと」
「ったく、お前は隠居泣かせだな」
「お前はやさぐれただけだろ」
そう言うと新戸は、刃に己の血を滴らせ、爆血の炎を宿らせる。
槇寿郎は呼吸を整え、切っ先を無惨に向ける。
「槇寿郎、これ勝ったら純米大吟醸奢れよ」
「それまで生き残れればな」
「言質取ったぞ。約束破ったら瑠火さんの墓前でチクってやるから」
「貴様こそこんなところで死んだら、瑠火に怒られるぞ」
新戸と槇寿郎は、十数年ぶりの共闘に身を投じたのだった。
というわけで、続いての参加者は元柱のお二人でした!
まあ、最前線に立つのは槇寿郎の方なんですけどね。
黒死牟と無一郎の共闘とか、猗窩座と杏寿郎の共闘とか、結構燃えます。
上弦と柱のタッグは、二次創作だからこそ実現するんでしょうね。ゲームでも不可能ですから。
ちなみに今作のドリームマッチは、まだ一枠あります。
観たくないですか? 鬼の始祖と鬼の王の勝負を……ぐふふ。
あと、縁壱零式がまさかの破壊ですが……刀鍛冶の皆さんが二体目の最終チェックが終わり次第投下する予定なので、無惨様の地獄はまだ続きます。