鬼は鬼殺隊のスネをかじる   作:悪魔さん

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夏あたりで終わるかも。
新戸、がんばれ。


第五十話 頼むぜ、伝説。

 無惨と鬼殺隊及び寝返った上弦達の戦いは、苛烈を極めた。

 元柱の緊急参戦により、戦局に変化が訪れたのだ。

「〝炎の呼吸 弐ノ型 昇り炎天〟!」

「〝鬼剣舞 刀剣舞の狂い〟!」

「小癪なっ……!」

 強烈な斬り上げと、追撃してくる「飛ぶ斬撃」に無惨は苛立っていた。

 新戸と共闘する槇寿郎は、十数年ぶりだというのに現役時代と変わらない動きで鬼の始祖に食らいつく。煉獄家当主の意地と、家族を護りたい心が、彼を突き動かしていたのだ。

 それだけではない。まだ柱達と炭治郎達も健在で、裏切った上弦も一人として討ち取られてない。無惨としては大変よろしくない戦況だ。

 だが、生物は窮地に追い込まれると覚醒し、火事場の馬鹿力などで絶体絶命の危機を突破することがある。それは人間だけとは限らない。

「この虫共がァァーーーー!!!」

 無惨は吠えると、右肩から左腰にかけて巨大な口を形成し、そこから強烈な稲妻状の衝撃波を放った。

 今まで見たことのない攻撃に、炭治郎達は吹き飛ばされていく。新戸も剣圧を最大出力で放って受け止めたが、ぶっ続けで血鬼術を行使しているために相殺できず、被弾してしまう。吹き飛ばされずには済んだが、神経を狂わされてしまい立ってるのがやっとだ。

「……んだ、今の……!? 衝撃波か……!?」

 新戸は仕込み杖で身体を支え、どうにか持ち直す。

 幾度となく自分を追い詰めた怨敵の疲弊した姿に、無惨は迷わず触手を構えた。

(ここで奴を仕留めれば、鬼狩り共の連携は崩壊する!!)

 荒唐無稽なれど合理的かつ効果的な戦略で、両勢力を掻き回して王手をかけたズボラ鬼・小守新戸。

 是が非でも鬼殺隊の天才策略家を倒さねば、鬼殺隊士を皆殺しにしても最後の最後で勝利をもぎ取られる。が、ここで討ち取れば残りは寿命が尽きるまで逃げきれれば自動的に無惨が勝つ。今の無惨の作戦は、新戸を倒して即座にトンズラすること……それさえ成就できればいいのだ。

「死ね!!」

 無惨は全ての触手を新戸に向け、八つ裂きにしようとするが……。

「……それで王手のつもりかよ?」

 

 ドォン!

 

「がああぁっ!?」

 刹那、新戸の仕込み杖から雷撃が放出。触手に直撃し、無惨は感電してしまう。

 刀鍛冶の里を襲った半天狗の分裂体・憎珀天を吸収したことで得た血鬼術〝積怒雷〟だ。鬼としての特異性ゆえ、半天狗本人よりも高い威力を誇り、ダメージにあまり期待はできないが無惨を怯ませるには十分だ。

「ぐっ……このっ……!」

「ムンッ!」

「っ!?」

 バッと顔を上げた途端、目の前に新手が現れた。

 それは、無惨も知る顔の鬼――竈門禰豆子だった。

「貴様は……!!」

 一瞬だけ呆けたように目を見開く無惨。

 その隙に禰豆子は無惨の右腕を掴んで一本背負い。爆血の炎でこんがりと焼きつつ、蹴り技で無惨を攻撃する。

「小賢しい……!」

 無惨は衝撃波を放った大口で禰豆子に食らいつこうとするが、その隙に炭治郎と善逸、伊之助の攻撃を食らってしまう。さらに杏寿郎の横薙ぎと猗窩座の手刀、義勇と実弥の連撃も受け、片膝をつく。

「ゴミ共がっ……!」

「おいおい、んなこと言ってる場合じゃねェぞ」

 新戸は悪い笑みで後ろを指差す。

 無惨が振り向いた瞬間、黒死牟が飛ぶ斬撃で触手を斬り落とし、悲鳴嶼が鉄球を脳天に叩きつけ、とどめと言わんばかりに童磨が氷柱を落として無惨を押し潰した。

「おお!! やったか!?」

 伊之助の歓喜の声に、周りも様子を伺う。

 いくら無惨とて、柱と上弦の追撃をここまで受ければ無事では済まないだろう。

 が、無惨のしぶとさは想像をはるかに超えていた。

 

 ドンッ!

 

「ぐあっ!?」

「童磨!」

 無惨は先程の衝撃波で、強引に氷柱を破壊して童磨を吹き飛ばした。

 すると今度は、両腕を振るって童磨の右半身と黒死牟の下肢、猗窩座の左半身を両腕で食い千切った。新戸と禰豆子、獪岳と玄弥を食い千切らなかったのは、爆血の反撃を警戒してのことだろうか。

 元部下の血肉で全快ではなくとも体力を回復したのか、無惨の〝圧〟が増し、一同は怒りを滲ませた。

「無惨……お前っ!」

「それ以前にてめェら()()()()だ!! あのワカメが回復したら元も子もねェんだよ!!」

「…………すまん」

「……返す……言葉も……ない……」

 新戸に叱責され、黒死牟と猗窩座はシュンとなった。

(クソ、俺だって消耗が激しいってのに……! 泥沼化したらこっちが負けちまう!)

 戦局は新戸の想像以上に悪化している。

 夜明けまであと一時間半だが、無惨の攻撃の中には上弦達すら知らないモノも混じっている。柱達を庇ったりしてくれるおかげで渡り合っているが、これ以上の戦闘による負傷は後遺症どころか致命傷になりかねない。

 しかし、それでも命を削って鬼殺隊は応戦している。長い付き合いである産屋敷からの願いも無下にはできず、今は亡き想い人の為にも新戸も命を削らねばならない。かといって、不必要な消耗をしては元も子もない。

「……だったらこれだ」

 新戸はメリメリと生々しい音を立てながら、掌からヤツデの葉の団扇を生み出した。

「師範、それって!」

「おう、上弦の肆のヤツだな」

 刀鍛冶の里の襲撃において、新戸の策略でせっかくの襲撃が失敗した半天狗の能力だ。

 突風を放つその能力は、無惨にも有効だろう。

「よし、禰豆子! これをお前に託す! ただし無惨に奪われんなよ?」

「ムンッ!」

 新戸から団扇を受け取った禰豆子は、物凄い速さで無惨に肉薄する。

 だが、ここで新戸はハッとなって叫んだ。

「ちょ、待て!! 禰豆子そいつは――」

「ムンッ!!」

 禰豆子が思いっきり羽扇を振るった、次の瞬間だった。

 

 ドゴォン!!!

 

『ぎゃあああああああああっ!?』

「ムーッ!?」

突風(それ)()()()()()()()()()()だから、敵味方問わず吹っ飛ばしちまうんだって……ああ、もう手遅れか……」

 たったひと振りで炭治郎達はおろか、無惨も上弦達も吹っ飛んでしまった。

 しかも全力で振るったせいか、市街地の家屋も次々と破損し、地面も抉られている始末。

 事故という言葉では済まされない惨状に、獪岳と玄弥は顔を引き攣らせ、当事者の禰豆子は盛大なやらかしをしたことに涙目となった。

「み、みんなーーーーーっ!!!」

「おいィィ!! 話が(ちげ)ェぞォ!!」

「新戸、貴様何てことをしてくれたんだ!!」

「俺だって驚いてんだよ!! 半天狗(ほんにん)よりも強い一撃を禰豆子がかますなんてよ……!!」

 あまりの惨状に、甘露寺は悲鳴を上げ、実弥と槇寿郎は鬼の形相で胸倉を掴み、新戸は必死に弁解する。

 それに続くように、瓦礫から這い出た一同が顔に青筋を浮かべて叫んだ。

『殺す気かぁ!!!』

「いや、悪かったってマジで!」

「し、死ぬかと思った……!」

「禰豆子ちゃん、ちょっとやりすぎだって……!!」

 炭治郎と善逸を尻目に、非難の声を上げる鬼殺隊と上弦。

 すると、瓦礫を吹き飛ばして無惨が起き上がった。

「き、貴様ァ……!」

「あ、生きてた……」

 無惨は顔中に青筋を浮かべ、新戸に怒りをぶつけた。

「小守新戸……貴様、私一人を討ち取るために街ごと仲間諸共消し飛ばす気か!? 産屋敷め、こんな鬼畜の所業を許すというのか!?」

「鬼の始祖に鬼畜の所業とか言われたくねェんだよ!!」

 怒号を飛ばす無惨にごもっともな切り返しをする獪岳。

 厚顔無恥を極めた発言に、玄弥は思わず「半天狗のジジイと大差ねェな」とボヤいた。

「これ以上私を怒らせるとどうなるか、思い知れ!」

「あんなこと言う奴って大体負けるよな」

「師範、そんなこと言ってる場合じゃないですよ!」

 獪岳が叫んだ瞬間、無惨は再び衝撃波攻撃を放った。

 瓦礫を巻き込んだそれは、炭治郎達に弾幕のように襲い掛かるが、禰豆子が団扇を振るって弾き返す。が、無惨は触手で全て粉砕し、両腕を振るって薙ぎ払っていく。

「がああああっ!」

「ぐっ!」

 咆哮を上げながら暴れる無惨は、執拗に新戸を攻撃する。

 義勇は、新戸を殺すことに目的を変えたと察し、必死に叫んだ。

「新戸! そのまま引き――」

「五月蠅い!」

 無惨は肥大化した腕で義勇を攻撃。

 咄嗟に刀を盾にしたが、衝撃に耐えきれなかったのかへし折れてしまい、そのまま吹き飛ばされた。

「冨岡さん!」

「義勇さん!?」

「斬り刻んでくれる!!」

 無惨はそう叫んだ瞬間、両腕の禍々しい無数の口から三日月型の細かい刃が放たれた。

 容赦なく全方向に放たれるそれに、宇髄や無一郎は左手を斬り落とされ、甘露寺は耳を抉られ、伊黒も肩を裂かれた。

 黒死牟の血肉を喰らったことで、〝月の呼吸〟の特性を独自に生み出したのだ。

「時透君! 宇髄さん!」

「構うな、竈門ォ!」

「往生際の悪い奴らめ……!」

 無惨は今度は、両足の口で吸息を行い、強烈な吸い込みで相手を渦へと引き寄せ抉り取ろうとする。

 それは悲鳴嶼ですら引き寄せられてしまう程で、どうにか堪えるしかない。

(っ……通常の何倍もの体力消耗を強いられる!)

「〝稲魂〟!」

 そこへ獪岳が、吸息を行う足に黒死雷を放った。

 両足はひび割れていき、吸息が緩んだところで脱出に成功する。

(あの小鬼……)

 鬼となった隊士であると同時に、忌々しい小守新戸の右腕。

 実力は取るに足らないが、新戸の弟子なだけあって嫌らしい戦法で翻弄している。

「かき消してくれる!!」

 無惨は衝撃波に加えて三日月型の刃を全方位に拡散。

 上弦達が、柱達が、炭治郎達が餌食となり、倒れていく。

「ハァ……ハァ……残るは貴様だ、小守新戸……!」

「てめェ……やってくれたな……!」

 かなり消耗したのか、息切れを起こす無惨。

 それは新戸も同様で、気力と体力がかなり削られてるのか息が荒い。

(まだ一時間半弱……まだ一手足りない……!)

 炭治郎達が喰われないよう、警戒を強める新戸。

 無惨もまた、新戸の奇策を警戒してか、すぐには動かない。

 双方が睨み合う中、それは突如降り立った。

 

 ドッ!

 

「?」

「……!?」

 新戸の傍に、見慣れた絡繰人形が着地した。

 それは、本来なら破壊されてこの場にいないはずの存在だった。

「縁壱……! そうか、()()()()()()!」

「んなっ……!?」

「新戸さーーん!」

 突如、頭上から声がかかった。

 何事かと思って見上げると、屋根の上にひょっとこの面を被った者達がいるではないか。

 刀鍛冶の里の鍛冶職人達だ。

(あれは……鋼鐵塚(はがねづか)さん!?)

(なぜ、ここに……!?)

 この場にいてはならないはずの鍛冶職人の参上に、驚きを隠せない。

 すると、刀匠の見習いにして縁壱零式の制作者を先祖に持つ少年・()(てつ)が、新戸に大声で叫んだ。

「お待たせして申し訳ありません!! 完成しました!! その名も〝シン・縁壱零式〟です!!!」

「よっしゃ、でかした!」

「何ィ!?」

 あの悪夢の殺戮人形が二体目の降臨という形で戦線復帰することに、無惨は血の気が引いた。

 すると今度は、刀鍛冶の一人・鉄穴森(かなもり)(こう)(ぞう)が酒壺を新戸目がけて投げつけた。

「新戸さん! 里長から頂いた地酒です! お酒で体力回復できると聞いたので、秘蔵の酒蔵から持ってきました!」

「っ! ズルいぞ新戸……!」

「お前はちょっと休んでろ」

 血反吐を吐きながらボヤく槇寿郎に、新戸は呆れながらもガブガブと酒を飲む。

 無惨は新戸の回復を阻止せんと、全ての触手を振るうが、それらは柱達に阻まれてしまう。

「新戸さん、俺達が食い止めますから全部!」

「いや、もう大丈夫。飲み切った」

『早っ!!』

 あっという間に飲み切った新戸に、一同は唖然とした。

 酒壺を叩き割り、懐から呪符を取り出す。

「よし……あと一時間ちょっとだ。頼むぜ、伝説」

 新しくなった縁壱零式の額に、呪符を貼り付ける。

 刹那、無惨の体があっという間に斬り刻まれた。

「なっ……」

《……すまない、私のせいで……》

「いや、気にすんな。全部承知の上だ」

 復活した縁壱零式が、カタカタ音を立てながら刀を構えた。

 ちなみに手にした刀は、一般隊士から拝借したモノである。

《鬼舞辻無惨……終わりにしよう》

「ふざけるな化け物!! 最後に勝つのは私だ、愚かな兄と共に朽ち果てろ!!!」

 憑依された絡繰人形に、逃走を念頭にしつつ無惨は応戦の構えを取る。

 無惨との最終決戦は、ついに終幕へと向かうのだった。




無惨の吸収能力で、体力回復に加えて兄上の斬撃が口から放てるようになりました。
その代わりに、縁壱零式がピッカピカの新品の体で戻ってきました。(笑)

次回は個人的に一番見てみたかったドリームマッチを実現させます。
あともう少しで本編も終了。もうしばらくお付き合いください。
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