疲弊しきった鬼殺隊の前に現れたシン・縁壱零式。
その性能は、無惨と一騎打ちで渡り合う程のオーバーテクノロジーだった。
(一体どうなっている……!? まるで生きてた頃の奴とほぼ同じではないか!!)
無惨は心の中で悪態を吐く。
シン・縁壱零式は、無惨が破壊した前の代物と違って格段に速く、非常に身軽だ。はっきり言って肉眼で捉えるのは困難なくらいだ。
無惨の疑問に答えるように、小鉄が得意げに笑った。
「どうだ、鬼舞辻無惨!! シン・縁壱零式は禰豆子さんの箱と同じ霧雲杉を素材としたことで、全体的な軽量化に成功したんですよ!!」
「っ……成程……」
無惨は小鉄の言葉に目を細め、ほくそ笑んだ。
軽量化をしたということは、その分耐久性が低い可能性がある。縁壱零式は触手でズタズタにした後で蜂の巣にしたことでようやく動きが止まったが、シン・縁壱零式はそれよりも脆いはず――
「小童には感謝せねばな!」
無惨の触手を、シン・縁壱零式は次々と捌き斬り落とすが、触手の一本が脚の付け根に刺さった。
そのまま貫通させて叩き潰してやろうとしたが、その時には無惨は十字に斬り裂かれていた。
「何っ!?」
シン・縁壱零式は、切断された触手が刺さったまま進撃。
一気に無惨を防戦一方に追い詰めた。
「おお! 見事にひっかかってくれましたぞ!」
「ふふん!! こんなこともあろうかと、あらゆる部品の外側にも内側にも岩漆を塗っておいたんですよ!! 耐久性は低いだなんて一言も言ってませんからね!!」
「すごいよ、小鉄君!!」
「小癪なっ……!!」
無惨は両腕を振るって小鉄達を殺そうとするが、無一郎と甘露寺、伊黒に阻まれる。
「時透、大丈夫か!?」
「何とかね……! 事前に打った薬、止血作用も入ってたみたい……!」
「私もまだまだやるからね!!」
肉を抉られ、四肢の一部を失ってなお気概を失わない柱達。
それに呼応するように、五体満足の面々も無惨への総攻撃を仕掛ける。
「思う存分
「何か無一郎に似てきたな」
新戸はボヤきながらも、爆血と斬撃の乱れ撃ちで無惨を攻撃。
人間を一切傷つけない爆血を利用し、柱達はあえて受けて炎の鎧としたり、日輪刀に宿す芸当まで見せる。
じわじわと消耗していく無惨は、渾身の一撃を見舞った。
「なめるなァァァァ!!!」
ドォン!!
『!?』
稲妻状の衝撃波に加え、三日月形の斬撃を乱射。
体力の大幅な消耗を引き換えにしたか、
鬼殺隊も、上弦達も、新戸も斬り刻まれていく。幸い離れていた鍛冶達は左近次と槇寿郎、シン・縁壱零式らに助け出されて避難できたが、現場は凄惨を極めた。
「ハァ……ハァ……」
無惨は己の体を見やり、苦虫を嚙み潰したような表情を浮かべた。
先程から、体の感覚がおかしいのだ。
「……おいおい、ヤケクソかよ。勘弁してくれや、この服結構気に入ってんだぜ?」
新戸は無惨の攻撃を捌ききれず、左腕を根元から斬り飛ばされてしまったが、自らの血液で胴体と繋ぎとめ、元通りに再生した。
が、それ以外は死屍累々に近い。上弦達はともかく、柱達は深手を負い、玄弥と獪岳も四肢を失って回復に専念している。善逸と伊之助はどうにか五体満足だが……。
「た、炭治郎……!!」
「ムー……!!」
「あ、あああっ……!!」
炭治郎はカナヲと禰豆子を庇ったからか、左腕を斬り落とされてしまった。
呼吸で止血をしているが、新戸としては結構マズい事態であった。
(くっそ、炭治郎のヒノカミ神楽は抜きか……!! 野郎、ホント悪運だけは一丁前か……!!)
無惨を睨め付ける新戸。
かく言う無惨も、汗を流しており息も先程以上に荒い。
消耗しているのはお互い様だが、人間の消耗と鬼の消耗ではあまりにも違い過ぎる。ここで逃げられたら終わりだ。
《小守殿……!!》
「マジか、あんた無傷かよ」
やはりと言うべきか、シン・縁壱零式は無傷。
新戸は「冗談だろそりゃ」と顔を引き攣らせた。
《このままでは……》
「わーってるよ! 鬼化した弟子達もあのザマだ、俺らでどうにかするしかねェ」
「……よりにもよって貴様らが残るか……」
ほとんど蹴散らしたかと思えば、残ったのが忌々しい怨敵二人。
無惨は歯ぎしりすると、背を向けて走った。
《っ! 逃げるぞ!!》
「大丈夫だ、追わんでいい」
《何だと?》
逃走を始めた無惨を追おうとするが、新戸がそれを止めた。
どういうことだと尋ねようとした、その時だった。
ズブリッ
「な……!?」
『!?』
無惨の胴体から、血のように赤黒い鎌の刃が生えた。
そう、まだあの兄妹が残ってたのだ。
「隙ありよ!!」
女性の声が響いたかと思えば、無惨の体に帯が巻き付き、そのまま振り上げられて脳天から地面に叩きつけられた。
「ったく、みっともねぇなぁ無惨様ぁぁ……」
「アンタ達もよ、鬼狩り!!」
満を持して、妓夫太郎と堕姫の兄妹が参戦。
裏切者の追加に、無惨は血管から血が吹き出そうな勢いで怒りを露わにした。
「お前達もだったな……! こうも私を失望させるとは……!」
「仕方ねェだろ、あらゆる利点が鬼舞辻無惨が上司というだけで帳消しになっちまうんだから」
「貴様黙れ!!!」
新戸のボヤきに無惨は攻撃しながらツッコミを入れる。
そんな中、炭治郎は偶然傍にいた黒死牟と義勇に応急処置を施されていた。
「……止血はした。が……適切な処置が、必要だ……これ以上戦うな……」
「うっ……」
炭治郎は悔しさをにじませながら、必死に打開策を考えた。
左腕の出血は抑えられたが、これ以上の戦闘は失血死につながる。
すでに禰豆子も、先程の攻撃で負った傷が深いからか休眠状態。同期達も疲弊しきり、新戸の弟子も回復に専念しているせいで身動きが取れそうにない。
柱達も意識はあるようだが、左腕を失った無一郎と宇髄は勿論、しのぶや甘露寺、伊黒も戦える状態とは言い難い。杏寿郎は目の傷に加えて内臓が傷つき、実弥は指を何本か失い、五体満足の悲鳴嶼と義勇は疲弊しきっている。
他の上弦達も、無惨を二度と逃走させまいとその場に押し留めるのが精一杯。このまま夜明けまで封じ込めればいいが、できなかった場合は一巻の終わりだ。
炭治郎は考えた末、決断した。
「……黒死牟さん……」
「……どうした……竈門炭治郎」
「頼みがあります……!」
*
新戸達と無惨の激闘は、壮絶を極めた。
死力を尽くす無惨は想像をはるかに超え、シン・縁壱零式もついに傷を負い始めた。それでも大したものでないあたり、憑いている縁壱の凄まじさが伺える。
「るおおおおおおっ!!」
新戸は赫醒刃の赤い斬撃と爆血の炎を全開放し、無惨に食らいつく。
今までにない鬼気迫る表情で、鬼の始祖を討ち取らんとする。
「がああああっ!!」
無惨もまた、忌々しい新戸を滅却せんと猛威を振るう。
策を練る暇を与えないことで、新戸の最大の武器である知略を封じ込めることに成功したが、その分を補うように妓夫太郎が咆哮しながら血の斬撃を見舞い、堕姫が帯で下段攻めを仕掛ける。
「死ね! 小守新戸!」
「ぬおっ!?」
ドゴンッ! と重い一撃が新戸を襲った。
新戸はそのまま炭治郎達の傍まで吹き飛ばされてしまう。
「くっそ、死にかけの生物の足掻き方じゃねェぞ……!」
血反吐を吐きながら起き上がる新戸。
すると、すぐそばで炭治郎が苦しそうな声を上げた。
「うああっ……!」
「おま、何やってんだ!?」
新戸は目を大きく見開いた。
何と黒死牟の血が、炭治郎の傷に注がれているではないか。
「竈門炭治郎は……日の呼吸を使える……妹も妹ならば……」
「……炭治郎、お前まさか!!」
「ぐうっ……ね、
「そんなん、長男力でどうにかなるもんじゃ……ん?」
炭治郎と黒死牟を引きはがそうとした新戸だったが、無惨の方を見て一瞬固まった。
そして、確信を得たように口角を上げて叫んだ。
「――よし、続けろ!! お前の賭けに乗ってやるよ、炭治郎!!」
「え……!?」
「無惨の奴も、同じ考えに至ったらしいぜ……!!」
新戸の視線の先では、無惨が青ざめた顔でこちらに向かってくるではないか。
それはつまり、炭治郎を
「お前ら、作戦変更だ!! 炭治郎を鬼化させてあのワカメにぶつける!!」
『ハァ!?』
新戸の即席の作戦に、全員が信じられないと言わんばかりに驚愕した。
隊律違反どころの問題じゃない。隊士を鬼化させて無惨にぶつけるなど、正気ではない。
「時間を稼いでやる!! 悲鳴嶼、義勇!! 炭治郎を護れ!!」
「もはや隊律も意味をなさんか……!!」
「それで倒せるなら、本望だ……!!」
苦い顔をしながら、悲鳴嶼と義勇は炭治郎を庇う。
直後、新戸は左半身から爆血の炎を発し、身体から噴き出る煙を羽衣のように纏い始めた。
栄次郎を討ち取った、新戸の最終形態――〝ヒノカミ・ルカ〟だ。
「仲間を鬼化させるとは……冷酷も恥も極めたな!」
「てめェが言うなっての!」
新戸は仕込み杖に雷を纏わせ、左手に炎の七支刀を顕現させる。
「それに、まだ切り札は残ってる……!! 夜明けまであと四十五分だ、これで終わりにするぞ、
「っ……いいだろう!! 私を最も追い詰めた男と認めてやる、小守新戸!! 貴様と竈門炭治郎さえ殺せれば、あとは烏合の衆!! 産屋敷も時代のうねりには抗えまい……!! 貴様を殺したらこの場を去って、真の安寧を手に入れてくれる!!!」
一縷の望みに全てを賭け、新戸は無惨に挑んだ。
ちなみに無惨様は分裂阻害や老化、細胞破壊の薬に薄々勘づいてます。
だからこそ、分裂による逃走をせず、自分の足で逃走を図ったんです。まあ、シン・縁壱零式に手口を見抜かれてるのでできなかったんですけど。
そして次回、ついに音沙汰なかったお館様が動きます。
さらに、炭治郎が鬼化して……!?
お楽しみに。