鬼は鬼殺隊のスネをかじる   作:悪魔さん

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無惨様告別式もクライマックスです。


第五十二話 お前、鬼化すると犬になんの?

 炭治郎を鬼化させて無惨と戦わせるという、あまりにも危険な一発勝負(バクチ)に出た新戸。

 なりふり構わず殺しにかかるズボラ鬼に、無惨は戦慄を覚えつつも猛攻を仕掛けるが、新戸と柱達の死力を尽くした防衛を切り崩せないでいた。

「〝岩の呼吸 参ノ型 (がん)()(はだえ)〟!!」

「〝水の呼吸 陸ノ型 ねじれ渦〟!!」

「〝炎の呼吸 肆の型 盛炎のうねり〟!!」

 無惨の執拗な攻撃を、攻防に優れた技で防いでいく。

 珠世が投与した薬のおかげで無惨も消耗しているが、その度に寝返った鬼達の血肉を食い千切ってチマチマと回復するため、ゴリ押しに加えて地味に嫌な戦法で鬼殺隊と上弦達を追い詰めていた。

 それでも、彼ら彼女らは必死に食い下がる。

「〝獣の呼吸 肆ノ牙 (きり)(こま)()き〟!!」

「〝雷の呼吸 壱ノ型 霹靂一閃・神速〟!!」

「〝花の呼吸 陸ノ型 渦桃〟!!」

 炭治郎の同期達も、命懸けで無惨を妨害。

 愈史郎の呪符による目隠しの効能を利用し、じわじわと削っていく。

「おいィ! 竈門はまだかァ!」

「いい加減にしろ! こっちも限界なんだ! どうしてくれる!」

「やかましい! 加減間違えたらお釈迦なんだっての!」

 苛立ちが募る実弥と伊黒に一喝しながら、新戸は共に炭治郎を爆血の炎で包む。

 無惨に最も近い黒死牟の血を、絶妙な加減で燃やしながら注ぐことで、順応の際の弊害を押さえるという腹積もりだ。

「随分と……注いだ……そろそろ、頃合いのはずだ……」

「さて、イチが出るかバチが出るか……」

 黒死牟は目を細め、差し出した腕を下げる。

 新戸もそれに合わせ、爆血の炎を鎮める。

「……グゥゥ……!」

『!!』

 唸り声と共に、炭治郎は起き上がった。

 赫灼の瞳は、禰豆子と同じように縦長の瞳孔となり、顔の痣も広がっている。

 気配は紛れもなく、鬼のそれ。鬼化は成功したが、問題はここからだ。

「ムゥ……」

「……炭治郎……」

 禰豆子と義勇は恐る恐る様子を伺い、新戸は仕込み杖の刀身に爆血の炎を纏わせる。

 新戸のような例外を除き、鬼化して間もない場合は理性が欠落しており、本能の赴くままに動く。今の炭治郎の眼前には、新戸という劇物さえ除けば血の滴る食い物が揃っている状況。食いつくか否かで、この戦場がさらなる地獄となる。

「ヴヴ……」

「!」

 鬼化した炭治郎は、禰豆子を見るや否や、彼女の頭に手を置いて撫で始めた。

 賭けは成功だ。理性を失わず、炭治郎は鬼となれたのだ。

「炭治郎、大丈夫そうだな」

「ガウッ!」

「お前、鬼化すると犬になんの?」

 人一倍鼻が利くからか知らないが、なぜか受け答えが犬である。

 だが、炭治郎の嗅覚は感情の起伏すら嗅ぎ取れる。四の五の言ったり考えず、理解に努めればいい話だ。

 新戸は傍に置いてあった黒刀を炭治郎に渡し、

「状況はわかってるだろうが、説明は全部端折るぞ……あと一息だ」

「ヴヴヴヴ……!」

「驕るな、小鬼共」

 無惨が無造作に腕を突き出し、力を込める。

 すると、炭治郎の身体から嫌な音が鳴り始め、吐血し出した。

「炭治郎!」

「竈門少年っ!」

「小守新戸、貴様の奸計で黒死牟達の呪いを解いたようだが、炭治郎には有効だ。……そのまま死ぬがいい」

 無惨は得意げに策を封殺したと嘲笑するが、新戸は不敵に笑って言葉を返した。

「おい、ワカメ頭。糠に釘ってことわざ知ってるか?」

「?」

「禰豆子でさえお前の支配を逃れられたんだ、炭治郎にできない訳ねェだろ」

 新戸がそう言い放った途端、炭治郎の吐血はピタリと止んだ。

 無惨の支配が外されたのだ。何という強靭な精神力か。

「そ、そんな馬鹿な……!」

「俄かに、信じがたい……!」

「おいおい、冗談だろぉぉ……」

 無惨はおろか、鬼の長男枠である黒死牟と妓夫太郎も愕然。

 そもそも鬼狩りは通常の人間より鬼化に時間がかかるというのに、炭治郎は十数分で無惨の支配を外せる程に順応していた。言葉がまだ話せないのは、あくまでも時間がそこまで経ってないからであり、人の血肉を口にせず人語を喋り血鬼術を行使できるようになるのも時間の問題だ。それこそ、頸の弱点や日光の克服すらも……。

「そんじゃあ、ここでダメ押しだ。……おい、まだくたばっちゃいねェだろうな!?」

 新戸がそう叫ぶと、どこからか一羽の鎹鴉がシン・縁壱零式の肩に降り立った。

 その頭には、模様が違うが愈史郎が作った呪符が貼られている。

《ゲホ……どうにか、体調が落ち着いたよ……もう少し、早く起きたかったかな……》

『お館様!?』

「産屋敷!? なぜ生きている!?」

 呪符から発された声に、耳を疑った。産屋敷輝哉の声だ。

「お館様……!」

「ご無事であられたか!!」

「よかったぁ……!!」

 死んだと思ってた敬愛する輝哉の生存を知り、安堵したり涙ぐむ柱達。

 彼が無事ということは、あまね達も無事なのだろう。

「でも、一体どうして!? あの時、お屋敷は……!!」

 甘露寺の疑問はもっともだ。

 あの爆発で木っ端微塵に吹っ飛んだ屋敷から、どう生存できたのか。

 その答えを知る者が、ニヤリと笑って答えた。

「おいガキ共、俺は一度も()()()なんて言ってねェぞ? なあ、梅ちゃん」

「ふん!」

「――まさか、帯の中か!?」

 産屋敷家生存の絡繰を知り、敵味方問わず唖然とした。

 無惨討伐の士気を高めるために輝哉達は囮となり、新戸が堕姫の血鬼術を利用して救助し、その事実を秘匿し続けてたのだ。

《新戸殿、何も今まで隠さずともよかったのでは?》

「だって早めに知られたら気ィ緩むかもしんねェじゃん」

 新戸の言葉に、全員がジト目で睨んだ。

 そんなことは絶対にあり得ない、と言えないのが歯痒い。

《新戸……状況はわかってる。炭治郎が鬼になってしまったことも》

「鬼になったっつーか俺がさせたんだけどな」

《……この際は不問にするよ》

 一々新戸に言うのも疲れるのか、輝哉はそれ以上は何も言わないことにした。

 すると新戸が、悪い笑顔で輝哉に言い放った。

「おい、景気づけに一発かましてやれ」

《! ……皆、聞こえるかな》

「やかましい烏だ……!」

 無惨は苛立ちながら鎹鴉を攻撃する。

 が、それは炭治郎によって弾かれてしまった。――隊服を突き破って生えた骨のような触手によって。

「……これマジでヤバいかも」

「ガゥ?」

 炭治郎はきょとんとしてるが、新戸はダラダラと冷や汗を垂らしまくっている。

 ――これで暴走なんかしたら、縁壱でも手に余る化け物になるんじゃないか?

《どうやら、私の声は届きそうだ……私の大事な剣士(こども)達、ここまでよく戦ってくれたね》

「お館様……」

 戦場を支配する、鬼狩りの総大将の声。

 彼らの心に灯った炎に、輝哉は薪をくべた。

 

《私の魂は、いつも傍にある。全てを終わらせよう》

 

 その言葉を聞き、柱達の身体から闘気が溢れた。

 満身創痍のはずなのに、体力が全回復したかのような気迫だ。

「お館様、感謝いたします!!!」

「ああ……!!!」

「うむ!!! その言葉以上に、我々を奮い立たせる言葉はないっ!!!」

「産屋敷っ……!!」

 一気に士気が上がる鬼殺隊に、無惨は苦虫を嚙み潰したような表情で睨んだ。

 その場にいた人間達は、心を燃やして刃を構えるのだった。

 

 

           *

 

 

 鬼狩りと鬼の首魁の最終戦争は、夜明けまで残り僅かなこともあり、極限の修羅場と化した。

 最終形態になった新戸と鬼になった炭治郎、そしてシン・縁壱零式の猛攻で逃げられない無惨が、最後の足掻きでギリギリ渡り合っていたのだ。本当にしぶとい男である。

 とはいえ、無惨の消耗は火を見るよりも明らか。かつての部下達が身を呈して鬼殺隊を庇うことで、鬼狩り達は四肢のどれかを欠損させた者こそいるが命を繋いでいる。無惨も上弦達の血肉を食い千切りながら戦っているが、それもその場しのぎにしかならず、大苦戦を強いられた。

 が、この抵抗は新戸にとって想定外であり、ついにイライラし始めていき……。

「ああ、もう……往生際が(わり)ィ野郎だよ!!」

「ウガアアッ!!」

 

 キキキキキキ……!!!

 

 新戸が纏う爆血の炎がさらに燃え盛り、炭治郎に至っては口の前に光球のようなものを生み出し始めた。

 それを見た宇髄が「何する気だ!?」と二人に叫んだ。

「ここら一帯を更地にして日陰を無くしてやんよ!!」

『ダメだろやめろバカ!!!』

「正気か貴様ァ!?」

 業を煮やした新戸と炭治郎を必死に止める一同。

 無惨ですら冷や汗を掻きまくっており、本気で広範囲を破壊する大技を仕掛けるつもりだったようだ。

 その時、空の方を見た義勇が声高に叫んだ。

「夜明けだ!!」

『!!!』

 そう、夜明けを迎えたのだ。

 日が昇れば、鬼殺隊の勝利は確定する。無限城を失い、孤軍となった無惨には勝機などない。

 だが、腐っても鬼の始祖。全方位に衝撃波を放って全てを吹き飛ばし、逃走を図った。

「ぐあああっ!!」

「ギャッ!」

 日光焼けが始まり、苦悶の声を上げる無惨と炭治郎。

 だが、数秒後に両者の違いはすぐ出た。

「ムンッ!」

 炭治郎は歯を食いしばって息を整えた。

 直後、焼けていた皮膚が元通りになった。日光を克服したのだ。

「ったく、ビックリさせやがって! 獪岳、行くぞ!」

 とどめの追撃を仕掛ける新戸と獪岳は、斬撃や炎撃、雷撃で猛攻。

 それに続き、上弦達も血鬼術を全開に無惨を削っていく。

 しかし、無惨はここへ来て少しでも生き残るための時間を稼ごうと肉体を肥大化。眼の潰れた巨大な赤ん坊の姿となり、地面を叩き割りながら暴れる。

「バカが! てめェで的をデカくしやがった!」

「今だ!」

 無惨を確実に殺すべく、鬼殺隊は総攻撃に出た。

 太陽光の当たらない場所に逃げようとする無惨の首に、悲鳴嶼が日輪刀の鎖を絡め、甘露寺と伊黒、禰豆子と玄弥が一般隊士達と力を合わせて拘束。隠は車での特攻で足止めを行い、善逸達が隠達を救助する。

 続いてしのぶが日輪刀を無惨の心臓に深く突き刺した。日輪刀に仕込んだ毒を全て注ぎ、すぐさま撤退する。

 さらに義勇と実弥、無一郎と宇髄が連携で両腕を斬り飛ばし、上弦達が脳天や胸、鳩尾を重点的に攻撃。上弦を吸収しようとする無惨だが、そこへ新戸が掌に眼を開かせて〝紅潔の矢〟で拘束を強化させた。

「杏寿郎、行くぞ!」

「はい、父上!」

 無惨の拘束が強まり、動きが鈍くなったところで煉獄親子が動いた。

 互いに闘気を解放し、両腕を含めた全身を捻り、そして爆発的な踏み込みで突進した。

「「〝奥義 玖ノ型・煉獄〟!!」」

 

 ドォン!!

 

「グギャアアアーーーーーーー!!!」

 一瞬で多くの面積を根こそぎ抉り斬る大技を一度に二発食らい、無惨は断末魔の叫びをあげた。

 しかし、それでもしぶとく生きている無惨は、隙だらけとなった二人を叩き潰そうと片腕を再生させるが――

「〝狂圧鳴波〟!」

 新戸は凄まじい咆哮で無惨に音波攻撃。

 新戸が精度を高めたのか、それとも鬼狩り達が意地で耐えてるのか、気絶する者もなく無惨のみに攻撃を当てることに成功。まさかの音波攻撃に大きく怯んだ無惨は、さらに動きを鈍くさせた。

「炭治郎!! 縁壱!! 今だ!!!」

 新戸が叫ぶと共に、炭治郎とシン・縁壱零式が跳んだ。

 地中に潜ることすらできない無惨は、その技をモロに食らうこととなった。

(〝ヒノカミ神楽〟……!!)

(〝日の呼吸〟……!!)

 

 ――〝円舞〟!!!

 

 日本一(やさ)しい鬼となった炭治郎と、絡繰人形に憑依して四百年ぶりに顕現した継国縁壱が繰り出す、災厄を焼き払う渾身の一太刀。

 真っ向から受けた無惨は、悲鳴すら上げることなく滅却されるのだった。




この作品もそろそろ終了が近づいてきました。
ちょっと寂しいですね……。


よく鬼化ifとか柱ifとかありますが……もし新戸が鬼舞辻側だったら、鬼殺隊のチカラではなく新戸がやりたい放題(利敵行為も含む)やったせいで鬼が滅ぶと思います。
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