鬼は鬼殺隊のスネをかじる   作:悪魔さん

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本編終了です……。

お気づきでしょうが、本作では炭治郎達は痣を発現しておりません。
その理由も解明されます。


最終話 このままハイ解散なんてさせねェよ!

 それからの話……鬼舞辻無惨を討伐した鬼殺隊は、戦後処理に追われた。

 壮絶な死闘の末、市街地は半壊状態であり、鬼殺隊に関係する全ての人材を使って作業にあたった。

 意外なことに、この戦後処理には刀鍛冶の里の鍛冶達だけでなく、童磨の隠れ蓑だった万世極楽教の信者達まで参加してくれた。

 万世極楽教の信者は250人程で、相当な労働力。大半は女性だったが、男衆も一定数いるため力仕事に積極的に手伝ったことにより、街の復旧は二ヶ月程で完了した。

 ちなみに今回の件は「地下水の長年の浸食によって地盤沈下が起こり、その影響で建物の倒壊が相次いだ」という形で事を収めた。

 

 そして全てが片付いた頃、産屋敷邸にて最後の柱合会議が開かれた。

「……全員揃ったね」

 耀哉は微笑みながら口を開いた。

 無惨の討伐のおかげか、蝕んでいた呪いは完全に解け、快調に向かっている。今では一人で元気に歩き回ることもできる程だ。

「行冥、義勇、杏寿郎、実弥、天元、蜜璃、小芭内、無一郎、しのぶ……今まで本当にありがとう。鬼殺隊は今日で解散する」

「長きに渡り、身命を賭して世の為人の為に戦っていただき、尽くしていただいたこと……産屋敷家一族一同、心より感謝申し上げます」

 耀哉とあまね、そして輝利哉達が頭を下げた。

 柱達は慌てふためきながら、産屋敷家の尽力があったことが第一であり、自分達こそ礼を言う立場だと口を揃える。

 その言葉に耀哉は微笑むと、真の功労者は産屋敷家じゃないと告げた。

「私個人が思うにね、鬼殺隊で最も功績をたてたのは……煉獄家だと思ってる」

「よもや!?」

 その言葉に、誰もが目を見開いた。

 産屋敷家ではなく、煉獄家が無惨討伐の立役者なのだというのだ。

 その最たる理由は――

「煉獄家がなければ、新戸は鬼殺隊に来なかった」

『!!』

 そう、小守新戸という存在を鬼殺隊に引き入れたことが最大の功績なのだ。

「新戸と初めて出会った鬼殺隊士はね、まだ炎柱だった槇寿郎だ。新戸の特異性を見出して、私の父の下に新戸を連れてきたんだよ。禰豆子と違ってあの頃から図々しかったけどね」

『……』

「そして新戸は、瑠火さんと出会った。将棋を介して敗北を教え、何度も挑む新戸に真っ向から向き合い、戦術家としての才能を開花させた。新戸が鬼殺隊にいてくれたのは、間違いなく瑠火さんに出会えたからなんだ。――そうだろう? 新戸」

 耀哉は縁側に顔を向け、将棋ではなく囲碁をしている新戸に話を振った。

 新戸は「俺は自分の生活を護りたかっただけだ」と一言告げるが、一つだけどうにも気になってしまうことが一つ。

「おい新戸、なぜ上弦の壱がそこにいる」

 そう、新戸は()()()()()()()()元上弦の壱・黒死牟と一局やっていたのだ。しかも傍には元上弦の参・猗窩座もいる。

 これにはあまね達も固まった。

「囲碁も結構面白いじゃんか」

「ならば、あとで将棋も一局……」

「いいね。俺は強いから覚悟しとけよ」

「おいィ! 話を聞けェ!」

 怒号を飛ばす実弥に、新戸は「うっせ~な~……」とジト目で反論した。

「別に全部丸く収まったからいいだろうが。無惨は死んだし、誰も死ななかったし、上弦は人間に戻ったし。これ以上何を望むってんだ」

「てめェ、こいつらを生かしたってのか!?」

「あの場で殺すつもりだったけど、炭治郎に懇願されたからな」

 その言葉に、一同は目が点になった。

「竈門少年が?」

「あいつ鬼になった時、何か知らんが上弦共の過去を見ちまったらしい」

 新戸はあの決戦の直後の出来事……黒死牟に血を注がれてる時、炭治郎は上弦達の過去を覗き見たことを語った。

 

 全てを捨ててまで弟を超えようとしたが、結局何も得られなかった黒死牟もとい(つぎ)(くに)(みち)(かつ)

 実父のみならず、恩人と愛する者を同時に喪った猗窩座もとい(はく)()

 周りに誰も助けてくれる人間がいなかった、鬼になる道を選ばざるを得なかった妓夫太郎と堕姫。

 

 童磨は新戸と出会い、妓夫太郎と梅も最終的に味方になったが、やはり許せない敵とはいえ同情してしまい、不憫に思ってしまった。

 ゆえに炭治郎は、無惨を倒した直後、触手を使って黒死牟と猗窩座に自らの血を少し分けたという。

 ――生きて、今まで犯した罪を償ってもらいたい。

 その想いをありのまま炭治郎は伝え、新戸はそれを承諾し、念の為にと珠世から渡されていた鬼を人間に戻す薬を投与したというのだ。

「まあ、戦後処理の労働力としてこき使えそうだし……利害の一致ってヤツだ。もうこいつらは人を喰えないし血鬼術も使えねェ。ただの化け物みたいに強い人間だ」

「炭治郎と禰豆子は?」

「あの二人にも、梅ちゃんと妓夫太郎にも服薬済みだ。童磨も人間に戻る。鬼化能力がある玄弥にも、念の為に投与しといた。俺と獪岳は順番待ちだ」

「……君も、人間に戻ってくれるのか」

 耀哉は驚きに満ちた表情で呟いた。

 その言葉に対し、新戸は「長生きしたってロクなこたァねェからな」と笑い、こう返した。

 

「要は死の淵が早いか遅いかの違いでしかねェんだよ。皆いつかは死ぬが、それが今日か今日じゃないかぐらいは変えられる。無惨の野郎(バカ)も、求めるモンが完璧や永遠じゃなく()()()()()()ぐらいだったら、あんな末路になんなかったろうにな」

 

 ズボラな男の価値観がわかる言葉に、耀哉は思わず唸った。

 現役の実力者の中では最年長と言える彼の言葉は、中々響くものだった。

「それにしても……よく鬼の皆さんと仲良くなれたわ」

「確かに」

「別に連中と敵対しても、〝痣者〟が現れりゃあどうにでもなったさ。もっとも、俺の戦術戦略に大きな弊害が出るから徹底的に避けたが」

「〝痣者〟?」

 聞き慣れない言葉に、首をかしげる。

 巌勝だけは心当たりがあるのか、一対となった目を細めた。

「全集中の呼吸を一定以上極めた奴は、身体に鬼の紋様に似た痣が発現するという記録を読んだことがある。発現すれば上弦とも戦えるぐらい強くなるが、「寿命の前借り」だから産屋敷もびっくりの短命になる。三度の飯より鬼狩りのてめェらのことだから、是が非でも出そうとすると思って発現は回避させた」

「……よもや新戸、そこまで読んでいたのか?」

 杏寿郎の言葉に、全員が息を呑んだ。

 駒が寿命の前借りで早逝するなど、駒の価値をよく知る戦術家である新戸が許すはずがない。チャランポランな立ち振る舞いの裏では、どうすれば犠牲を最小限に無惨達を殲滅できるのかを必死に考えていたのだ。

 黒死牟と猗窩座は、それを知り改めて思い知った。

 

 真っ先に滅ぼすべき相手は、鬼殺隊でも産屋敷でもなく小守新戸という鬼だったことを。

 

「痣者を一人として出さず、あの御方に勝ったというのか……」

「一時的な能力強化で自滅するより、あらゆる手段で見苦しく足掻く方が合理的なだけだ」

 淡々と告げるズボラ鬼に、巌勝は笑みを浮かべた。

 これは小守新戸の()()()()としか言いようがない。

「……まあ、これで終わったんだ。ここまで頑張ったんだ、()()()()付き合ってもらうぜ、耀哉」

「そうだね」

「? 何のことだァ?」

「んなもん、決まってんだろ」

 新戸は目を細め、極悪人のように笑った。

「お前らの結婚式だ、柱共」

『……えええええええええ!?』

 その場にいる全員が絶叫。

 新戸と耀哉はその反応を見て、腹を抱えて笑った。

「ダーッハッハッハッハッハ! このままハイ解散なんてさせねェよ! 無惨ぶっ殺したらやろうって、俺と耀哉が主導して動いてたんだよ!」

「ふふっ……あっははははははははっ! 私だって君達をビックリさせたくてね、新戸の提案に乗ったんだ! あははははっ!」

 大爆笑する新戸に加え、初めて見る興奮気味に笑う耀哉に、一同は驚愕のあまり固まっていた。

 ついには笑いながら握手し始めてるではないか。

「お、お館様があんなに楽しそうに笑ってるの初めて! キュンキュンするわっ!」

「うむ! 付き合いが長いからこそだろう! いい光景だっ!」

「じゃあ、俺は派手に()()()()に回れそうだな!」

 甘露寺と杏寿郎、既婚者の宇髄は肯定的だが、他の者は気が気でなかった。

 というのも、新戸は鬼殺隊内の人間関係を熟知しており、誰と誰がイイ関係かも把握している。

 つまり、この場で個人的な関係が暴露される可能性があるのだ。

「じゃあ耀哉、やるか」

「うん、そうしよう」

 小守新戸と産屋敷耀哉――鬼殺隊を勝利に導いた二人の共同作業の始まりに、一部の柱が魂が抜けたような表情を浮かべたという。

 

 

           *

 

 

 それから二年。

 鬼殺隊解散後、隊士達はそれぞれの道を歩んだ。

 

 炭治郎ら竈門家は、鬼の脅威が去ったことから生家の雲取山に戻り、炭焼き稼業を再開した。最近はカナヲが出入りしており、彼女を温かく出迎えている。

 善逸は育手の桑島慈悟郎と共に桃農家を開業。元鬼殺隊の面々に上質な桃を配っている。最近は禰豆子とお付き合いしており、近々結婚の予定だ。

 伊之助は何と、童磨自身も人間に戻ったためか万世極楽教に母と帰還。童磨は教祖としての使命感からか、慈善事業の拡大に力を注いでいる。しかも極楽教にはかの元上弦の陸の二人も暮らしているそう。

 

 柱達にも動きがあった。

 まず、実弥はカナエと付き合っており、蝶屋敷を人々の為の病院にすると意気込んでいるとのこと。結婚して夫婦となった義勇としのぶの二人も手を貸し、鬼殺隊に貢献した珠世一派も担当医として関わっているという。その際に悲鳴嶼と玄弥に孤児院の経営を誘ったようで、当然その誘いには乗った。

 伊黒と甘露寺は柱時代から二人でいることが多かったため、解散後にすぐ結婚し、食堂を営み始めた。甘露寺は早速妊娠しており、出産を控えているそうだ。

 杏寿郎は鬼舞辻無惨討伐の功績によって煉獄家の当主となり、親族のいない無一郎も引き取り、産屋敷家に収めるための鬼殺隊の戦いの歴史の記録を書き始めているという。鬼側の視点も大事として、鬼から人間に戻った狛治と巌勝にも編纂させている。

 宇髄は嫁の三人と暮らしているが、産屋敷家の分家として迎えられ、行き場のない隊士や日輪刀を打つ必要がなくなった刀鍛冶の支援、産屋敷家の私有地の管理を行っている。

 

 そして肝心の新戸は、弟子の獪岳と共に鬼から人へ戻り、産屋敷家に正式に居座ることになった。

 

「善逸や雷ジジイんトコにゃ戻らねェのか?」

「あの二人の方が馬が合いそうです。俺は師範の傍が一番ですから」

「師匠として冥利に尽きるねェ」

 満月を仰ぎ見ながら、グビグビと盃に注がれた酒を飲む新戸。

 獪岳も桃をしゃくりと齧りながら、お猪口の中の清酒を呷る。

「……師範は、これからどうするつもりですか」

「やりたいようにやる……と言いてェが、この先の流れを考えると、お前らを護らなきゃなんねェようだから、それまで死ぬ気はねェかな」

「この先の、流れ……?」

 獪岳は目を大きく見開いた。

「この先、この国は戦争に巻き込まれる気がすんだ。こちとら無惨(ワカメ)一人で腹一杯だってのに、今度は人間同士の殺し合いで全集中なんざシャレになんねェだろ? だから俺の次の敵は〝時代〟だよ」

「……」

「まあ、人間生きてさえいればそれだけで儲け物よ。それが全てだ」

 酒を飲み干すと、徐に桃に手を伸ばして一口齧る。

 するとそこへ、耀哉が穏やかに笑いながら顔を出した。

「隣、いいかな?」

「おう」

 新戸の隣に腰を下ろすと、徐に猪口が置かれた。

 一緒に飲もう――そういうことだろう。

「……まさか、君と酒を飲める日が来るとはね」

「煙草吸わせる前に、酒の味をきっちり教え込もうと思ってな」

 普段は不敵だったり黒かったりする新戸の笑顔だが、この時だけはいつになく柔和だった。

 耀哉は口角を上げながら新戸の盃に酒を注ぎ、新戸は耀哉の小さな御猪口に酒を注いだ。

 

「「乾杯」」

 

 軽く杯を合わせて一口。

 作法もへったくれもない乾杯であったが、不思議と様になっていた。

「……とてもまろやかだね」

「槇寿郎んトコから拝借した酒だ、旨いに決まってら」

「師範、それって窃盗じゃ……」

「禁酒措置だよ」

 静かな夜で、元鬼殺隊当主と元鬼は夜明けまで飲み語り合ったのだった。

 

 

           *

 

 

 時は流れ、現代。

 震災や戦争を乗り越え、平和な時代が訪れた日本で、間もなく日本最高齢の記録を突破しようとしていた産屋敷輝利哉の下に()()()()()()()()()()が尋ねた。

「久しぶりだな、輝利哉」

 そう言って現れたのは、着物姿の黒髪の青年。

 しかしその声と雰囲気は、紛れもない彼自身だった。

「君は転生しても変わらないね、新戸。……いや、小守新戸()()

 茶菓子を出して歓迎する輝利哉。

 そう、客人の正体は転生した小守新戸。現代では棋士として活動し、将棋に加えて囲碁の棋士として前人未到の「囲碁と将棋のダブル棋聖獲得」を狙う、ニュースやワイドショーで注目される大物となっていた。

「まあ、あの時代切り抜けたようで何よりだわ。どいつもこいつも転生してやがる」

「そうか……彼ら彼女らの子孫も素晴らしいね」

「まあ、ビックリしたこともあったがな」

 茶を啜りながら思い返す。

 新戸は戦争に負けた日本が独立してから、まもなくこの世を去った。

 それから長い年月が経ち、ようやく転生したのだが……周囲がとんでもないことになっていた。

 

 蝶屋敷が、日本医学界を支える一大組織に発展してたり。

 万世極楽教が、政財界にも顔が利く宗教団体になってたり。

 善逸の子孫が作った桃が、内閣総理大臣賞を受賞してたり。

 刀鍛冶の里の子孫達が、日本の工業の土台となったり縁壱零式を完全再現したり。

 

 一抹の不安を覚える事案もあったが、一通り大丈夫そうなのでこの場では黙ることにした。

「獪岳は?」

「シェアハウス中。頭がよけりゃあどうにでもなるって吹っ切れてよ、クイズで飯食ってこうってこないだ言ってたぜ」

 新戸を最期まで師として尊敬し続けた愛弟子も、転生して再会できたようだ。

 どこか嬉しそうに語るあたり、不安な部分があったのだろう。

 ふと、輝利哉はあることを思い出した。

「……新戸」

「ん?」

「瑠火さんには会えたのかな?」

 その一言が、空間を支配した。

 新戸にとっての恩人である彼女も、どこかで転生してるのではないか。

 そう思い、直球で聞いてみたら……。

 

「いやァ、俺さ……今度、転生した瑠火さんと将棋でタイトル争うことになってさ……勝てる気しねェんだよ……」

 

 新戸の切なそうな一言に、輝利哉は涙目で大笑いしたのだった。

 

 

 

 鬼は鬼殺隊のスネをかじる 完




これにて本シリーズの本編は完結となります。
色々描写が足らない部分もあるかと思いますが、そこら辺はご想像にお任せします。

本編終了後、新戸は趣味だった将棋を昇華させ、プロの棋士として快進撃中。鬼殺隊一の戦略家としての頭脳を活用し、囲碁の棋士としても活躍し、前代未聞の最強棋士となってます。
そんな彼に立ちはだかるのが、まさかまさかの瑠火さんの転生体。何の因果か、やっぱり煉獄家に嫁いでます。名前は煉獄瑠璃で、女流棋士最強、イメージCVは同一人物です。(笑)

キメツ学園時空でも、やってることは同じになると思います。


一方、新戸に寝返った鬼達も、色んな道を辿ってます。
黒死牟は新戸と囲碁や将棋で対決しながら余生を過ごし、明らかに強そうなので戦争に動員されます。普通に五体満足で生きて帰ってますが、戦時中は不死身の軍隊長と意気投合したとか……?
猗窩座は煉獄家や極楽教で奉仕したり、自分なりの償いの日々で人生を終わらせてます。彼も戦争に動員されますが、普通に生きて帰ってきます。
童磨は言わずもがな。上弦兄妹は童磨に身を寄せたことや梅毒の件で戦争への動員を見事に回避してます。


鬼も鬼狩りもハッピーエンド。
自分は上弦達にも思い入れがあったので、こういう結末にしました。

本作を最後まで読んでくださった皆様、本当にありがとうございました。
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