番外編の投稿のお時間です。(笑)
このお話は『我が名、嘴平伊之助が子分・嘴平一子!(https://syosetu.org/novel/258483/)』と『亡霊ヒーローの悪者退治(https://syosetu.org/novel/133036/)』のクロスオーバーです。
要約すると、あまりにも我が強すぎるので新戸ですら手に負えないという内容です。(笑)
番外編その1 世界交差
「嘴平一子だ。親分がお世話になっていると聞いて駆けつけてきた!」
「えらいのが来たな……」
その日、新戸は柄にもなく頭を抱えた。
というのも、鬼殺隊に禰豆子以上に特異な鬼が自らの意思で接触を図ったのだ。
事の経緯は、無限列車の任務後。上弦の参・猗窩座との壮絶な戦いで深手を負い、とどめを刺されそうになった杏寿郎の元に一人の鬼女が颯爽と現れ、棍棒で殴り飛ばしたという。
鬼女の名前は、嘴平一子。鬼殺隊士・嘴平伊之助の子分を名乗る鬼だった。彼女は突如失踪した主君たる伊之助の安否を確認すべく放浪していたところ、懐かしい気配を感じ取って来たらしい。
その後、一子は猗窩座との夜明け前デスマッチを開始。棍棒を主軸とした戦法でゴリ押しするも地力の差で負け、それならばと四足獣を彷彿させる凶暴かつテクニカルな肉弾戦に切り替え、噛みつきからの感電攻撃や光線攻撃で圧倒するが、一瞬の隙を突かれて逃がしてしまったとのことだ。
一連の報告を当事者達から聞いた当主の耀哉は、野良の鬼が鬼殺隊士を助け、そもそも伊之助が鬼殺隊士になる前から日光を克服している鬼を従えていたという事実の発覚に混乱しつつも、鬼舞辻無惨打倒の有力な手札になり得ると判断し、産屋敷邸で柱達と共に面会した。その際、一部の柱と緊張状態になり、殺伐としてしまったが、そこで思いついたのが鬼殺隊最凶の生物にして最強の戦術家である新戸の存在。
上弦の鬼を寝返らせるという過去に類を見ない快挙を成し遂げた新戸ならやれると判断し、純米大吟醸と本格麦焼酎を見返りに対応を要請し、たまたま酒を切らしてた新戸は二つ返事で快諾したのだ。
その結果、冒頭に至るのだ。
「お前の強さは伊之助から聞いたが……まさか琴葉さんや童磨も把握してねェ奴が来るとはな」
「親分の母上とも面識が?」
「童磨とは15年以上の付き合いだからな」
煙草の紫煙を燻らせる新戸に、一子は驚いた。
一子自身、目の前の鬼の底の知れなさに警戒しているが、その言葉がウソだとは思えなかった。
「……まあ、俺としちゃあ戦力となれば氏素性問わない。強けりゃそれでいい。よろしくな」
「ハァ……もう少し厳しいかと思ったんだが」
「こちとら猫の手どころか鬼の手も借りてェんだ。無惨の戦力と鬼殺隊の戦力は全く釣りに合わないし、そもそも俺は剣を向ける時は勝てると確信した時だけだ。……まあ、すでに鬼の手は借りてるも同然だけど」
隊士の質の低下と人手不足は、鬼殺隊の死活問題だ。
戦力不足を補うことに加え、鬼舞辻側の
そういう意味では、一子は駒として最高峰の質を持つ、最前線で暴れてもらえる最強の足軽。指揮官や参謀としての才覚に特化した新戸にとって、一子のような使い勝手のいい切り札は天恵と言えた。
「そういう訳で、お前の強さを再確認するため、俺達と任務に出てもらう」
「わかった。敵を叩き潰せばいいんだな」
「平たく言えばな」
新戸は悪い笑みを浮かべ、一子を戦場に駆り立てた。
そして、新戸は思い知ることとなる。彼女を制御するのが困難を極めるということを。
*
「ハァ……もう滅茶苦茶だな、あの女……」
「師範、心中お察しします……」
蝶屋敷の軒下で、盛大に溜め息を吐く新戸。
彼を尊敬する一番弟子の隊士――稲玉獪岳は、柄にもなく疲れた師範を労った。
いつになく落胆したその様子は、上司や部下に振り回される中堅のそれ。どんよりとした空気を纏う彼に、隊士達はどよめいた。
「あらあら、珍しいじゃない」
「カナエか」
元花柱の胡蝶カナエが、今までにないくらい疲れ切った新戸に笑顔で近づいた。
その後ろには妹である現蟲柱・しのぶがいるが、彼女に至っては吹き出しそうになるのを堪えている。今まで新戸に振り回されてきたので、彼が振り回されるのがあまりにも愉快なようだ。
「一子ちゃんと一緒に任務に行ったと聞いたわ。どうだった?」
「ふざけんなって言いてェよ。あいつ、俺の計画初っ端からぶっ壊すんだわ」
新戸曰く。
一子は現役の柱と互角の猛者であり、成長次第では人の世を跋扈する全ての鬼の存亡を脅かす存在になると評価していたが、同時に伊之助以外の命令を聞かない融通の悪さが唯一にして最大の欠点だという。
血鬼術も含めてあらゆる手段で敵を追い詰める戦略重視の新戸に対し、一子は雷撃を操る血鬼術と頑丈すぎる肉体による徹底的なゴリ押しを得意とする。総合戦闘力と血鬼術の精度で言えば新戸が上だが、純粋な血鬼術の威力は一子の方が上で、しかも攻撃範囲が桁外れに広い。狭い路地裏や街中だったら辺り一帯が更地になりかねない程で、血鬼術の精度があまりにも粗いのもあって巻き添えを食らう確率が異常に高いのだ。
そして今回の任務では、血鬼術を操る複数の鬼を討伐するというもの。新戸の部隊に加え、知己の間柄である炭治郎達をも引き連れ、作戦を練ることにしたのだが、一子は独断で鬼を捜索して見つけ出し、一方的に蹂躙したのだ。鬼達は死に物狂いで抵抗したが、一子の頑丈な肉体と強烈な雷撃の前には歯が立たず、あっという間に全滅した。
新戸が疲れたのは、その巻き添えを食ってしまったからだ。禰豆子の爆血は人を燃やさない炎だが、一子の雷撃は人間にも鬼にも通用するため、弟子の玄弥と任務に同行した善逸、炭治郎と禰豆子が感電してしまうという大惨事になった。伊之助が静止してくれたことで止まったが、黒焦げで口から煙を吐く玄弥達にはさすがの新戸も肝を冷やした。
まあ、そこは腐っても鬼殺隊士。翌日には回復してピンピンしていたが、あの暴れっぷりには新戸もお手上げ状態になった。
「まあ、幸い雷を操る血鬼術だから、落雷のせいという形で色々ともみ消せたが……あれはヤバすぎる。俺でも手に負えねェよ」
「師範でも手に負えないなんて……」
新戸ですら御しきれない存在。
それがどういう意味かを理解し、獪岳は言葉を失った。
立場次第では脅威にも福音にもなる、嘴平一子。彼女を御せる伊之助の凄まじさを痛感した。
「……何であそこまで伊之助にこだわるかは詮索しねェが、万が一伊之助の身に〝もしものこと〟があったら……誰にも止められなくなるぞ。間違いなく」
「……!!」
「まあ、たられば言っても仕方ない。一流の策士は腹を決めて次の一手を仕掛けるまでだ」
その言葉は、崖っぷちに立たされた己を鼓舞しているようで、哀愁が漂っていた。
あの小守新戸ですら手に余る、嘴平一子。
彼女がいかに規格外なのかは、規格外な彼の表情が全てを語っているようだった。
「そう言えば、お館様から任務を預かったわよ~」
「あいつから?」
カナエが渡した紙を受け取り、内容に目を通す。
耀哉の依頼は、先日の任務で隊士達が遭遇した「異形の者」の調査だった。
何でも、鬼との戦闘中に突如として得体の知れない不気味な少年らしき〝ナニか〟が現れ、刃こぼれで刀身がボロボロになった刀で鬼をズタズタにし、腰を抜かした隊士から日輪刀を奪ってとどめを刺したという。その隊士はあまりの恐怖で気絶したが、幸いにも無傷で済んでおり、刀もちゃんと鞘に収まっていたという。
「ただの心霊体験じゃねェか」
「でも、鬼を殺す幽霊なんて聞いたことないわ。何か裏があるはず!!」
「推理小説の主人公じゃねェんだよ俺は」
新戸はジト目でカナエを見た。
使えるものは何でも使うが、幽霊を使うなど不可能だ。それこそ陰陽師やイタコの専門分野である。
それに新戸は妙な胸騒ぎがし始めていた。彼が胸騒ぎする時は、決まって不吉なことが起こっている。この件に触れるのは自分にとってよろしくないのではないかと、長年の経験で勘繰っていたのだ。
(とはいえ、愛弟子にこんな変な任務回すわけにもいかねェし……)
新戸は渋々、親友からの依頼を承諾し、遂行に向かった。
その胸騒ぎが現実となることも知らず。
*
その夜。
新戸は弟子二人と共に任務にあたったが、収穫はゼロだった。
そもそも情報があまりにも少なすぎるため、アテが無さすぎるのもあったが、一番は新戸自身が半信半疑だからであった。幽霊を信じる信じない以前に、胸騒ぎが止まらないために深入りしてはならない気がしたのだ。
「師範……本当にいるんですかね?」
「血鬼術の影響とか色々考えられなくもないが……」
今までの経験上、幽霊が鬼に剣を振るうなどという非現実的なことはなかった。
血鬼術の影響を受けたせいでそう見えたのかもしれないし、もっと言えば遭遇したという隊士が極限状態で見た幻覚かもしれない。だが、この胸騒ぎは明らかに妙だ。むしろ段々強くなっている。
新戸は困り果てていると、もう一人の弟子である不死川玄弥が突然引き攣った声を上げた。
「か、肩……!」
「ハァ? 肩ァ? てめェ何言って――」
震えながら肩を指差す玄弥に、獪岳は怪訝そうに目を向け、凍り付いた。
彼の肩には、一羽のカラスが留まっていた。しかしそのカラスは、あまりにもおぞましい姿をしていた。
カラスは肉がほとんどついてない、羽と骨格だけのほぼ骸骨に近い姿だ。とても生きていられる状態ではないのに、首を動かしてこちらを見ている。よく見ると、片足の関節が存在せず、つけ根と足先が切り離れている。
襲ってくる気配はないが、あまりにも衝撃的な光景に言葉を失うしかない。
「――っ!?」
ふと、新戸は強い気配を感じ取って振り返った。
後ろに立っていたのは、亡霊と見違えてもおかしくない、生きているようには見えない少年だった。
あちこちが傷みきった洋装を着こなし、ボロボロになった
深緑の癖毛は風もないのに外套の裾や袖と共に揺らめいていて、まるで水の中にいるかのように漂っている。
身体は大きな火傷の痕とひび割れでも起こしたような無数の切り傷が刻まれていて、顔も顔は死人のように血の気がない。しかしその目はとても強い意志が宿っており、目付きも鋭い。
こいつは鬼でも人でもない……化け物だ。
新戸でもそう結論付けるしかない。
「…………じろじろ見るのは無礼だぞ。癒えない傷を見たことが無いのか?」
地獄の底から響くような声に、三人は竦み上がった。
すると徐に杖のように突いていた刀を上げ、切っ先を新戸の心臓に突きつけた。
「……あの化け物共と同じ気配がするな」
少年は怒気を含んだ声を放ち、睨みつけた。
本来なら抜刀して師を護りたい獪岳と玄弥だったが、生まれて初めて目の当たりにした亡霊の前では何もできなかった。
人食い鬼とは比べ物にならない不気味さとおぞましさに、新戸も思わず喉仏を上下させた。
「……俺は鬼殺隊の小守新戸だ。お前の言うその化け物共を狩る仕事をしている」
新戸は真剣な表情で当たり障りのない挨拶をした。
すると少年はわずかに目を見開き、ゆっくりと切っ先を下ろした。先程まで向けていた殺意が霧散し、空気が軽くなった感覚がした。
「……俺は剣崎刀真。訳あってこの肉体で生き続けている〝正義の味方〟だ」
低く虚ろな声で自己紹介する少年――剣崎刀真は、警戒を解いた。
それを良い兆候と判断し、新戸は言葉を紡いだ。
「今は大正の世。その出で立ちから見るに、遥か遠い世界から来たと見受ける」
「大正時代だと……?」
「お前が〝
新戸は剣崎の勧誘を試みる。
もし本当にどこか知らない世界から来たのなら、この現世のことはからっきしだろう。何より無惨に目をつけられては、新戸の想像を超えるようなとんでもなく面倒な事態になる。
剣崎は目をすがめて考える様子を見せると、すぐに頷いた。
「あの化け物共は俺が皆殺しにする。お前はそれを手伝え。妙なマネをしたら殺す」
「わかった、約束だ。お前の英断を心から歓げ――」
歓迎する、と言おうとした瞬間だった。
突如として剣崎の腕が斬り落とされた。切り口からして、間違いなく刀だ。
誰の仕業かと目を向けると、そこにいたのは……。
「誰だ」
「何をしているんだ、お前は!!」
現れたのは、炭治郎だった。その隣には禰豆子もおり、臨戦態勢だ。
炭治郎は再び刀を振るおうとしたが、突如としてあの骸骨のカラスが襲い掛かった。
一羽だけじゃない。いつのまにか十羽以上に増えていて、まだ手を上げてない禰豆子にも牙をむいた。
「うわっ!!」
「むむっ!?」
「おい待て!! その二人は俺の味方――」
ふと、新戸は信じられないと言わんばかりに目を見開いた。
剣崎の斬り落とされた腕が、サラサラという音を立てながら黒い砂となって彼の肉体へと向かい、再生を始めていたのだ。
鬼の再生の仕方ではない。何より一滴も血が流れておらず、肉も存在していなかった。それこそ、中身が空洞の人形のようだ。
剣崎は一度刀を地面にドンッと突き立てた。すると攻撃していた骸骨ガラス共は一斉に攻撃をやめ、剣崎の傍へと向かった。
「……鬼じゃない!?」
「……ああ、俺は亡霊だ」
想像だにしない事態に、炭治郎は顔を青ざめ、禰豆子は震えあがった。
鬼でも人でもない存在にあったのだ、無理もない。
「それで、化け物共はどこにいる?」
「……その前にまず本部に来い。情報共有しなければ余計な混乱を生むだけだ」
「……いいだろう、案内しろ。お前達にとっての悪を滅ぼしつくしてやる」
ゾッとする笑みを浮かべる剣崎に、新戸は顔を強張らせるしかなかった。
後日、剣崎は緊急柱合会議に呼ばれた。
しかし、おぞましい見た目と不死身の朽ちた肉体を持ち、骸骨のカラスを従える鬼でも人でもない化け物の登場に一同は混乱し、何名かが衝撃的すぎて気絶することとなったのは言うまでもない。
まあ、あくまでもIFルートのパラレルなので、気にしないでください。
クロスオーバー作品となりましたが、設定はほぼ同じです。強いて言えば、剣崎は鬼の血鬼術の影響で飛ばされてきた存在であることくらいが相違点です。
このあと、本編通りの展開となりますが、マジの化け物である剣崎に無惨も上弦も戦慄することになるとか。
あと、番外編はもう二つ用意しています。
一つは、原作軸に飛ばされた新戸。もう一つは瑠火さん生存ルートです。