鬼は鬼殺隊のスネをかじる   作:悪魔さん

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【「公式ファンブック 鬼殺隊見聞録・弐」の感想 ネタバレ注意】
童磨、お前も新戸と大差ねェな。

※趣味に水煙管(煙草)と酒風呂(酒)があったため


第七話 俺の血は特効薬らしい。

 一週間後。

 新戸は耀哉からとある廃寺の話を聞いていた。

「箱根にある廃寺に、複数の鬼が集まって根付いている。その場所はどうも古くから〝間引き〟の地であるようでね」

「成程、餌場としちゃ好条件だな」

 煙草を吹かしながら、新戸は顔を顰めた。

 飢饉に見舞われた時代や地域では、「間引き」として養うべき人数を山に捨て、場合によっては殺めるという風習がある。明治の世には時の政府が間引きや堕胎を禁止したが、その後も隠れて行なわれている。

 そして耀哉の言う廃寺は、そんな悪しき風習が根強い場所であり、そもそも周囲が鬱蒼とした森で囲まれているため鬼の隠れ家としては好条件なのだ。

「新戸、行ってくれるかい?」

「その前に一ついいか」

 新戸は人差し指で、隣に座る者を指差した。

()()必要ねェんじゃねェか?」

「てめェ逃げようとすんじゃねェ」

 遠回しに嫌がる新戸を一喝する、傷だらけの剣士。

 風柱・不死川実弥だ。

「新戸。君は言ってたね、戦術を覚えろと。ただ己を鍛えるだけでは進展は無い……確かに全集中の呼吸が全てじゃないと私も思う。人が持つ最強の能力は〝知恵〟ということは言い得て妙だ」

「お前聞いてたのかよ。てっきりその後に飛んできたと思ってたわ」

 蝶屋敷で漏らした本音が、どうも鎹鴉を通じて丸聞こえだったらしい。

 新戸は抜け目のない奴だなとボヤくが、実弥は耀哉に異を唱えた。

「お館様、コイツとは組みたくありません。柱が鬼の手を借りるなど屈辱の極みです」

 鬼狩りの最前線で剣を振るう隊士達から見て、新戸という存在は意見が分かれる。

 肯定する者はその強さを一目置き、ある意味で誰だろうと公平に接する磊落さや物事の本質を捉えたような言動と振る舞いに好意を持つ。逆に否定する者はチャランポランかつズボラな性格が癪に障り、好き勝手に道楽に興じ毎日をダラダラ過ごすことを疎む。

 そして新戸は、誰からどう思われようとも意にも介さない。好かれようと嫌われようと、殺意や憎悪を向けられようと、自分のかじるスネさえ確保できればいいのだ。それは鬼という存在となった時点で、大抵の人間から快く思われない現実を受け入れているからである。

 この達観にも似た開き直りこそ、新戸という鬼の真髄でもあるのだが……それが余計に鬼を憎む者を煽るのだ。

「ホラホラ、こう言ってるんだから俺を外してよ」

「新戸は黙ってなさい」

 逃げたがる新戸を一蹴し、耀哉は実弥に声を掛ける。

「実弥。腕といい頭の切れと言い、新戸を知れば君の今後に大いに役に立つと私は確信している。新戸の戦法は、はっきり言って実弥の戦法の延長線だ。それを短期間で学ぶには、新戸自身(ほんにん)の戦い方をその目で焼き付けるのが早いよ」

「っ……」

「新戸、いいかな? 受けてくれるなら煙草の本数増やすけど」

「どこか教えろ! 全員皆殺しだ」

 報酬である恩賜の煙草の話を持ちかけられたことで掌を返した新戸に、実弥はブチギレそうになるのを耐えたのだった。

 

 

           *

 

 

 それから三日後の夜。

 例の廃寺の門の前に立つ実弥は、新戸と作戦会議をしていた。

「作戦はこうだ。ここには複数の鬼が潜んでるから、俺が囮となっておびき出して皆殺し……以上だ」

「あ、それ却下」

 実弥の立てた作戦を、新戸はいきなり一蹴した。

「何か文句あんのか? てめェ」

「囮作戦は確かに常套手段だ、それ自体は俺も賛成。むしろ推奨するぜ。けどなァ、詰めが甘いんだよな~」

 新戸曰く。

 稀血体質の実弥が囮となって一網打尽にするのはいいが、鬼の具体的な数が把握できない以上、長期戦になれば練度が高くとも数で押される可能性がある。ましてや柱である実弥が何らかの形で一時的にでも戦闘不能になれば、戦いの主導権を握られてしまう。そうなってしまえば、最悪誰かの命を犠牲にしなければならない。

 つまり、囮作戦の確度を上げ、犠牲を払う必要のないやり方をしろというのだ。そして新戸は、それを実行できる策があるという。

「さねみん、俺が囮作戦の〝お手本〟を見せてやるよ。頭無惨でもできる戦術学講座を始めるぞ。まずは変装からだ」

「誰がさねみんだ!!」

 新戸は意気揚々と境内に乗り込んでいく。

 何でコイツから学ばなければならないんだと、内心悪態を吐きながらも廃寺に潜むであろう鬼達に察知されないように侵入する。

(馬鹿正直に正面から行った新戸(バカ)は……)

 新戸の姿を探すと、彼は賽銭箱の前で立っていた。

「もし……どなたか、いらっしゃいませんか?」

(いや、怪し過ぎるだろォ!)

 実弥はそうツッコまざるを得なかった。

 というのも、新戸は姿こそ女に変わってるが、それ以外は何の変化も無い。鬼殺隊の人間の証とも言える詰襟も丸見えで、ズボラな性格が思いっ切り影響して何もかも杜撰。一度不審に思ったら違和感しかない、中途半端な変装だ。

 それ以前に、そもそも女性が山奥の廃寺を真夜中に一人で尋ねるという時点で不自然だ。余程の愚か者でない限り、絶対怪しまれるに決まっている。

 任務失敗かと思ったその時、女性の悲鳴――ただし中身は新戸――が木霊した。

「ぐひひひ……美味そうな女だあ」

「それもまずまずの上玉じゃねェかァ」

「イイ乳してんじゃねェの……!」

「ウソだろ、引っかかりやがった」

 息を潜めて様子を見ていた風柱はそう漏らした。

 たとえ醜い鬼共が群がっても、多少なりとも警戒するだろうと思っていた矢先に、まさかの警戒心ゼロ。

 そして当の新戸はというと……。

「い、嫌だ……死にたくないっ……! 命だけは……! フヒッ」

(笑ってんじゃねェか!! 一人で猿芝居楽しんでんじゃねェ!!)

 顔を手で覆って泣く仕草をしているが、その口元は大きな弧を描いており、完全に笑っている。

 傍から見ればかなり高い演技力なのだが、それ以上に新戸の性格を知っている分白々しさが目立って仕方がない。まんまと罠に引っかかった鬼達が、むしろ不憫にすら思える。

「なるべくキレイなままで喰ってやるか」

「おい、最初に見つけた俺の獲物だぞ!」

「先に()った奴の独り占めでいいだろうが!」

 女の姿の新戸を巡って言い争う鬼達。

 鬼という存在は独善的で利己的な性格である一方で、共食いすらも起こす程の同族嫌悪である。助け合ったり徒党を組むことは無く、組織的に動くことなどまずあり得ない。

 叩くなら今しかない……実弥は日輪刀の鯉口を切った。

 しかし、ここで新戸が追い打ちをかけた。

「……もう、いいです……」

『?』

「旦那に裏切られ、両親に裏切られ……もう疲れました……」

(あのクソ鬼、まだ猿芝居続けてんのかよ!?)

 いい加減あとを任せればいいのに、まだ演技中の新戸にそろそろキレそうになる実弥。

 しかも全部真っ赤なウソである。

 だが、次の言葉に事態は大きく動いた。

「どうせ殺されるのなら、私は一等強い方にこの身を捧げましょう……」

 ボソリと呟いた一言に、全ての鬼が反応した。

 どうせ喰われるのなら、一番強い鬼に喰われたい――そう解釈したのだ。

「……女、その望み叶えてやろう」

「ああ? やんのかてめェ」

「こん中で一番(つえ)ェ奴が喰うってこった!」

「……上等だァ!!」

 その言葉と共に、女となった新戸を独り占めするべく、その場で殺し合いを始めた。

 廃寺の境内で勃発した不死身の怪物の大乱闘に、実弥は呆然としていた。

「そらそら、もっと暴れろ。そのまま体力消耗して弱ってしまえ」

(……口車に乗せて殺し合い起こすって、何なんだアイツは……)

 大乱闘の最中、ゲス顔を浮かべる新戸に冷や汗を流した。

 そう、これこそが新戸の作戦だったのだ。

 同族嫌悪の性質を利用した「全ての鬼を同時に唆して殺し合いを起こす」という離れ業。鬼同士の殺し合いで隙が生まれる上、仮に参謀・指揮官役の鬼がいても統率が取りにくくなり、さらに過剰な再生による体力消耗が狙えるという、荒唐無稽のようで効果的な〝戦術〟だ。

 加えて、新戸の擬態である「性別転換」は、槇寿郎が感じ取ったように〝気配が変わる〟という特性がある。その上日頃の飲酒や喫煙で「人間の匂い」を感じ取りにくくなっており、下級の鬼では同族と気づくことすらできないのだ。

 新戸の言っていた〝お手本〟を見せつけられ、実弥は戦慄すら覚えた。

「…………よ~し、いっちょやるか」

 ここで、ついに新戸が動いた。

 仕込み杖を抜いて両手で構えると、刀身からバリバリと音を立てて赤い稲妻が迸った。

 新戸が血鬼術を発動させたのだ。

「――〝(つい)()(しき) (おに)こそ〟」

 

 ゴバァッ!!

 

『は?』

「おい、反則だろそりゃ……」

 両手で横薙ぎに振るうと、極太の斬撃が周囲に赤い稲妻を走らせながら、次々と殺し合いを続ける鬼達の胴体を真っ二つにした。

 上半身と下半身の泣き別れ。初見殺しもいいところな剣技に、実弥は思わず新戸にとっては褒め言葉な一言をボヤいた。

「さねみん、出番だぜ」

「っ…………ああそうかい!!」

 

 ――〝風の呼吸 壱ノ型 (じん)(せん)(ぷう)()ぎ〟!!

 

 新戸が両断した鬼達目掛け、凄まじい勢いで螺旋状に地面を抉りながら突進する。

 体を両断されてロクに動けないままの鬼達は、真っ向から暴風を食らうハメとなり、その荒々しい刃に成す術も無く頸を斬られるしかなかった。

 

 

           *

 

 

 二日後、任務を終えた実弥は耀哉に報告をしていた。

「――以上です」

「そうか……お疲れ様。新戸の戦法はどうだったかな」

「……お館様、確かに奴の戦い方は活かせそうですが……あれは人間をやめてます」

 実弥はそう断言した。

 新戸が今回見せた戦法は、「同士討ちをけしかけ、程々に体力を消耗させてからの不意打ちによる殲滅」という、騙し討ちなんて言葉じゃ済まない狡猾な戦いだった。

 言葉巧みに醜い鬼共を煽りまくしたて、時間稼ぎや挑発による判断力の低下を招かせ、戦局を有利に展開させるという手口は、今後の鬼狩りの参考になるだろう。

 だが新戸は、相手が鬼といえど殺し合いを扇動した。そこに新戸という鬼の恐ろしさを感じたと、実弥は赤裸々に語った。

「鬼共が小守に罵詈雑言を飛ばした時、アイツは石ころでも見るような目で見下していました」

「……」

 その言葉に、耀哉は複雑な表情を浮かべた。

 新戸は目的を果たすためならばいくらでも残酷になり、物事を楽に進めるためなら越えてはいけない一線を平気で越えることができてしまう。それも本能剥き出しでなく、理性的にだ。

 それが、嫌悪を通り越して恐怖すら感じ取れたのだ。

「アイツは鬼というより……化物です」

「だからこそ、鬼殺隊(こちら)側でよかったと思っているだろう? 新戸はやる気が無いだけで、目的を持って行動を起こす時は一変する。――おや、カナエと同じようなことを言っちゃってるね」

「っ……」

 クスクスと笑う耀哉に、実弥は何とも言い難い表情を浮かべるしかなかった。

 

 

 その夜、東京府浅草。

 賭場で遊んだついでに酒を買おうとしていた新戸は、珠世の診療所に連行されていた。

「珠世さん、お話って何だい」

「急に連れ出して申し訳ありません……ですが新戸さん、これは非常に重大な案件です。心して聞いて下さい」

 いつになく真剣な珠世に、新戸は煙草に火を点けながら耳を傾けた。

「あなたと出会って以来、定期的に血液検査をしていたのですが……新戸さんの血液は、非常に特殊な血であることがわかりました」

「特殊な血? 稀血とは違うの?」

「……鬼は、人間の食べ物を摂取すると吐き出してしまうのはご存じですか?」

 鬼舞辻無惨によって生まれた鬼は全て、人間の食べ物を食べると吐き戻してしまう、言わば人肉以外の拒絶反応がある。人間の肉や血以外を摂取できる特異個体(おに)は、珠世と愈史郎、そして新戸の三人のみだ。

 特に新戸は、人間の食べ物と睡眠で鬼の身体を維持できる特異の中の特異。医者としても同族(おに)としても興味深い存在であり、珠世と会う度に検診として採血などをされている。

 その中で珠世は、新戸の血液を研究している最中にとんでもないことを発見したのだ。

「はっきりと言います。――新戸さんの血液は、数百年一度も見たことの無い〝()()()()()〟となっています」

「え? 人でも鬼でもない、得体の知れないナニかってこと?」

「何と言うべきでしょうか……生物として非常に特殊なのです」

 珠世は現在の研究の成果を新戸に伝えた。

 無惨の血は人間を鬼に変え、鬼にさらに血を与えると力が増すという特性を持つ。だが鬼でありながら人と同じ食性を持つ新戸の血は、人間の血でも鬼の血でもない、今まで見たことの無い血液であるという事実が判明したのだ。

 きっかけは、珠世が新戸の血を試飲したことだった。

「研究の過程で、私は血液の試飲を行うことがあります。その際にあなたの血を飲んだのですが……ちょっと申し訳ないのですが、その……物凄く、信じられないくらいに不味かったんです……お酒と煙草の臭いと味があまりにも……」

「ごめん、それは無理。酒と煙草抜いたら俺死ぬから」

「貴様の血のせいで珠世様がこの世の終わりみたいな顔で倒れたんだぞ!? まず謝れ!!」

「愈史郎、私の興味本位が招いたのです。彼を責めないでください」

 新戸を擁護する珠世に、愈史郎は庇う姿も美しいと心で叫んだ。

「話を戻します。あなたの血を飲んだ後、私の体に変化が訪れました。見た目の変化ではありません……人間の食べ物を、食べてみたいと思うようになったのです」

「……!」

「まさかと思い、街で売る人間の食べ物を口にしたのですが……一切の吐き気が無かった」

 新戸は目を大きく見開いた。

 新戸の血は鬼でありながら人間の食事を摂取できる特性があることが判明したのだ。しかも新戸の血を試飲して以来眠気が訪れるようになり、数十分程だが睡眠もできるようになったという。その効果は愈史郎にも影響し、今では人間の血を摂取しない日が徐々に増えているとのことだ。

「つまり新戸さんの血液は、伝染病に対する特効薬に近い特性があるのです。鬼の私達が人間の食事を取り、できないはずの睡眠ができるようになった」

「……マジすか」

「この血の研究が進めば、鬼となった人間を元に戻す薬もできるかもしれません。ですが検体が少ないので――」

「じゃあ童磨に飲ませてみるわ。上弦ならいい材料だろ?」

 新戸がそう言った途端、珠世と愈史郎は固まった。

「新戸さん、上弦の鬼と何か関係でも……?」

「顔馴染みだよ、大したことじゃねェ」

「重大案件だ馬鹿者!! 何で今まで黙ってた!!」

 新戸は別に訊かれなかったからなとボヤきつつ、二人に童磨との関係を語る。

 十数年前の出会いと、文通を通じた情報共有、鬼殺隊当主の容認……それらは無惨が把握できてない事実だという。

「あのワカメ頭、童磨のこと嫌いだから多分これからもバレねェよ。他の上弦にも煙たがられてるっぽいし」

「類は友を呼ぶとはこのことか……」

「愈史郎、それどういうこと?」

「しかし、これで研究が進みそうです」

 珠世は、新戸との出会いは僥倖だと語る。

 鬼として極めて稀で特殊な新戸、そして彼と良好な関係を築いている上弦の弐。未知の血液を持つ鬼と、無惨の血が濃い鬼から血液を採取すれば、希望を見出せるかもしれない。

 どんな傷にも病にも必ず薬や治療法があると考える珠世にとって、新戸は人間と鬼の運命を大きく左右する程の存在なのだ。

「新戸さん、できる限りで構いません。鬼舞辻との遭遇はなるべく避けて下さい。もしこのことが知られたら……」

「いや、俺アイツに馬鹿がうつるから二度と近づくなって言われてるから大丈夫だよ」

「……お前は人の下で働けるような男じゃないからな」

 暢気に告げる新戸をバッサリと切り捨てる愈史郎であった。




【ダメ鬼コソコソ噂話】
新戸の肉体年齢は23歳。
肉体年齢的には宇髄と同い年。
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