幾重にも舞い、夢知らぬ骸築く   作:鷹原霧

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狐と桜とビーフジャーキー
プロローグ


 ――――ちゃうねん。お願いだから言い訳させて。

 そんなつもりは無かってん。

 

 中世ファンタジーな世界に転生し、それがかつてプレイしていた定期更新型オンラインゲームの世界だと気付いたのが十代の頃。

 きっかけは生まれ育った農村にふらりと立ち寄った旅人の噂話だった。

 

 

「――この世界のどこかには、大魔導士クレスオールの遺した『あらゆる願いを叶えるアイテム』が眠っている――」

 

 

 『エターナルデザイアー』の世界ですね、わかります。

 ――プレイヤーの分身たる冒険者は、自らの諦めきれぬ願望を果たすため夢と神秘の島『イススィール』へと辿り着く。苦難と闘争の果てに明かされる神々の終焉と愛憎入り混じるストーリー、旅の最果てで冒険者が選び取った顛末とは――

 そんな感じのあらすじだったと思う。でも正直かなりうろ覚えだ。

 だって私ただのライトプレイヤーだったもの。二期目からの参戦だったし、ラスボス戦終わって裏ルート始まる頃には仲間内でやるロールプレイがきつくなって引退したくらい。そして『エタデザ』自体もう十年も前にサービス終了してる。詳細まで覚えてるわけないじゃない。

 

 だからさぁ、そんな世界に生まれたって言われても反応に困るのよ。

 

 最初はね、そんなに興味もなかったんよ。痛い目に遭いたくなかったし、別に叶えたい願いもないから。

 下手すれば魔王やら女神やら人間の集合的無意識の化身と戦わなければならない悪夢の島なんて、よほどのことが無ければ行きたいと思わない。このままいち農民として、ささやかな現代知識チートを駆使してのんびりと過ごそうとも思っていたのよ。

 

 それが崩れ去ったのが十五の頃。なんやかんやで私は天涯孤独の身の上となり、人々の願いの欠片たる『フェレス』を発現させてしまった。

 

 フェレスが出て来てしまった瞬間悟ったね、「あ、これ向こうから大惨事がやってくるやつだ」って。

 きっとどうあがいても私の旅はイススィールに行き着く。何かしら宿業を背負わされてイイ感じの冒険の果てにエル・セイダを勝ち取るか、志半ばに朽ち果てるんだ。

 

 そこから先は語ることなんて特にない。

 なんやかんやでイススィールに辿り着いて、死に物狂いで強くなったよ。

 幸いなことにあの世界は、ある程度ゲーム知識が通用する。どんなアイテムが有用で、稼ぎに向いた狩場がどこで、どんなスキルが役にたつのか。それさえ押さえていればいくらか()はできた。

 摩耗して忘れかけていた知識ではあったけれど、現地に着いてしまえばあっという間に思い出して、なるほどあのゲームは自分の中で大きな位置を占めていたんだと実感できた。

 

 霧の中で修業して、やってくる敵は師匠(押しかけ)になすりつけ、戦利品を漁って露天位置で売り払って、牛を召喚してジャーキー作って、飛竜を狩ってステーキ頬張って、稼いだお金で買った白いお薬をキメながら戦い抜いた。

 

 戦い抜いて――――うん、戦い抜いたんだ。

 

 

 あ、願望器(エル・セイダ)ですか? もちろん破壊しました、きれいさっぱり。

 私の関わりうる次元において、あれが再び形を得ることはないでしょう。

 

 

 やることもやり終えたし、イススィールからも出ていかないといけない。これから余生どうしようかなって思案に暮れていたときのことだった。

 

 『日本』への船旅を斡旋してくる男と会ったのは。

 

 

 最初は驚いたけれど、よくよく考えればそれも不思議ではない。

 実際、あの島の冒険者には明らかに日本出身の侍みたいな男やら、巫女みたいな娘さんもいた。なんならフェレスとして何の変哲もないガラケーを所持している人だっていたのだ。全次元に接続し、あらゆる可能性を内包するイススィールならば、そんなこともあるのだと思う。

 境界を超えて異物が世界観を移動することについても……まぁ、特に問題はないはずだ。志半ばでイススィールの土となった人間なんて山といるし、同様に帰還した人間だって少なからず異物をイススィールから持ち帰っている。人間一人くらい紛れ込んだところで大した影響は起きない。

 

 そんなわけで予定を変更。日本に帰ることにしたんだよ。もう今世の故郷じゃないけど。

 渡し賃はべらぼうに高かった。全財産はたいても足りなくて、泣く泣く手持ちの装備やアイテムを売り払ってようやく届いたくらい。

 どうせマジックアイテムの類はあの島を離れれば性能がガタ落ちしてしまうから未練はない。未練は……いやごめんめっちゃある。

 大枚はたいて手に入れた装飾品の数々。コンティニュー99、ビターゲイン、スーパースパイスにプリコシャスブラム。鎧に篭手にその他諸々何かに使えるかもと取っておいた武器防具! 全部パーだ!

 

 残ったのは日本で業物扱いで売れるかもと取っておいた市販の刀といくつかの小物、そして知り合いに頼んで縫ってもらった安い和服だ。

 何しろ現代服なんて作り方知ってる奴おらんかったし。革鎧着た不審者が突然港に現れたら通報待ったなしだもの。そのくせ着流しだの袴だのの縫い方は知ってる奴は大勢いたのはなんでなんですかね……?

 

 とにかく、かくして私はイススィールを出立し、はるか前世の故郷である日本へと辿り着いたわけだ。

 

 そして霧に呑まれた。

 理由はわからぬ。師匠の呪いかもしれん。

 

 つい数分前まで船着き場にいたはずが、霧が晴れた途端身に覚えのない山の中に放り出されていた。

 せっかく文明の気配にウキウキしていたというのにこの仕打ち、流石の私も泣いたよ畜生。

 

 なんかこの山、春でもなさげなのに藤が大量に咲き乱れてるし、甘ったるい匂いに惑わされるのか微妙に方向感覚が狂わされる。……いや、元から私が方向音痴なだけだわコレ。

 しかし出口が見えねえ。ほんとになんなんだこの山。

 

 偶然見つけた洞窟を仮の棲み処に定め、とりあえず食い繋げるように準備を整えた。

 早い話が、ジャーキー量産の構えである。

 

 あの島を出てフェレスはその機能を永遠に失った。つまりフェレスの加護に後押しを受けていた技能の大半は使えないし、魔法なんて元の才能のこともありマッチの火程度の出力が精々だ。それでも、唯一失わずに済んだ魔法があったのである。

 

 

 ――――そう、召喚魔法!

 

 

 その節は金策で本当にお世話になりました。今後も長らくお世話になり続けるでしょう。

 これさえあればこれからの人生くいっぱぐれる心配一切なし! ありがとうカラス、ありがとうハムスター! でも一番うれしいのは牛肉(ジャーキー)だ!

 私の貧弱な技量では一日一回が精々だけど、それでも数カ月も続ければそれなりの量になる。これで食いつなぎながら貯蓄していき、折を見て山を脱出してやればいい。街に出て露店販売でもすれば、それなりの生活資金が手に入るに違いない。

 私の薔薇色の現代生活はここから始まるのだ……!

 

 

✿ ✿ ✿

 

 

「――――で、なんなん。これ?」

 

 ちゃうねん。そんなつもりは無かってん。

 

 ちょっと目障りなモンスターがいたからご退場願っただけやん。クソ硬かったけど大したことないやろ。

 だって女の子が殺されかけとったんやで。助けるやん普通。見捨てるとかできんよ、そんなん。

 

 目の前には惚れ惚れするほどきれいな姿勢で平伏する少女の姿。花柄の羽織を纏い、その下には学ランじみた詰襟の黒衣。いかにもな洋装に反して、下半身を包むのは裾を搾った袴と足袋だ。顔の横に提げた狐のお面が可愛らしい。

 艶やかな黒髪を伸ばした少女は、下げていた頭を上げると眠たげな瞳を真っ直ぐに私へ向けて言った。

 

「弟子にしてください」

 

 なんでや。

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