ハイっ!こちら営業部『サイラス私設傭兵部隊』課【30mm非公式小説】   作:あきてくと

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第14話 隊長(第一部完)

 トントントントン。

 

 狭いコックピット内に、使い慣れたグローブの指先でコンソールパネルを叩く小さな音だけが響く。HUD上に映る視界には、砂漠の地平線と青空を背景にして黒く細長い巨塔が空の霞のなかにそびえたっていた。

 

 仲間たちは無事だろうか。こちらは早く仲間の救援に向かわなければならないというのに。だが機体はまだ動かせない。

 

「___おい、ハルトまだか」

 

《もう少し待ってくださいッス、アマギ隊長。今、クレーンで補助バッテリー(プロペラントタンク)を付け終わりますッスから》

 

 トントントントン。

 

「___カワサキ、さっきから充電ゲージが動いていないぞ。給電プラグはちゃんとささっているんだろうな」

 

《落ち着け、シロー。リーダーのお前が焦ってどうする。充電は問題なく行われている。最低でも30%は充電しておかないと、仲間を助けに行くどころか、途中でお前の機がバッテリー切れで動作不能になるぞ。ただでさえ、稼働時間が短い空戦機なんだ。この間に弾薬の補充もしておくぞ、いいな》

 

「早くしてくれ」

 

 見つめる鍋は煮えないとはこのことだ。エグザマクスの充電ゲージはさっきからちびっとも増えていない。

 

 ショート・ホープとの戦闘中にスカイフォールが起きて、あの巨大構造物が落着する衝撃波に飲み込まれた俺は、そのまま気を失って、気づいたときには半身が砂に埋もれた状態だった。

 

 電波状態が不安定で仲間との通信ができなかった。おまけにエグザマクスのバッテリーはすでに危険残量に達していた。迷った挙げ句に俺は、カミオンで補給する判断をしたのだが。それにしても充電に時間がかかりすぎる。

 

 自衛隊時代に乗っていたヘリ(AH-64D)なら、給油作業などほんの数十分で終わる。それなのに、コイツ(エグザマクス)ときたら、稼働時間5、6時間に対して満充電にはそれ以上の時間がかかる。これだから電気仕掛けは好かん。

 

 ジェイクとアーニャ、サニー・バニーならこの不測の事態に対して、真っ先にカミオンがいる東側に移動する判断を下すだろう。だが、レイはどうしている。聞けば、カミオンを護衛していたはずのレイは単身戦場に向かったという。あのレイが。

 

《そもそも、お前が甘やかすからレイも無茶な行動に走ったんだ。少しはそこで反省しろ》

 

「それは___」

 

 旧友にそう指摘されては、ぐうの音もでない。身の安全を優先して、カミオンの護衛をするように指示したのに、あの従順なレイが指示を無視して自ら戦場に向かうことなど予想もしなかった。

 

 甘やかしたつもりはなかったが、その采配結果にレイなりの思うところがあったようだ。エグザマクスの操縦能力には欠けていても、あいつの思慮深さや、合理的な思考や機転のよさは、俺だけでなくサイラス私設傭兵部隊の全員が認めている。

 

 要するに(さと)いのだ。その反面、考えすぎるきらいがあるのはわかっていた。『しかし』いや、『だから』と言うべきか、レイがこんな短絡的な行動に出るとは思いもよらなかった。甘えていたのはこちらの方だったか。

 

《リーダー失格とは言わないが、父親だったら失格だな。まだまだ気難しい年頃だぞ。レイくらい歳は》

 

「知っての通り、俺は独身なんでね。おまけに、24歳と言えば息子にしては少々歳が近すぎる」

 

 旧友とはいえ、自分で気づいた点を改めて指摘されると腹が立った。しかし、既婚者で子供もいるカワサキに、独身の俺は拗ねた言葉を返すので精一杯だった。

 

《そういえば、お前と同じ部隊に配属されたのも24歳くらいだったか。第一印象は最悪だったな。ずいぶんプライドの高いヘリパイロット様だと》

 

「こっちだって、ガチガチの職人気質(かたぎ)のメカニック相手はやりずらいったらなかったさ」

 

 10年も前の昔を思い出して、どちらからでもなく笑い声が漏れる。

 

《___邪魔をするよ、アマギ君。イノウエ専務と衛星電話が繋がったよ》

 

「ありがとうございます、(ワン)。こちらに繋いでください」

 

 俺はコンソールキーの一つを叩いて通信回線を開く。我らがサイラス私設傭兵部隊の発起人(ボス)であるサイラスの専務に、このイレギュラーな事態への対処を確認するためだ。

 

「もしもし、こちらアマギです。画像は見ていただけましたか。あの細長いのが、以前から専務が言っていたバイロン軍とやらの強襲要塞ですか」

 

《そうです。時がきました。私の予想よりも少しだけ早かったものの、概ね予定通りです。もっとも、タイミングは最悪でしたが。どうです。彼らは強いでしょう?》

 

「私はまだ戦っていませんがね。索敵情報では、とにかく数が多い模様です。補給が済み次第、仲間の援護に向かう予定です」

 

《なら忠告しておきます。もし彼らのポルタノヴァと遭遇したら、トサカ付きの機体だけは相手にしてはいけません。彼らは本国にいる『黒の近衛兵』にも匹敵する指揮官クラスですから。ところで、安室(アムロ)くんは無事ですか。まさか、前線に出していないしょうね》

 

「え? あ、あぁ。無事です。たぶん___」

 

《あれほど前線に出すなと言ったのに》

 

 ちょっと待て。今、小さく舌打ちが聞こえたぞ。

 

《___まぁ、いいでしょう。では辞令を伝えます。サイラス私設傭兵部隊には、現時点をもって継続中の任務放棄を命します。明朝までにそちらに到着予定の定期補給船に乗船して帰国の途についてください。道中のチャーター機を手配しました。インドへ寄港して、ムンバイ空港から人員だけは空路で日本へ帰還してください。もちろん全員で、です。一人でも欠けることは許しません》

 

 至れり尽くせりだな。だが、相変わらず無茶を言ってくれる。自作自演の、おまけにもっとも激戦区に俺たちを放り込んでおいて、生きて帰ってこいとはずいぶんな言い草だ。とはいえ、色々と思うことはあっても、上官の命令は絶対だ。一本調子に「了解」と返す。

 

《あなたがたは、私の大切な駒なのですから、必ず生きて帰ってきてください》

 

 駒か。大切にされているのか、そうでないのかよくわからん。このエグザマクスをたった一人で設計した大天才さまの尊大な物言いに、あきれて溜息しか出ない。

 

 ところが、サディスティックな言動を常とする専務との会話はそこでぷっつりと途切れた。突如、衝撃波と砂塵混じりの爆風が辺りを駆け抜け、爆発音が辺りにこだまする。

 

 倒れるほどではないものの、搭乗しているエグザマクスはグラリと揺れ、眼前のカミオンも暴風で一瞬大きく傾いた。

 

「なんだ!? 全員無事か!?」

 

《___低出力核の爆発だね。アラビア海を航行中のアメリカ所属潜水艦からのミサイル攻撃のようだ。ショート・ホープが指示したのかもしれない。辺り一帯の電波状態が不安定になっている。専務との衛星通信は途切れたよ》

 

 ショート・ホープならやりかねない。これは優勢と見るべきか、それとも劣勢で核を使わざるを得ないほど一刻を争うほどの事態なのか。

 

「カワサキ! ハルト! 無事か? 設備に異常は!?」

 

《問題ない。弾薬装填もOKだ!》

 

《電源もOKッス。補助バッテリー(プロペラントタンク)も接続完了。充電ケーブル、パージするッス》

 

 充電ゲージに目をやると、いつの間にか25%ほどまで電力が貯まっていた。補助バッテリー(プロペラントタンク)から各部へ給電もされるから撤退の援護には十分だろう。

 

「2人ともありがとう。今後の指示を伝える。カミオンは微速で先に港へ向かえ。定期補給船に乗船して帰国だ。俺たちもすぐに後を追うが、もし明朝までに戻らなかったら、あるいは港が所属不明機の襲撃を受けたら、かまわずに出港しろ」

 

 と、伝えたはいいが、いつもならある返事がない。息づかいは聞こえるから通信は正常だ。

 

「総員、返事は?」

 

《状況は理解している。だが、この非現実がまだ飲み込みきれないというか》

 

《同じくッス___》

 

《アマギ君、わかっていると思うが、君は欠かすことのできない人間だよ》

 

「ええ。もちろんわかっています。すみませんが、後のことは頼みます、(ワン)。___アマギ機、出るぞ」

 

 俺だけでなく、我々全員が重要な役回りを演じさせられている。そのためにイノウエ専務が組織した、サイラス私設傭兵部隊なのだから。

 

 そして俺はサイラス私設傭兵部隊のリーダーを務める身だ。決してすべてを語らないイノウエ専務の思惑は計りきれないが、なによりも部隊のメンバーを欠くことはリーダーとしての矜持と誇りが許さない。どうか無事でいてくれよ。

 

 俺はコンソールのスイッチを操作してエグザマクスの制御システムを飛行モードに切り替える。このエグザマクスには、長年乗り慣れたヘリのような姿勢制御用の操縦桿は存在しない。それでも身体の真正面にある操縦桿を操るイメージをもって、それを頭のなかで少しだけ引く。

 

 機体背面に備わるフライトユニットのスラスターは、斜め前方45度方向への推力偏向を提示し、俺は右手のコントロールスティックに備わったボタンを押し込みそれを承認する。

 

 左手のスロットルレバーはヘリと似たようなものだ。俺はそれを躊躇なく押し込むと、背面からプラズマジェット勢いよく噴出し、戦闘機にも匹敵する上昇性能で身体がシートに押しつけられる。その強烈な加速Gに歯を食いしばって耐える。上昇加速が収まった時にはすでに上空300フィートにいた。

 

 見通しが開けた砂漠の遠方には数機のエグザマクスが散開していた。先ほどの爆発でできあがったと思われるクレーターが砂漠の大地に大穴を穿ち、その対岸には蟻のように黒い機体が群がっていた。専務が言っていたバイロン軍。異星からの侵略者。エグザマクスと同様の機能をもつポルタノヴァ。

 

 俺と、王・泰然(ワン・タイラン)だけはイノウエ専務からこれらついて聞かされていたが、改めて実物を見せられると驚きを隠しきれない。これから地球はどうなってしまうのだろうな。いや、今は仲間たちを探すことだけを考えるんだ。

 

 上空からはすぐにジェイク機とアーニャ機を確認できた。ナインズのNo.2とNo.3と一緒にいるところを見ると共同戦線を張っているようだ。離れた場所にシズク機とホノカ機も見つけた。だがレイはいない。大方、爆発で軽い支援機(ロイロイ)だけが飛ばされたのだろう。

 

 通信を入れたかったが、爆発の影響で電波状態が悪く遠距離通信は届かない。俺は機体を急降下させて近距離無線で2人と2機に、遅れた謝罪とともに、撤退と帰国の旨を指示する。

 

 ジェイクとアーニャからは、返答に加えてこの先にまだレイとサニー・バニーがいることが伝えられた。俺はスロットルを全開にして、機体を全速力で2人が指さす方向へと飛ばす。

 

 いた。レイとサニー・バニーだ。サニー・バニーが敵の1機と戦っている。間に合えよ。先ほどからずっと強烈な加速Gにさらされ続けて呼吸もままならない。だが、身体のことなど気にするな。部下を助けるのがリーダーとしての努めだ。

 

 黒いポルタノヴァとサニー・バニーの機体が重なる。サニー・バニーがああも簡単に接近されるとは。よく見れば黒い機体は、専務が言っていた『トサカ付き』だった。

 

 くそったれ。射程に捉えた両肩のショートライフルで威嚇すると敵機がサニーから離れる。しかし、サニー・バニー機は動かず、その場に崩れ落ちる。

 

 上空を違いざまに機雷を投下すると、爆炎と砂柱が立ち上がる。その隙に減速と旋回をして、呆然と立ちすくむレイの横にランディングした。そして敵のトサカ付きのポルタノヴァと対峙する。

 

「レイ、なにをしている。早く逃げろ」

 

《隊長。サニーが》

 

 その声からは失意と混乱の様子が伺えた。無理もない。レイはサニー・バニーに一番なついていたからな。

 

「お前はサニーの死を無駄にするつもりか」

 

 頼むから、おとなしく言うことを聞いてくれ。レイの機体を抱えて飛んで逃げるわけにもいかない。おまけに、相手はサニー・バニーですら圧倒される『トサカ付き』だ。

 

 そのトサカ付きが、機体を前傾にして攻撃をするそぶりを見せる。しかし、レイに気を取られてこちらの初動が遅れる。そこへ銃声が轟き、トサカ付きが異常なまでに素早い反応で後退した。

 

 《油断するなよ、ミスターアマギ》

 

 横目で確認すると、ショート・ホープがライフルを構えて、銃口から硝煙をたなびかせていた。銃口を今度はこちらに向けるとショート・ホープが問う。

 

《ミスターアマギ、なぜハッキリ『邪魔だ』と言わない。これだから日本人(Japanese)は歯切れが悪い。代わりに僕が言ってやろう。参謀君、要するに(in shot.)君は戦闘の邪魔になる。戦う気がないなら、とっとと消え失せろ》

 

 そして、そのままレイの機体に向けて引き金を引く。ショート・ホープが放った銃弾はレイの機体の肩口に当たり、その衝撃で機体は回転するようにして倒れ込んだ。

 

《戦場で戦わない者はクソの役にも立たん。そればかりか、足を引っ張るだけだ。何なら今ここで銃殺刑に___》

 

 再び銃声がすると、今度はショート・ホープの足下がえぐれた。後方モニターにいつの間にか接近していたジェイクとアーニャの機体が小さく映る。おまけにナインズの2機もいる。今のはジェイクの遠距離狙撃だ。まったく、撤退しろと指示したはずだったのに。

 

 『トサカ付き』に目を戻すと、奴は事態を掴めずに、こちらの様子を伺っているようだ。当然だろう。目の前で仲間割れのような茶番を見せられては。

 

「レイ、聞こえるか。カミオンと合流して定期補給船に乗って帰国しろ。これは専務命令だ。___アーニャ、頼む。レイを無理にでも連れて行ってくれ」

 

了解(Yes.sir.)》アーニャはあきれた声で答える。《___ホラ、いくよ。アンタがここの2番目だろ》

 

 アーニャが素早く接近し、レイの機体つかんで強引に引きずっていくのを確認した。ジェイクも何かあればいつでも撃てるように狙撃態勢だ。なんだかんだで、アーニャもジェイクもレイがかわいくて仕方がないんだろう。なあ、サニー・バニー。

 

《___ミスターアマギ。アンディ・クラーク元海兵大尉もとい、サニー・バニーの家族への連絡はアメリカ軍が承る。その方が効率的だろう。___ということだ。よろしく頼むぞエイミー》

 

《イエス、リーダー。ですがリーダーは?》

 

《僕はミスターアマギと共同であの黒い『トサカ付き』を押さえる。シャルマとエイミーはその隙に司令部まで撤退しろ。後のことは本国に確認してくれ。以上だ。___ということで、僕らは要するに(in shot.)初めてタッグを組むことになるが、よろしいな? ミスターアマギ》

 

 ふん。相変わらず強引に事を進めるいけ好かない奴だ。だが、おとなしいレイのような人間には、こういう強引な上官の方が合っているのかもしれない。俺には真似できないやり口だよ。

 

「レイたちが世話になったな」

 

《なに、礼には及ばんさ( No thank you. )

 

 

 

   ◇ ◇ ◇

 

 

 

安室 玲(アムロ・レイ)、専務から連絡があります。至急、艦橋までお越しください》

 

「シズク、僕のことはフルネームで呼ぶなと伝えていたはずだぞ」

 

《2度呼びかけても応答がありませんでしたので、もっとも確実な方法を採らせていただきました。マスター》

 

「___それで、何の用だっけ?」

 

《イノウエ専務から通信です。至急ブリッジまでお越しください》

 

「了解。すぐに向かう」

 

 インカム越しにそう伝え、僕は朝焼けで赤く染まった砂漠の港町から目を離す。今は定期補給船の甲板上だ。僕は昨日から着っぱなしのパイロットスーツの上にコート一枚だけを羽織って2人の帰還をここで待っていた。

 

 海鳥の鳴き声が、出港を伝える重い汽笛にかき消されながら耳に届いた。船は小さな波をつくってゆっくりと岸を離れていく。

 

 もう一度だけ港の岸壁に目をやってから船の中に入ると、暖かかな空気が頬をなでた。砂漠の夜は冷える。僕の身体は冷え切っていた。けれども寒さは一切感じなかった。

 

 アマギ隊長とサニー・バニーは定刻までに戻ってこなかった。けれど、港はバイロン軍に侵攻されることもなかった。

 

 6人になった僕らサイラス私設傭兵部隊は、1年近く駐屯した中東を離れ、日本へ向かって出港した。

 

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