ハイっ!こちら営業部『サイラス私設傭兵部隊』課【30mm非公式小説】   作:あきてくと

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千葉県騒乱編
第17話 イノウエ専務(表彰式典とスピーチ)


「___聞いていますか。ア・ム・ロ・レ・イ!」

 

 後ろの座席から、専務愛用の11インチタブレット端末で頭を叩かれ目を覚ます。それも縦で。専務が僕らに話をするなか、僕は車の揺れと寝不足と、日本に帰ってきた安堵感から居眠りをしてしまっていたようだ。

 

「___はい。聞いています」と僕は反射的に口にしてしまってから後悔する。

 

「では、わたくしがこの3分間で話したことを、一語一句漏らさずに復唱なさい___できますか? できないでしょう? 聞いていなかったのでしょう? 車内で船をこいでいたのですから。己の過失を認めなさい」

 

「えっと、本社に戻ったら、表彰式が、どうたらこうたら___すみません」

 

「ったく。___本社についたら、社内と関連会社をオンラインで繋いで帰国報告と表彰式典を行います。説明や挨拶など細かなことはすべてこちらで行います。あなた方は勲章授与の間、英雄らしく舞台の上に雁首並べて突っ立っていればいいいだけです。口は一切開かないでください。呼吸は認めます」

 

 イノウエ専務の話は何かとツッコミどころが多い。言葉遣い。言い回し。いずれも間違ってはいないのだけれど、帰国子女故か専務が使う日本語は時々おかしい。

 

 現在僕らは成田空港から、幕張にあるサイラス本社ビルにバンで移動中だった。10人乗りのバンの最後尾席の3脚ぶんはイノウエ専務が占有し、その左前に僕が座っていた。アーニャとジェイクとハルトは専務を避けるかのように前方の座席に固まって座っている。それでも専務の声は車内によく響く。専務は話を続ける。

 

「では、続いて世界の現状をお話します。あなたがたが中東で見たものは、バイロン軍の機動兵器ポルタノヴァです。察しのとおり、あれは地球外のものです。

 

 彼らは現在、侵攻の動きを見せていません。こちらが配備したエグザマクスのおかげで迂闊に攻勢に出られないと判断したのでしょう」

 

「配備?」僕は思わず聞き返してしまってから後悔する。

 

「なにか? 今や、世界中の国やテロリストに我が社のエグザマクスが行き渡っているのですよ。これは配備と同義です。話を続けますがよろしいですか」

 

 丁寧な言葉の陰で、話の邪魔をするなとばかりに僕は専務に睨まれた。そして、語弊があるのにもかかわらず、専務は当たり前のように話を続ける。

 

「地球側に自分たちのポルタノヴァと同等の性能をもつエグザマクスが存在したのは、彼らにとって想定外です。優勢ではない戦い、分の悪い戦争を続けるほど不利益なものはありませんから、彼らは侵攻作戦を修正しなくてははなりません。

 

 それに加えて、アメリカのショート・ホープもよい仕事をしてくれました。核ミサイル攻撃によってこちらの戦略兵器の一端を見せつけたことも、侵攻の抑止力として働いたようです。この小康状態は、バイロン軍がこちらを分析し、動向を探っている最中なのでしょう。

 

 現在、バイロンに関する情報は、世界のあらゆる報道機関とメディアに箝口令をしいて表には出ていません。しかし、それももう数日もすれば限界に達するでしょう。そうなれば地球全土がパニックに陥ります。ですが、すでに手は打ってあります。詳細はまだ明かせませんが。ここまでで何か質問はありますか?」

 

「奴らが現れることは予め知っていたのか?」ジェイクが挙手をして前を見たまま専務に訊く。

 

「知っていました。けれど、彼らはわたくしの予想した時期より数年ほど早く訪れました。みなさんを危険な目に遭わせた責任は詰めを怠ったわたくしにあります」

 

「じゃあ、アンタはなぜ、それを知っているんだい」続いてアーニャが訊く。

 

「情報元は今はまだ明かせません。ですが、そう遠くない先に洗いざらいお話しします」

 

 専務の返答にジェイクもアーニャも納得しない様子でいる。僕は訊きたいことが多すぎて何から訊いていいのかわからなかった。

 

「あの、休暇はとれるッスか?」ずっとカミオンに詰めていてポルタノヴァを目撃していないハルトは、流れを壊す質問をする。

 

「ええ。先にお伝えしていたように、明日から3日程度なら休息の時間を確保できるでしょう。ただし、バイロン軍の侵攻具合によります。念のため遠方には出歩かないようにお願いします。

 

 それと、一応言っておきますが、中東で見たものの一切は他言無用でお願いします。休暇中はもちろん、社内であってもこのことは秘匿事項です。もし、情報漏洩させたら、スマキにしたうえで、ドラム缶にコンクリート詰めにして、サイラス本社前の東京湾に沈めて差し上げますからそのつもりで」

 

 一昔前のヤクザか。4人があきれながら「了解(Yes.ma'am)」と答える。

 

「レイは? 何か言いたそうな顔をしていますね」

 

「隊長とサニー・バニーを失ったのに表彰だなんて。僕らが何をしたっていうんです。だたのパフォーマンスじゃありませんか」

 

「そうです。ただのパフォーマンスです。でも意味はあるのです。バイロンとポルタノヴァの登場によって、それに対抗できるエグザマクスを製造する我々サイラスは今後、世界の中心に立たされます。

 

 今後の事態に備えて、社員の志気を高めておかなくてはなりません。戦地から無事に帰還した英雄を称えることで、自分たちの仕事に誇りを持たなくてはいけません。

 

 サイラス私設傭兵部隊は我が社の広告塔であり、タレントなのですから。英雄にふさわしいかどうかは問題ではありません。英雄的でありさえすればいいのです。人々は都合のいいように勝手に解釈してくれます。

 

 もし、アマギ隊長やサニー・バニーに負い目を感じるのなら、それこそ彼らに対する冒涜です。あなたは彼らの気持ちを無駄にするつもりですか」

 

 そう言われては僕はぐうの音も出せない。この卑怯者め。

 

「それと___式典ではくれぐれも、おかしな行動だけはつつしんでくださいね」と付け加えて上目遣いでニコッと笑いかけてくる。

 

 ツンデレは専務の得意技だ。けれど『ツン』9に対して、『デレ』1ほどしかない。『ツン』を『デレ』でフォローしきれていないのがイノウエ専務だ。

 

 いや、その本質はツンデレどころか冷酷無慈悲なツンドラ(永久凍土)だ。ドライでドラスティックで、僕らはおろか企業、さらには国家すらを舞台裏で操るドラマツルギー。どら息子ならぬ、どら娘か。社長令嬢で帰国子女の天才放蕩娘だ。

 

「専務は、何者ですか?」

 

 僕は思わず、以前からずっと抱えていた疑問を投げかける。

 

「わたくしは、わたくしですよ。うふ」

 

 

   ◇ ◇ ◇

 

 

 ジェイクとアーニャ、ハルトと僕の4人は真新しいサイラスの制服に身を包み、壇上に並んで立つ。式典とはいっても、それほど厳かなものではない。式典会場は、本社会議室のパーテーションを取っ払って臨時につくられた簡易的なもので、年度始めの大規模朝礼のような雰囲気だ。

 

 会場には本社従業員の3分の1ほどが仕事の手を止めて足を運んでくれた。その一番前の並びには僕の同期入社のメンバーも数人いた。

 

 その中の物流管理部に所属する一人は、僕がさんざん要請し続けたMサイズのオムツを、1年間にわたって失念し続けた張本人だ。おかげで僕がどれだけ困ったことか。彼は、そんなことなどすっかり忘れた様子で僕に向かって無邪気に手を振る。

 

 会場には小型のカメラも数台設置され、この式典の模様は各部署と関連会社にも配信される。定刻になると、会場の脇に設えられた卓上のマイクを使ってイノウエ専務自らが表彰式典の開始を宣言した。

 

「お忙しいところをお集まりいただきありがとうございます。これより、任期を終えて本日帰還したサイラス営業部・サイラス私設傭兵部隊課の表彰を行います。

 

 ご存じのとおり、彼らは我が社が抱える優秀なテストパイロット部隊であり、我がサイラスの看板です。彼らが収集した稼働データは、これまでのエグザマクス開発に多大な貢献をしてくれました。

 

 そして、同時に彼らは世界で誰よりもエグザマクスの操縦に優れる者達です。たとえ明日、アメリカや中国、あるいは異星人が日本を攻めてきてたとしても彼らが迎え撃ってくれるでしょう」

 

 僕はギョッとして、横目で専務の方をみやる。専務もニヤっと笑いながら、横目でこちらの表情を確認していた。

 

「うふ。冗談です。サイラス私設傭兵部隊の活躍により、我々が製造するエグザマクスの世界的な普及が加速化しています。うれしいことに世界各国からの需要で、我が社の業績も右肩上がりで伸びております。

 

 そして、世界が戦争の形を変えました。堅牢なエグザマクスのおかげで、戦争での死者は旧来より著しく減っており、世界の戦死者は10年前のおおよそ10分の1にまで減少しています。

 

 これは、一重にわたくしが設計したエグザマクスの優れた性能と、開発に携わったエンジニアのみなさま、製造に携わる関連企業のみなさまの日々の絶え間ない努力によって達成することができたのです。

 

 そして、サイラス私設傭兵部隊にはエグザマクスの実戦テストという、もっとも過酷な環境で仕事をしていただいています。彼らはいわば、我が社の英雄です。よって、帰還を祝して彼らの表彰を執り行いたく式典を設けました次第です」

 

 そこまでスピーチを終えると、秘書から勲章を受け取った専務が、サイラス私設傭兵の一人ひとりの胸にサイラス社のロゴをあしらった三角形の勲章をつけていく。ハルト、アーニャ、ジェイクの順番で、僕が最後だった。

 

 専務が僕の胸に勲章をピンで留めている間、専務の小さな頭が僕のアゴのすぐ下にあり、絹糸のような銀髪が照明の光を湛えて眩しいほどに輝く。それは砂漠の強い照り返しを思い起こさせ、同時にアマギ隊長とサニー・バニーのこともフラッシュバックのように思い出す。

 

 僕は胸につけてもらったばかりの勲章を握り締める。こんなものに何の価値があるというのか。彼らはこんなもののために戦ったんじゃない。

 

 強く握った掌に勲章の突起が刺さって血が出る。痛い。けれどこんなのはまったく痛くない。隊長とサニーの苦しみに比べれば。僕はそのまま勲章を引きちぎって地面に叩きつけてやりたい衝動に駆られる。

 

 ところが、震える僕の手に専務が浅黒い手を重ねてそれを制す。青い瞳と目が合うと、先ほど専務に言われた言葉が脳裏によみがえった。

 

 『アマギ隊長やサニー・バニーに負い目を感じるのなら、それこそ彼らに対する冒涜です。あなたは彼らの気持ちを無駄にするつもりですか』

 

 専務は無言で僕の目を見据えた後、目を伏せてかすかに首を振る。健康的な褐色肌に銀のまつげが映える。僕が手から力を抜くと専務は僕から手を放し、踵を返して舞台袖の卓上に戻った。一瞬だけ僕をジロリと睨みながら。

 

 そして、専務は再びスピーチを始める。一度だけ咳払いをすると、マイクで「安室 玲(アムロ レイ)」と僕を本名で呼んだ。

 

 僕は再びギョッとして専務を見やる。口角の片側がいやらしく上がっている。それにあの目。絶対にわざとだ。会場からはクスクスと笑い声が漏れる。僕は赤面して、体が熱くなる。

 

 少し間をあけて専務が再び語りだした。

 

「とくにサイラス私設傭兵部隊課の副隊長である安室 玲。彼は、わたくしと同じ弱冠24歳です。それも、戦闘訓練も受けていないただの青年です。

 

 それでも自ら(・・)戦場に立ち、テストパイロットという危険な仕事を、弱音ひとつ吐かず(・・・・・・・・)、見事に勤め上げてくれています。なんて健気な青年なのでしょう。彼なくしてはサイラス私設傭兵部隊は成り立ちません。わたくしは彼に感謝してもしきれません。

 

 また、狙撃技術に優れたジェイコブ・アロースミス。格闘技術に長けたアンナ・カラシニコワ。銃火器のエキスパートメカニックである下条ハルト。それに、まだ帰国の途にある、エグザマクスチーフメカニックの川崎 重工(カワサキ シゲノリ)、部隊顧問兼料理長の王・泰然(ワン・タイラン)

 

 彼らはいずれも優れた技量と技術によって過酷な環境でチームとして戦い抜き、貴重な実践データを収集し、技術開発に多大な貢献をしてくれました。

 

 しかし残念なことに、先日の戦闘でアマギ・シロー隊長とサニー・バニー、本名アンディ・クラークの2名は惜しくも命を落としてしまいました。

 

 すみません。すべては、部隊の発起人であるわたくしの責任です。謝って済む問題ではありません。ですが、どうかこの場を借りて謝らせてください。アマギ隊長とサニー・バニーのご家族には心より陳謝いたします。

 

 また、ともに1年を戦ってきた彼らサイラス私設傭兵部隊の面々にも謝罪しなくてはなりません。

 

 仲間を失って悲しかったでしょう。辛かったでしょう。苦しかったでしょう。なんとしても助けたかったのでしょう。

 

 だから、アマギ隊長とサニー・バニーのことは、わたくしの責任です。責めるのなら自分ではなく、わたくしを責めなさい。すべてわたくしのせいにしなさい。それはわたくしが負うべき責任です。

 

 許してもらえるのなら、わたくしはエグザマクスによって、より安全で平和な世界をつくるために尽力いたします。もう二度と悲劇を繰り返さないために。

 

 人の命はとても尊いものです。それをわかっていながらも、人は戦争をやめられません。戦争をやめられないのならば、戦争で死なないようにすればいいのです。そのためにわたくしはエグザマクスを産みだしました。

 

 ゲーム盤の戦争と揶揄されるのなら、ゲームにしてしまえばいいのです。誰も悲しまなくて済むように。

 

 わたくしはエグザマクスで世界を平和に導けるものと信じています。そのために我がサイラス社は誕生したのですから。みなさま、どうかわたくしと一緒に平和な未来をつくりましょう」

 

 結びに専務が深々と頭を下げると、参列者から惜しみない拍手が捧げられる。

 

 誰に。僕らにではない。専務にだ。

 

 僕らは会社をまとめ上げるダシに使われている。元々そうだったのだから驚くべきことでもなんでもない。

 

 ジェイクもアーニャもハルトも欠伸を噛み殺すので必死のようだった。

 

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