ハイっ!こちら営業部『サイラス私設傭兵部隊』課【30mm非公式小説】   作:あきてくと

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第21話 Interlude(閑話)

 専務との模擬戦の翌日から、世界情勢は劇的に動いた。

 

 契機となったのは、アメリカ軍によるバイロン強襲要塞への総攻撃だった。アメリカ軍は、中東に降り立ったバイロン軍の強襲要塞に向けて合計12発もの核弾頭を搭載した大陸間弾道ミサイル(ICBM)を撃ち込んだ。その模様はメディアにリークされ、動画共有サイトで垂れ流された。

 

 しかし、ライブ動画を一瞥したイノウエ専務は、アメリカによる独断での軍事行動を鼻で笑う。不思議なことに核弾頭はそのどれもが不発だった。専務によると、バイロンの強襲要塞の周囲には核分裂反応を抑制するシールドのようなものが展開されているとのことだった。

 

 その攻撃の直後、ホワイトハウスから専務宛に国際電話が入る。専務はいつもと同じように、新しい悪戯を思いついた子供のように笑って立ち上がると、それからしばらく社に戻らなかった。

 

 アメリカ軍の核攻撃と同時に、とうとうバイロン軍の存在が世界に露見した。襲来から一週間を経て、ついに異星人の地球侵略の内容が全世界へ向けて報道される。TVや新聞の見出しは一面、『異星人襲来』という安っぽい見出しで埋め尽くされていた。

 

 人々の反応はさまざまだ。驚く人。泣きわめく人。信じない人。怒りを露わにする人。強襲要塞が落着した中東の都市や街では、パニックに陥る人々が港や空港に押し掛け、逃げる人でごった返していて悲惨な有様らしい。

 

 同時に世界の株価は大暴落した。貿易にも影響が出た。中東からの原油輸出の滞りは、遠く離れた日本経済にもダメージを与える。TVでは連日、内閣総理大臣と官房長官、防衛大臣が、とっかえひっかえ演説し、宇宙人の襲来が事実であることと、落ち着くようにと国民に言い聞かせた。

 

 安室家では、父は慌てふためき、母はこれからどうなるのかしらと不安の声を漏らした。妹の穂香は興味津々。雫のほうは、とくに関心がない素振りだ。

 

 実際にバイロン軍をこの目で見た僕ですら、宇宙人による侵略なんて半信半疑だったのだから、その他の大勢の日本人にとっては、まさに対岸の火事だ。それどころか海の向こうの、そのまた向こうの話。事の重大さは誰もが理解していても、どこか他人事のように思っている風潮が感じられる。

 

 もっとも一般人はどうにもできないのだから、政府に対応を任せるか、あるいは成り行きを天に任せるかしかできないのも事実だ。それでも噂が噂を呼び、物資の買い溜めに走る人も少なからずいた。

 

 次に専務を見たのはTVの中だった。黒髪のカツラと、黒縁眼鏡で変装してはいたものの、議長として地球連合軍樹立を高らかに宣言したのは見間違うことなく専務だった。

 

 そして、事前に申し合わせていたかように地球連合軍が組織される。それはアメリカ軍の核攻撃失敗から、たった三日後の出来事だった。おそらく専務が秘密裏に準備を進めていたのだろう。

 

 主要加盟国は、カナダ・フランス・ドイツ・イタリア・日本・イギリス・オーストラリア・イスラエル・トルコ・インド・中国・ロシアの12カ国。それに、最後まで連合への加盟を拒否していたアメリカが加入した全13カ国は、エグザマクスを専属運用する軍隊を組織し、バイロン軍の迎撃・殲滅に当たる。

 

 地球連合軍の樹立宣言によって、人々は幾分落ち着きを取り戻す。暴落した株価もわずかに持ち直した。しかし資本が集まる先は主に軍需産業だ。このタイミングでサイラスは過去最高株価を記録した。

 

 それと同時に、準備が進められていたサイラス欧州法人・中国法人・北米法人が本格稼働を開始。同時に第4世代機となる新型ラオビットを正式にロールアウト。アルト・ラオビットの両機が各連合加盟各国に提供され、さらなる軍備強化が図られる。

 

 さらに、エグザマクスの運用における戦術・戦略術をまとめたサイラスの社外秘資料が一般公開された。この資料は僕らサイラス私設傭兵部隊が収集したデータが元になっていた。

 

 今だからわかる。僕らが中東で行っていた軍事行動は、すべて専務が画策した、バイロン軍の侵略に対抗するための布石だった。

 

 機体や装備品の実戦テストにはじまり、戦地でのエグザマクスのメンテナンスおよび運用メソッドと戦術・戦略メソッドの確立。それらを実行しながら、販売促進活動(セールス・プロモーション)によって対バイロン軍の要としてエグザマクスの世界的な普及を促す。同時に、サイラスの利益は拡大。そして、僕らが戦いぶりを見せつけることで、エグザマクスでの戦い方の模範を提示した。

 

 まったく、専務には頭が下がる。おかげで、バイロン軍の奇襲作戦を潰すことができたのは事実だった。専務がいなかったら、初手からなし崩しに攻め立てられ、今頃地球はすでにバイロン軍の支配下に収まっていたかもしれないのだ。

 

 連合軍の発足とほぼ時を同じくして、静観を続けていたバイロン軍はとうとう本格的な進軍を開始した。強襲要塞がある拠点の中東から徐々に勢力を広げていく。幸いだったのは、バイロン軍に長距離移動手段がなかった点だ。だから戦地となったのは、中東をはじめ、東ヨーロッパ、エジプト、アラビア海を渡ったインドが中心だ。

 

 これを各国連合加盟国の派遣部隊と周辺各国のエグザマクス部隊が共同で迎撃し戦火を交える。各地で散発的な戦闘が始まった。

 

 しかし開戦当初は連合側の敗戦続きだった。最新鋭機と優れた戦術マニュアルがあったとしても、エグザマクスの熟練度の低さは、そうそう埋めきれるものではない。それに、所詮は寄せ集めの部隊だ。連携など上手く行えるはずもなく、戦線はどんどん後退させられる。世界には不穏な空気が漂い出す。

 

 しかし、とある1機のエグザマクスの活躍により、戦況は持ち返えされた。そのエグザマクスは、アルトをベースとしたサイラスのワンオフ機*1。白のベースカラーに、これみよがしな赤と青のカラーリングが施されたその機体は、時に遠距離狙撃、時に最前列で格闘戦を演じ、戦線を立て直す。そしてポルタノヴァを次々と屠っていく。

 

 搭乗するのはサイラス直属のパイロットであるアムロ・レイ。その機体は卓越した操縦技術で戦場を光のごとく駆け抜け、時空間を超越したかのように戦場から戦場を渡り歩き、多くの味方の窮地を救った。

 

 ただし、パイロット素顔や正体は誰も知らない。補給はサイラスの社員で編成されたチームが専任し、待機時であっても社外秘として外部からの視線が遮られ、徹底して秘匿とされたからだ。その秘匿性が、いつの間にか神秘性を帯び、アムロ・レイという存在をさらに神格化させる。

 

 アムロ・レイは世界各地で「サイラスの白い閃光」だとか「ジャパニーズ・ガン○ム」などと異名で呼ばれ、英雄として崇め奉られるようになるまで、それほど時間はかからなかった。

 

 アムロ・レイの活躍によってバイロン軍の侵攻速度が抑えられたその間に、各地に派遣された連合軍は組織としてのまとまりが出来上がり、技術の習熟も相まって部隊戦力が大きく底上げされた。

 

 専務が言っていたように、先が見えない戦いのなかで象徴となる英雄の存在は大きいらしい。その存在が兵士一人ひとりの志気をかき立て、その行動が戦意を鼓舞し、その名前が希望となる。それは波のように伝播し、拡散され、さらに増幅された。

 

 とある共通認識があることで、烏合の衆だった兵士たちの間に協調関係が生まれる。あるいは素性も知らない英雄への反感や対抗意識が協調を強めさせたのかもしれない。いずれにせよアムロ・レイの存在が劣勢ムードだった流れを大きく変えたのだ。

 

 勝負ごと(ゲーム)だったなら、勝率50%がもっともプレイヤーのモチベーションが高まるそうだ。けれど背水の陣で挑む戦争はそうじゃない。勝てる見込みが49%では命を賭しては戦えない。けれど51%なら戦える。

 

 たった一人の英雄の存在は、戦力としてはけっして大きなものではないけれど、その影響は人々に勝利のイメージを抱かせる。まさに希望の象徴だ。

 

 小競り合いは各地で頻繁に起きている。大部隊を投入するほどの大きな衝突がそれから3回ほど起きたものの、被支配地域は開戦当初からそれほど広がっていない。互いの戦力差は開戦後3カ月ほどでおおよそ互角にまで強化され、戦況は膠着状態を維持していた。

 

 日本でも徴兵が始まった。選抜と訓練が行われ、適正によってはエグザマクスのパイロットにもなれるそうだ。優秀な人材は連合軍直下のパイロットとして海外に派遣されるらしい。と母からのメールで知った。

 

 各国の軍産企業はエグザマクス用の火器開発と生産を急ピッチで進める。サイラスの工場もフル稼働だ。戦局が有利になるように、さまざまなパーツが開発された。なかには目的が知れないようなパーツも多数あった。

 

 前線では、部隊の戦力強化と兵士のモチベーション維持のために、エグザマクスの自由なカスタムが流行っている。それに対抗するかのように、バイロン軍側でも新兵器を続々と投入してきた。

 

 専務の話によればバイロンの巨大な強襲要塞には兵器や物資の生産設備も備えているらしく、兵糧攻めは望み薄だという。バイロン軍の襲来から半年が経過した時点でも、地球連合軍とバイロン軍の戦いは一進一退の攻防が続いている。

 

 そして開戦から半年後、僕は宇宙にいた。

 

 

 

 

*1
アナザーエグザマクスプランeEXM-17A アルト(X777部隊所属機)のトリコロールカラーを想定。




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