ハイっ!こちら営業部『サイラス私設傭兵部隊』課【30mm非公式小説】   作:あきてくと

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宇宙での覚醒編
第22話 宇宙(そら)へ(宇宙空間での迎撃戦闘)


 漆黒の闇に高密度で点在する大小無数の星々の光は、砂漠の星空よりも鋭く網膜を刺す。宇宙は荒涼としていながらも、どこか整然としていて、なんとなく中東の砂漠を思い出した。けれども、感じ取れる空間的な広がりは砂漠にひとりでぽつんと立ったときの比ではない。

 

 宇宙空間では、大気がないせいで奥行きは感じられない。けれど広い。分かり切っている事だけれど、果てしなく広い。僕が一生をかけて追いかけても、あの闇の端っこはおろか、あの瞬く星のひとつにさえたどり着くことができないほど宇宙は広いのだ。

 

 そう思うと、置かれた立場や、名前に悩んでいた自分という存在がひどくちっぽけに思えた。戦争なんてものさえもくだらなく思えてくる。それなのに、今もまだエグザマクスに乗っている。僕は、どうしてこんなところまで来てしまったのだろう。

 

 外界を映しだすAR・HUDで見渡す宇宙はコンピュータが再描写したCGではあるけれど、まるで高精細なプラネタリウムを見ているようだった。時々遠方で光の筋が走るのは、おそらく彗星だろう。それは遥か遥か遠くの宇宙を何百年か、何千年か、何万年か前に通過した残光だ。

 

 時々、動体反応を捉えたマーカーが視界を流れてすぐに消える。近距離を飛ぶ大きめの隕石やデブリなんかは、エグザマクスの周辺警戒システムが自動的に軌道計算をして、危険なコースにいれば回避を促してくれる。ぶつかっても機体に異常がでないほど小さな岩やら石のつぶてやらは無視された。

 

 それ以外に動くものの気配はない。静穏そのものだ。宇宙はしん(・・)と静まりかえっていて、今僕の耳に届くのはコックピットの電子機器が放つわずかな発振音と、生命維持装置の空調音と、静かな自分の呼吸音だけだ。ハーネスによってわずかに身体が締め付けられるだけで、ほかは何も感じない。肩こりも腰痛もない。重力がない宇宙は、宇宙服の煩わしさを除けば地球より快適だった。

 

 けれども、宇宙空間はコックピットから一歩外に出れば、一瞬にして生命が失われてしまう救いようがないほどに残酷な世界でもある。どうしても不安感にあおられるけれど、同時に不思議と気分が落ち着く。宇宙空間に漂っていると、思考までもが重力から解き放たれて拡張されるような、そんな気分になるんだ。

 

 HUD上に通信を知らせるマーカーの光点が灯り、一瞬遅れてヘルメット内に響いた女性の合成音声が静寂を壊した。

 

《マスター。集中力が低下しています。周辺警戒監視を怠らないでください》

 

 僕の機体に付随する自立型支援機(ロイロイ)のシズクが、AI特有の抑揚に乏しい物言いで注意を促す。

 

 「Ya」と短く答えて、僕は周辺を目視確認するために機体を巡らす。エグザマクスに左腕を外側斜め上方向に振り上げさせると、機体は反作用を受けて腕に生じたベクトルとは反対方に回転しはじめた。周辺の星々もそれに従って視界を流れていく。

 

 宇宙では推進剤がなければ等速直線運動をするしかない。けれど、ゆっくりとした姿勢制御だけなら四肢の動作である程度のコントロールができる。宇宙での特殊な機動感覚に慣れるまでには時間がかかったけれども、比較的すんなり馴染んだ気がする。それよりもなによりも、宇宙ではすっ転ばないのが最高だ。

 

 先ほどの姿勢から上下逆さまになって180°を振り帰ると、強い光を検知して自動遮光制御が入り、真っ白に描写された太陽が視界に入る。それから太陽に照らされて青く輝く地球が映り、次に巨大な構造物が視界の半分を埋め尽くした。

 

 この巨大構造物は、ロシアと共同開発されたサイラス所有の宇宙船。バイロン軍との戦争を終わらせる要となる大切な船だ。地球を挟んで月とは反対軌道のここラグランジュ・ポイント2(重力均衡点)で数年前から組立作業を行っていたらしい。僕には一切知らされていなかったけれど。

 

 船体全長は150m弱。外装はほぼ完成している。残すは内部の一部改装と最終便の物資と人員の到着を待つばかりだ。船体の周辺にはエグザマクスよりふた周りほど小さい作業用のエグザビーグルが取りついて外装の最終チェックを行っているところだった。

 

 宇宙に来て、すでに3カ月以上が経過していた。ここでの僕の仕事は、エスポジットと名付けられた新型エグザマクスの動作と宇宙用装備の運用テストと報告。それと一応、この宇宙船の護衛役でもある。やっていることは中東にいたときと何も変わらない。宇宙に来て一週間ほどは、宇宙酔いで死にそうにはなったけどさ。

 

 人型から高速飛行形態に可変可能な、このエスポジットという新型機は、移動や戦闘時には飛行機のように変形して推力軸を一方向に集中させられるため、宇宙でより高い移動性能が得られる特徴を持つ。

 

 αとβという基本構想を同じくする2バージョンが存在し、αの方は、翼を追加すれば大気圏内の飛行も可能だ。僕が今搭乗しているβの方は宇宙での運用に重きを置いた機体だった。

 

 宇宙において、人型ロボットは四肢の反動で機動が可能だけれども、必然的に関節数が多くなってしまう人型ロボットは宇宙戦闘では有用とはいえない。

 

 真空中ではグリスが蒸発してしまうから、稼働部のベアリングは地上と同じものは使えないし、下手をすれば動作中に関節機構が焼き付いて急にロックするなんてことも起こりかねないため、宇宙ではなるべく可動部は少ないほうがいい。

 

 飛行形態に可変できれば、宇宙でのベアリング問題をある程度解消できる。必要なときには一応手足が使えるけれども、装甲の薄さもあって、この機体は元々格闘戦には向かない。

 

 そもそも、この開けた宇宙空間で格闘戦を仕掛けるなんて行為は馬鹿げている。常に方向を気にしていないと右も左も、上も下もわからなくなるし、移動量を把握しておかないと、自分がどこにいるのかさえかわらなくなる。

 

 仮に目印を見失い、位置座標を示す航行機器がわずかでも狂えば、母船に帰還できずに宇宙を漂流する羽目になる。非常用救難ビーコンのテストは済んでいたけれど、できる限りこれのお世話にはなりたくない。

 

 宇宙活動でもっとも重要な生命維持装置は問題なく機能している。電子部品や制御にも放射線によるエラーは出ていない。もちろんコックピット内の宇宙線被爆量も安全基準をクリアしている。機体に備わったレーダーに感はなし。周辺目視確認もOK、と。

 

「こちらβ。周辺にまだ(・・)異常なし」僕は宇宙船の艦橋に向けて報告をする。

 

《了解。まもなく地球からの輸送機の接近予定時刻。有視界距離に入ります》

 

 船のオペレーター担当の返答に、輸送機の航路へ機体を向き直らせると、星とは異なり鈍く光る点が現れ、除々に大きくなってくる。それが突如ふたつに分離すると、一方は大きく弧を描いて反転して遠ざかっていく。もう一方はこちらに向かってくる。

 

 ここラグランジュ2と地球とを往復する輸送船は、効率よく往来するために本体と物資コンテナを分離させる形態をとる。操縦席と機関部だけで構成された細長い本体は、高い速度を保ったまま地球への帰還軌道に乗り、分離した輸送コンテナは、こちらと相対距離を合わせるために減速噴射を開始する。数万kmも離れた距離からゆっくりとだ。

 

 そして、敵が攻撃を仕掛けるなら、輸送機と宇宙船が無防備になるこの瞬間がベストタイミングだ。

 

《αおよびβに通達。敵影接近。敵機、ポルタノヴァ3。α機は前面に出て敵機の迎撃および輸送機の護衛に。β機はその場で本艦を護衛しつつα機を後方から援護》

 

 オペレーターから護衛役へ告げられる指示に、僕と、もう一人の護衛役である元アメリカ第9海外派遣部隊( ナインズ )のダブルロック・エイミーは「《了解(Roger)》」と答える。

 

 ちょうど宇宙船を挟んで反対側にいたエイミーが搭乗するエスポジットαが、移動のために機体を飛行形態に変形させる様子が見えた。

 

 胸部から下半身が後方に折れ曲がると同時に、脛部が反り返って折り畳まれる。左腕に携えていた三角形に近い盾が機首に装着されると、ものの数秒で人型から翼のない航空機のようなフォルムに変わった。機体後方からプラズマ推進の奔流を吐き出すと、鋭く加速がはじまり、流星のように光の尾を引いて視界から遠のいていく。

 

 かつては敵だったナインズの面々は、いまでは同じ連合軍の共同部隊だ。彼女は正規の米国軍人で、アメリカ軍のエグザマクステスト部隊ナインズのなかでも3番目に優れた操縦技術の持ち主だった。

 

 『ダブルロック・エイミー』の名前はあだ名で、エイミーとは狙撃を意味するエイム(aim)と本名とを引っかけているそうだ。ダブルロックとは要するに狙いを外さないということらしい。その名前が示すとおり、彼女は優れた狙撃能力を有していた。

 

 年齢は僕の妹たちと同じ弱冠21歳。ストレートヘアーのブロンドで、ハリウッドモデルのような美しい外見ではあるけれど、いわゆるエリート軍人ゆえのプライドのせいか、性格が悪い。内面(うちづら)が悪いというべきか、外面(そとづら)が良いというべきか。僕らは同時に宇宙に上がり、すでに3カ月間を一緒に過ごしているけれども、どうにも彼女とは気が合いそうにない。

 

 迎撃に向かったエイミー機から、いつもの不機嫌な声で通信が入る。

 

《なんで、いつもいつもいつも私ばかりが前面に出されるの! 私は元々狙撃手なのだけれどッ!》

 

「えーと、適材適所ってやつかな(Right peaple right plase.right?)」 

 

《は? あなたの方が、私より狙撃能力に優れるとでも!?》

 

「いや、そうじゃなくて___」僕より君の方が、あらゆる面で優れている、という意味で言ったのだけれど彼女は聞く耳をもたない。逆に感情を逆撫でしてしまったらしい。

 

《そんな機械に頼った射撃なんて卑怯以外の何でもないわ、レイ・アムロ。シスターズに頼らなければなんにもできないくせにッ。英雄が聞いて呆れるわね。名ばかりの英雄さんッ》

 

 そう怒鳴り散らしてプッツリと通信が切られる。

 

 ふん。何とでも言えよ。実際(・・)の僕は英雄でもなんでもないんだ。というかフルネームで呼ぶなと口酸っぱく言っておいたはずなのに。

 

 『英雄になれ』といわれて英雄らしく振る舞えるものではない。僕は、なおさら技量がともなわないのだから。バイロン軍との開戦初期に戦局をひっくり返した、あの馬鹿みたいに派手な白・赤・青のトリコロールカラーのエグザマクスに搭乗していたのは、当然ながら僕ではない。

 

 いわゆる中の人は、僕の振りをして戦うジェイクとアーニャだ。それに、あのトチ狂ったボディカラーリングは絶対専務の仕業だろう。おまけにメディアが煽りに煽ったあげく『サイラスの白い閃光』なんて恥ずかしい二つ名までつけられた。さらに、その記事の内容も笑える。

 

『アムロ・レイは光の速さで戦場を駆ける?』名前の『(Rey)』と『(Ray)』をひっかけてるのかな。

 

『時空間を超越したかのように戦場から戦場へ?』当たり前だ。場合によってはアーニャとジェイクが二カ所の戦場を同時に渡り歩いたのだから。そもそも、二人ともやりすぎなんだよ。

 

 おかげで望んでもいないのに、今や僕は超有名人だ。恥ずかしいったらない。仮に戦争が終わったとしても、しばらくは実家はおろか日本にすらに帰れそうにない。このまま『アムロ・レイ』の名前が忘れ去られるまで宇宙で暮らそうか。はぁ。思わずため息が出た。

 

 とどのつまり、僕がしているのはただの名義貸し。僕は英雄どころか、着ぐるみを着たマスコットキャラクターと同じ扱いだ。あげく、人目から隠す目的もあって、僕は遥か宇宙に飛ばされて今ここにいる。

 

 なんてことはない。この子供だましみたいなのが、イノウエ専務が僕の戦闘能力を鑑みた結果、呆れた挙げ句にひねり出した『アムロ・レイ英雄化計画(代替案)』の全貌だった。

 

 そうであっても、英雄アムロ・レイという架空の存在が、少しでも誰かの役に立っているのなら、誇らしくはなくとも喜ばしくはある。何にせよ弱っちい僕にとっては過ぎた役回りだよ。

 

 だけど、こんな僕にだってできることはある。

 

「シズク。ホノカ。敵襲だ。準備はいいか」

 

《それはこっちのセリフです。マスター》とAI支援機(ロイロイ)のシズクがいつものように答える。

 

オツム()の準備はいいかなっ? あっ間違えたっ。オムツの準備はいいかなっ? マスター♪》とAI支援機のホノカもいつも通りに答えた。

 

 僕の頼れるパートナーたちは相変わらずだ。シズクの性格は、AIらしさが残るクールな皮肉家。ホノカの性格は、AIらしさのかけらもない快活な毒舌家。いまは4本の脚部とスラスターの微噴射を巧みに使い、2機がクラゲのようにして僕の機体の周囲を漂っている。

 

 ふん、中東での僕と同じだと思うなよ、ホノカ。宇宙服のなかで漏らすと一大事だからオムツはMサイズでバッチリさ。

 

「少し遠いけれど、ここから撃つよ。目標は友軍輸送機に接近する3機のポルタノヴァ宇宙仕様機。武装だけを破壊して無力化させる。ターゲットは輸送機に近いものから優先で対応。照準制御を、最終安全装置を残して支援AIに譲渡」

 

《イエス、マスター。IFF(敵味方識別)データ照合。目標設定完了。照準制御の譲渡を確認》

 

「敵はいつにも増して高速で動いている。制御は追いつくかい?」

 

《 《愚問です(No problem)。マスター》 》

 

 シズクとホノカは、そう心強い言葉を残すとターゲットを補足すべく、推進剤を噴射させて急加速して散開した。

 

 僕はエグザマクスの肩部にマウントされた小型レールガンを構えさせる。小型とはいっても、その砲身はエグザマクスの全長と同じくらいに長大だ。

 

 レールガンは高威力だけれど、駆動に大電力を消費する。おまけにチャージに時間がかかるため連射できないのが難点だけれど、空気による抵抗がない宇宙で使用なら消費電力および充電時間を大きく抑えられる。おまけに炸薬を用いないため備蓄安全性も高い。レールガンは宇宙で使用するのに都合がいい武器だった。

 

 僕にはジェイクやエイミーのような狙撃は逆立ちしたってできない。けれど引き金を引くことはできる。対して、AIであるシズクとホノカは、相手がバイロン軍であっても人間に直接危害を加えることは、いまだ国際法で認められていない。けれど、照準を合わせることはできる。

 

 AIのシズクとホノカが正確に照準を合わせて、人間である僕が責任を以て引き金を引く。それによって可能になる。AI自動照準による超精密狙撃が僕のできる唯一の攻撃手段だ。

 

 2機による2座標点ステレオカメラの高精度照準に加え、シズクとホノカ2機ぶんの演算処理能力によって弾道計算と敵動作を高精度で予測した偏差射撃で、どれだけ離れていようが、どれだけ速く動こうが、相手が三次元軌道をしている限り狙いを外さない。配置についたシズクから声が届く。

 

《マスター。一射目は弾道計算のための捨て撃ちです》

 

わかってる( I know )

 

《準備はよろしいですか。Raedy___Fire》「Fire」

 

 最大望遠でも、まだ小人のようにしか見えない敵機に向けて、反復しながら言われるがままにトリガーを引く。発射と同時に背面のスラスターが噴射されて強烈な発射反動を打ち消した。

 

 電磁力で加速された弾頭はうっすらと輝くプラズマの尾を引いて一直線にポルタノヴァの部隊中央に向かう。しかし、こちらの初手は、予定どおり敵ポルタノヴァに当たるどころかかすり(・・・)もしない。

 

 白と灰のツートンに配色された敵機には、これまで何度か襲撃を受けているから勝手知ったりだ。

 

 ポルタノヴァ宇宙仕様機は推力方向を自在に可変できる大型バックパックを背負い宇宙での機動力を確保していた。無用の脚部は陸戦用のポルタノヴァよりも細長い簡易的なものに置き換えられ、機体にかかる慣性モーメント制御が容易になるよう改良されている。

 

 上半身のボリュームに対して下半身が華奢で、初めて見たときにはロボットらしからぬそのアンバランス感によって化け物じみた印象を抱かせられた。とはいえ基本性能は陸戦用のポルタノヴァと変わらない。ただし、高威力のビームキヤノンには要注意だ。一応、左腕の近距離武器(ハサミ)にも。

 

《弾道情報を取得中。惑星引力・空間電磁気力・発射反動・銃器個体差による弾道予測データを最適化。照準補正完了。次弾装填。電力チャージ完了まであと40秒》

 

 レーザーで計測した敵機までの相対距離は、おおよそ15,000km。輸送機は減速中であるものの、まだ第二宇宙速度を越える速度を保っている。それは時速にしておよそ4万km以上。それに追従する敵機の速度も同様だ。広大な宇宙での戦闘は地球とはまるでスケールが違う。

 

 大気による速度減衰がないうえ、音速の10倍以上で発射されるレールガンであっても、トリガーが適切なタイミングからミリ秒でもズレれば絶対に当たらない。けれど、シズクとホノカが最初の一発で距離や重力の影響はもちろん、対象が光学的に視認される極小の誤差や通信遅延までを計測したうえ、敵機のベクトルを予測して照準を絞る。

 

 そして、これは機密情報扱いで内緒なのだけれども、宇宙戦闘の超長距離狙撃用に制御系にも改修が加えられている。以前とは異なり、トリガータイミングすらシズクとホノカが制御するようになったため、これはもはやAIの自動狙撃だ。僕がトリガーを引く行為は、ただの発射許可にすぎない。

 

 つまり射撃補正が完了した2射目以降は、シズクとホノカの演算予測内であれば、適当なタイミングでトリガーを引こうと、たとえターゲットが3万km先の彼方から飛来しようと、第二宇宙速度から急減速しようと、勝手に当たるということだ。

 

《マスター、射撃準備が整いました。Raedy___Fire》「Fire」

僕は復唱してトリガーを引く。

 

 二射目は、ポルタノヴァが持つ長大なビームキャノンの砲身を正確に貫き、その内部砲身ため込まれたエネルギーを発散させて光球が瞬く。

 

命中(hit)》とシズクが狙撃成功を報告する。

 

 専務に命じられていたわけではないけれど、可能な限りコックピットは避けて攻撃する。エイミーはそんな僕にも「甘い」と言って噛みつく。「その甘さが味方を殺すのよ」とも。

 

 それはわかっている。けれど、あの中には専務と同じようなバイロン人が乗っていることを僕は知っている。戦時下であっても、異星人であったとしても、人殺しはしたくない。とはいえ、武器を失えば撃たれるのもまた自明だ。また、航行能力を失っても命に関わる。宇宙ではわずかな機体のトラブルでも死に直結する。

 

 僕がしているのは優しさでもなんでもない。単なる保身だ。どうせ死んでしまうのなら、苦しまないように、いっそひと思いにコックピットを狙い撃つほうがまだ慈悲深い行いだといえるだろう。それもわかっている。だけど。それでも。

 

《電力チャージ完了。3射目です。Raedy___Fire》「Fire」

 

 3射目はコンテナに攻撃を加えようとしていた1機の右前腕部を貫き攻撃能力を奪う。バランスを失った敵機は、挙動を乱して軌道を変えた。《命中(hit)

 

 そこへ輸送機と敵部隊がいる宙域に到達したエイミーが追い打ちをかける。敵機はコックピットを射抜かれたようで、動きを止めたまま慣性に従って宇宙を流れていった。

 

 彼女は高い機体速度を維持したままその脇をすり抜け、すぐさま旋回し、もう1機のポルタノヴァのコックピットへ向けて正確に射撃を行う。まるで僕に見せつけるかのように。一瞬火線が瞬くと2機目も完全に動きを止めた。

 

 彼女の舌打ちが聞こえた気がした。よけいな手間をかけさせるなと。軍人だけあって彼女の攻撃には一切の容赦がない。彼女はAIによる照準補正などのサポートは受けてはいない。僕なんかとは違う、本物の実力だ。

 

 残り1機。

 

 眼前を動き回る幾何学模様のロックオンマーカーが、最後の敵機を捉えるように追従する。シズクとホノカが人間では到底不可能な量の計算を行い、照準を絞り込む。照門を示すマーカーと、照星マーカーが重なりかけたその瞬間___。

 

《別方向から敵部隊接近! β機、迎撃してください》

 

 オペレーターの鋭い声が響くと同時に、周辺に動体反応を捉えた索敵システムが、電子音をまき散らして警告を発する。僕はトリガーから指を離して、報告された方向を振り仰ぐ。

 

 敵増援。120度近く振り返った遥か宇宙の彼方に、大きな点が一つ現れ、それが4つに分裂した。先ほどと同型のポルタノヴァ宇宙仕様がさらに3機。もう一つは輸送用のキャリアか何かだろう。視界のなかで3つの点が除々に大きくなってくる。

 

 動体マーカーの横に記された敵機との相対距離は約2万km。このままの速度で襲来すれば到達予測は約3分後。僕はHUD上の数値を冷静に読み取る。この窮地でもパニックを起こさないでいられるのは、頼れる相棒たちがいるからだ。

 

「シズク、ホノカ。目標変更。増援の敵機を迎え撃つ」

 

《イエス。マスター》僕の指示に、シズクとホノカが増援機を捉えるのに最適な位置へと移動を開始する。

 

 レールガンは1発撃つのに40秒かかる。3分間で最大4発。けれど敵は接近しているのだから、近づかれるまでに3発も撃てればいいところだ。

 

 3機の武装を破壊して無力化できたとしても、船を危険にさらしてしまう。敵が予備兵装を持っていたとしたらアウトだ。僕一人の力では太刀打ちできない。エイミーが、輸送機側の残り1機をしとめて、こちらに向かってきても迎撃には間に合わないだろう。

 

 この船は戦争を終わらせる要だ。絶対に落とさせるわけにはいかない。確実に足を止めさせる必要がある。なら、残る手段は。

 

 僕を生かすためにバイロン軍に殺されたアマギ隊長とサニー・バニーの二人を想う。これまで自責の念は覚えても、復讐心は芽生えなかった。もちろん接近中の敵が殺したわけではない。けれど、彼らバイロン軍が地球に来なかったらアマギ隊長とサニー・バニーは死なずにすんだ。

 

 いっそのこと、バイロン人が僕らと同じヒト型ではなく、気持ち悪い異形の宇宙人だったなら、迷うことなく引き金を引けたのに。

 

「撃つしかないのか」

 

 コックピットを。自然と呼吸が荒くなる。

 

 ターゲットマーカーを睨みつつも焦燥感に駆られ、僕は思わず「チッ(tut)」と舌を鳴らしていた。

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