ハイっ!こちら営業部『サイラス私設傭兵部隊』課【30mm非公式小説】   作:あきてくと

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第3話 サイラス私設防衛部隊2(キャラクター紹介2)

 6畳間くらいしかないの狭いキッチンダイニング兼ブリーフィングルームの壁にかけてある時計を見あげると、現在の時刻は午後7:00の少し前だった。

 

 気づけば1時間ほど経っていた。僕は食事の後そのままダイニングに居残り、テーブルの上にラップトップを広げて今日の戦闘の報告書をまとめていた。

 

 カミオンには狭いながらもデスク付きの自室が用意されているが、この時間は隣室のサニー・バニーがラップミュージックを大音量で垂れ流しているから集中できない。対して、ダイニング内に響く音は料理担当の王・泰然(ワン タイラン)が鳴らす食器や調理器具のぶつかる音と、独特な中国音楽の鼻歌だけだ。

 

 僕らテストパイロットたちの食事が片づけられたテーブルには、新たな食事が用意されている。メニューは同じく、ホブスと呼ばれる薄い平焼きパンと、レンズ豆を使ったレンティルスープとマトンチョップだ。これは時間をずらして食事を採る、残りのサイラス私設傭兵部隊員であるメカニック2人のぶんの食事だ。

 

 戦闘があるごとに本社に提出するように指示されている報告書には、戦闘後の機体の状態も載せなければならない。僕はダイニングで仕事を片づけながらエグザマクスの整備を終えたメカニックたちが食事を取りにくるのを待っていた。報告書はあらかた完成し、残すはメカニックたちからの報告を記載するのみだった。

 

 それとは別に、戦闘の様子を捉えた画像や動画を選定する仕事もあるが、こちらは大した労力ではない。僕の機体にもう一機備わる支援AI機「ホノカ」が戦場を自律稼働して撮影した画像や動画のなかから、明らかに使えないもの以外を本社広報課のサーバーにアップロードするだけの簡単な作業だ。本社に送った画像や動画は社内資料として広告や顧客へのプレゼンテーションに使われる。

 

 その画像のなかの数枚に写ったアメリカ第9海外派遣中隊( ナインズ )の機影が目に入って、僕は思わず身震いした。

 

 ナインズはアメリカ軍に所属するエグザマクス部隊だけあって、彼らの操縦技術のレベルは非常に高い。なかでも空戦仕様の敵隊長機は、第2世代機と第3世代機の性能差がありながらも、これまでアマギ隊長と互角にわたりあってきた実力の持ち主だ。他の機もサニー・バニーやアーニャやジェイクと互角とまでは言わないけれども、幾度となく戦いながらも大破させるに至ったのは1機もない。

 

 これまで9機が一度に攻撃を仕掛けてきたことはなかったが、もし全機が一斉に攻撃を仕掛けてきたら、歴戦の傭兵たちであっても無傷ではすまないだろう___。

 

 そのとき外から聞こえたエグザマクスの稼働音に驚き、僕は身を強ばらせる。

 

 しかし、すぐさま落ち着きを取り戻す。これは第3世代機の稼働音だ。今日の夜間警邏はジェイクだったはずだ。彼が周辺警備に向かうところなのだろう。ということは、もうすぐ整備作業を終えたメカニック達が食事を採りにやってくるはずだ。

 

 ちなみに、僕は警邏のシフトには組み込まれていない。僕が警邏しても役に立たないからだ。僕がエグザマクスで警備するよりなら、監視カメラの方がいい仕事をすると自信をもって言える。恥ずかしいけれど。

 

 

 急に天井の照明が遮られ、手元が暗くなる。同時にコーヒーのいい香りがした。王・泰然(ワン タイラン)がテーブルの脇に立ち、湯気が立ち上るコーヒーカップを差し出してくれた。見上げた彼の顔には、相変わらずお面のように硬質な笑顔が浮かんでいる。

 

「いつもありがとう。(ワン)

 

 僕のお礼に、彼は満足げにうなずくと、僕の肩を2度軽く叩いて厨房へ引っ込んで行った。僕は王・泰然(ワン タイラン)と毎日顔を合わせているけれど、彼とは話したことがない。そればかりか表情を変えるのを見ることさえ稀だ。

 

 半年ほど前、(ワン)が試しにつくったアラビックコーヒーを試飲した際、あまりのマズさに吐き出してしまったときがあった。そのとき一度だけ見せた(ワン)の悲しげな表情が思い出された。今日のはもちろん普通のコーヒーだ。

 

 よくわからない人だけれど、いつもの食事はもちろん、いつも差し入れてくれる(ワン)が淹れたコーヒーは絶品だった。僕はこのコーヒーが(ワン)からの激励だと勝手に思っていただいている。

 

 

「あ、レイ。お疲れッス」

 

 ドアが開かれ、ツナギ姿の若いメカニックが部屋に入ってくる。メカニックのひとりの下條ハルト。年齢は僕よりひとつ下の23歳。サイラス専属のメカニックで、「です」の代わりに「ッス」をつけるが口癖だ。

 

 それに続いて部屋に入ってきたのがサイラス私設傭兵部隊のチーフメカニックである川崎 重工(カワサキシゲノリ)さん。カワサキさんは、アマギ隊長と海上自衛隊の同期のメカニックだったらしく年齢も隊長と同じ34歳。隊長と並んで、部隊の頼れるアニキ的な存在だ。

 

 2人とも砂漠の強い日差しに焼かれ、黒々と日焼けをしている。カミオンでの整備はほぼ屋外作業だから、その点ではパイロットよりも大変だ。

 

 メカニックの2人はテーブルに就くと、手の平を合わせて「(ワン)、いただきます(ッス)」と挨拶をする。王・泰然(ワン タイラン)は相変わらず作り物のような笑顔を浮かべながら食事を見守っていた。カワサキさんは食事をしながらいつもの通り、こちらがなにも聞かなくてもエグザマクスの状態を報告し始める。

 

「今日の戦闘でのアマギ機とジェイク機とサニー・バニー機の損傷はごく軽微だ。アーニャ機も損傷はほとんどないが、アクチュエーターベアリングの磨耗が激しくて右肩部を交換した。左腕と脚部も、もう1・2戦もすれば交換が必要になるだろう」

 

「え、またですか? 先々月に交換したばかりじゃ」

 

「アーニャは機を動かしすぎるんだ。他のメンバーよりも1.5倍は消耗ペースが早い。パーツは2日後に到着予定の定期便で補充されるが、先行きが心配だ。次回の定期便でさらに追加を頼む。発注リストはあとでまとめておく」

 

「わかりました」

 

 サイラス私設傭兵部隊が必要とするエグザマクス用の保守部品やスペアパーツ、保存食料や日用品などの補給物資は日本からの定期船で送られてくる。弾薬は特殊なものでなければ現地調達だ。

 

 しかし、日本から中東までの船便は約2カ月かかるため、余裕をもって発注しなければならない。おまけに積載量が限られるカミオンには必要最低限の物資しか蓄えられず、物資の在庫管理は隊全体の生命線とも言える。拠点港の倉庫を借りてパーツをストックしてはあるが、現地までの移送にも時間がかかるためイレギュラーな損耗はできる限り避けたかった。

 

 アーニャは近距離白兵戦機として機体を酷使するため、関節機構の劣化が特別早い。先月のナインズとの戦闘も劣化を早めた原因かもしれない。交換したパーツは本社に送り返して劣化サンプルにするが、アーニャのエグザマクスの使い方は特殊でサンプルには向かないかもしれない。

 

「サニー・バニーが、無限軌道式脚部(タンクユニット)はグレイトでオーサムでブリリアントでエクセレントだと言っていましたよ。仕上がりは問題ないようです」

 

 カワサキさんは、羊肉を咀嚼しながら真顔でうなずく。笑ってくれることを期待したけれど、思ったよりウケが悪い。

 

「それと、隊長の機体のコックピットに飛行ユニットを独立制御する操縦桿は増設できますかね」

 

隊長(シロー)にも同じことを言われていたがね。改装はここでもできるが、制御プログラムが問題だ。ゼロから制御プログラムを組むのは本社のシステム課に回さなければできないな」

 

 「そうですか___」僕は、話を聞きながらカワサキさんとの会話をラップトップを使ってメモをとる。アーニャとジェイクの新装備に対する文句(クレーム)は本社案件になるため、彼らに伝える必要はなかった。

 

「わかりました。ありがとうございます。じゃあ僕は機体ログデータの吸い出しにかからせてもらいますので。ごゆっくり」

 

「あ、レイの機体は問題ないッスよ。まるで新品同様ッス」

 

 ハルトが屈託ない笑みを浮かべながら、皮肉とも受け取れる発言をする。片手には食べかけのマトンチョップ( 羊肉 )が握られている。

 

 それはどうも。

 

 とはいえ、そんな僕にも利用価値はなくはない。各パーツがモジュール交換・共用できるエグザマクスの運用において、パーツをローテーションさせて各機の負荷を分散させるのは基本だ。とくに積載量に余裕がないカミオンでの運用では、僕の機体は独立して移動可能な良品パーツストックとして重宝する。恥ずかしいけれど。

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