ハイっ!こちら営業部『サイラス私設傭兵部隊』課【30mm非公式小説】   作:あきてくと

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中東砂漠の戦闘編
第6話 出撃(各機体紹介)


 このあたりは比較的海が近いから、早朝は砂漠でも霧が立つ。そして、敵は霧に紛れて現れた。

 

 付近の砂漠に設置してある監視装置が作動し、アーニャを除く隊員全員を叩き起こす。動体センサーが反応して、監視装置が一斉に作動した。しかし、赤外線カメラはかすかなもや(・・)しか映し出さない。

 

 光学カメラはあたりが暗くてほとんど役にたたなかったが、明け方のかすかな光源が手伝って一瞬だけ敵機影を捉えた。それは僕らサイラス私設傭兵部隊を執拗につけまわす『アメリカ第9海外派遣中隊( ナインズ )』の機体だった。

 

 夜中にジェイクと警備を交代していたアーニャはすでに単身臨戦態勢だ。けれど朝方の砂漠には濃い霧が立ちこめて敵機を視認することすら難しい。無論、プロの傭兵であるアーニャは、この状況では僕ら援軍が到着するまで無茶な行動は絶対にしない。僕らはすぐさまカミオン脇に待機させてあるエグザマクスに搭乗し、アーニャの援護と敵機の迎撃に向かう。

 

 まず、空戦仕様のエグザマクスに搭乗するアマギ隊長が上空から先行し状況を確認するのが部隊の常套戦術だ。

 

 オレンジがベースカラーのアマギ機は、飛行ユニットの翼となる白いウィングスタビライザーを展開させると、背面から延びる二対のブースターユニットの偏向機動テストを行う。同時に各部の姿勢制御用ノズルも断続的に瞬く。両先端のから断続的に赤い炎のようなプラズマを吹き出させると、それが徐々に収束し青白く安定したガストーチのような炎に変わった。

 

 アマギ機の武装は両肩から突き出たショートライフルと、右腕に装備した小振りのサブマシンガンのみ。空中での機動性と援護性能を両立させた結果の武器選定だ。

 

《アマギ機、先行して出るぞ》

 

 刹那おいてブースト炎は爆発的に膨張し、30t超もの大質量を霧の遥か上空まで弾き飛ばす。高速度で飛ぶエグザマクスの空気抵抗が霧をかき分け、プラズマジェットの推力が霧を散らす。その一瞬だけ早朝の紺色の空が望めた。

 

 

畜生(shit!)。前がぜんぜん見えねぇ。暗視カメラに切り替える》

 

 隊長に続いて、追加装甲によるずんぐりした形状と、砂漠の砂に溶け込むブラウンカラーのエグザマクスを駆るサニー・バニーが、無限軌道式脚部(タンクユニット)を駆動させ地上を進軍する。サニー・バニーが乗り込むのは中距離砲撃機だ。右腕にバズーカ、左腕にガトリングガンを担ぎ、さらに両肩にもロケット砲が突き出している。

 

 

《いくら私でも、赤外線探知で遠距離狙撃はできんぞ》

 

 その後を追うように、突き出た形状の狙撃用カメラアイスコープを頭部に備えるジェイク機が、大型シールドと長大なバレル(砲身)の新型アンチマテリアルライフルを携えて前進する。隠密性の高いダークグレーに塗装されたジェイク機は、まだ夜が明けきらない濃霧のなかに溶け込むように消えた。

 

 そして、僕も出る。

 

 僕のエグザマクスは、真っ白で何の変哲もないただの標準機だ。右腕に装備するのは、これまた何の変哲もない100mm口径のスタンダードライフル。僕が搭乗する機体は何の特徴もカスタマイズもされていないただのエグザマクスだった。だけど、僕の武器はこれ(ライフル)じゃない。

 

「シズク。ホノカ。出撃だ。準備はいいか」

 

《それはこっちのセリフです。マスター》とAI支援機のシズクが答える。

 

《オムツの準備はいいかなっ? あ、間違えたっ。オツム()の準備はいいかなっ? マスター♪》とAI支援機のホノカが答える。

 

 「シズク」と「ホノカ」は戦術支援AIの固有名称であり、同時に僕の機体に備わる4足歩行型のAI自律式小型支援機の呼称だ。

 

 正式名称は『Researchr-Observer-Yaeger』といい、『調査・監視用猟兵』と訳される。その頭文字をとって『R.O.Y.』の開発コードネームがつけられ、サイラス社内ではもっぱら『RoyーRoy(ロイロイ)』という愛称で呼ばれているけれど、部隊で運用するにあたって僕がもっとも呼びやすい名前をつけた。

 

 この2機のロイロイは、ハードウェア的にもソフトウェア的にもまったく同じ機能と性能を持つが、疑似人格プログラムが自己学習を繰り返した結果、まったく異なる性質のAIに変化した。そして、いつの間にかシズクは主に周辺警戒の索敵機および僕のサポートAIを担当し、ホノカは主に広報写真および動画の自律稼働撮影機としての機能に落ち着いた。

 

 名前をつけたのが原因かもしれない。名は体を表す。個人の『名前』は人格に大きく関わる要素だ。同じ遺伝子と、同じ環境と、同じ顔を持つ一卵性双生児であっても、名前が異なることで受け取る情報が異なる。置かれる環境が異なる。それによって性格も異なる。そしてそれはAIにとっても同じようだ。名前を与えることで個性が生まれる。

 

 シズクの性格は、AIらしさが残るクールな皮肉家。ホノカの性格は、AIらしさの欠片もない快活な毒舌家だ。とくにホノカの方は演算能力の大半を会話に注いでいるのではないかと思うほどよくしゃべる。AIに性別はないが、音声が聞き取りやすいように女性の音声設定にしてあるから、まとめて『彼女たち』と呼ぶ。

 

 彼女たちの機体に攻撃能力はない。代わりに、その索敵性能と人間よりも桁違いに速い計算能力が彼女たちの武器であると同時に、僕がもっとも頼りとするものだ。

 

《マスターの体内から微量のアルコール反応が検知されます。お気をつけください。そうでなくとも、マスターが戦況に及ぼす影響は0.05%未満でノンアルコール飲料並ですが》

 

《キャー、マスターが飲酒運転で逮捕されちゃうっ! でも、ぜんぜんノープロブレム♪》

 

 彼女たちの機体は、これから遊びに出かける子供たちのように、僕のエグザマクスの周りをグルグル、ワイワイ、キャッキャと徘徊する。いまでは馴れ馴れしいくらいだ。彼女たちは僕が頼りにする相棒ではあるけれど、最近はやや疎ましくすら感じられる。

 

 そのとき、先行したアマギ隊長から部隊全員に向けて通信が届いた。

 

《こちらアマギ。上空からの地上はまるで霧の海だ。搭載されたレーダーはほとんど機能せず、どういうわけか敵は赤外線探知にも反応しない。だが、対空放火は微々たるものだ。おそらくエグザマクス3機から5機あたりの編成だと思われる。こちらは反政府軍の戦車部隊に援護飽和攻撃を要請した___おっと》

 

 隊長の声が途切れ、通信からは発破音が届く。おそらく撃たれたのだ。しかしすぐさま声が聞こえて安心する。

 

《___問題ない。続いて各個指示。サニーはアーニャと合流して敵影を捉え次第攻撃。だが、無茶はするな。戦車の砲撃が開始されるまでの足止めでいい。ジェイクは後方からサニーとアーニャを援護。ただし、この霧だ。味方にだけは当てるなよ。レイは後方で待機。索敵機で敵情報を集めて全員に報告。ならびに戦車部隊の展開が完了したら砲撃座標を指示してやれ。以上だ。全員、死ぬなよ》

 

《 《 《了解(Yes.sir.) 》 》 》

 

了解(Yes.sir.)___ホノカ、今日は広報写真の撮影よりも索敵を優先とする。シズクと連携して敵の正確な数と位置情報を収集してくれ」

 

《 《イエス。マスター(Yes.Muster.) 》 》

 

 僕の指示を受けたシズクとホノカの2機が4足歩行のちょこまかとした動きで霧の中に消えていく。全高3mメートル足らずのロイロイは敵に発見されづらい。ましてやこの霧ならなおさらだ。うまくすれば霧を味方につけられるかもしれない。とはいえ相手はナインズだ。おまけに赤外線カメラで姿を視認できないときている。油断はできない。

 

 アマギ隊長は防戦に徹して霧が消えるのを待つ腹積もりだろう。しかし、太陽が登り、気温が上がり始めるまであと1時間はある。幸いだったのは、敵の数がそれほど多くないことだ。霧が晴れて敵が目視できるようになれば、(僕を除けば)生え抜きの傭兵集団であるサイラス私設傭兵部隊は負けない。

 

 視界が利かない霧のなかで敵の進軍をどれだけ抑えられるかがポイントだ。そしてシズクとホノカが報告する索敵情報がその鍵になる。僕は重要な役割を担うことになる。もっとも、僕はただのメッセンジャーでしかないけれど。自分のふがいなさにため息が出る。

 

 霧か___。

 

 眼前は依然として濃い霧に包まれている。夜が明け切る前だから目の前は灰色一色だ。ライフルを握った右腕を構えてみても砲身の先端は霞んで見えない。視界距離はわずか10m足らずといったところか。

 

 僕はコンソールを操作して、視界を暗視カメラ映像に切り替える。霧が消え、やや緑がかったモノクローム映像が地面の砂と周囲の岩肌の陰影を映し出す。カミオンに目をやると、動力源の39リッターの∨型12気筒ディーゼルエンジンが発する熱量が白で表示され、その存在を浮き彫りにした。

 

 しかし、敵は赤外線カメラに映らないらしい。ナインズは、なにか特殊な技術を用いているのだろうか。おまけにレーダーの反応も悪い。この『戦場の霧(不確定要素)』さえどうにかできれば。

 

 霧とは、つまりは大量の水蒸気だ。水蒸気を消すには、熱を与えて完全に気化させる方法と、風で吹き飛ばす方法とがある。確か、燃料を燃やして霧消しに用いる方法も以前何かで読んだことがある。隊長に上空から燃料を散布してもらって燃やすとか? もしくは戦術レベルの大型爆弾で霧を吹き飛ばすとか? 到底現実的ではない。他に考えうるのは___。

 

「レイからカミオンへ。ハルト、たしか焼夷弾があったよね?」

 

《カミオンからレイ機へ。ランチャーに装填された状態であるッスよ》

 

「霧を消すのに焼夷弾は使えるかな」

 

《炎の周りと、その直上ぐらいは消せると思うッスけど、広範囲は無理ッスよ》

 

「___一応装備して行く。武器保管庫のハッチを開けてくれ」

 

《了解ッス》

 

 ハルトがすぐさまカミオン側面のハッチを開け、僕はそこから焼夷弾が装填された円筒形のランチャーパックを左腕でつかみ上げる。

 

 エグザマクス用に開発された武装類は専用プロトコルで近距離相互通信が行われ、装備可能な武装を自動認識する。僕のヘルメットバイザーに映るHUD上には、ランチャーパックのアイコンと残弾数が追加され、アクティブ状態になったことをグリーン表示で告げる。

 

「装備完了。サンキュー、ハルト」

 

 さてと。僕も出撃する。怖いな。相手はナインズだ。おまけに、視界は利かない。レーダーも利かない。正直、怖くて仕方がない。

 

 意思とは無関係に、両手足が小刻みに震える。まるで自身の身体じゃないみたいだ。

 

 僕はそれらを払拭するために、小さく息を吸い込む。そして鋭く言葉を放つ。

 

「___安室 玲(アムロ レイ)。エグザマクス、行きまーす!」

 

 本名は発したくなかったけれど、僕は自身の緊張をほぐす意味を込めて、某ロボットアニメの主人公を真似た出撃合図を出す。

 

 通信越しに、ハルトが少しだけ笑いながら《レイ、気をつけてッス》と言うのが聞こえた。

 

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