ハイっ!こちら営業部『サイラス私設傭兵部隊』課【30mm非公式小説】   作:あきてくと

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第7話 戦場の霧(霧の戦闘)

クソっ(dude.)。こっちは敵が見えてねぇってのに、向こうにこっちは丸見えってのは反則だろ》

 

《サニー、ロケットだ。爆風で霧を飛ばすんだよ》

 

《つったって、敵が見えねぇのに、どこを狙えってんだよ》

 

《どこでもいいよっ。とにかく撃ちな! 敵を捉えたらアタシが突っ込むから》

 

《おいおい、姉さんよ( アーニャ )。隊長は無茶するなって言ってただろう?》

 

《アンタは、いつからそんな腰抜けになったんだい》

 

《お前こそもうちょっと女らしく振る舞えねぇのか》

 

《うるさいねぇ。アタシに女らしく振る舞うのを期待してるのかい?》

 

ああすまん(I'm sorry.)じゃじゃ馬姉さん( shrew Anya )は、性別を間違えて生まれてきちまったんだっけか》

 

《はぁ? アンタこそなんだい、そもそもサニー・バニー(陽気なウサギちゃん)って名前は。アンタのツラでウサギちゃん? アンタはサニー・コング(元気なゴリラ)の方がお似合いだよ》

 

 通信機からはアーニャとサニー・バニーがのやりとりする声だけが聞こえてくる。アーニャとサニー・バニーを組ませるといつもこんな調子だ。これが日常茶飯事だから、あえて誰も何も言わない。

 

 そんなことよりも、戦況は思った以上に悪い。光学カメラの視界を遮るこの濃い霧と赤外線カメラに映らない特殊な敵よって、こちらは一方的な防戦に追い込まれている。

 

 数十mある砂丘の頂点に立って、僕はようやく霧のなかから抜け出せた。

 

 隊長が言ったように砂漠は本当に霧の海のようだ。霧の海からは離れ小島のように点々と砂丘の頂点部だけが露出している。辺りはまだ暗く、空には星の瞬きがはっきりと視認できる。地平の先はようやく顔を出した太陽によって東雲色に染まりはじめていた。

 

 斜め前方の砂丘の上にはジェイクがライフルを構えて待機していた。けれど、どうにも撃ちあぐねているようだ。霧のせいで目標が捕捉できないでいるのだろう。ジェイクが向けるライフルの先には、アーニャとサニー・バニーと敵機がいるはずだけれど、敵の姿はおろか味方機の姿も深い霧に遮られて視認できなかった。

 

 時折、霧の中が雷雲のように光る。または爆発して霧の海にぽっかりと穴が空く。しかし、空いた穴はすぐさま周りの霧が埋めつくす。あの辺りに敵がいるのは確実なのだけれど、もしかしたら味方かもしれないから下手な攻撃は加えられない。

 

 上空を旋回するアマギ隊長が高度を下げると、霧のなかから対空放火が巻き上がった。隊長はそれらを機敏な動きで回避し、火線が上がった箇所にすぐさま反撃を加える。同時にジェイクもそこへ向けて狙撃を試みる。しかし、霧の下に潜む敵機に命中した様子はなかった。

 

 見えない敵を相手にするのは容易ではない。頼みの綱は索敵に向かったシズクとホノカだけだ。AIである彼女たちとはいえ、この濃霧のなかで赤外線探知できない敵を探すのは苦労しているようだ。ずいぶんと時間がかかっている。

 

 そう思った矢先、索敵に向かったシズクとホノカから通信が入った。

 

《___支援機シズクおよびホノカから各機へ通達。仮称ボギー01を光学カメラで補足しました。位置座標20°97’5.22”N:52°82’24.0”E。北北東方向へ毎秒5mで移動中》

 

 シズクとホノカは敵1体の居場所を突き止め、その位置座標を伝える。その通信を聞いたジェイクは、指定された座標の方向へ銃口を向け、数字だけを頼りに見えない目標への狙撃を敢行する。

 

 音速の数倍の速度で撃ち出されたライフル弾が霧の海に穴を穿ち、その奥へと飲み込まれるが敵機に命中した気配はなかった。しかし、それでも牽制としては十分だ。こちらにも向こうの位置が把握できていることを知らせれば、敵は警戒して侵攻を遅らせざるを得なくなるはずだ。

 

《続いて、ボギー02を補足。位置座標20°97’4.52”N:52°82’47.1”E。西方向へ毎秒3mで移動中》

 

 シズクとホノカが視界が悪い霧の砂漠を総当たり的に走査し、敵影を捉えては接近し、互いの位置から三角測量を用いて敵機の正確な座標位置を割り出す。その情報をもとに、再びジェイクがその座標へ狙撃を行う。

 

 それを繰り返すこと4回。どうやら敵は4機編成のようだ。シズクとホノカはさらに『正体不明機(ボギー)』と仮称された01から04までの位置座標を計測しては断続的かつ継続的に送り続け、その度にジェイクが狙撃を試みる。

 

 僕のHUD上に浮かぶエリアマップには、シズクとホノカが報告した座標にマーキングが追加されていく。ボギー01から04各機の単位時間あたりの座標点が記録され、それらが連なることで連続した点が線に変わり、敵の移動進路が把握できた。これで視界が利かないなかでも、おおよその現在位置が予測できるようになる。

 

 位置情報にタイムラグがあったとしても、視界が利かないなかでの正確な敵位置は貴重な情報だ。現にジェイクが狙撃をしてから敵の動きが変わった。敵の各機は警戒のために散開するように動き、侵攻速度を緩めたようだ。

 

 敵座標位置計測のついでに、敵の武装などを捉えた画像もホノカが送りつけてくれる。敵機は4機すべてがエグザマクスの全身が隠れるほどの盾を装備していた。あの大盾が赤外線カメラに映らないための特殊兵装なのだろうか。僕はホノカが送ってくれた敵の武装などの情報も簡潔に味方機に伝えた。

 

《マスター。敵機の分析結果をお伝えします。敵機は赤外線を放射しておりません。機体表面と大型シールドに酸化ニッケルサマリウム・コートか、それに相当する特殊外装または塗料などが用いられてていると考えられます》

 

「ニッケルサマ___? なにか解決策はあるか」

 

《特殊機能を持った外装に損傷を与えれば、敵機の隠密性は著しく低下すると思われます》

 

 シズクが淡々と敵情報を告げる。しかし、姿が見えなければ損傷を与えるどころの話ではない。敵の詳細がわかったとはいえ、戦況をひっくり返すにはほど遠かった。

 

 そうこうしているうちに、朝日が昇り砂漠に日が射す。

 

 太陽が半分ほど顔を出した。空は雲ひとつなく、まだ星が見えるくらいの濃い青色だ。砂漠を覆う霧は、朝日に照らされてその全体が眩しいくらいのオレンジ色に輝きだす。

 

 霧の表面は複雑にうねり、その影が光のコントラストを浮き立たせる。僕はその美しい光景に思わず息を飲んだ。目が覚めて、ここが天国だと言われれば僕は間違いなく信じるだろう。

 

 もしかしたら、僕はいつのまにか撃破されて死んでしまったのではないかと疑念さえ抱いてしまう。それくらい幻想的な光景だ。戦闘中でなければ、時間を忘れてこの光景に見入ってしまう。

 

《砲撃はまだかい。真っ白でなんにも見えやしないよ!》

 

くそったれ(shit!)。被弾した!!》

 

 アーニャとサニー・バニーが霧のなかで叫ぶ。霧の上とは対象的に、朝日が昇るほど霧のなかでは太陽光が乱反射して視界がきかなくなるようだ。

 

 反政府軍の部隊展開も遅れている。日が昇るにつれて状況は悪くなる一方だ。このままでは気温が上がって霧が晴れるまで保たない。僕は隊長に通信を入れて、一か八かのアイデアを具申する。

 

「隊長。焼夷弾を試してみたいと思います。炎の壁をつくれば、敵の侵攻の足止めになるし、もしかしたら霧を薄められるかもしれません」

 

《わかった。___アーニャ、サニー。シズクとホノカもジェイクの位置まで一時後退しろ。レイがなにかやる》

 

 僕は意を決してエグザマクスに左腕のランチャーを構えさせる。HUD上に幾何学模様の照準マーカーが現れ、放物線軌道の二次関数を自動計算して着弾予想箇所を僕に知らせる。しかし、敵に当てるわけじゃないから精密な照準はいらない。敵機の進行方向を塞ぐように、等間隔に打ち出すだけだ。

 

《アーニャ機、後退完了》《サニー機、後退完了》

《 《マスター、後退完了しました》 》

 

 僕はシズクとホノカが収集したデータをもとに、敵進路上と思われる位置へ着弾するように照準を合わせて左手でトリガーを引く。

 

 まず1発。小気味良い音を立ててランチャーから発射された弾頭は放物線を描いて霧の中へ消える。少しだけ照準を横にずらしてもう1発。さらにもう1発___。

 

 焼夷弾が地面に着弾した様子は霧に隠れて見えないけれど、弾頭に仕込まれたゲル状の可燃性液体が一帯に広がって発火し、すぐさま燃え上がった炎が霧を赤く染め上げる。8発全弾を発射すると、狙い通り敵の進路を阻む炎の壁ができあがった。

 

 煌々と燃える炎が放つ光は霧で拡散され、あたり一面を赤々と照らす。完全に顔を出した太陽も手伝って、まるで海のなかが燃えているような不思議な光景をつくり出した。

 

 炎周辺の霧は熱によって次第に薄まり、燃えさかる炎が直接視認されるようになった。だけど、その代わりに黒々とした煙が巻き上がる。しまった、霧を消すのだけに気を取られて、煙の存在をすっかり忘れていた。けれど、その隙間から大盾を持った敵機影がちらりと覗く。

 

「ジェイク、敵を捉えられるかい」

 

チッ(tut.)。今度は煙が邪魔だ》ジェイクは吐き捨てるように言うが、何とか狙撃を試みようと照準を合わせ込んでいる。

 

 僕はハッとひらめき、とっさに叫ぶ。

 

「隊長!かき回して!」

 

《___そういうことか》

 

 濃い青色の空を旋回していたアマギ隊長はすぐさま機を急降下させる。

 

 朝日を反射させて輝きながら全速で急降下する隊長のエグザマクスは、翼の先端から雲を引かせながら、霧の海に飛び込む直前で一気に機首を持ち上げる。通信からは、強烈な重力加速度に耐えるための独特な隊長の息づかいが聞こえた。そして、そのまま一直線上に延びる炎の上を舐めるようにアプローチを試みる。

 

 さらに隊長は僕の意図を正確に汲み取り、煙と霧と熱気を攪拌(かくはん)させるように機体を錐揉みさせながら飛ぶ。そして、仕上げと言わんばかりに、機体が音速に達すると轟音とともに衝撃波(ソニックブーム)が発生して、煙もろとも辺りの霧が欠き消えた。敵機とともに、一帯の地面が露わになった。

 

「ジェイク!」僕は叫ぶ。

 

《イエス。クリアだ》

 

 ジェイクは2km弱離れた敵機に照準に捉え、一呼吸おいてライフルを放つ。ガンともギンとも似つかない音をともなって徹甲弾が敵機の装甲板を貫く音がこちらまで届いた。

 

 引き続き、ジェイクはテンポよく照準を合わせてライフルを放つ。新型アンチマテリアルライフルの発射音からわずか遅れて硬質な音が早朝の砂漠に響きわたる。ジェイクは合計4回引き金を引いた。

 

《تم التنسيب》

 

 ちょうどそのときアラブ語で通信が入った。反政府軍の戦車部隊も部隊展開を完了したことを告げる。僕は味方の全機に向けて呼びかける。

 

「これより戦車による飽和攻撃を開始します。エグザマクス各機散開して後退。___シズク、戦車部隊にアラブ語に翻訳して指示を伝達。『炎の奥側に向けて砲撃開始。撃てッ』」

 

《بإطلاق نار باتجاه مؤخرة اللهب

 

أطلق النار》

 

 その号令とともに、遥か後方から無数の砲弾がオレンジ色の曳光を引きながら飛来する。少し遅れて乾いた発射音が連続してこちらまで届いた。前線から脇に離れた砂丘の上に陣取る僕からは、まだ濃い青色の空を背景に流星群が緩い弧を描いて飛翔するように見えた。不謹慎にも、僕はこの光景がきれいだと思った。

 

 砲弾は焼夷弾によって燃えさかる砂漠の奥側一帯の広範囲に渡って着弾し、爆炎と砂柱を無数に巻き上げる。およそ30秒間に渡る戦車砲の一斉斉射によって、砂漠には灰色の煙が濛々と立ち上った

 

《レイ、もういい。砲撃をやめさせろ》

 

「シズク、翻訳。『撃ち方やめ!』」

 

《توقف عن إطلاق النار》

 

 一帯の霧は完全に吹き飛び、焼けた砂から煙がくすぶり細く立ち上る。その隙間から小破した4機が後退する様子が見えた。

 

隊長(cap.)、追うかい?》

 

《___いや、放っておけ》

 

《霧はやっかいだったけど、手応えがなかったね。ナインズなかでも、下位の連中じゃないかい。少なくともアイツら(TOP3)はいなかった》

 

 アーニャが言うように、全9機で編成されるナインズの部隊は実力によって上位と下位に分けられている。上位のなかでも、そのTOP3はサイラス私設傭兵部隊の面々と互角に渡り合う実力を持っている。

 

 No.1の隊長機は、アマギ隊長と同じ空戦機で、No.2はアーニャと同じ近接白兵戦機。No.3はジェイクと同じ狙撃機だ。今回襲撃を行った部隊のなかにはそれらに該当する機はいなかった。彼らとはいつかは決着をつけることになるだろう。ナインズとは今後も長いつき合いになりそうだ。もっとも、僕が直接戦うわけではないのだけれど。

 

 僕は砂丘の上から辺りの景色を見渡す。太陽が完全に顔を出し、外気温はぐんぐんと上昇する。それに従って辺りの霧も薄らいできて、一面砂に覆われた砂漠の日常風景が露わになる。そういえば僕はこの戦闘中、一歩もこの砂丘の上から動いていなかった。

 

《マスター》

 

 シズクが僕に呼びかける。

 

「どうした? 言っておくが、今日は漏らしていないぞ」

 

 僕は誇らしげに返す。

 

《ボギー05を補足。位置座標20°96’4.11”N:52°85’30.1”E。マスターの方向へ向かって高速移動中です。会敵まで10秒》

 

 ん? ボギー05?? 敵は4機じゃ___。

 

 突如、僕の足下の霧を突き破って何かが飛び出した。

 

 すぐ目の前に大きな盾とを構えた人影が、外側に向かって反り返った真っ黒な砲口を僕に突きつける。僕は悲鳴を上げているつもりはないのだけれど、頭の中には僕の声で「あー」という音が反響している。僕は反射的にエグザマクスを後退させる。

 

 その間も僕の目は、奈落の底を思わせる砲口に釘付けになっている。その奥から何かが飛び出してくる。ほんの一瞬の出来事のはずなのにあらゆる点が精細かつ鮮明に捉えられたが現実味は一切ない。

 

 無重力感が身体を襲う。同時に爆音が耳をつんざく。目の前を何かが下から上にかけて猛烈な勢いで飛び去った。空が見えたと思ったら目の前が白くなった。訳が分からない。その後の軽い衝撃で僕は状況を理解した。

 

 砂丘の頂点で後退した僕の機体脚部は地面を捉えきれずに後ろにひっくり返った。おかげで至近距離からの砲撃を回避できた。しかし、僕はそのまま地上30mほどある砂丘の傾斜をなすすべもなく滑り落ち、霧のなかに没する。

 

 心臓が壊れたのではないかというほど強く脈動している。必死で起きあがろうともがくものの、機体はのたうち回るだけでなかなか起きあがらない。足に力が入らない。腰が完全にぬけていた。

 

 その後、発破音やら金属音やらが頭上から鳴り響いたかと思ったら、とたんに静かになった。心臓はまだバクバクいっている。

 

 視界をうっすら覆う霧のなかにぬっとエグザマクスの頭部が現れる。僕はまたしても悲鳴を上げる。悲鳴を上げながら、自分の悲鳴がうるさいと感じる。けれども悲鳴は止めることができない。

 

《落ち着け俺だ。サニーだ。別動の機がいたようだ。奴はジェイクの狙撃と隊長の攻撃で蜂の巣になってるぜ》

 

 僕はそれを聞いて脱力した。思わず深く息を吐き出す。

 

《それにしても、今回はお手柄だったな。『出来の悪い弟』から、『ちょっと出来の悪い弟』に昇格させてやる》

 

ありがとう( Thanks.)サニー・バニー(Sunny. )」僕は上がった息を整えながらも、不服な調子を装って返す。

 

《とはいえ、本日の敢闘賞は間違いなくレイだな》隊長が賞賛してくれる。

 

《シズクとホノカもいい仕事をしたぞ》ジェイクが珍しく他人を褒めた。

 

《あーあ、今回の夜間警備は散々だったよ。早く眠らせておくれ》夜間警邏担当だったアーニャが大きなあくびをしながら言った。

 

《さて、カミオンに戻って朝飯にしようぜ》サニー・バニーがいつもの調子で言う。

 

「シズク、ホノカ。帰投するぞ___」

 

 

 

 

 

 あれ? 返答がない。まさか、流れ弾にでも当たったのだろうか。僕は心配になって再度呼びかける。

 

「___シズク? ホノカ?」

 

 

 

 

 

《シズクおよびホノカより各機に通達。新たに敵影を検知しました。エグザマクス20機。そのうち4機は『アメリカ第9海外派遣部隊( ナインズ )』と断定。さらに、戦車10、戦闘車両8、戦闘ヘリ3の接近を確認。現在包囲されつつあります》

 

 は?

 

 カメラを望遠に切り替えて遠方を見やる。霧が完全に晴れ、気温が上がりはじめた砂漠の向こうには、陽炎のように揺らぐ無数の巨大な人影と、地面が動いているように見えるほどの大部隊が砂煙を上げて進軍する様子が映った。

 

 どうやら霧とナインズの5機は、大部隊の進軍準備を整えるための目くらましだったらしい。

 

オーマイガッ( Oh my God. )》と誰かが言った。

 

 

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