ハイっ!こちら営業部『サイラス私設傭兵部隊』課【30mm非公式小説】   作:あきてくと

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第8話 アメリカ第9海外派遣中隊( ナインズ )(包囲網突破)

《アマギからカミオンへ。(ワン)、ワカサキ、ハルト聞こえるか。政府軍の大部隊が接近している。お前たちは完全に包囲される前に全車撤退だ。補給定期船が到着する港へ向かう連絡道路まで退避しろ。___万が一の場合は、そのまま乗船して日本へ帰還することも覚悟してくれ》

 

《 《了解(ッス)》 》とカワサキさんとハルトがあわてた声で返事をする。

 

 アマギ隊長は、我々の依頼主である反政府軍のオブザーバーとの短い通信を済ませた後、まずカミオンに撤退命令を下した。

 

 索敵支援機(ロイロイ)であるシズクとホノカの報告どおり、現在こちらには政府軍の大部隊が包囲網を敷きながら迫りつつある。ナインズ5機による濃霧に紛れた襲撃は、どうやら政府軍が侵攻準備を整えるための目くらましだったらしい。

 

 敵は戦車10輌、戦闘車両8輌、戦闘ヘリ3機、エグザマクス20機の大部隊だ。そのうち4機は『アメリカ第9海外派遣中隊( ナインズ )』のエグザマクスで、それらもすべて出撃してこちらに向かっている。

 

 それに対して、反政府軍側の戦力は、僕らサイラス私設傭兵部隊のエグザマクス4機(+1機。もちろん僕のことだ)と、すでに展開中の戦車部隊がおよそ10輌。さらなる増援があるにせよ、反政府軍はエグザマクスを1機も保有していなかった。

 

 唯一の救いは、後方が山岳地帯であるため、後ろから敵進軍がないことだ。よって敵は正面と両翼からしか侵攻できない。しかし、渓谷の入り口を突破されれば反政府軍の拠点まではほぼ一直線だ。ここを死守できるかどうかが、この戦争の勝敗を分けることになる。

 

 アマギ隊長はそれらの情報を考慮し、サイラス私設傭兵部隊の面々に指示を出す。

 

《___さて、どうやら絶体絶命の大ピンチというやつらしい。政府軍はエグザマクス4機編成の小隊を5つに分け、こちらを包囲しようとしている。これらを東側から時計回りにA・B・C・D・E部隊と仮称する。中央やや後方のC部隊がナインズ4機だ。

 

  反政府軍のオブザーバーは、我々にナインズの動きを抑えろと言っている。だが、正面からナインズを抑えたとしても、政府軍は残りの部隊で十分に反政府拠点を制圧できるだけの戦力を投入してきている。 そこで、こちらから先手を打つ。

 

 まず東から来るA・B部隊を速やかに殲滅するとともに、我々の補給の生命線であるカミオンの離脱ルートを確保する。ナインズは、これまでの経緯から必ず我々に真っ向勝負を挑んでくるだろう。ナインズとの交戦が始まれば、西側のD・E部隊はこちらを無視して反政府軍の拠点制圧に動くだろうが、それらは反政府軍の防衛部隊にまかせる。

 

 足が速い空戦仕様のナインズ隊長機は俺が抑えよう。No.2は間違いなくアーニャに白兵戦を挑んで来るだろう。ジェイクはNo.3の狙撃機に決して撃たせるな。奴らは極力東側に抑えつけておけ。

 

 サニーは残る1機のナインズの迎撃と、余力があれば防衛戦車部隊と合流して侵攻本隊の迎撃を頼む。以上が作戦だ。真正面からぶつかるよりは遥かに有利と踏んだ判断だが、異論は?》

 

《まあ、最善策だろうな》ジェイクが納得した。

 

その時はその時( At that time. )だぜ。隊長(cap.)》サニー・バニーが気楽に言う。

 

《あと心配なのは___》

 

 アーニャの言葉とともに、全員が一斉に僕のほうにカメラアイを向けた。全員がナインズの迎撃に当たれば、防衛主力は僕が担当せざるをえない。僕は覚悟を決める。けれども気持ちとは裏腹に身体は言うことを聞かない。足の震えが止まらなかった。

 

《レイは最終防衛ラインの守備を___いや、うーん、レイはどうするか。レイは___カミオンに随伴して護衛を頼む。ただし、決して不用意に撃つんじゃないぞ。敵に狙われるからな》

 

 意外な指示に拍子が抜けた。僕がいても役に立たないのはわかっている。むしろ邪魔になるだけだ。いや、王・泰然(ワン タイラン)とワカサキさんとハルトが運転をするカミオンを守るのだって立派な仕事だ。むしろ、わずかとはいえ迷ってくれてただけありがたい。

 

了解(Yes.sir.)」僕は気張って返事をする。

 

《これでなんの心配もなく暴れられるね》アーニャが心底嬉しそうに言った。

 

《やれやれ、過保護にもほどがあるんじゃないのか》ジェイクが棘のある言葉を放つ。

 

《ひとり頭1.25人分働けばいいだけの話だろう。0.25じゃ、ちと多いな。ひとり頭1.1人分くらいか?》サニー・バニーがフォローしてくれけれども、その計算じゃ僕は半人前以下ということになる。《カミオンを頼むぜ。飯と寝床がなくなっちまったら困るからな》とも付け加えられる。

 

《___よし、では》アマギ隊長が、押し寄せる敵部隊の方向へ向き直り、真っ白な背部飛行ユニットのウイングスタビライザーを展開させる。テール部分のスラスターに小さく炎が灯る。《第2ラウンド開始だ。いけるな》

 

《 《 《 《了解(Yes.sir.)》 》 》 》

 

 隊長が飛行ユニットから青白いプラズマジェットを吹き出して飛び上がると、サイラス私設防衛部隊の面々はそれを追うように地上を行く。

 

 アマギ隊長たちはカミオンの安全な脱出ルートを確保するために最大戦速で東へ向かった。僕はカミオンと合流するために一旦北へ戻る。

 

 索敵に出ていた支援機(ロイロイ)のシズクはこちらに呼び戻した。同じくもう1機のホノカには、隊長たちの索敵サポートと広報写真の撮影に専念するように指示したうえで、モニタリングしているの戦闘の様子を僕のHUD端にも表示させるようにした。

 

 前線に近い位置にいるホノカのカメラが捉えた映像には、陽炎のように揺らぐ無数の巨大な人影と、地面が動いているように見えるほどの大部隊が砂煙を上げて進軍する様が映っていた。僕は時折その映像に目を配りながら歩を進める。

 

 まもなくして3台連なって砂漠を走行するカミオンを視界正面に捉えた。同時に、機体の集音マイクが遠方での発破音と爆発音を捉える。隊長たちも会敵を果たしたようだ。僕はシズクとも合流し、カミオンの盾になるように併走しながら戦闘領域端を横切るように進む。

 

 カミオンと僕は進行方向の安全を確認しつつ、望遠カメラとホノカが送ってくる映像で戦況を確認しながら慎重に移動した。

 

 

 東から接近していた敵A部隊は、戦車が3輌とエグザマクス4機だ。前衛に戦車を配置し、後方に背高なエグザマクスを配置した陣形で迎撃を行なう。カメラでは捉えられないけれど機銃やミサイルで武装した戦闘車両もいるはずだ。

 

 幸いなことに、まだナインズの機影はない。彼らが現れたら歴戦の傭兵であるサイラス私設傭兵部隊でもかかりっきりになってしまう。ナインズが現れる前に左翼の侵攻部隊をできる限り叩いておかなければならない。

 

 日常生活ではチームワークの欠片もないサイラス私設傭兵部隊だけれど、戦闘になると緻密な連携を行う。彼らはプロだ。ろくに動作の確認もせずに阿吽(あうん)の呼吸で敵を屠っていく。

 

 まずサニー・バニーが無限軌道式脚部(タンクユニット)で高速移動しながら左腕のガトリングガンで弾幕を張り、上空からは空戦機のアマギ隊長が直上射撃ができない戦車を片っ端から両肩のショートライフルで撃ち抜く。

 

 残りの戦車が対空機銃を撒き上げ、敵のエグザマクスが対空砲火を放つが、隊長はすでに上空にはいない。ヒット&アウェイは空戦の常識だ。隊長は旋回して再び上空をパスしながら射撃を行う。上空に気を取られたエグザマクスは、敵陣に飛び込んだアーニャの振動ブレードによって腕やら脚やらが斬り飛ばされて無力化された。

 

 最後尾のジェイクは砲撃を受けづらい遠距離からの狙撃で、アーニャの援護をすべく確実に敵エグザマクスの武装や脚部を撃ち抜いていく。

 

 サイラス私設傭兵部隊はエグザマクスの胴部およびコックピットへの直接攻撃を極力避けるように周知されていた。そうする理由はふたつある。ひとつはエグザマクスの胴部は非常に強固であるため、破壊に時間がかかるからだ。それなら武装や手足を破壊して無力化したほうが手っ取り早い。

 

 もうひとつの理由は、エグザマクスの部品のなかで、もっとも高価な胴部や乗り手を失わせればエグザマクスの需要が減ってしまうからだ。エグザマクスの胴部が無事であれば補修用に腕部や脚部フレームが売れる。そして、パイロットがいるかぎりエグザマクスは売れ続ける。

 

 その代わり、戦車などの一般兵器はこの限りではない。エグザマクスと競合商品となる一般兵器は極力破壊し、エグザマクスへの買い換えを促す。

 

 それらは顧客のもったいないと思う(サンクコスト)心理を突いた嫌らしい営業手法だ。『武器実演販売チーム(死のセールスマン)』の異名を持つ僕らサイラス私設傭兵部隊の仕事は、大枠で捉えればルートセールスといえるだろう。事実、僕らはサイラス社内では営業部管轄であり、『サイラス営業部・サイラス私設傭兵部隊課』が正式な部署名だった。

 

 ただし、やっていることは悪徳セールスマン顔負けだ。自社が販売する商品を壊して回ることで、既存顧客の買い換えサイクルを早めさせるのだから。破壊されることが前提として扱われる戦闘兵器でしか成り立たない、きわめて強引かつ悪質な営業スタイルだ。

 

 おまけに、新規顧客を獲得するために圧倒的な強さで商品力の高さを見せつけながら壊す必要がある。政府軍が使っているのは第2世代機で、僕らが使っている機体は最新の第3世代機だ。基本的な構造は同じだとしても、プロトタイプの発展機といえる第2世代と、それを全面刷新した第3世代機とではインターフェースの感度や機体反応速度をはじめとするさまざまな部分が明らかに異なる。

 

 良く言えば独占開発メーカーの強み。悪く言えば卑怯者。言ってしまえば出来レースだ。けれど、そうまでしても勝利と営利を求められるのが僕らサイラス営業部・サイラス私設傭兵部隊課だ。個人的には少々やりすぎだとは思うけれど。

 

 もちろん、いくら敵に売るものだとしても不良品などは決して販売しない。クレームには応じるし、クーリングオフにもしっかり対応している。人使いの荒さと、やり口の汚さを除けばいたって優良企業だよ。サイラスは。

 

 

 真っ黒い戦闘ヘリ2機が上空から接近して対地ミサイルを放つが、サニー・バニーが放つ厚い弾幕がそれらを迎撃する。別方向からヘリに接近した隊長が空中をすれ違いざまに1機を撃ち落とし、ジェイクがもう1機を狙撃して落とした。1機あたり数十億円の最新戦闘ヘリが空中で爆散し、砂漠に破片をばらまく。ローターだけが竹トンボのように飛んでいった。

 

 近距離白兵戦機に搭乗するアーニャは敵の迎撃などものともせずに、増援で現れた敵B部隊のまっただ中に突っ込む。1輌あたり10億円ほどする戦車をジャンプ台のように踏みつけ、4機ものエグザマクスに単身頭上から襲いかかる。

 

 無茶に見えてもアーニャの動きは理にかなったものだ。同士撃ちを避けるために敵布陣の中央は意外と安全だったりする。おまけに政府軍所属と思われるエグザマクスは、不慣れなのかほとんど移動も回避もせず固定砲台のようにしか機能していない。動かなければ人型兵器の意味はないのに。政府軍はまだ、エグザマクスの効果的な使い方がわかっていない。

 

 人型巨大ロボットが兵器として優れているかといえば、決してそうではない。大きな図体は狙われやすいうえ、絶対的な火力では戦車に劣り、機動力ではヘリや戦闘機に劣る。その代わり、人型巨大ロボットは戦車にもヘリや戦闘機にも真似できない柔軟な機動性が最大の武器だ。それを活かさなければエグザマクスである意味がない。

 

 その点、サイラス私設傭兵部隊はエグザマクス製造メーカーの直系の傭兵部隊として一日どころではない長がある。エグザマクス黎明期ともいえる現在は、エグザマクスでの戦い方を知っているというだけで圧倒的なアドバンテージを持っていた。

 

 とはいえ、サイラス私設傭兵部隊の強さはメーカーとしての優位性や機体性能差だけではない。純粋に巧い。とくにアーニャの白兵戦における機体制御能力は抜群だった。搭乗する機体が第2世代機だったとしても他を圧倒する戦闘能力を発揮することだろう。僕にはアーニャがどのような思考でエグザマクスを操作しているのかまったく検討もつかない。

 

 ほかの面々も同様にエグザマクスを完璧に乗りこなしていた。元ヘリパイロットのアマギ隊長は、ただでさえ操作が難しい空戦機を自在に操りながら、上空から戦況を掌握して指揮を執る。

 

 イギリス機密諜報部MI6のスナイパーだったジェイクは、エグザマクスでも9割がたの超長距離精密射撃を成功させた。元アメリカ海兵隊のサニー・バニーは、重装歩兵として制圧射撃と援護射撃で場を支配する隊の中心人物だ。

 

 わずか10分足らずの戦闘で東側からの侵攻してきたA部隊とB部隊は壊滅状態だ。戦車は原型をとどめないほどに歪み、潰され、燃料に引火して炎と黒い煙を巻き上げている。ときおり加熱した砲弾が暴発して弾ける。それらもあって対戦車砲を積んだ戦闘車両は戦闘領域に近づけないるようだった。

 

 東側から侵攻していたA・B部隊合わせて8機ものエグザマクスは、ことごとく手足をもがれて行動不能にさせられ、ショートした破損個所から火花と細い煙を立ちのぼらせている。

 

《カミオン撤退コースクリア》

 

「了解。進路クリア」

 

 上空を旋回しながら戦況を確認したアマギ隊長が報告する。カミオンと僕らは悠々と戦闘があった脇をすり抜けることができた。

 

 局地戦闘に限定すればサイラスは、いち企業でありならがら現時点で世界最強の部隊を抱えていることになるだろう。けれどサイラスは、あくまでエグザマクス屋であって戦争屋ではない。餅は餅屋だ。彼らがエグザマクスで簡単には僕らに勝てないように、僕らも本気で戦争をしたなら本物の戦争屋には簡単に勝てるものではない。

 

 

 突如、衝撃波が戦場一帯を駆け抜けた。

 

 それに驚き、僕の思考は一瞬止まる。

 

 僕だけでなく、そこにいた全員が時間が止まったように動きを止めた。

 

 狙撃のようにも思えたが、どこにも着弾はしていないうえ、弾道すら捉えられなかった。なんだ、今のは。

 

「___シズク、今の現象を確認したか」

 

《イエス、マスター。超高速の小型質量体が一帯を通過しました。画像フレームから算出した速度は推定マッハ6。速度減衰から逆算した発射元までの距離は測定不能。弾体のサイズと予測質量から、該当兵器は小型レールガンと推測します》

 

超電磁投射砲(レールガン)!?」

 

 僕は思わず驚きの声を上げる。アメリカはすでに移動式のレールガンを配備しているのか。まさか、エグザマクスの内部バッテリーで発射可能なレールガンなのだろうか。

 

 レールガンとは、炸薬の代わりに電磁誘導を用いて弾体を撃ち出す火器だ。戦略レベルのレールガンなら発射初速はマッハ10を超え、射程距離はおよそ200kmにも達すると聞く。とてつもない弾速により照準に捉えられたら回避困難な必中兵器。ただし、発射するには原子力発電所相当の電力供給源が必要だ。

 

 シズクは『小型レールガン』と言った。威力が抑えられているとはいえ、もしアメリカ企業がエグザマクスで発射可能なレールガンの開発に成功したのなら、僕らの優位性をひっくり返しかねない。これが戦争屋の恐ろしさだ。資金にものを言わせた物量と武器開発力が戦争屋のもっとも恐るべき点だ。

 

 そして次に、シズクでもホノカでもアーニャでもない女性の声で通信が入る。

 

《___ごめんなさい、リーダー。外してしまいました》

 

 その通信は全周波数帯に向けて発信されていた。だからこの声はアマギ隊長たちにも聞こえている。声の主は、ナインズNo.3の狙撃手だ。どうやらレールガンを撃ったのは彼女のエグザマクスらしい。最悪の予測が現実のものになった。

 

 それに続いて、もっとも聞きたくない人物の声が聞こえてくる。

 

《OK、OK。気にするなエイミー。我々が行うのは、要するに( in short. )テストデータを収集するだけのつまらん仕事だ。退屈な仕事のなかの唯一の楽しみが減ってしまっては僕らが困る。そうだろう? シャルマ》

 

《その通りです。リーダー》

 

 来た。アメリカ軍が抱える精鋭テスト部隊『アメリカ第9海外派遣中隊( ナインズ )』の、さらに精鋭3機だ。

 

《あー、あー。ごきげんよう。( Have a nice day. )サイラス私設傭兵部隊の諸君。こちらナインズ・リーダー。ご存じ『ウィリアム・D・ホープ』こと『ショートホープ』だ。たった今、政府軍主力部隊と反政府軍防衛が交戦状態に入った。逃げるも増援を送るも好きにしていい。ただし、我々3機の相手だけはしてもらうがね》

 

 

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