ハイっ!こちら営業部『サイラス私設傭兵部隊』課【30mm非公式小説】   作:あきてくと

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第9話 勇気と狂気の違いは(命令無視)

《___ごめんなさい、リーダー。外してしまいました》

 

《OK、OK。気にするなエイミー。我々が行うのは、要するに(in short.)テストデータを収集するだけのつまらん仕事だ。退屈な仕事のなかの唯一の楽しみが減ってしまっては僕らが困る。そうだろう? シャルマ》

 

《その通りです。リーダー》

 

 来た。アメリカ軍が抱える精鋭テスト部隊アメリカ第9海外派遣部隊(ナインズ)の、さらに精鋭3機だ。

 

 さきほどレールガンで狙撃を行った女性はNo.3の『ダブルロック・エイミー』。どれほどの遠距離から撃ったのか、ここからでは機影が捉えられない。彼女の年齢は、僕の妹たちと同じ21歳だったはず。その若さでジェイクと同等の狙撃能力を有している。

 

 シャルマと呼ばれたのは白兵戦機を駆るNo.2の『アロン・シャルマ・ブリーダ』。彼は、傭兵民族と名高いネパール・グルカ族の戦士だ。遠方から、彼の搭乗するエグザマクスが真っ直ぐこちらへ向かって走ってくる。目標はおそらく同じ白兵戦機のアーニャだろう。

 

 そして、彼らを束ねるアメリカ第9海外派遣部隊のリーダー( ナインズ の No.1 )『ウィリアム・D・ホープ』が搭乗する空戦仕様のエグザマクスが陽光を反射させて空から迫る。

 

《相変わらず派手な登場だね。『ショートホープ』は。毎回このために準備してるのかねぇ》アーニャが通信であきれたようにぼやく。

 

 ナインズのリーダーが搭乗する機体後方からは、曲芸飛行をする飛行機のように赤・青・白3色の煙が尾を引いていた。もちろんそれはアメリカ国旗の色を表している。これが彼らナインズの毎度毎度の登場セレモニーだ。

 

《あー、あー。ごきげんよう。( Have a nice day. )サイラス私設傭兵部隊の諸君。こちらナインズ・リーダー。ご存じ『ウィリアム・D・ホープ』こと『ショートホープ』だ。たった今、政府軍主力部隊と反政府軍防衛が交戦状態に入った。逃げるも増援を送るも好きにしていい。ただし、我々3機の相手だけはしてもらうがね》

 

 上空を直進して向かってくるナインズのリーダー機を、サニー・バニーとジェイクとアマギ隊長が十字砲火(クロスファイア)で迎え撃つ。しかし、ショートホープは空中で踊るような高機動を見せつけながら、それらすべての火線を巧みに避けつつ戦場の上空を通過する。

 

 ショートホープが操る空戦機は3色のスモークを焚いたままだから、雲ひとつない砂漠の青空には煙の軌跡が残った。それを見て、僕は小さい頃に一度だけ見た航空ショーを思い出す。

 

 もちろん、ナインズリーダーが形成した煙の形に意味はない。あるとすれば、これは自国の偉大さを僕らに知らしめるためのメッセージだ。我々(アメリカ)の預かり知らぬところで勝手をするなという、サイラスに対しての。

 

《レイ、そっちへ行ったぞ》

 

 アマギ隊長たちの迎撃をたやすく突破したナインズのリーダーは、戦場を離れようとする僕とカミオンの方へ真っ直ぐに向かってくる。

 

 僕は慌ててエグザマクスにライフルを構えさせる。HUD上に投影された幾何学模様のターゲットマーカーが高速度で迫り来る敵機の熱源を捉えようと動き回るが、その間にも敵機は両腕に備わる2丁のライフルを構えながら距離を詰める。

 

 早く、早く、早くロックしろ。

 

 僕は焦心に駆られながら毒づくけれども、射撃システムのロックオン速度が早まることはない。

 

 ようやくターゲットマーカーが赤く点灯し、目前にまで迫った敵機をロックオンしたことをシステムが告げる。それと同時に僕はトリガーを引く。

 

 しかし、僕が放った弾丸は急上昇してかわされる。後には3色の煙だけが残り、風で流されて僕の視界を覆った。煙幕による目くらまし。いや、これはただの挑発だ。

 

 これまでの幾度となく戦闘して、僕らは彼がどのような人物か知っている。少なくとも僕らに対して目くらましなどという姑息な手は使わない。けれども彼は騎士道精神に溢れた男でもない。

 

 ナインズ・リーダーの『ウィリアム・D・ホープ』はニュースにもよく取り上げられるアメリカ軍部のスターだ。出生はアメリカ貴族の家系。その名残か、尊大な口調と態度が鼻につく。自分の能力に絶対的な自身を持っており、同じ空戦機に搭乗するアマギ隊長を勝手にライバル視している。

 

 『要するに(in short.)』が口癖で、誰がつけたのかは知らないが『ショート・ホープ(short hope)』のあだ名で呼ばれていた。彼の軍人としての能力と経歴は見事なものだけれど、その周囲を見下すような口調と多弁ぶりが品格を貶めている。『儚い希望(short hope)』のニックネームは的を得ているように思えてならない。

 

 ショートホープは再び上空に舞い上がり、尊大な態度でここにいる全員を見下すように告げる。

 

要するに(in short.)、この内戦の結果も、機体テストの結果も、僕たちにとってはどうでもいいのだよ。僕らは君たちと戦うこと自体が目的であり、なによりの楽しみなのさ。さあ、ミスターアマギ。そしてサイラス私設傭兵部隊の諸君。今日こそ決着をつけようか》

 

 

 さっきの挑発といい、その勝手な言い分といい、僕の胸の内には怒りの感情がわき上がる。僕は、彼らが仮に敵でなくとも好きになれない。遊びで戦争をする連中。戦闘狂。この惨劇が楽しみだって?

 

 砂漠のあちこちに立ち上る黒煙の下では、何人もの人間が死んでいる。もちろん。殺したのサイラス私設傭兵部隊だ。そして、僕もそれに属するうちのひとりだ。彼らを責められる立場にいないことはわかっている。

 

 けれど、エグザマクスでの戦闘を楽しむような言い草には我慢がならなかった。望んでもいないのに戦争をしている人間だって、少なくともここにひとりいるのだ。

 

 

《___予定通りショートホープは俺が抑える。アーニャはNo.2、ジェイクはNo.3の相手を。サニーは防衛ラインにまで移動して侵攻本隊の迎撃に》

 

 アマギ隊長が言葉短く指示を出した。サイラス私設傭兵部隊の面々はすぐさま散開して自らの仕事にとりかかる。

 

 隊長はショートホープに追従し空中で激しいドッグファイトを繰り広げる。アーニャは到着したアロン・シャルマとの白兵戦に突入した。ジェイクはレールガンによる狙撃を阻止するために、ダブルロック・エイミーが陣取る狙撃ポイントに向かい、サニー・バニーは反政府軍の援護に向かった。

 

 

 彼らはなぜ戦うのだろう。その先になにがあるというのだろう。僕はなぜここにいるのだろう。目の前の事象が引き潮のごとくフェードアウトしていくように感じられた。戦闘を傍観するだけの僕は、たったひとり砂漠に取り残されたような疎外感を覚える。

 

 この1年間、戦場に身を置きながらも僕は徹して傍観者だった。目の前で銃撃戦が行われようと、どこか他人事のように考えていた。いまのいまになって、この狂った現実にとてつもない違和感を覚える。

 

 彼らは、自分が死ぬことと、誰かを殺すことに対して恐怖を感じないのだろうか。戦争を生業として生きる戦士は、なぜ戦い続けられるのだろう。歴戦の勇者は感情が麻痺しているのだろうか。なぜ人を殺しているのに笑っていられるのだろうか。

 

 戦争が人を狂わせるのか。それとも狂った人間が戦争をするのか。では、狂気と勇気の違いはなんだ。

 

 自己防衛本能にあらがってまで危険に立ち向かう行為は勇気と呼んで賞賛される。自己を見誤ってまで自らの意志を貫く行為は狂気と呼んで卑下される。

 

 どちらも取得情報が制限され、著しく冷静な判断を欠いた状態だ。都合によって呼び名を変えるだけにすぎない。勇気と狂気は同じものだ。僕には戦争をしている彼ら全員が狂っているように見えた。

 

 けれども彼らにしてみれば、戦場にいて戦わない僕の方が狂って見えるのだろう。

 

 勇者で居続けるには強靱な精神力が必要だ。そして、強靱な精神を得るためには狂人になるのがもっとも手っ取り早い。

 

 僕は勇者にも狂人にもなりたいとは思わない。けれど戦場(ここ)にいる以上、身綺麗なままでいることも決してできない。

 

そして、こういった考えに至るのも、少なからず戦争の影響を受けているのだろう。

 

 このすべての理不尽に腹が立った。

 

 

「___レイからカミオンへ。カミオンはこのまま安全圏まで離脱して。僕も出撃します」

 

 

 僕にナインズの相手をすることはできない。けれど、僕だってサイラス私設傭兵部隊の一員として、この1年間を戦ってきたのだ。防衛ラインでの迎撃戦くらいはできるさ。

 

 民族紛争に端を発するこの戦争のどちら側にも思い入れする気にはなれない。けれど、どうしてもこの戦いに完全勝利して、ショートホープとナインズの連中にひと泡吹かせてやりたかった。

 

《ダメッスよ。レイが行ってもどうにもならないッスよ。カワサキさん、王・泰然(ワン タイラン)もレイを止めてくださいッス》メカニックのハルトが心配して僕の出撃を止める。

 

《レイ、おとなしくしていろ。アマギもそれは望むところではない》チーフメカニックの川崎重工(カワサキシゲノリ)さんも僕を止める。

 

「カワサキさん。隊長は判断に迷っていました。僕がもっと強ければ、戦況はもっと有利になっていたのに。ジェイクは、隊長のこの判断を僕に対する過保護だと言っていました。アーニャにとって僕はただのお荷物で、サニー・バニーは僕を護衛対象だと思っています。

 

 僕は逃げることしかできない。けれど、逃げ続けることはできないんです。いつかは戦わなくちゃいけないんです。それは今だと思います。僕だって、サイラス私設傭兵部隊の一員です」

 

《しかし___》

 

「いざとなったら『あれ』を使います」

 

 カワサキさんは何も言わなくなった。迷っているのか、もしくは僕を説得する言葉を探しているだけかもしれない。

 

 

《___レイ、覚悟があるなら行きなさい》

 

 カワサキさんの代わりに知らない人の声がした。思い当たるのは料理長の王・泰然(ワン タイラン)しかいない。

 

《後悔しないように行動しなさい。ただし、これだけは忘れてはいけない。自分で決めたことならば、何が起きても結果を受け入れなければいけないよ。現に君は今、私達にとてつもない心配をかけている事実を認識しているかね》

 

 王・泰然(ワン タイラン)の言葉に、僕はハッと息を飲み込む。

 

「ごめんなさい、(ワン)。カワサキさん。ハルト。けれど、僕は行きます」

 

《___なら、サニー・バニーにガトリングガンの弾倉を持っていってやれ。狙撃銃への換装も忘れるな。ハルト、武器庫のハッチを開けてやれ》

 

 ハルトの渋りを体現するかのように、武器庫カミオンのハッチがゆっくりと開く。

 

 

《___血気盛んな若者を戦地に差し向けるのは、いつになっても嫌なものだね》

 

 王・泰然(ワン タイラン)がその後に小さく続けた言葉は、出撃準備を進める僕の耳には聞こえていなかった。

 

 

   ◇ ◇ ◇

 

 

 僕は砂漠にタイヤの跡を残して遠のいていく3台のカミオンを見送った。もうすぐ先は非戦闘領域だ。現れるとしてもせいぜい野盗くらいのものだろう。

 

 遠くの背後からは発破音が地鳴りのように響いてくる。僕はこれから向かうべき戦場の方へ振り返る。

 

 砂で覆われた黄色い大地の先には、砂漠の高い青空を背景に幾筋もの黒い煙が立ち上っている。砂丘の合間からは時折赤黒い爆炎の片鱗が望めた。

 

 あの先は条理も道理も一切の意味をなさない、日常生活とはかけ離れた無秩序な世界だ。死んでも文句を言う事すらできない、死んだら骨すら残らない、力だけが支配する世界。

 

 もちろん恐怖心を完全に消すことはできない。けれども、いつもより恐怖は感じていない。

 

 闘争および逃走ホルモンと呼ばれるノルアドレナリンが興奮によって多量に分泌され、今の僕の無意識は闘争の方を選んだようだ。幸いなことに、その効果はまだ薄れていない。

 

 それでも僕は、いまさらながら僕の判断に対する客観的な意見が欲しくて、勇気や狂気などというイデオロギーのようなものとは無縁の存在であるパートナーに問う。

 

「___シズク、僕は狂っていると思うか?」

 

 AIである彼女は僕にこう答える。

 

《質問の意図を計りかねます。が、いつもよりやや興奮気味のようです》

 

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