このスケルトン共雑魚過ぎるよぉ! 無双するの気持ち良えー!
スケルトン共は動きもノロければ耐久も低いので一振りするだけでバラバラになっていく。カルシウム足りて無いんじゃないのぉ? しかも斬っても斬っても血が出たりもしないので返り血で服が汚れることも無いというエコな敵だ。素晴らしいな!
ということで調子に乗って俺はバキバキボキボキとスケルトン共を処理する作業に没頭する。気分はさながら人間フードプロセッサーである。なんか後ろから誰かが話しかけてきたような気もするけどそんなの無視して俺は進んでいた。そう、進んでしまったのだ。
「……いかん、迷った」
気が付けば周りには骨、骨、骨一色の景色。弟子達の姿なんて欠片も見えない。これははしゃぎ過ぎてはぐれましたね、間違いない。気分は夏祭りでテンションが上がって親とはぐれてしまった子ども。周りの雑魚に負ける気はしないけどそれはそれとして、雑魚処理に夢中になってはぐれるとかただでさえ底値打ってる俺の師匠としての株がストップ安になるやつでは? しかもアルシェとノルンがいない分はちょっと働くよとか言った直後にこれとかダサすぎません? いかん、どうにかして誤魔化す方法を考えねば!
とはいえ既に来た道なんかも分からない。どこ見ても骨だらけだし。いや、アルシェとノルンが向かったであろう塔があるじゃないか! どうせソーン達も向かって来るだろうし、先にあそこに辿り着いてさも最初から目指してましたよ感を出せばいける!
そうと決まれば話は早い。俺はスケルトンの壁の向こう側に見える塔目掛けて進軍を開始する。もちろんスケルトン程度が俺の歩みを止められる訳が無い。ふはは、道を開けろ雑魚共ぉ!
そういえばたまにスケルトンの中に混じってるまだ白骨化してないゾンビ状態のドワーフは何だ? レアキャラか? スケルトンよりは防御力が高いみたいだけど別に一撃で倒せることには変わりないから気にしてないけど。経験値的にはどっちの方が効率良いんですかね?
そんな感じでスケルトンスケルトン、時々ゾンビといった構成の雑魚を蹴散らしながらアルシェとノルンが向かったであろう塔の下にまで辿り着く。とはいえ中に入ることはしない。だって中じゃアルシェとノルンがボスと戦ってるんだろうし、俺は雑魚キャラ相手にしかイキれないんですぅ!
ということで塔の下でこっちに向かって来るスケルトンとゾンビを適当に始末し続けていると、気が付けば奴らは遠巻きにこっちを観察するだけになり、向かって来なくなった。なんで?
まあこっちに向かって来ないならこっちとしてはアルシェ達がボスを倒すのをのんびり待つだけで良いから楽なんですけどね。てかソーン達が遅い、遅くない? まあ数だけは多いしコルンとかリミィを守りながらってなると中々動き辛いんかね。
でもそろそろ手持ち無沙汰なんだよなぁ。と思っていたら俺の目の前に何かが降ってきた。スライムといい上から降ってくるタイプがちょくちょくいるの何なのさ。
よくよく見れば、スケルトンとは違ってちょっと肉が付いてるあたりゾンビだな? ドワーフのゾンビっぽいけど、他のゾンビとも違ってボロボロだけど兜やら鎧を身に付けてるし、左手に持ってる斧もちょっと豪華だし。てか右手が捥げてるのはどこかに落として来たんですかね?
そのゾンビは上から降ってきた直後だというのにゾンビにあるまじき俊敏さで俺から距離を取る。
「タンマツ、キエタ……コイツ、ガ……」
キェェアアアシャベッタァァァァァァ!?
なんとこのゾンビ喋った。ちょっと片言だし聞き取り辛いけど。ゾンビが喋るとかB級映画でも許されない展開ですよ!
ちょっと不気味なんで逃げるならさっさと逃げるかなんかしてくれませんかね?
「アノムラ、イキノコリ……オマエガ……」
やだ、話聞いてくれないわこのゾンビ。さては声は出せるけど鼓膜残って無いから何も聞こえてないな? どうせゾンビなんだから雑魚だろうし気持ち悪いからさっさと始末するか。
俺はよっこいせっと剣を構え直すと喋るゾンビに向かって歩く。ほーれほれ、俺は雑魚にはイキる系転生者だからな、どっからでも掛かって来なさい!
なんて余裕ぶっこいてたら思った以上の速さでこっちに突っ込んできたものだからチビりそうになった。そういやさっき結構素早く俺から距離取ってましたね! 数秒前のことすら忘れるなんて俺の馬鹿!
なんとか躱せたから良かったものの、驚くことに俺が振った剣も避けられてしまった。やだ、このゾンビちょっと強くない? いや、たかがゾンビ程度に避けられる俺が弱すぎるのか?
「イマ、イマシイ……!」
ボソボソと何か言ってるけれどさっさと当たれよぉ! さっきからちょこまかと逃げ回りやがってよぉ! 誉れは無いのか誉れはぁ!
というか気が付いたら遠巻きに俺を囲んでた他のスケルトンやらゾンビも参加してきやがって! 自分が有利な時しかイキれないのかお前らはぁ! この喋るゾンビはともかくお前らみたいな雑魚だったら別に気にならないんじゃい!
でも厄介なことにスケルトンや他のゾンビに紛れて攻撃してくるもんだから鬱陶しいことこの上ない。肉壁ならぬ骨壁にすぐ隠れやがるから攻撃も届かないし。まあいい、そっちがそのつもりならその骨壁全て磨り潰してやんよ! スライム、ゴブリンと順調に倒してレベルアップしてきた俺を舐めるなよ? 多分経験値的にははじまりの町を出て二個目くらいの町には辿り着いた程度のレベルにはなってるはずだからな!
ムキになってスケルトンと他のゾンビを蹴散らしていると、お喋りゾンビが他のゾンビを倒されるたびにちょっと辛そうによろめいているのに気が付いた。あ、もしかしてこのゾンビってギミック的なやつですか? もしかして君ってギミックボスだったりするの? 単体じゃ弱いけどギミックなんとかしないと倒せない系のボスじゃん、君。
「師匠!」
「遅くなった!」
そんなところに駆けつけて来たのがアルシェとノルン。ちょうど良いところに来てくれましたねぇ! ちょっとあのお喋りゾンビは任せたぞ! 俺は他のゾンビ殴っとくから!
俺は面倒なお喋りゾンビの相手を体良く白黒双子に押し付けると、他のゾンビとスケルトンを粉砕する作業に入る。どんなギミックかは検討もつかないけどとりあえずゾンビを倒しまくればあのお喋りゾンビも弱体化するだろ! そんな見切り発車でゾンビを始末し続けていると、
「ヤメ、ロ!」
「いい加減、しつこい!」
「くたばれ」
そんな声と共に兜を被った頭が宙に舞うのが見えた。お、ギミック解除出来て双子がボス倒してくれましたね、これは。ところでこのスケルトンとゾンビはいつになったら活動停止するんですかね? もうボス倒したよ?
そう思っていたら俺の目の前に立っているゾンビに、何か変な生き物がへばりついたのが見えた。何コイツ? とりあえずズバッとな。ゾンビの首を跳ね飛ばすときに飛んで来た変な生き物も巻き込むように斬り飛ばす。よくよく見ると蝙蝠みたいな見た目してるね君。蝙蝠にしては目の数とか耳の数が多すぎるし頭が妙にデカくてキモイ見た目してるけど。あれ、そういや妙に周りが静かだな。見渡してみるとスケルトンとゾンビが活動停止して地面に崩れ落ちていた。あ、ようやくボス倒してギミック解除ですかね?
「師匠、終わった」
「助けに来てくれてありがとう」
俺が一息ついていると、双子がそう言いながら俺の下にやってくる。
助けに? ああ、うんそうね! 助けに来たんですよ! よく見抜いたね、キミタチ。
迷っただけなんだけど良い感じに株が上がってる気がするので否定はしない。よし、そのまま俺の株を上げ続けて見逃してくれよな!
実は二人を助ける為に来たんだという言い訳でノックス達から逸れた理由付けをしよう。多分追いつかれたら怒られそうだし。なんか言われたら弁護してね?
そんな意味を込めて二人の頭を撫でておく。ホント、頼みます。
「ところで師匠、さっきの小人族の死体からこんなものを見つけた」
俺が両手に溢れる祈りを籠めて二人を撫でていると、ノルンがそう言って俺に何かを差し出してくる。何これ、本?
受け取ってみれば、ボロボロの革装丁の本。パラパラと捲ってみれば、よく分からない文字がひたすらつらつらと綴られていた。うん、読めん!
でも双子がじっと見ているので読めないなんて言い出せるわけも無く、じっくりと一ページずつ読んでいるフリをして時間を稼ぐ。早く来てくれぇ! インテリ担当のノックスにライネル!
というか文字の感じ的に手書きだろうし、これってあのゾンビ君の日記帳か何かでは? 死後にゾンビにされた上に生前の日記帳まで晒されるとか散々だな、あのゾンビ。唯一の救いは俺がこの文字を読めないことだけど。多分インテリ担当の二人だったら読めるだろうし、そうなったら内容教えてもらおう。ドワーフの黒歴史とか書いてないかな。
なんて思いながらパラパラ捲っていたらページが終わってしまった。マズい! 時間稼ぎが出来なくなってしまったじゃないか!
「師匠、何が書いてあったの?」
「難しい顔してた」
難しい顔してたのはホントに一文字たりとも読めない難しい本だったからなんだよ! 何が書いてあった? およそ文字だろうなとしか分からない未知の言語だよ!
ただこれを正直に言ってしまうと先ほど上がっただろう株がまた底値を打つことは確定しているので何とか誤魔化さねばなるまい。ま、まあ他人の日記帳の内容とかあんまり人に言うことじゃないから秘密ってことで。もう死んじゃってる人をこれ以上辱めるのもあんまり良くないしね? そういうことにしときましょうや。
そう言って何とか誤魔化していると、やや離れたところから俺達を呼ぶ声。振り返ってみれば、ソーン達がこっちに向かって走って来ていた。ようやく来たか、お前らが遅いから誤魔化すのに苦労したんだぞ(責任転嫁)。
「師匠、急に逸れてしまったから焦りました!」
開口一番シャーレイにそう詰め寄られる。ウン、ゴメンネ。そういえば君って騎士だったね。そういう集団行動とかに厳しそうだもんね。一回りは年下の子に怒られる情けない転生者は私です。
「シャーレイ、師匠は私達を助けに来てくれた」
「考え無しに逸れたわけじゃない」
ただ、そこに助け舟を出してくれたのは先ほど株を上げた双子。そうそう、ちゃんと二人を助けるという目的があったんですよ。でもね、ノルン、考え無しに逸れたわけじゃないってフォローは要らないと思うんだ。ちょっと俺の心に刺さるよ、その言葉。
「そういうことでしたか……。あの、コルン。なんでそんなに引っ張るのです!」
「離れろ、雌猫」
「どうして私ばかり!?」
シャーレイは双子の言葉に納得してくれたのか退いてくれた、というかコルンが引き剥がしてくれた。よくやった、忠犬。
あ、ノックスにライネル君や、さっきこんな本拾ったんで渡しとくね。中身? ……まあ読んでみたら良いんじゃないですかね。
「これは、小人族の言葉ですね」
「歴史書や古文書の中にしか無い言葉だな。学者達の話を聞いていて良かった」
弟子達の中でもインテリ担当である二人はやはり中身を読めるようであーだこーだ言いながらパラパラと本を捲っている。なんか黒歴史的なエピソードあったら教えてくださいね? 日記帳だったら後ろから読んだ方が良くない? 後ろの方が大人になってからだし恥ずかしいエピソード書いてたりしそうじゃん?
そう言うと二人はそれもそうかと納得して最後のページに目を通していたが、先ほどまで好奇心に輝いていたその表情は徐々に曇っていき、最後は神妙な顔になってパタリと本を閉じた。
「なるほど、これ以上は今ここで読むべきでは無いでしょう」
そう言って懐に本をしまったノックス。え、そんなにえげつない黒歴史でも書いてあったんです?
「師匠はこの中身に目を通されたので?」
え!? ……あー、いや、まあ一応、ね? うん、目を通したよ。読んだとは言ってないけど。
ライネルの質問にしどろもどろにならないように何とか取り繕って返す。なんてクリティカルな質問をしてきやがる……。俺はただドワーフの黒歴史とかが知りたいだけだったのに!
「そうですか……。いえ、行きましょう。この手記に抜け穴の記載がありました」
俺の答えに納得したのかしていないのか、ノックスはそう言うとスタスタと塔の中に入って行ってしまう。ちょっと、何が書いてあったのかくらい教えてくれても良いんじゃないです? そう思ってノックスを後ろから追いかける。
「なあオヤジ、あの本には何て書いてあったんだよ?」
そんな俺を後ろから追いかけて来たロクシスが聞いて来るが、俺もそれを知りたいからノックスを追いかけてるんじゃい! とは流石に言えないのでどうお茶を濁したものか。(他人の黒歴史を)そう暴き立てるようなもんじゃないですよ。まあ俺は嬉々として暴こうとしてるんですけどね!
「ノルン」
「分かってる、アルシェ。コイツが多分そう」
隣にいるアルシェに返し、私達は剣を構える。
師匠に言われた通りに塔を目指せば、その最上部に一体だけ、他とは気配の違う死体があった。
下にいるような骨とは違う、まだ肉の残った身体。それだけなら下にも少しはいたけれど、一番違うのは顔だ。
こっちを見て、腐りかけた頬の隙間から歯をむき出しにしてニタニタと笑っている。心底愉快そうに、まったくもって不愉快な表情だ。
「キタ、キタ……ニクブクロ……」
「コイツ、喋った!?」
驚いたことに死体が私達の解する言語を話し出した。背格好からしてこの死体は小人族だから魔物じゃない。ただ、その死体を操っているのは魔物のはずだ。その何かが只人の言葉を解している。町で対峙した小鬼は私達には理解できない唸り声しか発しなかった。これまで出会ってきた魔物もそう。魔物がそもそも言葉を持っているとは思わなかったし、何より私達の言葉を理解しているなんてのは予想もしていなかった。
「シロトクロ……アノムラノイキノコリ。ツカマエソコネタ……イマナラジャマ、ハイラナイ……」
「あの村……?」
「コイツ、まさか……!」
まるで私達を知っているような口ぶり。あの村の生き残りと言われて、私達の脳裏に浮かぶのは私達が師匠と出会った日のこと。魔狼に襲われ、焼けた村と、その魔狼をボロボロになりながらも討伐した師匠。
何故それをコイツが知っているのか。捕まえ損ねたとは何を指しているのか、気になることは山ほどある。コイツから聞き出したいことも。だけど、
「アルシェ」
「分かってる。今はどうでも良い。師匠は始末しろと言った」
アルシェに一声かければ、心得たとばかりにアルシェはそう言いながら死体へと駆ける。そう、今は私達とコイツの関わりなんてどうでも良い。過去にコイツが私達の村を焼いたのだとしても、それを聞き出すことに意味は無い。私達は師匠に言われた通り、コイツを倒す。それだけが今やるべきことだ。
アルシェがどう動くのかは互いに何も言わなくても分かる。ずっと一緒にいたから、村でも、師匠との修行でも、二人だけで戦って来た時も、ずっと互いのことは手に取るように把握できる。
アルシェが右から斬りかかるなら、私は左から。鏡合わせのように私達は互いの剣で小人族の死体、亡者を挟み撃ちにする。
けれど、亡者はこちらの予想を超えた俊敏さで後ろに飛び退くと、ボロボロになった斧を両手に構えて私に向かって走ってくる。あの枯れ木のように細くなった腕じゃあまともに斧が振れるとは思えないけど、見た目通りの力とは限らない。私は振り下ろされる斧を躱し、大袈裟に距離を取った。
ボゴン、という音と共に床の石材が粉々になる。やはり見た目以上に強力な一撃。魔物に常識は通用しない。
「ノルン!」
「大丈夫、仕掛ける!」
気遣うようなアルシェにそう返すと、今度は私が先頭を切って亡者に仕掛ける。腐りかけた亡者の目に視界があるなどとは思えないが、念のため、視線を切るように後ろに回り込む。アルシェはそんな私の狙いをすぐさま理解し、亡者が斧を構え直す前に斬りかかり、床にめり込んだ斧を全身で押さえつけた。
「くたばれ、死体野郎!」
「キキ……!」
背後から迫る私の剣を、しかし亡者は斧から手を離して機敏に避けた。やっぱり視界も見た目通りじゃない。聴覚を使っているのかもしれないが、それにしては正確過ぎる。
飛び退いた亡者を守るように、部屋の隅で崩れていた骨が形を成して亡者の周りに集まっていく。どうやらあの亡者は既に崩れた骨だろうと操ることが出来るらしい。
「面倒な……」
それを見てアルシェが忌々しそうに呟く。もちろん私も同じ気持ちだ。あの亡者単体の強さもそうだが、他の敵もいるとなると途端に厄介さが増す。白骨死体の攻撃を受けることは容易いが、そこにあの亡者の攻撃が紛れてくると油断出来ない。
私は隣に立つアルシェとそっと目配せをする。こういう多数との戦い、そんなときにどうすれば良いかも、師匠は教えてくれた。
「お前達は二人で一つだ。一人じゃ見えないところ、斬れないところも見えるし、斬れる」
そう。だから私達は一人じゃソーン長兄に勝てない。だけど二人なら戦える。
「自分以上に互いを理解しろ」
私達は互いを自身以上に理解している。私達が互いに声掛けをするのは私達の為じゃない。一緒に戦っている長兄達他の弟子達の為だ。
「足りないものを補い合い、長ずるところを伸ばし合う」
アルシェは私には無い剣の鋭さを持ち、魔力を扱う才はあれどアルシェだけでは足りない魔力が、白き忌み子の力が私にはある。
私とアルシェは互いに剣をゆっくりと擦り合わせる。そうすれば、私の剣に纏わりついた魔力がアルシェの剣に移り、その輝きを増す。
「魔物は怖いか?」
魔物は怖い。私もアルシェも、その怖さを骨身に染みて知っている。村を一夜にして蹂躙したその圧倒的な力を怖れない人間なんていないと思う。
けれど、
「魔物は、俺よりも強いか?」
「「師匠よりも弱い」」
「なら、お前達に斬れない魔物はいない。怖れる必要はない」
脳裏に響くかつての師匠の言葉に背を押されるように、私とアルシェは駆け出した。
亡者を守ろうとするように固まる白骨死体たちを、左右から挟み込むように私とアルシェは位置取る。互いに何を言うでもなく、全く同じタイミング、同じ構えで、骨の壁を削り取り、亡者へ向かって突き進む。白骨死体達は私達の攻撃を受けて崩れるが、しばらくすると再び組みあがって私達に向かって来ようとする。それくらいのことはやってくるだろう、だから、
「そんな姑息な手段で止められないくらい」
「殺し尽くせばいい!」
私の魔力を纏った剣は、一振りで骨の壁を切り崩し、その奥にいる亡者を追い詰める。
「ヤッカイ……!」
壁が役に立たないと悟ったのか、亡者は三度飛び上がると、床に突き刺さった斧を掴んでこちらに向き直る。
それに向かって、私とアルシェは最早目配せすらしないまま、剣を振り被って肉薄した。
「しつこい」
「粘るな!」
「ギィィ!」
左右から迫る私とアルシェの剣を、亡者は器用に斧の刃と柄で受け止めたが、それは逆についにこの亡者の動きを止められたことを意味する。単純な力比べなら敵わないが、この一瞬の拮抗さえあれば十分だ。
私が満身の力を籠め、斧を上から押さえつければ、アルシェの剣が斧の柄を滑っていき、亡者の右腕を斬り飛ばした。
「浅かった!」
「次は首を狙う」
浅い、と舌打ちをしたアルシェに続き、私は斧との組み合いを解くと、細い首目掛けて剣を振るう。
「■■■ーッ!」
亡者は私達には理解出来ない言葉で何かを叫ぶと、私が首を狙って拘束が解けた隙をついて飛び退り、窓から身を投げた。ご丁寧に白骨死体を大量に私達をけしかけるオマケ付きで。
「逃げた!」
「早く追わないと!」
あの亡者が下にいる他の死体達に紛れてしまうとまず見つけられなくなってしまう。ここ以上に数がいる死体を掻き分けながらあの亡者一体を探すのは流石に無理だろう。
なんとか死体共を始末し、部屋を出てから塔の下へと駆ける。既にかなりの距離を離されてしまったと歯噛みする思いで塔を出た私達の目の前に広がっていた光景は、予想外なものだった。
「イマ、イマシイ……!」
「どこまでも見下げ果てた手を使う」
ひしめき合う骨の壁の向こうから、先ほどまで私達と対峙していたときに浮かべていた不愉快な表情は鳴りを潜め、鋭く師匠を睨みつける亡者。それとは対照的に、いつもと変わらぬ表情で、しかし、どこか声に怒りを滲ませて剣を構える師匠の姿。長兄達の姿が見えないことから、師匠だけがここに単独で辿り着いたのか。
「師匠!」
「遅くなった!」
私達がそう言いながら師匠の隣に並び立てば、師匠は視線だけをこちらに向けた。
「アルシェ、ノルン。周囲の同じような肉を付けた死体も端末だ。いくらか減らせば、力を減じるだろう」
「面倒な敵」
「私達が周りの端末を」
そう言って飛び出そうとすれば、師匠が手でそれを遮った。
「周りは片付ける。あれはお前達の手で始末を付けろ」
それだけ言って師匠は死体の群れに躍りかかって行った。
師匠はあの亡者が私達と因縁のある相手だとどこかで悟ったのだろうか、いや、単純に私達に任せた相手だから最後まで相手をしろというだけなのかもしれない。
それでも、私達は今の自分達の力が師匠に改めて認められたように感じて、総身から力が湧いて出てくるのを感じていた。今ならあの亡者程度相手にもならないと言える。
私とアルシェは再び剣を擦り合わせ、互いの魔力を交換し合うと亡者に向かって切り込んでいく。
「グゥ、ウゥゥ!」
先ほどまでと違うのは、私達の攻撃を凌ぐ際、時折亡者が苦しそうに呻くこと。師匠が死体の群れの向こうで端末、と呼んだこの亡者の力の源を倒し続けているからだ。事実、亡者の動きが僅かずつ鈍っていくのを私とアルシェは感じ取っていた。
「ヤメ、ロ!」
「いい加減、しつこい!」
「くたばれ」
亡者が一度大きく斧を振る。けれどその速さは私とアルシェにとっては遅すぎる。隙を埋めるようにこちらに殺到してくる死体達も私達の歩みを止めることは出来ない。師匠がその大半を惹きつけてくれているから。
私とアルシェの剣が、亡者の前後から挟み込むようにその首を斬り飛ばす。兜を被った亡者の首が勢いよく上に飛んだ。
「これで終わり?」
「いや、違う」
アルシェが首を傾げてそう言うが、上に飛んだ亡者の首を目で追っていた私は、亡者の首から何か黒い塊が飛び出していくのが見えた。この亡者はあくまで小人族の死体、それを操っていた何かが亡者の首に潜んでいた。それが私達の手から逃れる為に今まで宿主としていた死体から飛び出したのだ。
「マズい、逃げられる!」
「ノルン、大丈夫。あれが飛んでいった先には」
焦った私を宥めるようにアルシェが肩に手を置いて教えてくれる。
「師匠がいる」
その言葉と共に私達を取り囲んでいた死体達が一斉に地面に崩れ落ちた。私達の視線の先には、亡者の首から飛び出した何かを一刀で切り捨てた師匠だけが立っていた。
師匠の下へ行こうと踏み出した私の足に、地面とは異なる感触。視線を下に向けてみれば、ボロボロになった革の冊子が転がっていた。近くには亡者の死体だけだから、あれから出てきたのだろうか。気になったのでそれを拾い上げ、師匠の下へと歩いて行く。
「師匠、終わった」
「助けに来てくれてありがとう」
私達の言葉に振り向いた師匠は、あれだけの数の死体達と戦っていたというのに疲れを微塵も見せず、少しだけ口元を緩めた。
「よく終わらせた」
それだけ言って私とアルシェの頭に手を置き、優しく髪を梳く。想像を絶する鍛錬によって固く締まった師匠の手は、けれど私達にとってはとても暖かくて、焦がれた感触だった。
私もアルシェも、その感触にいつまでも浸っていたいという思いはあった。けれど、私は手に持った冊子がどうにも頭から離れなくて、この至福の時間が終わるのは名残惜しいけれど師匠に冊子を差し出した。
「ところで師匠、さっきの小人族の死体からこんなものを見つけた」
「これは……」
師匠は私から本を受け取ると、慎重な手つきでゆっくりと一枚一枚、全てのページに目を通していく。師匠の顔が段々と険しくなっていくのを見れば、その内容はあまり愉快なものではないことが窺えた。
少し時間を掛けて目を通し終えた師匠がパタリと本を閉じるのを待ってから、私は声を掛ける。
「師匠、何が書いてあったの?」
「難しい顔してた」
アルシェも私と同じように気になっていたらしく、師匠の顔を見上げていた。ちょっと口を尖らせているあたり、至福の時間がすぐに終わったのが不満だったんだと思う。
「……死者の誇りを易々と口にするもんじゃねえだろう。お前達は死者の尊厳を守った。それで良い」
それだけ言って師匠は口を閉ざした。師匠がそう言うほどの内容が、そこには書かれていたのだろうか。聞いても教えては貰えなさそうなのが少し不満だけど、師匠が小さく微笑みながら褒めてくれたから些細な不満はすぐに消えた。
「師匠ー!」
私達が誰にも邪魔されない師匠との久々のひと時を堪能していると、遠くから聞き慣れた雌猫、もといシャーレイの声がした。こちらに向かって手を振りながら走ってきている。
「師匠、急に逸れてしまったから焦りました!」
シャーレイはこちらに来るや否やそう言って師匠に詰め寄る。相変わらず師匠相手だと距離が近い。やはりコイツは雌猫で十分だ。
師匠に小言を言う名目で距離を詰めようとしている。そんな抜け駆けは許さないと私とアルシェは二人の間に割って入る。
「シャーレイ、師匠は私達を助けに来てくれた」
「考え無しに逸れたわけじゃない」
だから離れろと言外に圧力をかけるも、シャーレイは意にも介さない。このポンコツ、こういう時は急に鈍感になる。
私はこちらに走ってきているコルンに目配せをすれば、子犬は心得たように頷いて速度を上げてこちらに駆け寄ってくるとシャーレイへと組みついた。
「そういうことでしたか……。あの、コルン。なんでそんなに引っ張るのです!」
「離れろ、雌猫」
「どうして私ばかり!?」
良くやった、子犬。今日はお前が師匠の隣に座っても良い。
そう思っていると、少し遅れてノックスとライネルがこちらに寄って来ていた。師匠は二人に先ほどまで読んでいた本を手渡す。
「ノックス、ライネル。お前達なら読めるだろう」
「これは、小人族の言葉ですね」
「歴史書や古文書の中にしか無い言葉だな。学者達の話を聞いていて良かった」
師匠から本を受け取った二人はすぐに中身に目を通し始め、何やら小難しいことを話し始める。また始まった、二人の蘊蓄語りだ。
「全てを読んでいる暇は無いだろう。後ろからだ」
そんな二人に師匠はそう告げた。師匠の言葉に従って最後のページを開いた二人は、そこに綴られた文字を指で追っていく。そして先ほどの師匠と同じように徐々に難しい表情になって黙り込んでしまった。
「なるほど、これ以上は今ここで読むべきでは無いでしょう」
そう言って懐に本を閉じたノックス。
「師匠はこの中身に目を通されたので?」
ライネルがそう師匠に問う。
「軽々しく読むべきものじゃ無かった」
ライネルの質問に師匠は重々しい口調でそう返した。やはり何か重大な何かがこの本には書かれていたのだろうか。師匠も、ノックスもライネルも皆深刻な表情をしている。
「そうですか……。いえ、行きましょう。この手記に抜け穴の記載がありました」
ノックスは師匠の答えを聞いてそれだけ言うと、私達が出て来た塔の中へと歩いて行ってしまった。師匠もその後に続く。
「なあ親父、あの本には何て書いてあったんだよ?」
ロクシスも内容が気になったのか、小走りに師匠を追いかけてそう聞いたけれども、師匠は教えるつもりは無いようで、さっき私達に言ったのと同じことを言っていた。
他の面々も、気にはなっていても教えてもらえそうに無いと分かったのか、そんなノックス達の後を追って続々と塔に入って行ってしまう。
私とアルシェは、それでも諦められず、まだ外に残って本を片手に立ち呆けていたライネルの所へと寄って行く。
「ねえライネル。本には何て?」
「その本は私達が戦った死体から出て来た。少しだけで良いから教えて欲しい」
「お二人が……。そうですね、私も全てに目を通していないので、最後の一言だけでも」
私達が聞くと、ライネルは小さく潜めた声で先ほど読んだ内容を教えてくれた。
「小人族最後の勇士ドゥルジより、勇敢なる戦士へ。眠れぬ勇士達に眠りを与えたことへの感謝を。そなたらの旅路に不変の石の加護があらんことを」
それはこの都市に侵攻してきた魔物と戦った小人族の最期の言葉。この手記を書いた小人族は知っていたのだろう。魔物が死体を操り、戦士の尊厳を愚弄することを。そして自らもそうなってしまうことを。
「ドゥルジ、というのは歴史書に出てくる小人族最後の王の名です。彼は最期までこの都市に居る他の小人族が死後の安寧を得られないことを嘆いていたのだと思います。だからこそ、手記の最後にこの言葉を書き記した。いつか誰かが、自分達に安らかな眠りを与えてくれることを信じて。この言葉は、もうすっかり古くなっていますが、おそらく血で書かれている。最期に遺した言葉です」
ライネルの言葉に、今わの際に手記に血文字でこれを書き残した小人族の王の気持ちを想う。かの王は、誇り高い戦士としての死が辱められることを知り、どのような想いでこれを書き残したのだろうか。
「死者の尊厳を冒涜するようなこと、私は許せない。師匠も恐らく同じ気持ちだったのでしょう」
だから、亡者と対峙していた師匠の声には怒りが滲んでいたのだろうか。思えば、師匠はいつも誰かの理不尽な死を嘆き、怒っていた。私達と初めて会った時も。
自分の剣を棒振りだなんて言って、師匠は卑下するけれど、その棒振りによって磨かれた心はどんな武人よりも人としての誇りを、尊厳を重んじている。
前を行く師匠の背を見て、彼がここまでして魔物を狩り、極北山脈を目指す動機の一端を垣間見たような、そんな気がした。