後方師匠面したい系転生者   作:TATAL

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弟子第二号、第三号。双子のアルシェ、ノルン

 ソーン君をほっぽり出して勇者の芽探しに出発した俺は、それからも道すがらあっちへフラフラ、こっちへフラフラとしながら旅を続けていた。

 時には商隊の護衛という名のタダ乗りをしたり、行商人の馬車に乗せてもらったり、同じく町から町へ移動しようという変わり者の冒険者と道を共にしながらも、最後には一人で道を行くことが多かった。

 

 その村を訪れたのも本当に偶然だった。

 

 ある街を拠点とし、周囲の村々を回る行商人に聞いて山登りがてら向かった先の一つだった。街でも勇者の卵を探したがピンと来る主人公体質な奴がいなかったのでわざわざ村まで足を運んだのだ。

 そして村が視界に入ろうかというとき、黒い煙が上がっているのを見て俺は嫌な予感に冷や汗が背中を伝うのを感じた。すわ山火事かと血相を変えて走って行ってみれば、状況は更に最悪の上を行く最悪だった。

 なんと魔物が村を襲っていたのだ。狼の姿をしながらもその毛並みは月明りを吸収したかのような銀色で他の尋常な狼とは一線を画す体躯の大きさ。そして遠吠え一つで完璧に狼の群れを統率するソイツに、村は壊滅状態に陥っていた。

 

 更に更にマズいことに、俺は火事だと勘違いして生存者でもいないかと村に足を踏み入れていたからさあ大変。群れの狼に見つかって追い立てられてしまい、あれよあれよと言う間に村の中心部に逃げ込む羽目になってしまった。しかもそこには恐らく唯一の生き残りであろう黒髪と白髪の姉妹が蹲っているではありませんか。

 この世界にもアルビノってあるんですかねぇなんてもはや諦めの境地で走るのも止めて近づく俺に気付いた二人は、俺の背中に縋りついて助けてくれと泣いた。やかましい! 泣きたいのは俺だし助けて欲しいのも俺の方じゃい! こんなことなら村を見かけた時点で回れ右して帰れば良かった! 

 だがここでみっともない姿を見せても生き残る可能性は無い。残された道はこの狼どもとリーダーの魔物をどうにかして撃退、あわよくば討伐すること。俺は二人を背中から引き剥がすと剣を抜き放つ。前の町で新調した剣だけどこの数の狼を切ったらすぐに切れ味鈍るんだろうなぁ……。10頭はいるし。

 

 狼は群れで生きる動物だ。奴らの狩りは狡猾で、絶対的なリーダーの鋼の統率の下、確実に獲物を狩る。リーダーが魔物になっているこの群れだと猶更その傾向は強いだろう。だからこそ群れのリーダーである魔物を真っ先に斬る。それしかない。それで群れが多少なりとも動揺してくれたら後は何とか警戒させて撤退させるところまで持っていくしかない。やれるやれる俺なら出来る熱くなれよぉ! 

 ビビりにビビって震える手を誤魔化すために喉が裂けるかと思うくらいに雄叫びをあげ、リーダーの魔物まっしぐらに走る。

 

 そこからはまさに泥沼と言って良い戦いの様相だった。俺は他の狼どもが飛び掛かって来ようが何しようが避け、蹴り飛ばし、殴り飛ばし、斬り飛ばしてリーダーの魔物に剣を叩きつけ続ける。何度も何度も同じ箇所にしつこいくらいに。もちろん回避しきれなくて腕に噛みつかれるが、噛みついてきた奴の目に指を突っ込んで殴りぬく。異世界人ならではの頑丈な体とアドレナリン万歳だ。

 そうして右も左も分からぬ間に剣を叩きつけ続けているうちに、ふと周囲が静かになっていることに気付く。ようやく冷静になった俺があたりを見渡せば、周囲には目を抉り抜かれた狼の死体と、頭と胴体が泣き別れしたリーダーの魔物の死体。そして血まみれで蹲ってぶるぶると震えている双子の姉妹だけとなっていた。

 なるほど、人は火事場の馬鹿力を発揮すれば狼にも勝てるのか。いや、少しでも剣を齧っていて良かった。叫びすぎて喉も枯れていたが、姉妹の下まで歩くと二人が無事なことを確かめる。よし、お前ら、治療は頼むぞ! 

 こちとらアドレナリンも切れて痛くてしんどくて泣きそうなんじゃい! というか泣いとるわ! なんとか情けない姿を見せないように二人を抱きかかえる。ま、涙声だし喉もガラガラでバレバレなんですけどね! 

 

 そして俺は意識を失い、気が付けば夜になっていた。双子の姉妹は俺の意図を汲んでくれたのか壊滅した村を走り回って物資を集めると、火を起こして俺を治療してくれていた。なんて良い子達なんだ……! 俺なら放置して逃げるぞ。

 

 そんな二人への恩返しとして当面の生活の世話を見てやることにする。街に連れ帰り、宿屋に引きこもって怪我の治療が終わると再び魔物を狩っては解体し、狩っては解体を繰り返してギルドに持ち込んで小金を稼ぐ毎日。二人に食事を与え、服を買い、何とか生活基盤を整えてあげた。

 二人も世話になるばかりではいけないと思ったのか、身の回りのことは自分でやるようになっていき、更にあろうことか俺に剣を習いたいと言ってきた。その目には故郷を壊滅させた魔物という存在への憎しみが爛々と燃えている。

 

 姉妹百合復讐系主人公、そういうのもあるのか! 

 

 そう思い至った俺は二人の申し出を受け入れ、ソーン君のときと同様に数打ちの剣を買い与えると、二人に簡単に剣の振り方を教えた後は恒例の実地研修(拷問)へと繰り出した。最初はイキイキと剣を振っていた二人の目も、気が付けばソーン君と同様にキチガイを見る目で俺を見るようになった。なんだこの嬉しくないビフォーアフターは。

 二人には双子というアドバンテージを活かして互いの弱点、死角を補うようなコンビネーションを意識するように伝えた。やっぱり正統派成り上がり主人公のソーン君との差別化が必要だからね、せっかくのダブル主人公なんだし。

 そんなある日、俺が日課の素振り兼薪割りに精を出していると、姉妹の黒い方、アルシェが俺のところに来て改めて剣を教えてくれと言ってきた。どうやら、俺が初日に適当に言ったことが引っ掛かっているのだと言う。何て言ったんだっけか。確か切ろうと思えば木刀で岩でも切れるとかなんとか嘘八百を言った気がする。もちろん出来るわけが無い。だけどアルシェは俺なら切れるだろうと丸太台の上に薪を置いて切って見せてくれと言う。コイツ、ちみっこいくせに俺の嘘に気が付いたというのか!? 

 慄く俺に表面上は無邪気な笑みを浮かべて木刀を差し出すアルシェ。逃がすつもりが無い……、どう誤魔化せば良い、誰か教えてくれぇ! 

 

「師匠の振りはとても綺麗。だから切るところを見てみたい」

 

 アルシェの追及にそう心の中で叫ぶも、天啓が降りてくるわけもなく。俺は諦めることにした。アルシェに俺の嘘がバレるのは最早仕方ない。残った白い方、ノルンを騙し切れれば良い。いや、最悪二人が俺より強くなる前に置いて逃げれば良いか。

 だが最後まで足掻いてやる……! 俺は木刀を受け取るといつものように振るのではなく、集中しているように目を閉じる。そして渾身の力を込めて木刀を振り下ろし、薪の手前を掠めて地面まで振り下ろす! 

 そう、これで何となく切ってやった感を出すのだ。薪にぶつけるともちろん木刀が弾かれて言い逃れが出来なくなるのでなんか切ったように見せかける作戦。

 

 名付けて「お前にはまだ早いか、この領域(レヴェル)は」作戦! 

 

 雰囲気だけはさも切ってやったぞ感を出してアルシェに向き直ると、アルシェは呆けたように口を開いていた。あ、これは小細工がバレてますね、はい。

 その後は鋭すぎる太刀では斬られたものは斬られたことに気付かないだなんだと最後まで誤魔化そうとモゴモゴ言いながら俺はすごすごと退散した。負け犬です。

 

 これは終わった。ノルンにもこれが伝えられてゴミを見るような目で見られる! と覚悟していた次の日、なんとアルシェもノルンも相変わらず俺を師と呼んでくれるではないか! 

 なるほど、昨日のあれは俺の勘違いでアルシェはしっかり誤魔化されてくれていたらしい。コイツ、チョロいわぁ(慢心)。

 

 そしてまたしばらく二人を木刀で苛めたり雑魚魔物にタイマンさせたり等を繰り返した後、良い感じに育ってきたのでこの街のギルドにお金を払って二人の冒険者プレートを用意し、魔物を持ち込む度にすごい顔で俺を見てきて図らずも顔見知りとなってしまったギルド長に二人の身元保証人になってもらい、ある程度まとまった金を渡してなんかあったら頼らせてやってくれと言い含めてソーン君のときと同じようにそそくさと街を出たのだった。

 いつか白黒の双子姉妹が突如現れた吸血鬼の長的な奴と戦って勝ったなんて噂が届くことを祈っているぞ! 

 

 


 

 

 人生というのは理不尽の連続だ。

 少なくとも、私達姉妹に降りかかった災難は理不尽以外の何ものでもなかった。他の村人と髪の色が違う、ただそれだけで迫害されたノルン。親さえも無視する中、唯一ノルンが心を許したのが双子である私だった。

 ノルンを庇う私にも厳しい目は向けられたが、私はノルンを絶対に見捨てることは無かった。ノルンは私の半身だし、私もノルンの半身だからだ。

 

 いつか大きくなったらこの村を出よう。二人でそう誓った約束は、不本意な形で果たされることになる。

 

 燃える家、広がる血だまり。一見してのどかな村を襲ったその理不尽は、同時に恐ろしいほどに美しかった。

 月光を溶かし込んだような体毛に覆われた狼の魔物。その目には確かな知性が存在していた。その証拠に、魔物に率いられた群れは最後に残された私たちを弄ぶかのように村の中心に追い立てたのだから。

 ついに逃げ場を無くし、ノルンと私は地面に蹲る。

 

「どうして……? 私たちが何をしたって言うの……」

 

 ノルンが絶望の声を上げる。私は何も言えず、ただノルンの身体を強く抱きしめるばかりだった。

 

 そんな時だ。理不尽の全てを蹂躙する、理不尽が現れたのは。

 

「生き残りがいたのか……」

 

 まるで村の中を散歩するようなゆったりとした歩みで私たちの前に現れた彼は、周囲を囲む狼を気にも留めず、私たちの下に来る。簡素な皮鎧と、たった一本の剣だけを身に付けた彼からは、一見して強さなど微塵も感じられなかった。けれど、私たちの前に現れた唯一の希望だ。

 ノルンと私は彼に縋りついて助けを求めた。

 

「たす、けて……、お願い、します」

 

「なんでも、しますから……!」

 

 小娘二人に何が出来ると言うのか、だけどもはや差し出せるものはこの身体一つを除けば何もない。縋りつく私たちを見下ろしていた彼は、しばらくの無言の後、私たちの手を振りほどいた。

 そのことに私とノルンは絶望する。彼は私たちを見放したのだと。自分達を助けるつもりなど無いのだと。

 

 それが間違いだと気付くのにそう時間は掛からなかった。

 

「──ォ!」

 

 オオオアァァァァァァァッ! 

 

 思わず私たちが耳を塞いでしまうくらいの音、叫びと共に彼が魔物に向かって剣を抜き放ち、真っすぐに駆ける。

 彼は私たちを助けるつもりが無いというのは間違いだった。その証拠に見ろ、彼の怒りで震える手を、聞け、彼の憤怒の叫びを。

 魔物は彼の気迫に気圧されたのか、群れに指示を出して狼に食いつかせるが、それを意に介さず殴り、避け、切り裂いて魔物に向かう。その剣のどこにそのような切れ味が隠されているのか、魔物に執拗に打ち付けられる剣は確実に身体に傷を付け、魔物がその身を守ろうと群れを向かわせれば向かわせるほど、憤怒の嵐となった彼に磨り潰される。いつしか周囲には狼の死体と、両断された魔物が転がっていた。

 

 もちろん彼も無傷などでは無かった。だが生きていた。全身に傷を負い、肩で息をしながらも、確かに両足は大地を踏みしめ、私達へと歩んできていた。

 

「……生きているか」

 

 私達を見下ろした彼はそう言って膝をついた。そして私達を抱き寄せてくれた。返り血に塗れていた彼だが、私達は不思議とその抱擁に嫌悪を感じなかった。

 

「……良かっ、た」

 

 彼の声はしゃがれ、そして震えていた。あれほどまでに苛烈な怒りを発していた彼が、今度は泣いていた。

 

「すこし、寝る。後は……」

 

 最後まで言い切ることなく、彼は寝息を立て始めた。あれほどの激闘を繰り広げたのだ。当然だろう。私とノルンは、顔を見合わせると互いに頷いた。この人を死なせてはいけない。私達の恩人を、私達の光を。

 

 そうして村を駆けずり回ってなけなしの物資を集め、たどたどしくも施した手当で何とか彼が目を覚ましたときには、私達は喜びに涙を流した。

 

 それからも私達の幸運は続いた。故郷を失った私達を哀れに思ったのか、彼は私達を街まで連れて来て、あまつさえ生活の面倒まで見てくれたのだ。

 当然、その見返りは要求されると思っていた。自分達だけでなく、彼の身の回りのことも手伝ってはいたが、それだけでこの恩に報えているなどと自惚れてはいない。まだ幼いけれど、そういった趣味の人もいるだろうと、そしてそうなったなら喜んでこの身を差し出そうと。けれどそうはならなかった。彼は毎日出掛けては魔物を狩り、そのお金で私達を養ってくれる。一体何故? あなたは旅人で、ここにずっと滞在する理由も無いはず。私達のような重荷を背負う必要も無い。

 そう思いながら過ごすうち、彼が何かを探しているのだと気付いたのはノルンだった。何かは分からないけれど、探している、あるいは待っているようだと。そう思ってからは、彼が私達を見る目に何かを期待しているような色を感じてしまった。それは決して邪なものではなく、もっと純粋なもの。そして思い至ったのだ。彼は私達が歩き出せるのを待っていると。

 身寄りの無い子供が身を立てるには強さしかない。そして私達の前には隔絶した強さを持つ人がいる。剣を教えて欲しいと頭を下げた私達を前に、彼は待ってましたとばかりにニヤリと笑みを浮かべたのだった。

 

「木を斬るのは難しい、しなやかだからな。岩を斬るのも然り、固いからな。だが最も難しいのは岩のように固い骨をしなやかな筋肉が覆い、頑丈な皮を纏った魔物という肉袋だ。だからそれを斬るつもりで斬れば木も岩も自ずと斬れる」

 

 修行初日に告げられたその理論は理解不能だった。そして始まったのは壮絶な修行の日々だった。師匠に合わせて手から血が滲んでも終わらない素振りと模擬戦。ようやく慣れてきたかと思えば突然街の外に放り出されて二人だけで帰って来いと無茶を言う。

 泣きながら街まで帰れば情けないと師匠の魔物狩りに付き合わされる。トラウマを刺激どころか抉り出すような所業に、私とノルンは自分でも分かるくらいに目が死んでいった。

 だけど、同時に自分たちがメキメキと強くなっていくことも実感していた。もうギルドで管を巻いている冒険者とは名ばかりの酔っ払い達では相手にならないくらいには。

 

 けれど師匠の剣には全く追いついている気がしなかった。むしろ自身の強さを実感する度に、隔絶した差を感じられて絶望した。

 

「師匠、師匠はどうやって木刀で岩を断つ?」

 

 ある日、一人で素振りに勤しむ師匠に問いかけた。薪を前にして素振りをしていた師匠は、私の問いに少し困ったような表情になった。

 

「そうか……それを聞いちまうか……」

 

 師匠の反応で私は失敗したと思った。彼を失望させてしまった。私とノルンの師であり、父であり、兄であり、何より光であるこの人の期待に応えられなかった。私だけが見捨てられるなら百歩譲ってまだ良い。そのときは潔くこの首を掻き切ってしまえば終わりだ。だけどノルンまで失望されてしまったとしたら私はどうすれば良い? 私の不用意な発言でとんでもないことをしてしまったと頭を下げようとしたとき、師匠が木刀を片手に薪に向き直ったのが視界に入る。

 

「まだ教えるつもりは無かったんだがな」

 

 そう言って木刀を上段に構えた師匠。いつもは構えてすぐに振り下ろすというのに、今回は細く、そして長く息を吸って吐き、まるで魔法使いが魔法を使う前の時のように集中していた。

 

 私には、師匠が息を吸って吐くたびに木刀の周りに薄っすらと纏わりつく微かな魔力の気配に気づいていた。師匠は自分で魔法の才能が無いと言っていた。自分には魔力など無いと。では今目の前で起こっていることは何だ? 

 

「ッシ!」

 

 そして鋭い呼気と共に薪に向かって振り下ろされた木刀。その刀身自体は薪に触れてすらいない。しかし、木刀に纏わりついた魔力がまるでもう一つの刀身であるかのように薪を通り抜けたのを私は見た。

 振り上げ、集中、振り下ろし。その一連の所作の無駄の無さ、そのあまりの美しさ。そして奇跡のような事象を前にして、私は間抜けにも口を半開きにしていることしか出来なかった。

 

「あまりにも鋭い剣閃は斬られたことにも気づかせない。どこまでお前らに見えているかは分からねえがな」

 

 そう言って私の頭をひと撫でしてから宿へと戻っていく師匠。私が斬られた薪を触ってみると、一見どこにも切れ目が無かった薪が綺麗に真っ二つに分かたれた。まるで私が触れたことでその薪が初めて斬られていたことに気付いたかのように、止まっていた時間が動き出したかのように。

 

「……師匠。やっぱり師匠は、私達の遥か先を行く人。いつか私とノルンもそこに辿り着きたい。あなたの隣に、立ちたい」

 

 この日、私はますます師匠という人間にのめり込んでしまうことになった。後で私から話を聞いたノルンも私と同じ心境に至ったらしい。

 

 それからは修行にも更に熱が入った。師匠の剣、私達の到達点を見たおかげで理不尽が理不尽と思えなくなった。

 

「俺が教えてる剣はお上品な剣術じゃねえ、所詮はただの棒振りよ。剣術なんて呼べやしねえ。如何に魔物の強靭な皮を斬り、筋肉を裂き、骨を断つための術、斬術だ」

 

 それはたった一つの目的の為に極限まで純粋化された剣。師匠の教えを受け、私とノルンの剣はますます研ぎ澄まされていった。ついに私とノルンだけで魔物を討伐することに成功したとき、

 

「……良くやった」

 

 師匠はそう言って穏やかに笑うと頭を撫でてくれた。そのときに私の横にいたノルンがどんな顔をしていたか。……多分私も同じ顔をしていたんだと思う。この人に一生ついて行こう。何があろうと、この人から離れてなるものかと二人で誓い合った。

 

 だからこそ、師匠が突然姿を消した日のことは今でも忘れられない。

 

『俺は俺の目的の為に旅に出る。お前らは二人で生きていけるだけの力を身に付けた。俺の仕事はここまで。お前たちの名が届くのを楽しみにしてる』

 

 そんな簡単な手紙と共に残されていたのはこの街の冒険者ギルドに所属することを示す白磁のプレート。ギルドに乗り込んだ私達を迎えてくれたのは、ギルド長のおじさんだった。

 

「アイツに頼まれたからな。俺がお前らの身元引受人として名前を貸す。アイツについて行きたいならまずはこの辺りの魔物が敵にならないくらい強い冒険者になれ。じゃないとアイツの邪魔になるだけだ。分かってるだろう?」

 

 この街の冒険者など、ギルド長も含めて私とノルンの相手ではない。だが、そこまで力の差がありながらも激昂する私とノルンを前にして動じなかったギルド長の言葉は、私達も薄っすらと自覚していたことだった。

 

 だから私とノルンは決めた。ギルド長の言う通り、誰にも文句を言わせないくらいに強くなってからあの人を探しに行こう。こんなプレートに頼らなくても、自分の腕一本だけで身を立てられるくらいになってからあの人の隣に立ちに行こう。そのために、今日だけは二人で泣こう。

 

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