後方師匠面したい系転生者   作:TATAL

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俺って実は強いのかと思ったけどそうでもなかった

 さて、ノックスとローエンを良い感じに助けられたのでめでたしめでたしで終わらせたいところだったけれど、そう上手くことが運ぶわけもなく俺はただいま会議室っぽいところに呼び出されております。

 

「それで、魔物どもが急に組織だった行動を取るようになったり、今回みたいに知能も無いはずの粘獣が奇襲を仕掛けてきた理由に心当たりがあるって話だったね」

 

 長机の端と端で向かい合うライラというババアと俺。どうしてこの立ち位置なのかといえばババアがキレたときにすぐに逃げられるようにである。なお机の両側にはノックスとローエン、そして追い付いてきたアルシェ、ノルンがいるため、逃げ切れる可能性は低い模様。というかなんでシャーレイまでいるんですかね。君は王都にいなさいよ! これ以上俺が生き延びる可能性を減らしてどうするの! いや、マネキン野郎をバチコンいてこます為には戦力があるに越したことは無いんだけども! 

 ということで初手謝罪。まず机に額がくっつかんばかりに頭を下げる。

 

「師匠!? 何をなさっているんですか!」

 

 ノックスが驚いたように声をあげるが、元はといえば俺が危険物な種をエルフさんとこにノコノコと持っていったことが発端なので今回はマジで俺が悪いのである。なんなら土下座も辞さない覚悟である。なので切腹とかは勘弁していただきたい。

 

「長耳族が魔物になった、てことかい。それも他の魔物を従え、統率出来るような知性を持った魔物に」

 

 頭が痛い、と言ってため息を吐くババア。……なんだろう、普通に怒られるよりも心が痛い。こう、しみじみと失望されている感じがですね……。うん、なのでクソザコ冒険者の俺も出来る限りは働く所存でしてね。

 

「お前をここで遊ばせておく余裕なんざ無い。ここにはノックスもローエンもいる。なぜか王都をほっぽり出したバカもいるけどね」

 

「うぐぅ! ライラ団長、何卒ご容赦を……! 私だけじっとしているわけにもいかないと思ったのです。それに王都には私の部下もいますし、粘獣は師匠が道すがら倒しておりましたし……」

 

「それで最前線守ってるうちに帰るべき家が跡形も無くなってたなんてことになっても困るんだがね」

 

「くぅん……!」

 

 はい、戦力外通告頂きました。泣きそう。そして何故か流れ弾をくらったシャーレイが俺と同じように机に突っ伏していた。うん、ごめんね。先走った俺を心配して来てくれたんだとしたらとんだ災難だよね、君も。

 

「話を聞くにその木像の魔物は魔王に匹敵する可能性もある。情けない話だが、騎士達やアタシみたいな老いぼれじゃ太刀打ち出来ないだろうさ。既に勇者を呼び寄せているんだろう。あといい加減頭を上げな。責めちゃいない」

 

 どうやらババアは怒っているわけではないと言う。じゃあさっきの戦力外通告は冷静に分析した結果、ってこと!? 自覚してたけど改めて突き付けられるとショック。少しはレベルアップしてると思ってたんですよ、これでも! さっきのバカでかスライムを倒した経験値も入ってると思うんですよ。この異世界がステータス可視化できるタイプの異世界じゃないからチクショウ! 

 

「ったく、筋を通すなら頭を下げるのはアタシの方だろう。ノックスの坊やを助けてくれて感謝するよ」

 

 俺が内心打ちひしがれていると、何故かババアが俺に向かって頭を下げていた。なんで俺が頭を下げられてるんですかね? 偉い人に頭を下げさせるとかこれ以上俺の株をストップ安にするのはやめて頂きたい! 

 

「アタシが頭を下げるなんて何時ぶりだろうね」

 

 頼むから頭を上げてくれと言えば、ババアはニヤリと笑いながらこっちを見る。このババア、俺のような小市民に向かって回りくどいパワハラみたいなことしやがって……! 見ろよ、弟子達が俺を見る冷たい視線をよぉ! 

 ババアの策略により、俺の立場がいっそう悪くなってしまったところで話を変えようと悪あがきしてみる。とりあえずあのマネキン野郎と魔物をどうするか考えようそうしよう! 俺も猫の手くらいにはお手伝いしますんで、ホントに! 

 あと他の弟子もこっちに向かってるし、ライネルも来るだろうから皆揃ったらマネキン野郎を倒しに行こうと思うんですよ。俺? 当然付いていきますが何か? だってどこが安全かって言ったら主人公たるライネルの近くだろうし。俺は良い感じに荷物持ちとして頑張る所存です。

 

「そうだね、木像については勇者ライネルにも任せることになるだろう。だが、他の弟子はこの砦にいてもらう」

 

 なお俺の考えた作戦とも言えない作戦はあっさり却下された模様。

 

「アタシと騎士だけじゃもう足りない。粘獣が地下から侵攻してくる可能性があるなら、少なくともそこの三人はこっちに残しておく」

 

 そう言ってババアはアルシェ、ノルン、シャーレイの三人を指差した。そんな殺生な! と俺が言おうとする前に何故か三人娘がガタンと音を立てて立ち上がっていた。

 

「それは認められない」

「私たちは師匠に付いていく」

 

「ライラ団長、そんな殺生な!」

 

 いや、俺の台詞をお前が言うのかシャーレイ。なんでそんな捨てられた猫みたいな目でこっち見てくるの? 俺がババアに何か反論しろと? 無茶を仰る。ド素人の俺の言葉でプロであるババアの意見を覆せるわけがないでしょうが! とやんわりとババアの意見に賛同しておく。長いものには巻かれていけ。

 

「師匠……、私は邪魔ということでしょうか?」

 

 シャーレイがますます哀れみを誘うような目で俺を見つめてくる。邪魔どころか何がなんでも付いてきて欲しいですが? でもババアがダメって言うんだもん! まあ見方を変えればライネルにマネキン野郎を倒してもらったあとに俺はフィリを助けてさっさと逃げられるということでもある。自分で言ってて最低な自覚はあるが、マネキン野郎を倒した後、弟子達の怒りが今回の騒動の原因である俺に向く前に出来るだけ逃げておく必要があるのも確か。これは必要な処置……! 

 まあ本音をぶちまけるわけにもいかないので俺が帰る(つもりは特に無い)場所を守っておいてください、的なことを言っておく。

 

「師匠……!」

 

 そうしたら何故かシャーレイが感激したような顔になっていた。なんならアルシェとノルンも。君達純粋過ぎない? 変な人に騙されたりしない? 例えば俺みたいな奴に。

 何はともあれ三人娘が落ち着いたので俺はババアの方に向き直る。何故かババアはさっきよりも深刻そうに頭を押さえながらため息を吐いていた。

 

「このクソボケはあの頭が悪い方の影響さね。ああ、昔のアタシを見てるみたいで嫌んなるよ……」

 

 なにか嫌なことを思い出したみたいだけど俺にはさっぱりなので俺は首を傾げることしか出来ない。それを見たババアはますます疲れたようにため息を吐く。何故かノックスとローエンが苦笑いしてうんうんと頷いている。……あ、もしかしてバカにされてます? 泣くよ? 大の大人が声をあげて咽び泣くよ? 

 

「ま、とにかく話は決まった。勇者ライネルが到着したら、魔物を統率する木像討伐を目的とした少数精鋭と拠点防衛組に分かれてもらう。こっちの指揮はアタシが執る。割り振りはノックス坊に任せるよ。曲がりなりにも木像と戦った経験があるのはこのクソボケと坊だけだからね。今の会話でアタシはこのクソボケの評価がアテにならんと確信した」

 

「了解しました。とはいえ、僕もまともに戦えたわけでは無いので自信はありませんが」

 

 ババアの中で俺の評価が底値を割ったのか、呼び方がクソボケ固定されている件。俺が一体何をしたって言うんですか!? ……マネキン野郎を発生させて余計な仕事増やしてましたね。クソボケ呼びもやむ無し。

 

「後話しておくべきことは……」

 

 とババアが気を取り直して話を進めようとしたところで、突然表情を険しくし、机に立て掛けていた剣へと手を伸ばすのが見えた。それも俺の方をまっすぐ睨み付けたまま。え、急に俺をぶった斬ろうとでも思ったの? クソザコなりに抵抗するよ? 

 ババアに対抗するために俺も自分の剣に手を伸ばし、ババアより先に鞘から引き出す。ただでさえ実力で負けている相手に先を取られたら俺の首がポロリしてしまう未来しか見えないため、抜刀だけは速いのが自慢だ。あと逃げ足も。

 さあ、いつでも掛かってこい! 俺は逃げる準備が出来てるぞ! などと思っていると、突然天井が崩れ落ちてきた。やだ、欠陥住宅だったの? なんて思ったのも束の間、瓦礫の上に立っているのはいつぞやのマネキン野郎。ええ、なんで推定ラスボスが特攻仕掛けてきてるんです? 

 

「見張りは何してやがったんだい!」

 

 ババアが毒づきながら鞘に入ったままの剣をマネキン野郎に突き付ける。一方のマネキン野郎とはいうと、それには目もくれずに一直線に俺の方に飛び掛かってきた。コイツ、この場で誰が一番弱いか熟知してやがる……! 

 相変わらず目で追うのがやっとのすばしっこさだが、辛うじて俺を殴ろうとした拳を剣で受け止める。俺の顔の直前で止まった拳を見て内心冷や汗が止まりません。殺意高すぎない? 

 

「師匠!?」

 

 ローエンのものらしき焦った声が聞こえる。君達も援護してくれたりしません? 代わってくれても良いのよ? 

 なんて思っているとマネキン野郎は後ろに飛んで俺から距離を取る。今よ、ババア! 前に見せてくれたあの最大火力をお見舞いしてやりなさい! 

 

「こんな閉所で打てるか!」

 

 ババアの尤もなツッコミにそれもそうかと思う暇もなく、マネキン野郎が俺に再び突っ込んでくる。しつこすぎるよぉ! 

 拳どころか背中から生えた翼らしきもので宙に浮き、足まで使って攻撃してくるマネキン野郎を何とか捌く。いや、ライネルに北に連行されたときの経験がないと余裕で三回くらい死ねるぞコイツの攻撃。あのとき受けた木の根っこが四方八方から襲ってくる経験が無かったらまあ危なかった。

 

「くっ、こうなったら……!」

「私達が突っ込んで……」

 

 目まぐるしく立ち位置を変えながら俺を殴ろうとしてくるマネキン野郎に防戦一杯な俺を見かねたのか、アルシェとノルンが剣を構えて突っ込んでくるのが視界に入る。俺は二人が近付いているのをマネキン野郎に悟られないよう、蹴りを受け止めると上から剣で押さえつけ、全力で体重を掛ける。今のうちにやっておしまい! と期待して二人を見れば、マネキン野郎の木で出来た翼の一振で吹き飛ばされていた。背中に目でも付いてらっしゃる? ズルくない? 

 

 ちなみに双子の攻撃で終わると思ってたので俺も次の瞬間にはまともにぶん殴られて吹っ飛ばされて壁に叩きつけられました。痛ァい! 

 

「よくも!」

 

「このっ……!」

 

「いけません、二人とも!」

 

 シャーレイとローエンが双子の仇とばかりにマネキン野郎に躍りかかっていくのをノックスが焦ったように止めようとしたが、それも間に合わずにマネキン野郎が二人の剣を弾き飛ばしてローエンを蹴り飛ばし、シャーレイを床に踏みつけていた。

 

「がっ!?」

 

「くっ、あぁっ……!」

 

 胸を踏みつけられ、苦しそうに喘ぐシャーレイ。美少女を足蹴にするとか許されざるよ。幸い、マネキン野郎は俺に背中を向けているので今がチャンス。俺は壁に埋まった自分の身体をなんとか引き抜くと、マネキン野郎の背中目掛けて走る。以前はあっさりと弾かれてしまったが今度はもっと本気で剣を振るから多分斬れるはず、きっと、恐らく。

 やっぱり背中に目が付いているだろお前! と言いたくなるくらい正確に俺目掛けて振るわれるマネキン野郎の翼を掻い潜り、斬れてくださいお願いしますと祈りながらがら空きの首に向かって剣を振り抜く。

 

 俺の剣はマネキン野郎の首にほんの少し食い込んだところで止まった。……うん、前みたいに弾かれたりはしなかったね。いや硬すぎるだろコイツ! 

 マネキン野郎は「ん? 今何かしました?」とでも言うかのようにゆっくりと首を回して俺の方に振り向くと、首に食い込んだ俺の剣を握って逃げられないようにした上で俺の顔面を殴り抜く。ちょっと強くなったかもなんて勘違いしてすみませんでした。俺はクソザコのままでした、はい。俺は情けなく壁に埋め込まれた俺はあっさりと自分の意識を手放したのであった。

 

 


 

 

「あの魔物が発生したのは俺が原因だ、迷惑を掛けた」

 

「師匠!? 何をなさっているんですか!」

 

 粘獣を仕留め、魔物を退けた師匠が机に頭を引っ付かんばかりに下げているのを見て、ノックス様が腰を浮かせて声を上げる。師匠がどうして謝る必要があるのか、なぜ砦にいなかった師匠が魔物の発生原因となるのか。俺もノックス様も、なんならライラ団長も事情が掴めずにいると師匠が再び口を開き、事情を説明してくれる。

 師匠がかつて倒した魔王を操っていたであろう大樹の化身。その種を師匠から奪い取った長耳族がそれを取り込み、化身を復活させたのだという。

 

「不用意に持ち歩くものじゃなかった。油断していた」

 

「長耳族が魔物になった、てことかい。それも他の魔物を従え、統率出来るような知性を持った魔物に」

 

「後始末はする。怪我をさせた弟子の代わりにここで……」

 

「お前をここで遊ばせておく余裕なんざ無い。ここにはノックスもローエンもいる。なぜか王都をほっぽり出したバカもいるけどね」

 

 師匠ほどの実力を持った人間をこの砦に縛り付けることの不利益をライラ団長も理解している。あの巨大な粘獣を一太刀で仕留めた師匠を見れば、彼しか復活した化身を相手取れる人間はいない。あの化身の速さに付いていけるのは同じく理外の存在である師匠くらいのもの。

 

「うぐぅ! ライラ団長、何卒ご容赦を……! 私だけじっとしているわけにもいかないと思ったのです。それに王都には私の部下もいますし、粘獣は師匠が道すがら倒しておりましたし……」

 

 そしてシャーレイ殿がライラ団長の鋭い視線に貫かれて呻いていた。魔物を撃退した後、アルシェ、ノルンと共になぜかシャーレイ殿も砦に来た。王都守護を任されたシャーレイ殿がどうしてここに来ているのかと早々にライラ団長に頭を鷲掴みされていた。それを思い出したのか、シャーレイ殿が助けを求めるようにこちらを見てくるが俺も目を逸らすしかない。すまない、シャーレイ殿。俺もライラ団長には頭が上がらないのだ。

 

「それで最前線守ってるうちに帰るべき家が跡形も無くなってたなんてことになっても困るんだがね」

 

「くぅん……!」

 

 俺がアテにならないと悟ったシャーレイ殿が机に突っ伏した。シャーレイ殿がそうしていると謝罪のために頭を下げている師匠までが凹んでいるように見えるのでやめて頂きたい……! 

 

「話を聞くにその木像の魔物は魔王に匹敵する可能性もある。情けない話だが、騎士達やアタシみたいな老いぼれじゃ太刀打ち出来ないだろうさ。既に勇者を呼び寄せているんだろう。あといい加減頭を上げな。責めちゃいない」

 

 少なくともお前さんはね、と小さく付け足したライラ団長の目にシャーレイ殿がビクリと身体を震わせた。

 

「ったく、筋を通すなら頭を下げるのはアタシの方だろう。ノックスの坊やを助けてくれて感謝するよ。……アタシが頭を下げるなんて何時ぶりだろうね」

 

 ともかく、顔を上げた師匠を見て、今度はライラ団長が頭を下げた。それに合わせ、俺も同じように師匠に頭を下げる。あの時、師匠が来てくれなければ俺もノックス様も粘獣に喰われていた。ライラ団長の魔法でもあの体積を削り切ることが出来ていなかったのだから。

 

「頼むから頭を上げてくれ。俺と違って軽いもんじゃない」

 

 師匠がそう言って手を振る。

 

「ライネルも来るだろう。戦力が集まるのを待って、あの木像を討つ」

 

 師匠は既に他の弟子達を集めていると言う。ソーンやロクシス、ライネルまで来てくれるのならばこれほど心強いものはない。しかし、俺達全員が師匠と共にあの化身を討伐しに迎えるかと言うと、それは不可能だ。

 

「そうだね、木像については勇者ライネルにも任せることになるだろう。だが、他の弟子はこの砦にいてもらう」

 

 俺の懸念はライラ団長も知るところ。

 

「アタシと騎士だけじゃもう足りない。粘獣が地下から侵攻してくる可能性があるなら、少なくともそこの三人はこっちに残しておく」

 

 砦はもう負傷した騎士達だらけだ。数度に渡る魔物の侵攻で騎士達は疲弊している。今もノックス様と俺、そして直属の騎士団でどうにか持ち堪えているのみ。

 ライラ団長がアルシェとノルン、シャーレイを指した意図も分かる。魔法にも通じているシャーレイは当然として、魔力の受け渡しでソーンに次ぐ経戦能力を持ったアルシェとノルン。一度きりの決死隊よりも防衛線でこそ彼女らの能力は真価を発揮する。もっとも、彼女達は納得するはずも無い様子だが。

 

「それは認められない」

「私たちは師匠に付いていく」

 

「ライラ団長、そんな殺生な!」

 

「……そうか、まあそうだろう」

 

 抗議する三人とは裏腹に、師匠もライラ団長には同意している。恐らく師匠も一目見て分かったはずだ。ライラ団長達だけでは、もう魔物の侵攻を防ぎきれないと。戦力が集まるのを待つのは、師匠がこの砦を空けても大丈夫だと思えるようにするため。元より師匠も彼女達は砦の守備戦力として残すことを考えていたはずだ。

 

「師匠……、私は邪魔ということでしょうか?」

 

 シャーレイ、何故そこまで絶望した顔で師匠を見るのですか。そんな顔で聞いても仕方ないのですから諦めましょう? 師匠もどう言ったものか迷っているようにしばらく何も言わず、口を閉ざしていた。

 

「……俺の帰る場所を任せる」

 

「師匠……!」

 

 師匠が発したたった一言でシャーレイの機嫌は急速回復したらしい。横で見ていたアルシェとノルンも同じようで。師匠としてはそんなつもりは無いんでしょうが、そういったことを言い続けるのはマズいんじゃ……。

 

「このクソボケはあの頭が悪い方の影響さね。ああ、昔のアタシを見てるみたいで嫌んなるよ……」

 

 ライラ団長も俺やノックス様と同じことを思ったのか、あるいは別の何かを思い出してしまったのか頭を押さえている。

 クソボケという言葉は師匠には失礼と分かっていながら、俺もノックス様も思わず頷いてしまった。すみません、師匠。でもそろそろ逃げるのも限界だと思うんですよ、俺も。

 

「ま、とにかく話は決まった。勇者ライネルが到着したら、魔物を統率する木像討伐を目的とした少数精鋭と拠点防衛組に分かれてもらう。こっちの指揮はアタシが執る。割り振りはノックス坊に任せるよ。曲がりなりにも木像と戦った経験があるのはこのクソボケと坊だけだからね。今の会話でアタシはこのクソボケの評価がアテにならんと確信した」

 

「了解しました。とはいえ、僕もまともに戦えたわけでは無いので自信はありませんが」

 

 ライラ団長が話を変えるように切り出す。

 

 その瞬間を察知できたのは恐らくライラ団長と師匠だけだ。突如、魔法の触媒であり、武器でもある剣をライラ団長が手に取ったかと思えば師匠は既に剣を抜き放っていた。それに驚きの声を上げる間もなく、天井が崩れて土埃が舞う。その中から姿を現したのは、今この瞬間に最も目にしたくない相手。

 

「見張りは何してやがったんだい!」

 

 ライラ団長が悪態を吐きながら魔法を放つ前に、大樹の化身が師匠へと殴りかかっていた。それを認識したころには、師匠の剣が敵の拳を受け止めていたが。

 

「師匠!?」

 

 目で追うことすら許されない速さ。師匠を警戒してか後ろに跳び退った化身を見て、師匠がライラ団長に目配せする。

 

「こんな閉所で打てるか!」

 

 意図は察したものの、こんな室内でライラ団長の魔法が炸裂したら俺達もただじゃすまない。それを分かっているように、化身は師匠に纏わりつくように近づいて攻撃を加える。とても飛べるようには見えない木の根が絡み合ったような翼で宙を浮き、四肢を縦横に振るって師匠を傷つけようとする。その四肢は師匠以外では軌跡しか見えない。剣を抜いたものの、瞬きを一度する間に三度は立ち位置を入れ替える師匠と化身の間に割って入ることが易々と出来るような人間はいない。

 

「援護させる気が無いだろあのクソボケ!」

 

「俺達に合わせていたら化身について行くことすら出来ませんよ!」

 

「任せるしかないってか……!」

 

 俺もライラ団長も手を出しあぐねている中、それでも動いたのは双子だった。

 

「くっ、こうなったら……!」

「私達が突っ込んで……」

 

 師匠も双子の動きを見て化身の動きを押さえにかかる。捉えきれない動きがほんの刹那止まる。それを逃さず斬りつけようとした双子だったが、化身は二人の方を見ることすらせずに背中に生えた異形の翼を振り抜き、二人を弾き飛ばす。

 

「よくも!」

 

「このっ……!」

 

「いけません、二人とも!」

 

 ノックス様の制止の声も振り切ってシャーレイと共に化身に迫る。追撃を許せば二人がただでは済まない。敵うとは思わないが、少しでも気を惹かねば! 

 

「がっ!?」

 

「くっ、あぁっ……!」

 

 そう思って振り抜いた剣は何も捉えることなく、手元に感じた強烈な衝撃に手から剣は弾き飛ばされ、次の瞬間には俺の身体は壁に打ち込まれていた。化身の足下にはシャーレイが踏みつけられている。じわじわと重みを掛け、踏みつぶそうとする。

 

「マズい!」

 

 言うことを聞かない身体を何とか引き摺り起こそうとしたその時、俺の目が一筋の軌跡を捉えた。

 

「誰を足蹴にしている!」

 

 その軌跡は剣を構えた師匠。背中が見えているような化身の動きを掻い潜り、その剣はいっそ美しく見える軌道で化身の首に迫る。決まった! 師匠の剣が次の瞬間にはあの化身の首を刎ね飛ばす! 

 その予想は甲高い音と共に裏切られる。師匠の剣は化身の首に僅かに食い込んだところで止まっていた。そんな馬鹿な! 師匠の剣が止められることなんてあり得ない! 

 

「こいつ……!」

 

 師匠が何かを言おうとした瞬間、化身が師匠を強かに打ったのが見えた。その次の瞬間、俺の隣に師匠が吹っ飛んできて壁に埋まる。その手に、剣は握られていなかった。後頭部から流れた血が、足下に転がった剣に滴り落ちる。

 

「師匠……!?」

 

 俺の呼びかけにも反応を示さない。師匠が、負けただと!? 

 師匠が動かなくなったことを見て取った化身は、用事は済んだとばかりに入ってきた穴から飛んで出て行ってしまう。俺達のことなど眼中にも無いと、師匠以外は脅威にならないと言わんばかりに。

 

「師匠が来たことを察知して先制攻撃にでも来たというのか」

 

「……この場でアタシらを見逃したのは脅威でも何でもないってことだね。いや、ハナから石ころと変わらない。粘獣一匹出せば片付くと思われてるのさ」

 

 どうする、とライラ団長の声が響く。

 

「すぐに来るよ、魔物の侵攻が。それも今度はこれまでと比べ物にならない規模のね」

 





先週に引き続き活動報告更新しました。
本日12/2よりおよそ一週間、作中で読者アンケートを実施しています。ぜひ皆様の一票を頂ければと思います。
活動報告にアンケートの詳細を記載しているので是非覗いて行ってください。
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=320454&uid=311923

あとはついにAmazonで書籍の予約サイトが公開されたようなのでその案内も活動報告に掲載しています。

2024年12月10日
アンケート締めきりました。結果については上記リンクの活動報告に追記しております。投票してくださった皆様、誠にありがとうございました。
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